スイカの天敵を使った体系防除
農薬ガイドNo.100/F(2001.10.31) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:田中 篤
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 天敵を利用した体系防除によるスイカの減農薬栽培を目指した理由は以下のようにいくつかあげられる。
 最近、輸入野菜が急増しており、生産者側としてこれに対抗するためには有機栽培や減農薬栽培などの付加価値の高いスイカを生産することが一つの方法であると思われる。また、スイカのミツバチ交配が盛んとなり、生産者からもできるだけ農薬を使用しない防除体系が望まれている。さらに、現状では薬剤防除が可能であるが、ワタアブラムシおよびハダニ類においても薬剤抵抗性が発達しており、将来的には防除困難になる危険性が高く、薬剤散布だけに頼らない防除方法の確立が必要であると考えられる。

 ワタアブラムシ対策

 スイカにおける、最も重要な害虫はワタアブラムシであり、ワタアブラムシに対する天敵として、アフィパール(コレマンアブラバチ)の利用と、それを補完するものとして、ピメトロジン剤の散布を検討している。
 アフィパールは施設内にマミーの入った容器を1~数ヵ所に配置するだけでよく処理が簡単で利用しやすいが、アフィパール単独でスイカのワタアブラムシを防除するのは難しい。これは、スイカにおけるワタアブラムシの増殖速度が著しく早く、コレマンアブラバチによるマミー率が高まる頃には甚大な被害となってしまうためで、アフィパール単独でなく他の防除法も併用する必要があると考えている。
 アフィパールを補完する防除方法として、ピメトロジン水和剤の散布は、ワタアブラムシの発生が多くなってからでも使用可能であるため利用しやすい。アフィパールの10a当り500~1,000頭を1週間間隔で3~5回放飼し、それでもワタアブラムシの増殖が抑えられない場合にピメトロジン水和剤の追加散布を行なう。ピメトロジン剤の散布基準は、今のところ暫定的に1葉当りワタアブラムシ成幼虫数が10頭以上となった時点と決めている。

▲スイカの葉に発生したワタアブラムシ

 ハダニ類対策

 スイカにおいて、ワタアブラムシに次ぐ害虫はハダニ類で、カンザワハダニ、ナミハダニともに発生するが、鳥取県ではカンザワハダニの発生が多い。
 ハダニ類対策として、スパイデックス(チリカブリダニ)の利用が有効である。ハダニ類の発生を確認した後、スパイデックスを10a当り2,000頭、施設内の数十ヵ所に分けてスイカの葉上に放飼する。通常は、1回の放飼で十分効果があるが、何らかの理由で効果が認められず多発生となった場合は、薬剤防除に切り替える。

▲コレマンアブラムシ成虫

▲コレマンアブラバチによるマミー

 その他の病害虫対策

 鳥取県において施設栽培スイカで発生する害虫はワタアブラムシとハダニ類のみで、その他の害虫の発生はみられないため、これらへの対策は必要ないと考えられる。また、病害には薬剤散布で対応することにしているが、施設内の湿度が高まらないよう管理すれば病害の発生はまれで、ほとんど殺菌剤は使用しないでも栽培可能である。

 体系防除試験

 1999年3月9日定植の半促成栽培スイカにおいて、天敵を利用した体系防除試験を行なった。試験区は総合防除区、薬剤防除区、無処理区とし、総合防除区および薬剤防除区の面積は240㎡、無処理区は40㎡のそれぞれ別のビニールハウスを用い、総合防除および薬剤防除ハウスの換気部分には1.5㎜目合いの寒冷紗を設置した。スイカの活着後よりアブラムシ類およびハダニ類の発生数を各区10株、1株当り中位の4葉について概ね1週間間隔でモニタリングした。
 総合防除区において、カンザワハダニの初発生が4月7日に確認されたため4月14日にスパイデックスの処理を、ワタアブラムシの初発生が4月14日に確認されたため4月21日よりアフィパールを1週間間隔で5回放飼した。その後1葉当りワタアブラムシの成幼虫数が平均10頭となった時点でピメトロジン水和剤を4月23日と5月27日の2回散布した。その結果、ワタアブラムシとカンザワハダニの発生密度は低く抑えられ、アブラバチのマミー率も最終的には100%となった(第1図、2図、3図)。

▲第1図 スイカのワタアブラムシに対する総合防除の効果

▲第2図 スイカにおけるアブラバチのマミーの発生状況

▲第3図 スイカのカンザワハダニに対する総合防除の効果

 薬剤防除区におけるワタアブラムシとカンザワハダニの初発生は総合防除区に比べ1ヵ月以上遅く、発生後の5月21日から散布を開始したため発生密度は低く抑えられた。
 無処理区は4月中旬からワタアブラムシおよびカンザワハダニの発生がみられ、その後しだいに発生が増加し、6月1日には株が枯死したため調査不能となった。
 以上の結果から、アフィパール、スパイデックスの2種類の天敵を利用した総合防除は、ワタアブラムシおよびカンザワハダニの発生密度を薬剤防除区とほぼ同程度に低く抑えた。また、総合防除区における化学殺虫剤の散布成分回数は2回であり、薬剤防除区の6回に比べて5割以上削減され、さらに収穫調査においても果重および糖度は総合防除区と薬剤防除区は大差なかった(第1表、第2表)。

処理月日
総合防除区
薬剤防除区
無処理区
天敵および
薬剤の種類
処理量・濃度
薬剤の種類
処理量・濃度
4月14日
チリカブリダニ
2000頭/10a
     
4月21日
コレマンアブラバチ
1000頭/10a
     
4月23日
ピメトロジン水和剤
3000倍
     
4月30日
コレマンアブラバチ
1000頭/10a
     
5月7日
コレマンアブラバチ
1000頭/10a
     
5月13日
コレマンアブラバチ
1000頭/10a
     
5月20日
コレマンアブラバチ
1000頭/10a
     
5月21日
    DDVP乳剤
1000倍
 
5月27日
ピメトロジン水和剤
3000倍
     
5月28日
    ヘキシチアゾクス・DDVP乳剤
1000倍
 
6月3日
    PAP乳剤
1000倍
 
6月10日
    マラソン・BPMC乳剤
1500倍
 
化学殺虫
成分
2
6
0

▲第1表 試験区の構成と天敵および薬剤の処理時期

試験区
果重
糖度(Brix)
総合防除区
9.1kg
11.4%
薬剤防除区
8.2kg
11.1%
無処理区
- a)
- a)
a) 枯死したため収穫不能

▲第2表 各試験区におけるスイカの収穫果重および糖度

 おわりに

 1999年の試験結果から、ワタアブラムシに対してアフィパール、ハダニ類に対してスパイデックスを利用した体系防除によって、スイカの減農薬防除が可能であると考えられた。このようにワタアブラムシおよびハダニ類の初発生が比較的早く4月中旬からみられた場合は、天敵の利用は非常に有効であると考えられる。しかし、今回は紹介しなかったが、2000年にも同様な試験を行なった結果では、ワタアブラムシおよびカンザワハダニの発生がスイカの収穫間近の5月中旬以降となったため、天敵の放飼は必要なかった。したがって、害虫の発生状況に応じ、モニタリングを行ないながら天敵の利用を含めて防除手段を決定していくことが、防除コストの削減の面から理想的であると考えられる。
 しかし、一般の生産者が利用するには、時間と労力をモニタリングに割くことが困難な ことが多いと思われるので、あらかじめ天敵の放飼時期を決定し、スケジュールに従って天敵を導入する方法をとらざるを得ない。
 今後の課題として、より簡易なモニタリング方法の検討と、ワタアブラムシの要防除水準の詳細な検討が必要であると考えられる。
(鳥取県園芸試験場)

▲スイカの葉に発生したカンザワハダニ

▲チリカブリダニ

▲スイカにおけるスパイデックスの放飼


(鳥取県園芸試験場)
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