観光イチゴ園での天敵の使い方
農薬ガイドNo.100/G(2001.10.31) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:塩崎 桂司
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 千葉県山武地域は、温暖な気候と土地資源に恵まれ、古くからイチゴ栽培が盛んで、国道126号線沿線の東金市・成東町を中心に約120戸・40haで栽培されている。
 管内のイチゴ経営の特徴は、直売・イチゴ狩り等の対面販売の比率が高いことがあげられる。消費者が身近にいることで、食味の向上・鮮度・安全性については認識が高い生産者が多いのも特徴である。
 今回の記事の中心となる成東町観光苺組合は、直売・イチゴ狩りに県内でも先駆けて取り組み、関東エリアでは観光イチゴのスポットとして情報誌等でもよく扱われている組合である。

 天敵防除の必要性

(1)普及センターとして

 イチゴは収穫後すぐに消費者の口に運ばれることと、ミツバチを利用して交配しているため、収穫期間における化学農薬の使用が制限される。また収穫最盛期は収穫作業に追われ薬剤散布が徹底されなかったり、一部の病害虫では、薬剤抵抗性や薬剤耐性がすすみ防除の徹底ができない状況になっている。イチゴは天敵の登録も進み、かつ収穫期間が長いため、天敵を組み入れた防除体系を確立しやすい作物といえる。また、天敵そのものが商品のイメージアップにつながるため、生産者の関心も深まりつつある状況である。
 山武普及センターでは平成7年度(1995)より天敵関係の展示圃を毎年1~2ヵ所設置し、防除効果が点の存在ではあるが確認されていた。しかし、普及センターでも取り組み事例が少なく普及に対しては自信をもって進める段階ではなかった。一方、生産者が独自に導入した場合、情報量の不足と、認識不足で失敗する事例が多く、その普及については難しいものであった。
 平成9年度後継者組織での新技術導入の実証に対する県の補助が成東町で実施できることとなり、それを活用することで天敵防除の事例数を増やすこととした。この事業は3ヵ年継続事業であり、数年間かけて調査できることも有効であった。幸い、当組合に「輝心会」という後継者組織が組織されていたため「輝心会」を中心に実証を行なった。

(2)生産者として

 千葉県内ではイチゴの直売・イチゴ狩りが年々増加する傾向にある。成東町観光苺組合はその対応が早く、安定した観光イチゴの産地となっている。今まで味で勝負の観光園としてその地位を築いてきたが、今後もさらなる発展を継続していくためには、別のカラー(安全性)も必要である。導入にあたって会員と話し合った時、お客さんから安全性の要望が非常に強いという話が多く出された。園主としても、そのまま口に運ばれる果実のため収穫期間中は農薬散布を行ないたくないとの話であった。イチゴの場合、収穫期間中は最低限の農薬散布で対応するが、長期間収穫するためは、やむを得ず農薬を散布しなければならない場合も想定される。天敵で長期間、害虫をコントロールできれば非常に良い技術である。また天敵の放飼はボトルから直接拡散させるだけなので、忙しい収穫期間中での省力にもつながる。自信を持って生産物を販売できるひとつの方法として天敵利用による防除確立に期待が寄せられた。

▲導入初年度、現地での散布実演会の様子

▲導入1ヵ月後、現地でのスパイデックス(左上)とハダニ(右下)

 年次経過

(1)平成9年度(10名・50a)

 初年度は、天敵の効果の体感ができることを目的に活動した。はじめての取り組みであるため、害虫発生時には薬剤散布もやむを得ないというスタンスで取り組んだ。集団実践のため、秋放飼はスケジュール導入、春の追加放飼はそれぞれの状況に応じて行なった。
 天敵は、秋の導入の段階で登録がダニの天敵スパイデックスだけだったため、アブラムシの天敵アフィパールについてはメーカーの供試として3戸のみの試験となったが、効果が十分上がり、春からは全戸で導入した。ダニについては半数で効果が確認できた。害虫と天敵の見分け方、効果発現の様子、害虫被害の許容範囲等、現場を見ることとあわせ、仲間の事例を参考に体得した。効果が確認できなかったハウスは、導入時に害虫密度が高かったハウスの場合であった。

(2)平成10年度(13名・120a)

 昨年、スパイデックスとアフィパールの秋放飼だけで栽培期間中の農薬散布をしなくてすんだ成功した事例、ダニの発生が坪状に見られたもののその後天敵が活躍して回復した事例等を経験したことで導入に弾みがかかり面積が増加した。補助事業の対象外でも取り組みが見られた。
 本年の実証目的は、実栽培規模である10aの連棟ハウスでの実証と3害虫(ダニ・アブラムシ・スリップス)の天敵防除効果の実証である。
 この年は、被覆前が晴天続きでシーズンをとおしてハウス内が乾燥する環境で虫の繁殖にとっては好都合な環境であった。結果としてダニで天敵は発見できるものの害虫密度が高すぎるハウスが多く見られた。アブラムシについては十分効果を上げた。スリップスについてはククメリスが非常に微細なため、天敵の確認方法が現地レベルで行なうことが困難であった。ククメリスについては生産者の実感として半月から1ヵ月被害果の発生が遅くなったと感じているようである。

(3)平成11年度(17名・200a)

 成東町観光苺組合は前年と同規模の導入であったが、近隣のイチゴ生産者の取り組みが、過去2年の取り組み状況を見聞きした中で増加した。収穫期間中の薬剤散布は生産者にとってもやりたくない作業のひとつで、天敵での防除の期待がうかがえる。本年はハウス内環境が昨年ほど乾燥しておらず、6割程度のハウスで効果の確認ができた。天敵防除も3年目に入り生産者の中でも工夫がされるようになった。ダニでの被害株を中心とした多量放飼、被害許容範囲外の発生についての化学農薬のスポット処理等があげられる。

(4)平成12年度(14名・210a)

 本年より天敵導入が事業対象外となったが、個人導入での定着が進んだ。特に隣接する東金苺組合の直売生産者で導入が進んだ。また、天敵に安全な選択性殺虫剤の登録が毎年行なわれ、天敵を組み入れた防除体系の確立が行ないやすくなった。毎年ダニの発生の少ないハウスはアフィパール主体の天敵導入・早く切り上げるハウスについてはククメリスの省略などのオプション導入が選択性殺虫剤との併用で可能となった。

 過去4年を振り返って

 天敵防除のポイントとして観察力が必要である。
 ダニについては害虫・天敵の区別ができることが最低必要である。
 アブラムシについては天敵の寄生が肉眼で確認しやいが、アフィパールの苦手なアブラムシがいるので注意が必要である。
 秋放飼の導入時期については、ハウス密閉期に入りなるべく早めの放飼とするのが良い。気温の下がる12月以降の放飼は天敵の最適温度も確保できないため天敵放飼を見合わせたほうが良い。害虫の発生が多い場合については選択性殺虫剤の散布を行ない害虫密度を下げてからの導入が望ましい。
 山武管内のイチゴの場合、夜温設定は5~8℃と天敵にとっては低い温度帯であるが秋放飼の天敵が春先活躍する事例も数多くある。しかし、現在のところ秋・春の2回の放飼が一番安定した効果を上げている。

▲アブラムシに対するアフィパールの寄生

▲新しい取り組み:アフィバンクの導入試験
(ムギクビレアブラムシの増殖とマミー化の進行の様子)

▲車椅子用ハウスでの天敵のPR

 観光農園と天敵

 天敵を取り組みはじめてまず感じることは、消費者の化学農薬嫌いである。特にイチゴ狩りではそのまま果実を口に入れるため特別である。ハウス内にある天敵のボトルを見ると興味を示し何か聞きたがる。化学農薬をなるべく使わないための方法であることを話すと納得して喜んでくれる。そのような状況を見聞していると今後、農産物の対面販売では安全性に取り組む姿勢は重要なファクターであると実感する。イチゴは多労な作物であるため、生産者にとって省力は取り入れたい技術である。そうした面からも天敵利用による防除は生産者から支持されている。
 生産者の中には、出荷箱に天敵利用であることの明記を行なってみたり、自分のホームページ上に天敵に取り組んでいる旨を明記したりと、販売のための手段として天敵利用の情報発信を行なったりして、積極的に天敵を利用して販売につなげる取り組みが始まっている。

成東町のホームページでのイチゴ・天敵のPR

(千葉県印旛農業改良普及センター)

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