鳥取県におけるスイカつる枯病の発生と防除法
農薬ガイドNo.102/B(2002.7.31) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:佐古 勇
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はじめに

スイカは鳥取県の主要な野菜品目として県中部の黒ぼく地帯を中心に栽培されている。2000年は戦後のスイカ復興から50年が経過した節目となることから「鳥取県すいか沿革史(内田正人著)」の発刊がなされた。この中からもスイカ栽培は病害虫との戦いでもあったことがうかがえる。
 1950年代中期のスイカ露地栽培は農薬も散布器具もなく、梅雨期の降雨でつる枯病、炭疽病、疫病などの病害により収穫皆無となることがたびたびあり、栽培面積もなかなか増加しなかった。
 しかし、その後の農薬の開発などによるつる枯病などの重要病害虫が防除可能となったことから栽培面積は急速に増大し、1979年には約1,200haの栽培がなされていた。
 現在では消費者ニーズの多様化などにより栽培面積は約600haと減少しているが、6月上旬から7月下旬にかけて京阪神を中心に出荷され、生産量は全国第4位となっている。

1.鳥取県スイカの作型

 1970年頃までは露地栽培がほとんどであったが、その後小型トンネル、中型トンネルの導入により半促成栽培がはじまり、さらにハウス、大型トンネルの促成栽培の普及と施設化が急速に進められ、市場では熊本県に次ぐ早熟産地として地位を確立している。
 現在、露地栽培はほとんどみられない。1970年代の中頃には小型トンネルが急増した。小型トンネルが1980年代には中型トンネルへと、1990年代には中型トンネル、ハウス、大型トンネルへと替わってきた。中型トンネル栽培は60%以上を占めて鳥取県の主要作型となっている。また、近年のハウス、大型トンネルの増加は著しく、全体の30%に達している。
 中型トンネルは、さらに前進中型トンネルと中型トンネルの2種類に分かれる。前者は畦幅300cm、トンネル幅190cmで、3月下旬から4月上旬にかけて定植される。交配は5月上~中旬で6月下旬から7月中旬までの収穫となっている。後者はこれより7日程度管理作業および収穫時期が遅くなる。

2.つる枯病の発生生態

 発病には多湿条件および雨滴が最も関与する。また、病原菌の発育適温は20~24℃、感染の適温は24℃前後であるが、比較的広範囲な温度域で発病するため、スイカのすべての生育期間、作型で発生がみられ、葉、茎、果梗および果実など各部位に発生がみられる。
 つる枯病の病原菌はDidymella bryoniae菌であり、ウリ科植物のみを侵す。糸状菌の一種で子嚢菌類に属し、偽子嚢殻、子嚢胞子を生ずるが、柄子殻と柄胞子も形成する。
 葉の被害が特に大きい。葉では、はじめ直径1~2cmの円形~長円形あるいは不整形の病斑を生ずる(写真1,2)。徐々に拡大し、炭疽病の病斑よりも大きくなる。輪紋は作らない。葉縁部に症状が出やすいが、葉肉部にも発生する。病斑に小黒点(柄子殻)を多数形成する(写真3)。


▲①葉の初期病斑


▲②葉の不整形病斑


▲③小黒点(柄子殻)

 茎、果梗では病斑ははじめ褐色油浸状で、しだいに淡褐色から灰白色になってくぼみ、裂け目ができて病斑上に小黒点が多数できる(写真4)。ひどいばあいにはそれから上方が枯れる。
 果実では、はじめ油浸状の小さな斑点ができ、やがて病斑は暗褐色となり、中央部が褐色の枯死斑となる(写真5)。
 柄子殻は水分を得ると頂部が開口し、無数の柄胞子が噴出され(写真6)、それが飛散して伝染する。


▲④茎の褐色病斑


▲⑤果実の病斑


▲⑥柄胞子の噴出

3.各作型での発生と防除

 苗床では、1月~2月の低温期の保温などの多湿管理が続くと発生しやすく、接木後の高温多湿条件でも発生しやすい。接木前日~2日前の穂木と台木、および接木後の苗についてマンネブ水和剤、ポリカーバメート水和剤などで予防散布が行なわれている。
 本圃では5月中旬頃から発病がみられることから、ハウス、トンネル栽培のいずれの作型においても5月上旬から予防的に薬剤散布を7日から10日間隔で収穫時期まで実施している。
 特に6月下旬以降の梅雨期の長雨によりつる枯病は多発する。株元の茎葉および茎葉繁茂で風通しの悪いところから発生がみられることが多い。その後の蔓延は、風雨による雨滴伝染により起こる。
 鳥取県のスイカ栽培は梅雨期を経過して収穫される作型であることから、生育初期から果実肥大期には菌核病、つる枯病および炭疽病の発生に注意が必要となる。また、果実成熟期にはつる枯病、炭疽病の他に、うどんこ病、褐色腐敗病、疫病が問題となる。
 ハウス、大型トンネル、および中型トンネル栽培では、つる枯病と菌核病などの病害発生に配慮して交配期前後には、ジエトフェンカルブ・プロシミドン水和剤、プロシミドン・マンゼブ水和剤、イプロジオン水和剤およびイミノクタジンアルベシル酸塩水和剤などが散布されている。その後、果実肥大期まではマンゼブ水和剤、プロピネブ水和剤、またはTPN水和剤などの薬剤が予防散布されている。
 降雨が続くとつる枯病の発生が増加するとともに、褐色腐敗病、疫病も中型トンネル、小型トンネルでは特に問題となるため、銅・メタラキシル水和剤、マンゼブ・メタラキシル水和剤などを散布間隔を4日~5日とし、雨の止み間にも散布する必要がある。
 なお、大型、中型トンネル栽培では、被覆を収穫時まで残して雨よけ栽培を行なうことでつる枯病、炭疽病、褐色腐敗病、疫病の発病が抑制され減農薬栽培の一助となっている。
 ハウス、大型トンネルでは、果実成熟期になるとつる枯病の他にうどんこ病の発生に注意が必要となる。
 以上のように、作型別に生育時期に応じたつる枯病と他の病害との同時防除を考慮した防除体系が必要になっている。

4.オーソサイド水和剤による防除効果

 防除基準の薬剤選定は、つる枯病の最も発病しやすい露地栽培で防除効果を検討し、その結果に基づいている。キャプタン80%水和剤(オーソサイド水和剤80)による防除効果試験は、1999年および2000年の2ヵ年実施した。
 1999年は株元の葉に発病がみられはじめた6月18日から散布を開始し、6月25日、7月2日および7月7日の合計4回、所定濃度の薬剤に展着剤ミックスパワー2,000倍を加用した薬液を10a当り250 lの割合で背負式動力散布機を使用して散布した。
 散布試験期間中は曇雨天が続き、無処理区ではすべての葉に発病がみられ甚発生となった条件下で検討した(第1図)。
 2000年は6月23日、6月29日および7月7日の合計3回の薬剤散布を前年と同様に行なった。6月下旬に降雨があり、わずかに発病がみられたが、その後7月には晴天続きで降雨がまったくなく、病勢の進展もみられなかった。そこで、最終散布日から調査日まで、毎日スプリンクラーで夕方散水するこで無処理区で中発生となった条件下で検討した(第2図)。
 2ヵ年の試験とも最終散布7日後に株元から1.4m離れた中位葉について発病葉率および発病度を調査した結果、オーソサイド水和剤80の600倍液散布は、無処理区と比較して発病葉率、発病度とも低く、高い防除効果を示した(第1図、第2図)。また、防除基準に組み込まれている対照薬剤と比較して甚発生条件下においても十分な防除効果が認められた(第1図)。
 以上の結果から、オーソサイド水和剤80の600倍液の散布は、スイカつる枯病の防除薬剤として実用性が高いと考えられた。


▲第1図 スイカつる枯病に対するオーソサイド水和剤80の防除効果(1999)

(注)

発病程度別:
A:病斑がわずか(数個)に認められる
B:病斑が葉面積の1/4未満を占める
C:病斑が葉面積の1/4~1/2を占める
D:病斑が葉面積の1/2以上を占める


▲第2図 スイカつる枯病に対するオーソサイド水和剤80の防除効果(2000)

(注)

発病程度別:
A:病斑がわずか(数個)に認められる
B:病斑が葉面積の1/4未満を占める
C:病斑が葉面積の1/4~1/2を占める
D:病斑が葉面積の1/2以上を占める

5.オーソサイド水和剤80の利用法

 オーソサイド水和剤80は抗菌範囲の広い殺菌剤であり、他の病害にも効果が期待できる。すでにスイカでは炭疽病、べと病、苗立枯病に対して適用がある。
 しかし、本剤の残効性は長い方ではない。予防散布剤として保護的な殺菌効果を期待する。また、浸透移行性はないので、茎葉散布には浸透移行性の展着剤を添加して薬液が十分に付着するように散布する。なお、スイカには固着性展着剤の添加に比べて浸透移行性の展着剤を用いる方が降雨が続く条件下で防除効果に差異がみられる。
 一方、つる枯病は5月中旬頃からみられるアブラムシ類の寄生により発病が助長されることから、アブラムシ類防除薬剤との混用散布の機会は多い。混用薬害の少ない殺菌剤として利用できる。
 以上のようにつる枯病に対するオーソサイド水和剤80の利用は、露地栽培での効果が確認されたことから、トンネル栽培では他の病害の発生消長、薬剤の性質などを考慮して生育初期での適用が効果的であると考えられる。

(鳥取県農林水産部 専門技術員室)

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