新規DMI剤を用いたチャ炭疽病の防除法
農薬ガイドNo.102/F(2002.7.31) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:富浜 毅
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1.はじめに

 チャ炭疽病(以下、炭疽病、第1図)は、チャの主要病害として、発生生態の解明や予察法の確立、要防除水準を設定するための被害解析、殺菌剤の作用性を生かした防除法の確立、さらに耐性菌対策など古くから多くの研究が行なわれている。本稿では、炭疽病の防除を考える上で重要な病原菌の感染生態や被害解析などの研究を紹介しながら、最近登録されたDMI剤を用いた防除法について述べてみたい。

▲第1図 一番茶残葉での炭疽病の発生状況(2002年)

2.病原菌の感染生態とチャの摘採

 炭疽病菌のチャ葉への侵入および伝染環は第2図のようにまとめられている(安藤、1985)。この中で特徴的なのは、病原菌が、若い葉の毛茸から侵入する点と、感染から発病までに約20日(15~30日)かかる点である。チャは萌芽してから24~30日程度(一番茶の場合、二・三番茶では更に短くなる)で摘採されるため、上位葉のほとんどが発病前に摘採される。このため、茶期においては摘採される葉に対する炭疽病防除は必要でなく、摘採で残る葉を守るために防除が行なわれる。これが炭疽病防除の大きな特徴であり、摘採という耕種的防除を最大限利用して形となっている。

▲第2図 炭疽病菌の茶葉への侵入経過と伝染環(安藤、1985)

3.被害解析

 野中によって昭和40年代から精力的に行われてきた炭疽病の被害解析は、現在の栽培体系でも十分利用できる貴重な研究である(野中、1983)。それによると、炭疽病は、一番茶後から秋期まで発生するが、翌年の一番茶の収量に最も影響を与えるのは秋期の発生である。秋芽での発生量と翌年一番茶収量との関係を6年にわたって調査した結果によると、発病葉数と収量には高い負の相関があり、㎡当りの病葉発生量が100枚増えると、収量が約1%減収になると予想される(第3図)。秋雨の多い年などには、㎡当り4,000枚もの病葉がみられることもあるので、収量が半減することもあり得るし、収量だけでなく、茶の樹勢低下も引き起こす。このため、秋期は炭疽病の最も重要な防除時期として位置付けられている。
 現在、炭疽病の被害解析は、三番茶を摘採しない栽培体系が主流となりつつある静岡県で精力的に行なわれている。これらの被害解析の結果は、農薬散布の経済的な効果や、要防除水準の設定のためにきわめて重要である。

▲第3図 秋芽での炭疽病の発生と一番茶収量との関係
(一番茶収量は発生がない場合を100とした指数で表してある)

4.秋期における新規DMI剤を用いた防除法

 上に述べたように、秋期は炭疽病の重点防除時期となっており、秋整枝で残る2~3葉が防除対象となる(日数にして萌芽してから15日間程度)。このため、秋芽の萌芽~1葉期に予防効果のある剤(以下、予防剤)を散布し、その7~10日後に治療効果のある剤(以下、治療剤)を散布する2回防除体系が一般的となっている。そこで、最近登録された治療効果の高いサルバトーレMEを用いて、秋芽防除体系での使用法について検討した。
 治療効果が高い剤では、炭疽病菌の感染(10時間以上の降雨または結露)を確認してから散布できるという利点がある。このため、秋芽の2回目の散布剤として利用する場合、秋芽の生育および降雨の状況を考慮して散布するのが望ましい。このような考えから、サルバトーレMEを1回目の予防剤散布から10日と14日後に散布する体系を設定し、秋芽生育、降雨の状況および防除率との関係を調査した(第4図)。結果は第1表のとおりで、14日後散布では防除率が91.5%と高かったのに比べ、10日後散布では65.6%と低かった。これは、10日後散布の後、数日にわたって降雨があり、この時期に感染した病原菌に対して10日後散布では効果が低かったことが原因と思われた。同様の傾向は、他の治療剤(フェンブコナゾールフロアブル、テブコナゾールフロアブル)でもみられた。つまり、治療剤は秋芽2~3葉期に散布することを前提とし、その時期に降雨があれば、降雨の後に散布すると防除効果が高いことが明らかとなった。

▲第4図 秋芽生育期での散布方法
(棒グラフは降水量を示す)

区 名1)
発病葉数(枚/㎡)
防除率(%)
サルバトーレME 10日後
95.9
65.6
サルバトーレME 14日後
23.6
91.5
無処理
278.5
1) サルバトーレMEを1回目の予防剤の10日後もしくは14日後に散布したことを示す。

▲第1表 新規EBI剤を秋期体系防除で2回目の治療剤として用いた場合の炭疽病に対する防除効果

5.新規DMI剤の新たな使用法

 近年一番茶残葉での炭疽病の発生が多く、そのために二番茶以降の発生量も多くなってきている。しかし、一番茶残葉での発生を抑えるためには、一番茶生育期の薬剤散布が必要となるが、「クリーンな茶づくりの観点から摘採する新芽への薬剤散布は極力避ける」という理由により、一番茶生育期の薬剤散布は望ましくない。
 そこで、治療効果の高いDMI剤を一番茶摘採後(刈番茶摘採後)に散布することで、一番茶残葉での発生を抑制できないか現在検討している。これは、一番茶生育期の気温が夏場より低いため、摘採残葉での炭疽病の発生が、刈番茶摘採後に見られること(第5図)を利用したものである。この方法により、一番茶摘採残葉での発生を抑えられれば、二番茶新芽に対する薬剤散布も不要となることから、クリーンな茶づくりに合致する防除法となる可能性がある。

▲第5図 一番茶摘菜後の炭疽病の発生状況

6.おわりに

 以上述べたように、炭疽病防除に対する新規DMI剤は、茶生産に大きく貢献している。しかし、薬剤の宿命である耐性菌の問題や、地球温暖化による病害発生状況の変化に即した防除体系の確立など、将来を見据えた課題への今後の取り組みも重要であると思われる。

(鹿児島県茶業試験場)

引用文献

安藤康雄(1985).チャ炭疽病菌は毛茸から侵入する. 茶 38(9):20~25
野中寿之(1983).チャ炭疽病.茶病害虫の防除 改訂第4版.静岡県茶業会議所, 静岡. P.84~88

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