大分県におけるカンキツの害虫防除について
農薬ガイドNo.104/A(2003.2.20) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:楢原 稔
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はじめに

 大分県は九州の東北部に位置しており、いわゆる西南暖地特有の温暖な気象条件の豊後水道に面した海岸地帯を中心にカンキツ産地が分布している。県南部では冬季に温暖な気候を活かした中晩生カンキツ類(ポンカン、清見、セミノール等)の栽培が盛んである。また、県北部の杵築市を中心に、ハウスミカンの栽培も盛んで、全国でもトップクラスの品質との評価を得ている。さらに、内陸部では県特産のカボスが栽培されるなど、各地域の特徴を活かしたカンキツ栽培が取り組まれている。
 本稿では、大分県のカンキツ栽培で問題となっている主要害虫の防除対策について紹介する。

1.訪花害虫(コアオハナムグリ、ケシキスイ類)

 コアオハナムグリやケシキスイ類は開花期間中に吸蜜のために飛来し、子房に傷を付ける。大分県の病害虫防除暦では訪花害虫対策としてオルトラン水和剤1,000 倍を採用しているが、本県ではカボスの被害が多い傾向にある。そこで多発園では開花初期~満開期までの複数回散布や広域一斉散布を指導している。


▲コアオハナムグリ成虫

2.ミカンハモグリガ、アブラムシ類

 カンキツの新梢を加害するミカンハモグリガやアブラムシ類は、主に幼木や高接ぎ樹での被害が問題となる。
 このうちミカンハモグリガに対しては、残効の長いネオニコチノイド系殺虫剤のイミダクロプリド水和剤 4,000倍やアセタミプリド水和剤 4,000倍と、IGR剤のフルフェノクスロン乳剤 2,000倍を夏秋梢の発芽後から硬化期まで7~10日間隔で交互に散布している。
 また、アブラムシ類はこれらネオニコチノイド系殺虫剤散布により同時防除している。

3.アザミウマ類

 露地ではチャノキイロアザミウマによる果梗部、果頂部の被害が問題となる。加害期間が長いため、多発園では5月中旬~9月上旬頃まで4~5回防除することもあり、防除薬剤はオルトラン水和剤 1,000倍やクロルフェナピル水和剤 4,000倍等を使用している。
 一方、ハウスでは、露地以上にアザミウマ類の被害が問題となっている。以前は、ハナアザミウマやヒラズハナアザミウマが主体であったが、近年では、これらに代わってミカンキイロアザミウマやネギアザミウマの被害が問題になってきている。
 このため、ハウス内に粘着トラップを設置して早期発見に努め、誘殺されたアザミウマに有効な薬剤を選択して使用している。
 オルトラン水和剤 1,000倍はアザミウマ類、ミカンキイロアザミウマに登録があり、ハウスで問題となっている各種アザミウマに対して効果的であるが、使用時期が30日前までとやや長いため、本県では発生初期の防除薬剤として位置づけている。また、着色期以降の防除では、ネオニコチノイド系殺虫剤やクロルフェナピル水和剤、エマメクチン安息香酸塩乳剤等の薬剤を使用時期を考慮しながら効果的に組み合わせて使用している。


▲ハウスミカンのハナアザミウマ被害果


▲ハウスミカンのネギアザミウマ被害果

4.ミカンハダニ

 ミカンハダニの薬剤抵抗性問題については大分県も例外でなく、これまで新たな殺ダニ剤が登場しては、数年で効果が低下して使えなくなるといったことが繰り返されてきた。
 しかし、近年は防除効果の高い殺ダニ剤が次々と登録されたことと、年1回使用厳守等抵抗性対策が徹底されてきたことにより、以前ほど問題ではなくなってきている。本県では、特にマシン油乳剤の積極的な活用、使用時期に応じた適正な薬剤の選択、発生初期防除の徹底などに取り組んでいる。
 防除暦では、6月下旬~7月上旬頃にミカンサビダニとの同時防除でピリダベン水和剤3,000倍を、また8月下旬~9月上旬にはミカンハダニ主体の防除でビフェナゼート水和剤 1,000倍またはエトキサゾール水和剤 2,000倍を使用する体系をとっている。
 9月以降の秋ダニの発生に対しては、通常はフェノチオカルブ乳剤 1,000倍またはBPPS水和剤750倍を使用しているが、収穫が年明けになる中晩柑類では、8月の基幹防除にはビフェナゼート等を使用しておき、果実の袋かけ前にエトキサゾールを 3,000倍で使用し、収穫時までミカンハダニを抑制している。
 一方、ハウスミカンでは、キノキサリン系水和剤、フェノチオカルブ乳剤、BPPS水和剤等を使用して、被覆前の防除を特に徹底している。
 その後、被覆期間中は、果実の薬害発生に注意しながら、ビフェナゼート水和剤 1,000倍やエトキサゾール水和剤 2,000倍で防除しており、通常はこの防除体系で問題はない。しかし、被覆前防除の不徹底により、加温開始直後からミカンハダニの発生を認めるような場合は、防除が後手にまわってしまい、結果的に防除回数が増えてしまう場合が多い。


▲ミカンハダニ雌成虫と卵


▲ミカンハダニ被害果

5.ミカンサビダニ

 ミカンサビダニは、非常に微少な虫であるため発生予察手法が確立されておらず、防除適期の判定が難しい。しかも、果実被害を発見してからでは防除が手遅れになるため、やむを得ず予防的な散布に頼っているが、近年その被害は多発傾向にある。
 大分県ではジチオカーバメート系殺菌剤の感受性低下が十数年前から問題となり、黒点病との同時防除ができなくなったため、殺ダニ剤による防除体系を組み立ててきた。現在は、果実初期被害対策でピリダベン水和剤 3,000倍を、またミカンハダニとの同時防除でビフェナゼート水和剤 1,000倍またはエトキサゾール水和剤 2,000倍を使用している。
 しかし、ここ数年は秋期の気温が高く経過したため、平年であれば発生が徐々に終息する時期になっても被害が増加するなど新たな問題も発生している。
 9月以降に被害果が発生した園では、速効性の高い薬剤で早急に防除を実施している。温州ミカンではアミトラズ乳剤 1,000倍が使用できるが、ケルセン水和剤 800倍やクロルフェナピル水和剤 4,000~6,000倍も効果が高い。
 また10月以降の発生に対しては、光センサー選果機の導入時に、散布後に果実が汚れる問題で使用が控えられてきた水和硫黄剤 400倍についても、安価である程度の防除効果も期待できるため、薬害を生じる恐れがある早生温州以外では状況に応じて使用している。


▲ミカンサビダニ雌成虫


▲ミカンサビダニ被害果

6.カメムシ類

 昨年は県下全域でカメムシ類の発生が多く、特に一部の地域では秋期の果実被害が多発して問題となった。
 カメムシ類の飛来開始時期や飛来量は園地によって異なるため、見回りを徹底し、早期発見、早期防除に努めることが重要である。また、周辺の防風樹等を含めた広域一斉散布が効果的であるため、産地(地域)ごとに効率的な防除を心がけている。
MEP乳剤 1,000倍などの有機リン系殺虫剤は、殺虫効果は高いが残効が短いため、園地への飛来が少ない場合に使用している。
 フェンプロパトリン乳剤 2,000倍、ビフェントリン水和剤 1,000倍などの合成ピレスロイド系殺虫剤は殺虫効果、吸汁阻害効果ともに高く、残効も長いため、多飛来時にも効果的であるが、土着天敵類への影響が強いため、連用するとミカンハダニのリサージェンスが問題になる場合があるので注意が必要である。
 イミダクロプリド水和剤 4,000倍などのネオニコチノイド系殺虫剤は、殺虫効果はやや低いが、浸透移行性が高いため吸汁阻害効果や残効が長い特徴がある。
 なお、これらカメムシ類の防除は収穫期に近づいて実施することが多いため、薬剤の使用時期には十分注意が必要である。

 おわりに

 これまで大分県におけるカンキツ害虫の防除対策について紹介してきたが、いくら効果の高い薬剤を使用したとしても、散布ムラによって樹冠内部やすそ枝、主枝先端部などへの付着が不十分であれば、そこが発生源となる場合も多い。使用した薬剤の効果を十分に発揮させるためにも、ていねいな散布を心がけることが重要である。
 さらに、今後は化学農薬による防除のみに頼らず、モニタリングによる防除要否の判定や土着天敵の活用、反射マルチシート等防除資材の設置など複数の対策を効果的に組み合わせた総合防除体系を組み立てていく必要がある。特に、土着天敵を活用するためには、天敵の活動に対する影響の少ない薬剤を防除体系の中に積極的に取り入れていくことが必要である。この点で、有機リン系殺虫剤のオルトラン水和剤は、速効性であるが残効が短いといった特徴があり、天敵に対する影響も少ないと思われるため、総合防除体系においても、散布タイミングを選べば、効果的に使用できる剤であると期待している。
(大分県柑橘試験場津久見分場)

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