トマト葉かび病防除におけるオ-ソサイド水和剤80の利用
農薬ガイドNo.104/B(2003.2.20) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:曽我 京次
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 はじめに

 岐阜県における夏秋トマトの栽培は1960年(昭和35年)頃から始められたが、夏期の降雨量が多いことから、斑点細菌病や疫病発生のため極めて栽培が困難であった。
 しかし、1965年(昭和40年)頃になつて雨よけ栽培に変わってから容易に栽培が可能となり、夏期冷涼な気象を利用して中山間地、高冷地で栽培面積が増加し始めた。以後県下では300ha前後栽培されている。
 露地栽培に比較して病害虫の発生様相が異なり、病害は灰色かび病、葉かび病、害虫はオンシツコナジラミ、ハモグリバエ類、タバコガ類の発生が多く認められ、なかでも葉かび病は常発病害として注目されている。

年 次
1997
1998
1999
2000
2001
栽培面積(ha)
319.0
294.0
316.0
310.0
277.4
疫 病
45.3
76.7
66.3
33.3
30.1
灰色かび病
70.6
94.3
176.2
171.2
160.5
葉かび病
73.0
115.8
110.0
137.3
165.0
岐阜県病害虫防除所調査資料による

▲第1表 夏秋トマト病害発生面積 (岐阜県)

▲第1図 トマト3病害の発生状況(発生面積率%)

 葉かび病の発生要因

 雨よけ栽培は圃場の移動が困難なため連作を余儀なくされるため、病原菌の越冬場所となりやすく、毎年早くから葉かび病の発生が認められる。また、トマト果実を肥大させるため、配管による灌水を十分行なうことにより、葉かび病の発生を助長させていると考えられる。
 なお、栽培期間が5~10月までと長期間にわたること、中山間高冷地帯の夏は雷雨による降雨が頻繁にあり、夜間は湿度が高まることから、発病適温の期間に長く遭遇する環境にある。このことから、夏秋トマト栽培にとっては葉かび病は重要病害である。

 葉かび病防除試験成績から

 2000年(平成12年)と2001年(平成13年)にオ-ソサイド水和剤80について日本植物防疫協会委託試験を行なった。
 2000年は、定植1ヵ月後の6月中旬頃に葉かび病の初発生が認められ、6月下旬から約10日毎に4回薬剤散布した。中発生条件下での試験であった。
 2001年は発生がまだ認められていない、6月中旬から同様に4回薬剤散布した。多発条件下での試験であった。
 2000年の試験ではオ-ソサイド水和剤80の800倍散布は、対照のトリフルミゾ-ル水和剤5,000倍よりやや劣ったが、無処理に対して防除効果が認められ、実用性があると判定された。
2001年の試験では、対照のトリフルミゾ-ルより優る防除効果があり実用性が高いと判定されている。

供試薬剤
(成分・含有量)
希釈倍数
病斑数/株当り
発病葉率(%)
防除価(病斑数)
薬 害
6.28
7.20
8.7
6.28
7.20
8.7
7.20
8.7
オーソサイド水和剤80
(キャプタン・80%)
800倍
0.5
10.1
63.3
2.0
26.7
49.0
62.9
72.2
トリフルミゾール水和剤
(トリフルミゾール・30%)
5,000倍
0.5
3.5
10.4
4.0
14.7
27.0
87.2
95.0
無処理
 
0.7
27.2
227.5
5.3
32.7
71.3
0
0
対象病害:
トマト葉かび病 中発生
試験方法:
場所;岐阜県中津川市苗木字三郷 雨よけハウス栽培
品種;桃太郎8 定植5月13日
区制;1区10㎡、20株3反復
薬剤散布;6月28日(1番果収穫直前)、7月8日、20日、28日、300L/10a動力噴霧器を用い散布

▲第2表 トマト葉かび病防除試験成績(日本植物防疫協会農薬委託試験、2000)

▲第2図 トマト葉かび病防除効果(2000)

供試薬剤
(成分・含有量)
希釈倍数
病斑数/株当り
発病葉率(%)
防除価(病斑数)
薬 害
7.22
8.3
7.22
8.3
7.22
8.3
オーソサイド水和剤80
(キャプタン・80%)
800倍
3.7
5.8
17.9
27.9
95.8
98.5
トリフルミゾール水和剤
(トリフルミゾール・30%)
5,000倍
11.3
38.1
32.5
47.5
87.0
90.4
無処理
 
87.1
397.7
51.3
91.7
0
0
対象病害:
トマト葉かび病 多発生
試験方法:
場所;岐阜県中津川市苗木字三郷 雨よけハウス栽培
品種;桃太郎8 定植5月13日
区制;1区4.5㎡ 9株3反復
薬剤散布;6月19日(1番果収穫前)、7月1日、11日、23日、600L/10a動力噴霧機を用い散布

▲第3表 トマト葉かび病防除試験成績(日本植物防疫協会農薬委託試験、2001)

▲第3図 トマト葉かび病防除効果(2001)

 葉かび病の防除対策

 岐阜県病害虫防除基準による防除方法としては
(1)耕種的防除法
 ①抵抗性品種を栽培する。
 ②温室、ハウス、トンネル栽培では多湿にならないよう、灌水・換気・温度管理に注意する。
 ③被害残さを処分する
(2)薬剤防除法
 ①第4表の薬剤を散布する。
(3)注意事項
 ①種子消毒は必ず行なう。
 ②過度の密植、肥切れ、水分過多は本病発生の誘引となる。
 ③20~23℃、多湿条件下で多発するので7~10日間隔で防除する。
 ④発病後の防除では十分効果があがりにくいため、生育初期からの予防散布が必要である。
 ⑤防除効果のあがりにくいときは、オ-ソサイド水和剤80との混用散布とする。

分 類
薬剤名(一般名)
無機銅剤
銅水和剤
有機銅剤 DBEDC乳剤
有機硫黄剤 マンゼブ水和剤、ポリカーバメート系水和剤
ベンゾイミダゾール系剤 チオファメートメチル水和剤・粉剤、ベノミル水和剤
ステロール生成阻害剤 トリフルミゾール水和剤・乳剤、テトラコナゾール液剤、フェナリモル水和剤、トリホリン乳剤
メトキシアクリレート系剤 アゾキシストロビン水和剤
抗生物質剤 ポリオキシン水和剤・乳剤
その他の合成剤 スルフェン酸系水和剤、TPN水和剤、キャプタン水和剤
その他混合剤 ジチアノン・銅水和剤、カスガマイシン・銅水和剤、カスガマイシン・キャプタン水和剤、キャプタン・ベノミル水和剤、ジフェンカルブ・チオファネートメチル水和剤

▲第4表 トマト葉かび病に適用のある主要農薬

 トマト葉かび病防除薬剤としてのオ-ソサイド水和剤80の役割

 夏秋トマト栽培のなかで、月3回程度薬剤散布をすると、年間12~15回の散布が必要となる。栽培前半の7月までに十分な防除を行なわないと、葉かび病の多発生につながることになる。
 したがって、葉かび病の防除体系のなかで、発病前からオ-ソサイド水和剤80の800倍液を7~10日毎に3、4回散布することにより、葉かび病の発生を抑制しておき、後半に発生する灰色かび病防除薬剤等に切り替えることが賢明な方法と考えられる。
 なお、防除効果試験に見られるように、2000年には初発生が見られてからの散布は効果が劣ったので、2001年の例のように初発生前からの散布を心がけたい。

 おわりに

 トマト葉かび病に対する防除薬剤は数多くあるが、農薬適正使用や耐性菌の出現も考えられることから、一つの薬剤で3回程度にとどめたい。
 また、トマトは毎日収穫市場へ出荷するため農薬による汚れも気になることから、水和剤は収穫の始まる前までに使用し、収穫中には汚れの少ない乳剤、フロアブル剤を用いることがよいと考られる。
(社団法人日本植物防疫協会 岐阜県試験員)

 参考文献

 病害虫・雑草防除基準:岐阜県
 岐阜県植物防疫年報:岐阜病害虫防除所
 農薬委託試験成績:日本植物防疫協会
 農薬ハンドブック:日本植物防疫協会


▲ポット育苗に発生


▲本圃(無散布)発生状況


▲葉裏の発生状況


▲病斑の拡大


▲葉かび病菌の分生胞子

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