モミゲンキ水和剤の使用法に関する岩手県での指導事情
農薬ガイドNo.104/D(2003.2.20) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:勝部 和則
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 2001年(平成13年)10月、モミゲンキ水和剤がイネもみ枯細菌病および苗立枯細菌病を対象に農薬登録を取得したことを受け(第1表)、岩手県では平成14年度県病害虫防除基準に採用し、岩手県としての効果的な使用法を普及現場に提示した。さらに平成14年度「農薬普及展示圃」において現場の好評を得たところである。
 イネの細菌性病害のうち、育苗期に発生する病害には褐条病、もみ枯細菌病(苗腐敗症)、苗立枯細菌病がある。岩手県でもこれら3病害が発生するが、特に発生が多く、被害が大きいのはもみ枯細菌病と苗立枯細菌病である。これら細菌性病害に対するこれまでの防除は、岩手県の場合、次の二つのパターンに分けられる。一つは消毒済み種子(ペフラゾエート水和剤(ヘルシード)処理)を利用する場合で、主にオキソリニック酸水和剤(スターナ)またはカスガマイシン液剤(カスミン)が慣行で使用される。一方、無消毒種子を使用する場合には主にイプコナゾール・銅水和剤(テクリードC)またはオキソリニック酸・プロクロラズ水和剤(スポルタックスターナSE)が使用されている。
 本稿ではモミゲンキ水和剤について、岩手県としての指導内容について紹介する。

適用作物
適用病害
希釈倍数・使用量
使用時期
使用方法
使用回数
もみ枯細菌病
苗立枯細菌病
200~500倍
浸種前~催芽時
24時間種子浸漬
2回以内
乾燥種子重量の1%
浸種前~播種前
種子粉衣(湿粉衣)
土壌1L当り10g
播種時
覆土に混和
もみ枯細菌病
100倍
播種後覆土前
育苗箱(30×60×3cm)1箱当り希釈液50mlを播種した種籾の上から均一に散布する

▲第1表 モミゲンキ水和剤の登録内容

 モミゲンキ水和剤の特徴

 モミゲンキ水和剤の主成分シュードモナス属細菌CAB-02株は、旧農林水産省中国農業試験場(現・独立行政法人農業技術研究機構・近畿中国四国農業研究センター)が選抜した一細菌で、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病に対して卓効を示すとされる。
 平成9~11年度生物農薬連絡試験成績および平成13年度特別連絡試験成績((社)日本植物防疫協会)を概観すると、両病害に対する防除効果は安定しており、浸種後の催芽時における24時間浸漬処理を無処理区の発病程度別にグラフにプロットしてみると、両病害とも無処理区の発病苗率60%程度までは防除効果に差はみられない。これを越える条件では両病害ともに防除効果に振れがみられるようになる。この現象は200倍液、500倍液いずれの処理においても同じ傾向にある(第1図)。

▲第1図 無処理区の発病程度別にみたモミゲンキ水和剤
(浸種後催芽時24時間浸漬処理)
のもみ枯細菌病および苗立枯細菌病に対する防除効果*

*:日本植物防疫協会「平成9~11年度生物農薬連絡試験成績集」
および平成13年度「特別連絡試験成績」より作成
: モミゲンキ水和剤200倍液への浸種  : 同500倍液への浸種

 CAB-02株による防除機作は、籾や幼植物体表面におけるもみ枯細菌病菌や苗立枯細菌病菌との競合によって、病原細菌の増殖を抑制すると考えられている(奥田ら、1997)。もみ枯細菌病菌の場合、通常、浸種中に病原菌が全体に薄く広がり、催芽時の加温で増殖し、出芽後の幼芽に感染する(曳地、1996)。CAB-02株はこの感染機会までに籾~幼芽を厚く取り巻くことができれば、病原菌との競合で打ち勝つことができると想われる。
 モミゲンキ水和剤は防除効果で化学農薬に優り、さらに微生物農薬であるが故に、改正JAS法に対応し、有機栽培でも使用でき、減農薬栽培では成分数に計数されない。生産者にとって最大のメリットがここにある。

 岩手県におけるモミゲンキ水和剤の指導内容

 岩手県では平成14年度病害虫・雑草防除基準からモミゲンキ水和剤の処理方法を次の三つに限定して掲載している。
 ①浸種後の種籾を500倍液に24時間浸漬した後、催芽する方法(500倍液催芽前処理)
 ②催芽後の種籾に対して5%量の本剤を湿粉衣する方法(催芽後湿粉衣処理)
 ③用土1L当り10gの本剤を混和して覆土する方法(覆土混和処理)。
 また、④播種後の種籾に対して100倍液50mlを灌注し、覆土する方法(播種後覆土前処理)についても15年度防除基準に掲載される。これらの使用方法と化学農薬との体系について県防除基準あるいは稲作指導指針では次のフロー図を掲載している(第2図)。

▲第2図 モミゲンキ水和剤と化学農薬の体系防除のフロー
(平成15年度岩手県病害虫防除基準)

 この中で、最も普及させたい使用方法は①の500倍液催芽前処理である。
 岩手県でこのように24時間浸漬処理について、上記①のように制限している理由は次の通りである。
 浸種後催芽前とした理由:岩手県では浸種温度を12~15℃とすることを励行している。ところが、寒冷地である本県の気候特性上、やむを得ず低水温で浸種を開始せざるを得ない場合がある。また、特異事例かもしれないが、いわゆる“ヤロビ農法”が浸透している地域では3月初旬から浸種が開始される事例もみられる。このような低温期の浸種を行なった場合、たとえば70~100日℃を確保しようとすると2~3週間以上の長期間浸種が行なわれることも考えられる。種子が呼吸するためには温度が低すぎるため、吸水不十分となり、出芽不揃いを引き起こす可能性が高い。また、低水温が故に、本剤の主成分である生細菌の増殖に影響し、防除効果が十分に引き出せない可能性が考えられた。催芽時としなかった理由は、蒸気催芽がある程度普及しており、催芽液での処理を行ないにくいためである。なお、10℃以下の低水温で浸種する場合には200倍液の処理を行なうと防除効果が低下することのないことを確認している。
 500倍液とした理由: 先に述べたように浸種後催芽時処理において無処理区の発病苗率が60%程度までであれば200倍、500倍の希釈倍率によるの防除効果の差はみられない。倍率の選択は病原細菌の保菌籾率により変えるべきものと考えた。通常薬効試験を行なう場合には数十%の苗が発病するような環境で行なうが、一般育苗でこのような発病をみることは稀である。本県ではこれまでに実施してきた種子の検定において、病原細菌保菌籾率が最も高かった事例でも0.1%に達しない。このことから、500倍で十分と考え、催芽時の加温で主成分の細菌の増殖にも期待することとした。なお、500倍とすることにより、現行の化学農薬の体系よりもコストが低減された上、同等以上の防除効果を期待できることも大きな理由である。

 減農薬栽培におけるモミゲンキ水和剤への期待

 岩手県の稲作で育苗期に問題となる病害は主にいもち病、ばか苗病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病である。いもち病、ばか苗病については未解決であるが、細菌性病害に対してはモミゲンキ水和剤である程度の解決ができたと考えている。糸状菌病に対して何らかの防除圧を別途与える必要があるが、この点では湛水育苗の一つであるプール育苗法に期待する細菌性病害の発病抑制(勝部・武田、1997;林ら、1997)とは問題点が共通する。一方、温湯消毒(早坂ら、2001)ではここで問題にする4病害に対して防除効果を期待できるが、本県主産の粳品種「かけはし」や糯品種「ヒメノモチ」に適用しにくいのが難点である。
 エコファーマー制度の活用あるいは特別栽培米などでは流通段階における種々の事情から、生産者に対する防除の選択肢はほとんど与えられていないのが実情で、本県ではDMI剤消毒後のモミゲンキ水和剤処理が主流になるであろう。

 おわりに

 昨今の「無登録農薬問題」の影響から、農薬への関心が高まる中、生物農薬への期待は非常に大きなものとなりつつある。筆者だけかもしれないが、新農薬効果試験の依頼傾向を見ると、水稲種子消毒での生物農薬の依頼件数増加とともに、化学農薬の依頼件数が減少する傾向にあるように感じている。モミゲンキ水和剤は種子消毒の他、もみ枯細菌病(もみ枯症)を対象とした本田散布も薬効試験中である。イネの本田期で微生物農薬開発が成功すれば市場は非常に大きく、まさに旬の開拓分野であろう。
 岩手県で本田期に問題とする病害はほぼいもち病のみであり、もみ枯細菌病が問題となることは10年以上のスパンで1度あるかどうかの頻度である。いもち病に対してはケイ酸質資材による発病軽減(早坂ら、2000:苗いもち)も考えられる。岩手県ではいもち病の発生しにくい地域も存在する(武田、1995)。すなわち、本県ではすでにモミゲンキ水和剤(種子消毒)を基幹とし、場合によっては本剤のみで病害防除が可能な事例も出てくるのかもしれない。
(岩手県農業研究センター病害虫部病理昆虫研究室)

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