ボトキラー水和剤によるブドウ灰色かび病の防除
農薬ガイドNo.105/C(2003.5.20) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:宮下 享子
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 はじめに

 日本は温暖で降雨が多いことから、ブドウ栽培では黒とう病、べと病、晩腐病、灰色かび病、枝膨病など様々な病害が発生し防除対策に苦心している。特に、灰色かび病については、露地、施設を問はず全国各地で発生し、気象条件によっては、開花期の花穂や収穫期の果房に突発的に多発生するため、経済的な被害が大きい。本病の防除は主として薬剤による防除が中心であるが、近年は環境保全型病害虫防除の観点から、「化学農薬にのみ頼るのではなく、耕種的防除や生物的防除を組み合わせた総合的な防除技術の開発」が求められている。ボトキラー水和剤は、Bacillus subtilis(バチルス・ズブチリス 和名;枯草菌)の芽胞を主成分とした、灰色かび病防除のための微生物農薬である。生物農薬の登録が少ない果樹では待ちに待った登録であり、生産現場での今後の使用に期待されるところが大きい。以下、ブドウ灰色かび病の発生生態および灰色かび病に対するボトキラー水和剤の防除効果等について述べる。

 灰色かび病の病徴

 ブドウ灰色かび病の病原菌はBotorytis cinereaで、本菌はブドウ以外の果樹や食用作物、野菜類、花き類など多くの植物に寄生する。ブドウの場合、灰色かび病は葉、花穂、果房に発生が認められるが、最も被害が大きいのは開花期における花穂での発病である。開花前の花穂に発病すると茶褐色になりポロポロと落ち(写真1)、花梗や穂軸は水浸状に褐色腐敗する(写真2)。多湿の場合はその表面に灰色のかびが生える。落花期になり、花カス(花冠、がく片)が残っていると、そこから灰色かび病菌が侵入し、果粒全体が腐敗またはさび果となる。成熟期では、裂果した部分や傷口から発病したり、貯蔵中にも果実腐敗をおこす。いずれも腐敗した部分には灰色のかびが見える。湿度が高い場合には、発病した果粒から隣接した健全な果粒に次々と伝染するが、ブドウの場合、薬液汚染、果粉(ブルーム)の溶脱の問題から、果房への薬剤散布は果粒が小豆大程度までとなる。このため、収穫前に発病した場合は、防除ができず経済的な被害が大きい(写真3)。葉での発病は比較的少ないが、葉脈にそった部分や葉縁など水滴のたまりやすい部分に褐点ができ、次第に輪紋状の病斑となる(写真4)。

▲写真1 ブドウ灰色かび病 花穂での発病

▲写真2 花穂・穂軸での発病

▲写真3 裂果による果房での発病

▲写真4 葉縁部での発病

 灰色かび病の発病条件

 灰色かび病菌は有機物上で腐生的に繁殖する性質があり、被害残さ上で菌核や菌糸の形で越冬する。翌春、越冬伝染源上に生じた分生子が風や降雨によって飛散し、花穂や傷口などから侵入、感染する。開花前後の花穂は水がたまりやすい上、組織が非常に柔らかいため、誘引や房作り作業、強風などで傷がつきやすい。ブドウでの発病は花穂で多いと述べたが、このような状況も関係しているのではないかと思われる。
 山梨県の場合、露地栽培では開花期となる5月中下旬(品種や産地での生育状況により多少前後する)で発生が多く、施設栽培では加温状況により発生状況は異なるが、3月中~4月中旬に開花期となる作型で発生が多い(この時期は曇雨天が続く「菜種梅雨」や下草等の過繁茂の影響により施設内の湿度が高くなりやすい)。灰色かび病は、施設栽培、露地栽培ともに開花期に天候に恵まれると発生はほとんど認められないが、温度がやや低い、降雨日数が多く湿度が高い、といった条件がそろうと、灰色かび病菌は短期間で圃場全体に拡がり激発する。このため、発生の有無にかかわらず、開花直前、落花期の薬剤散布に加え、花カスおとし、マルチ敷きや換気で湿度を下げる(施設栽培)といった耕種的防除を徹底しているのが現状である。 

 灰色かび病防除試験結果から

 2000年にボトキラー水和剤について施設栽培のピオーネを用いて試験を行なった。ボトキラー水和剤は開花始め(4月18日)と開花期(4月25日)の2回、対照となるイプロジオン水和剤は開花期(4月25日)と落花直後(5月2日)の2回散布した。少発生条件下の試験であったが、ボトキラー水和剤1,000倍の散布は、対照のイプロジオン水和剤1500倍と比較し防除効果はやや優ったことから、実用性ありと判定されている(第1表)。一方、2001年に行なった試験では、ボトキラー水和剤を開花前と落花期の2回処理したが、試験開始時には既に発病が散見されていたため(最終的には中発生条件下の試験)、ボトキラー水和剤の防除効果が認められず無処理と同程度の発病となっている。

供試薬剤
調査葉数
発病葉率
(%)
調査果房数
発病果穂率
(%)
発病度
防除価
薬害
ボトキラー水和剤
バチルスズブチリス芽胞
1×1011cfu/g
200
10.0
200
4.5
0.8
75.0
イプロジオン水和剤
イプロジオン 50%
200
9.5
200
3.5
1.2
62.5
無散布
200
19.5
200
9.5
3.2
 
 
(日本植物防疫協会委託試験、2000)

▲第1表 ブドウ灰色かび病防除試験成績

 ボトキラー水和剤を効果的に使用するために

 ボトキラー水和剤の働きは、直接灰色かび病菌を死滅させるのではなく、バチルス・ズブチリスがあらかじめ植物体に定着することにより住みかや栄養物を占有し、後から来る灰色かび病菌を排除するという仕組みである。このため、保護作用による予防効果が主体となる。
 ブドウの場合、灰色かび病の薬剤防除時期は開花直前と落花期であるが、ボトキラー水和剤については有効成分を十分定着させるため、散布回数は多くなるが、開花前、開花直前、落花期の散布が望ましい。
 使用にあたっては、2001年試験のような結果にならないためにも、発病前から散布ムラのないよう十分量を定期的に散布するのがポイントである。散布が間に合わず発病してしまった場合には、発病した花穂等を除去し、治療薬剤を散布する。
 ボトキラー水和剤については、殺虫剤・殺菌剤との混用散布が可能であるが、ブドウで使用する殺菌剤のうち、べと病、晩腐病等の防除薬剤として使用するマンゼブや、TPNについては混用によりバチルス・ズブチリスの生育が低下する。混用にあったっては、混用適応表に十分注意する。また、有効成分であるバチルス・ズブチリスの芽胞は、低温では活動が弱くなるため10℃以上の温度条件で使用する。

 おわりに

 ボトキラー水和剤のブドウでの利用については施設、露地栽培ともに効率的な散布時期や、体系防除試験、他剤と混用した場合の効果等まだまだ検討する課題が多い。しかし、ボトキラー水和剤は従来の化学農薬と異なる作用性から、ナスなどでは薬剤感受性菌だけではなく耐性菌についても効果が認められている事例がある。環境に配慮した化学農薬散布の削減に加え、耐性菌発達を防止するためにも、今後の利用が期待される。

(山梨県果樹試験場)

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