ハウスメロンにおけるマルハナバチの利用法
農薬ガイドNo.105/D(2003.5.20) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:山口 英克
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1.はじめに

 これまでハウスメロンの半促成栽培における交配作業は、全国的に廉価なミツバチが主に使用されてきた。ミツバチによる着果は、交配作業が省力化できるうえ、糖度もホルモン剤により着果したものより高く、ハウスメロンの大規模高品質栽培には不可欠な技術として定着している。
 しかし、ミツバチは低温、低日照、高湿度の条件下では訪花活動が不活発で、交配期に曇雨天日が続く時は、着果が不安定になる等の問題を抱えていた。
 そこで、近年トマトの促成栽培で利用が増加しているセイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)をハウスメロンの交配に利用できるか確認するため1994~1995年にかけて筆者が茨城県農業総合センター鹿島地帯特産指導所で行なった実用化試験を紹介する。

2.試験内容

 試験はマルハナバチをハウスメロンの交配に利用するため、両性花開花3日前に1群(1箱)をハウスに搬入し、全花(11~14節)開花終了時まで交配を行なった。対照は開花期間中のみ同ハウス内でカンレイシャ被覆した株にトマトトーン50倍、ジベレリン200ppm混合液(ジベレリンは現時点でメロンには使用できない)を両性花の子房部に散布した株とした。
 試験圃場は所内硬質フィルム(TORY:ルミラーWD張)展張200m2ハウスで1994年は、品種「アムス」、播種1月7日、定植2月9日、1995年は、品種「ユウカ」、播種1月10日、定植2月22日で両年とも子づる2本地這い仕立て4果着果で行なった。

3.試験結果

(1)正常花粉率の推移

 ハウスメロンの交配にあたり、その開花期間の正常花粉率を把握するとともに着果率と正常花粉率の相関を把握するため、両性花開花期間に当日開花した雄花を3花採取し、その花粉300粒の正常花粉率の推移を調査した。
 その結果、1994年の「アムス」の試験では、交配期の3月23日~4月3日にかけて天候は晴天が続いていたが、正常花粉率は大きく変動し、最高94%、最低31%で平均69%であった(第1表)。

期日 3/23
3/24
3/25
3/26
3/27
3/28
3/29
3/30
3/31
4/1
4/2
4/3
平均
正常花粉率(%) 91
64 31 77 38 75 73 68 88 34 94 91 69
交配日の天候
 

▲第1表 正常花粉率の推移(1994)

 開花当日の天候と正常花粉率には顕著な相関は見られなかった。
 1995年の「ユウカ」の試験では、4月4日~20日にかけて天候は晴天日が多く天候は安定していた。正常花粉率は前年より変動幅がやや少なくなり、最高91%、最低62%で平均76%であった(第2表)。4月上旬に比較して中旬以降は正常花粉率は高くなる傾向が見られた。前年と同様、開花当日の天候と正常花粉率には顕著な相関は見られなかった。

期日 4/4
4/5
4/6
4/7
4/8
4/9
4/10
4/11
4/12
正常花粉率(%) 66
77 65 81 87 68 48 62 68
交配日の天候
期日 4/13
4/14
4/15
4/16
4/17
4/18
4/19
4/20
平均
正常花粉率(%) 72 75 86 87 91 64 31 77 69
交配日の天候
 

▲第2表 正常花粉率の推移(1995)

(2)マルハナバチの活動状況

 マルハナバチの交配期の活動状況を把握するため、1995年の試験において、曇雨天日(4月12日)と晴天日(4月18日)に巣の出入り口付近に8mmビデオカメラを朝7時から夕方5時まで設置し出巣数と帰巣数を観察調査した。
 その結果、曇雨天日(4月12日)であったが訪花活動は活発で、その活動時間は出巣数および帰巣数とも7~9時頃が最も多く、11時以降は減少した(第1図)。出巣数は8時頃が最も多く、9時以降は帰巣数が出巣数を上回った。

▲第1図 4月12日のマルハナバチの活動状況
交配時の天候:曇り一時雨のち晴れ
雨量:6.5㎜(AM9:50~PM12:30)

 晴天日(4月18日)は調査を開始した7時以前から出巣数が多く、8時頃には帰巣数が出巣数を上まわった。訪花活動は午前中が出巣数と帰巣数とも多かったが、午後においても曇雨天日より活発であった(第2図)。

▲第2図 4月18日のマルハナバチの活動状況
交配時の天候:晴れ時々曇り

 花から花へ移動する訪花時間は、曇雨天日は6.0秒であったが、晴天日は3.7秒と短かった。花への滞在時間は両日とも6秒前後で大きな差は見られなかった(第3表)。

項 目
訪花時間(sec)
花滞在時間(sec)
4月12日
6.0±6.5
6.6±4.6
4月18日
3.7±2.9
5.9±3.9

4月12日:曇雨天 4月18日:晴天

▲第3表 訪花時間と花滞在時間(1995)

 マルハナバチは、午前中の活動最盛期には10頭以上の個体が訪花活動を活発に行なっていたが、両性花がマルチに向けてくっついて開花していたり、葉と重なり訪花しにくくなっているものは訪花しない傾向があった。
 また、この試験で使用したハウスの両サイド換気部にはカンレイシャを被覆してあったが、天窓には被覆していなかったため、ハウス外への飛び出し個体も見られ、一度飛び出した個体はハウス内には戻れなかった。

▲訪花中のマルハナバチ

(3)着果率と着果数

 交配終了後に11~14節の孫蔓の着果状況を調査した。その結果1994年の3月下旬~4月上旬交配の「アムス」の着果率は、対照ホルモン剤処理が96.9%で1株当り7.7果着果したがマルハナバチ交配は43.9%で1株当り3.5果と低かった(第4表)。

1994年
1995年
着果率
着果数
着果率
着果数
マルハナバチ交配
43.9%
3.5果/株
91.6%
7.2果/株
ホルモン処理
96.9%
7.7果/株
86.2%
6.8果/株

▲第4表 着果率と着果数

 ところが1995年の4月上~中旬交配の「ユウカ」の着果率は、対照ホルモン剤処理が86.2%で1株当り6.8果であったがマルハナバチ交配91.6%とマルハナバチ交配がやや良好であった。
 このことから、正常花粉率がやや低かった「アムス」では着果率が低く、安定していた「ユウカ」ではやや高かった。

(4)生育に与える影響

 両試験ともマルハナバチ交配がホルモン処理に比較して草丈がやや長くなったが、草勢は顕著な差は見られなかった(第5表)。

草丈
茎径㎜
(10~11節)
10節葉㎝
21節葉㎝
たて
よこ
たて
よこ
1994年
 
マルハナバチ交配
200
11.0
19
26
22
29
ホルモン処理
205
11.0
19
25
21
29
1995年
 
マルハナバチ交配
197
8.9
20
24
25
31
ホルモン処理
202
9.0
20
24
25
32

▲第5表 生育調査

(5)果実品質に与える影響

 成熟日数は「アムス」で3日、「ユウカ」で1日程度マルハナバチ交配が長かった(第6表および7表)。果重や果形には明瞭な差は見られなかったが、「ユウカ」ではネットの発生が密度、盛上ともマルハナバチ交配で良好であった。糖度は、「アムス」、「ユウカ」ともマルハナバチ交配が約1%(BRIX)高かった。
 このことから、果実品質はマルハナバチ交配はホルモン処理よりネットの発生および糖度が向上した。

成熟
日数
果重
g
果実㎝
果径比
ネット
糖度
たて
よこ
密度
盛上
マルハナバチ交配
58
890
11.9
10.8
1.1
2.7
3.0
13.2
ホルモン処理
55
891
11.8
11.2
1.1
2.7
2.9
12.2

▲第6表 果実品質調査(1994年)

成熟
日数
果重
g
果実㎝
果径比
ネット
糖度
たて
よこ
密度
盛上
マルハナバチ交配
59
980
12.0
11.9
1.0
3.3
3.6
16.6
ホルモン処理
58
1,000
12.0
12.0
1.0
2.3
2.5
15.6

▲第7表 果実品質調査(1995)

4.マルハナバチによるハウスメロン交配の実用性と利用法について

 マルハナバチはこれらの試験において低温(10℃前後)や曇雨天等の高湿度低日照条件下でも飛来し、訪花活動を行なうことが観察された。着果も交配時期により差が見られたが正常花粉率が高いなど花粉等が充実していれば着果率が高く、果実品質もホルモン処理に比較すると向上し、特に糖度が高くなる ことから実用性は高いと思われた。そして使用時期は当地域では、正常花粉率が高くなる3月上旬以降とした方が良いと思われた。 
 試験は200m2ハウスに1群を搬入して行なったが、促成トマトでは1,000m2を1群対応できることから交配余力に余裕があった。1箱当りのトマトとメロンの違いはトマトが1~2段花房開花期以降から最上段花房開花終了まで長期間に渡り利用するが、メロンは交配期間が1ハウス当り10日以内で短く、開花、交配が短期間に集中することにある。マルハナバチは1箱に購入時には100頭程度(商品により差はある)でミツバチに比較して少なく、訪花活動個体は少数精鋭になる。したがって、交配前早目にハウス内に搬入し、すぐに訪花活動できる個体が多くなるように環境に慣らしておく必要がある。
 ハウス内に搬入し14日程度経過すると、条件が良ければ1群の個体数は2倍近くまで増加する。しかし、いったん増加した後は、今回使用した4月以降の場合は、日中のハウス内の温度が35℃を越える日も多く、1ヵ月程度で急激に個体数が減少するなど高温による消耗が激しかった。従って消耗を最小限に抑えるように、極端な高温、低温にならないように換気、保温管理に留意するとともに、カンレイシャを換気部に張り、ハウス外へ飛び出さないようにする必要がある。

5.今後のマルハナバチの利用

 これまでマルハナバチは箱当りの個体数がミツバチに比較して少ないうえ、箱単価が2.3~2.5倍と高く単棟パイプハウスでの栽培が主体のハウスメロンでは箱数が多く必要で効率が悪く普及しなかった。
 しかしミツバチの訪花活動が活発に行なわれない低温期や曇雨天日において、連棟ハウスや面積の大きな単棟ハウス棟の利用であれば着果の安定や省力化が効率的に図れ、ホルモン着果したものより品質向上が望めるなど利用価値はあると思われる。
 また、低紫外線条件下でもミツバチより活動することが以前から報告され、紫外線カットフィルム展張ハウスでもフィルムの種類により訪花活動することも報告されているため、その利用はハウスメロンに限らず他品目でも増加すると思われる。

(茨城県農業総合センター 鉾田地域農業改良普及センター)

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