スリパンスを利用した促成栽培ピーマンにおけるアザミウマ類の防除
農薬ガイドNo.106/E(2003.8.30) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:高木  豊
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1.はじめに

 促成栽培ピーマンにおける主要な害虫の一つであるミナミキイロアザミウマ Thrips palmi は果実表面に傷を付けることで商品価値を著しく落とすが、本種は薬剤抵抗性が発達しているため化学農薬による防除では、頻繁な殺虫剤散布が必要となり生産者に多大な労力を強いている。また、ミカンキイロアザミウマ Flankliniella occidentalisおよびヒラズハナアザミウマ Flankliniella intonsaは密度が増加するとピーマン果柄およびへた部を黒変させる他、TSWVを媒介することが知られている。このようなアザミウマ類に対する防除の重要性は周知のことである。
これらのアザミウマ類に対する生物農薬として、ピーマンでは1999年にククメリスカブリダニ Amblyseius cucumeris Oudeman(商品名:ククメリス)、1998年にナミヒメハナカメムシ Orius sauteri (Poppius)および2001年にタイリクヒメハナカメムシ Orius strigicollis(商品名:タイリク)が農薬登録され現場で利用されている。
この他に欧州ではデジェネランスカブリダニ Amblyseius degenerans (Berlese) (以下デジェネランス)がミカンキイロアザミウマに対する天敵として用いられており、わが国でも商品名「スリパンス」としてナス(施設栽培)のミナミキイロアザミウマに登録された。
デジェネランスは比較的高温を好むとされており、高知県におけるハウス促成栽培の中でも最低温度18℃ で管理しているピーマンは、他の作物と比較して管理温度が高いことから本種の利用が可能であると考えられた。そこで、スリパンスの施設栽培ピーマンにおける定着性と現地での実証試験について紹介する。


▲デジェネランスカブリダニ雌成虫(右側)


▲ミカンキイロアザミウマによるピーマン果実の被害

2.スリパンスの圃場における定着性

 (社)日本植物防疫協会研究所高知試験場の鉄骨ビニルハウス(面積9.8a)にピーマン(品種:トサヒメ)を2000年10月5日に48株(面積36㎡)定植し、これを用いてスリパンスの定着を調査した。天窓開閉は12月上旬まで自動開閉(開放設定温度30℃)、暖房は11月中旬から最低温度19℃に設定して行なった。デジェネランスは10月26日に株当り2頭の雌成虫を面相筆を用いて株上部の展開葉上に放飼した。
 調査は、デジェネランス雌成虫、アザミウマ数をカブリダニ放飼後から5~13日間隔で2001年1月31日まで調査した。調査期間中に使用した農薬を第1表に示した。結果を第1図および第2図に示した。
デジェネランスは放飼後より徐々に生息密度が増加し、12月22日の調査時に期間中の最高密度である1株(4頂部、2花)当り10.2頭が確認され、この時期における定着が可能であることが確認できた。しかし、1月10日にうどんこ病防除にキノキサリン系25%水和剤を2,000倍希釈で散布した後、デジェネランス密度が急激に下がった。アザミウマ類に対しては、特に幼虫密度を低く抑え、1月10日調査では非常に高い効果が認められたが、デジェネランス生息密度が低下するとともに、主にミカンキイロアザミウマ寄生数が増加していった。

使用月日 使用薬剤
10月5日 二テンピラム5%粒剤 1g/株(定植時)
11月1日 ブプロフェジン25%水和剤 1,000倍希釈液
12月2日 ブプロフェジン25%水和剤 1,000倍希釈液
クロルフルアズロン5%乳剤 2,000倍希釈液
12月14日 ブプロフェジン25%水和剤 1,000倍希釈液
イミノクタジンアルベシル酸塩40%水和剤 1,000倍希釈液
12月27日 ブプロフェジン25%水和剤 1,000倍希釈液
イミノクタジンアルベシル塩40%水和剤 1,000倍希釈液
1月10日 キノキサリン系25%水和剤 2,000倍希釈液

▲第1表 施設栽培ピーマンにおける使用薬剤(日植防研高知、2000)


▲第1図 施設栽培ピーマンでのデジェネランスカブリダニの生息密度(日植防高知、2000)
品種:トサヒメ 定植:2000年10月5日 放飼:2000年10月26日スリンパスを2頭/株


▲第2図 施設栽培ピーマンでのアザミウマ類寄生密度(日植防高知、2000)
品種:トサヒメ 定植:2000年10月5日 放飼:2000年10月26日スリンパスを2頭/株

3.現地における実証試験

 高知県安芸郡芸西村において高知県安芸農業改良普及センタ-およびJA土佐あき芸西支所のご協力を得て現地農家で実証試験を行なった。鉄骨ハウス(面積7a、硬質ポリエチレンフィルム張り)に赤ピーマン(品種:トサヒカリD)600株を2000年9月14日に定植、栽培管理は全て農家が行なった。
 デジェネランスは10月20日および11月2日の2回、株当り雌成虫約2頭を葉上に放飼した。調査は、ハウス内を10株単位で10箇所の調査ブロックを設定し、合計100株について1回目の放飼7日後である10月27日から5~14日間隔で2001年6月6日まで、カブリダニ数、ハナカメムシ、アザミウマ数を調査した。調査部位は株当り4頂部および2花に生息する虫数を肉眼で調査した。栽培期間を通じて使用された化学農薬を第2表に示した。結果は第3図に示した。
 デジェネランスは放飼後より生息密度は緩やかに増加したが、アザミウマ類が11月上旬より急激に増加したため、11月3日および11月11日にIGR乳剤、11月20日にスピノサド顆粒水和剤による防除を行なった結果、アザミウマ類の生息密度は急激に低下した。
 また、11月末よりチャノホコリダニの被害が認められたため、12月2日にテブフェンピラド10%フロアブル2,000倍希釈液散布を行なったところ、デジェネランスの生息は認められなくなった。しかし、その後2月上旬よりデジェネランス密度は再び上昇し、2月28日の調査時には1株当り(4頂部、2花)5.5頭の高密度となり、栽培終了時の6月中旬まで高い密度で維持された。また、2月下旬より施設内で土着のヒメハナカメムシの発生が認められ、この生息密度も徐々に増加し栽培終了時まで生息が確認された。
 アザミウマに対しては、11月20日に行なったスピノサド25%顆粒水和剤10,000倍希釈液散布の効果により、1月上旬まで低密度に抑えられ、その後は、特にヒラズハナアザミウマ密度が増加したが、デジェネランス生息密度の増加に伴いアザミウマ類幼虫数が減少し、それを追いかけるようにアザミウマ類成虫も低く抑えられた。このデジェネランスの効果に加え、土着のヒメハナカメムシの働きにより3月28日以降6月中旬の栽培終了時までアザミウマ類の寄生はほとんど認められなかった。
 アザミウマおよびチャノホコリダニ以外に3月末よりカンザワハダニの発生が認められたため、5月3日に酸化フェンブタスズ25%水和剤1,000倍希釈液散布および5月10日にチリカブリダニを放飼した結果、土着のハダニアザミウマの捕食も観察され、ハダニ密度はある程度抑制されたが、栽培終了時まで完全に抑えるには至らなかった。

使用月日 使用薬剤
10月7日 エマメクチン安息香酸塩1%乳剤 2,000倍希釈液
イミダクロプリド10%水和剤 2,000倍希釈液
11月3日 IGR乳剤 2,000倍希釈液
11月11日 IGR乳剤 2,000倍希釈液
11月20日 スピノサド25%水和剤 1,0000倍希釈液
12月2日 テブフェンピラド10%フロアブル 2,000倍希釈液
5月3日 酸化フェンブタスズ25%水和剤 10,000倍希釈液

▲第2表 施設栽培ピーマンにおける使用薬剤(高知県芸西村、2000)


▲第3図 施設栽培ピーマンでのアザミウマ類に対するスリパンスの防除効果(高知県芸西村、2000)
薬剤散布:①10月7日 エマメクチン安息香酸塩乳剤2,000倍・イミダクロプリド水和剤2,000倍 ②11月3日 IGR乳剤2,000倍 ③11月11日 IGR乳剤2,000倍 ④11月20日 スピノサド水和剤10,000倍 ⑤12月2日 テブフェンピラドフロアブル1,000倍 ⑥5月3日 酸化フェンブタスズ水和剤1,000倍
放飼天敵: 10月20日、11月2日 デジェネランスカブリダニ1,000頭/ハウス(600株)
10月27日、11月10日 ミヤコカブリダニ1,000頭/ハウス
5月10日 チリカブリダニ1,000頭/ハウス


▲ミカンキイロアザミウマ成虫


▲ミナミキイロアザミウマ幼虫


▲ヒラズハナアザミウマ成虫

4.まとめ

 デジェネランスはアザミウマ類防除に有効と考えられる天敵の一つであるが、2000年10月から行なった圃場での定着調査および現地で行なった実証試験の結果、デジェネランスの促成栽培ピーマンでの定着は可能で、アザミウマ類に対しては、デジェネランスがその幼虫を積極的に捕食したことから、幼虫密度を抑えることでアザミウマ類を低密度に抑えることが確認された。
 しかし、今回の調査により本種は化学農薬の影響を受けやすく、有効な利用には農薬の影響を考慮する必要があることが示唆された。また、本種は、ピーマン花粉で増殖が可能であることから、アザミウマ類の発生前もしくは発生初期に放飼を開始して作物体上で十分増殖を図ることがアザミウマ類防除には有効な手段と考えられる。

(社団法人日本植物防疫協会研究所)

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