ホクガード乳剤連用散布圃場より分離したテンサイ褐斑病菌の
テトラコナゾール感受性検定
農薬ガイドNo.107/E(2004.2.28) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:秦谷 敏之
この号のTOPに戻る

1.はじめに

 ホクガード乳剤(テトラコナゾール15%)は、トリアゾール系のDMI剤である。本剤はテンサイ褐斑病に対して優れた防除効果を示し、1998年の登録以来、褐斑病の防除体系での基幹防除剤として使用されている。
 ホクガード乳剤の防除特性としては、予防・治療効果に加え、優れた残効性および耐雨性を示すことが知られている。一方、DMI剤はキュウリうどんこ病など一部の病害で感受性の低下が問題となっているため、褐斑病防除場面では作用性の異なる薬剤とのローテーション散布が指導されている。
 近年、DMI剤を連用したテンサイ連作圃場において褐斑病菌の感受性が低下した事例が確認されていることや、一般輪作圃場でもDMI剤低感受性菌が分離されたことが報告され、圃場での防除効果への影響が懸念されている。
 弊社では、1992年より北海道試験農場においてホクガード乳剤の効果試験を開始し、1993年より試験区の罹病葉から褐斑病菌を分離し、テトラコナゾール感受性検定を実施している。本稿では、2002年まで10年にわたり実施した試験結果について述べる。

2.テトラコナゾール感受性検定

 圃場試験は1区12~100㎡(年度により異なる)、3連制で行ない、ホクガード乳剤の1,000倍ないし1,500倍液を7月中旬から約2週間間隔で年に2~4回散布した。散布水量は120㍑/10aとした。なお、試験圃場は、近隣にテンサイ栽培圃場がないため、褐斑病罹病葉を次年度の栽培圃場にすき込むことにより翌年の発生を確保した。
 薬剤の防除効果は最終散布2週間後に調査した。最終散布2~3週間後に採集した罹病葉から褐斑病菌を単胞子分離し、テトラコナゾール感受性検定に供試した。検定培地はPDA培地を用い、平板希釈法にて検討した。100ppmから2倍段階で希釈し、0.05ppmまでを検定濃度とした。検定培地に置床した直径3mmの含菌寒天片を24℃で4日間培養後、菌叢直径を計測し、無処理区との対比で生育阻止率を求め片対数紙にプロットしてEC50値を求めた。
 ホクガード乳剤連用散布開始2年目の1993年と3年目の1994年に分離した菌株に対するテトラコナゾール感受性検定の結果を第1図に示した。
 1993年に分離した32菌株に対するテトラコナゾールのEC50値は0.01~0.09ppmの範囲にあり、DMI剤未使用時期(1968~1985年)に北海道各地より分離した菌株のEC50値(0.02~0.23ppm)とほぼ同一の範囲にあった。
 一方、翌年の1994年分離菌株においては、検定菌株42菌株中36菌株のEC50値が0.03~0.20ppmの範囲に分布していたが、6菌株のEC50値は2.9~25.8ppmを示し、テトラコナゾールに対して感受性の低下した菌株が分離された。
 1995年以降の結果については第1表に示した。1995年以降に感受性の低下した菌株が年度により分離されているが、1994年と比較してEC50値の上昇傾向は認められなかった。
 また、1994年に10ppm以上のEC50値を示す菌株が認められたが、1995年以降は1994年と比較して10ppm以上のEC50値を示す菌株比率の増加は認められなかった。


▲第1図 1993年および1994年分離菌株のテトラコナゾールのEC50値の頻度分布

年次 散布暦 圃場試験 テトラコナゾール感受性検定
防除価
(%)
無処理
発病度
検定菌株数 EC50
(ppm)
EC50値の頻度
(菌株数)
<1.0 1.0~10 >10
1993年 1,000倍液3回散布 90 92 32 0.01~0.09 32 0 0
1994年 1,000倍液2回散布 89 88 42 0.02~25.8 36 3 3
1995年 1,000倍液4回散布 92 100 40 0.02~9.8 31 9 0
1996年 1,000倍液4回散布 84 95 40 0.02~0.12 40 0 0
1997年 1,000倍液4回散布 91 86 40 0.03~17.5 39 0 1
1998年 1,000倍液4回散布 89 89 40 0.03~33.2 38 0 2
1999年 1,000倍液4回散布 94 98 17 0.04~10.5 16 0 1
2000年 1,000倍液4回散布 85 82 30 0.01~3.8 29 1 0
2001年 1,500倍液4回散布 93 72 30 <0.01~14.8 19 10 1
2002年 1,500倍液4回散布 93 79 30 0.01~16.2 26 2 2
▲第1表 ホクガード乳剤連用散布圃場における効果試験結果およびテトラコナゾール感受性頻度分布

3.圃場試験

 1993~2002年の圃場試験の結果を第1表に示した。各年度の試験とも無処理の発病度がいずれも70以上の多~甚発生条件であった。ホクガード乳剤1,000倍ないし1,500倍液の2~4回散布の防除効果は、いずれの試験年度とも防除価90%前後であり、高い効果が認められた。1994年よりテトラコナゾール低感受性菌が分離されているにもかかわらず、圃場でのホクガード乳剤の防除効果への影響は認められなかった。

4.温室内接種試験

 ポット接種試験にて、テトラコナゾール低感受性菌株に対するホクガード乳剤の防除効果について検討した。結果は第2図に示した。供試菌株として1994年に分離したPDA培地上でのEC50値の異なる3菌株を用いた。すなわち、EC50値が25.8ppmの菌株(HC-42)、17.6ppmの菌株(HC-46)、2.9ppmの菌株(HC-45)を供試した。対照菌株としてEC50値が0.06ppmである自社保存菌株(C-49)を用いた。各供試菌株とも病原性の強い菌株であり、無散布区の1葉当りの病斑数は250~400個であった。
 PDA培地上でのEC50値の低かった1994年分離3菌株に対するホクガード乳剤1,500倍液(100ppm)の茎葉散布効果は、いずれも防除価99%以上と高く、EC50値が0.06ppmのC-49に対する防除効果との差は認められなかった。ホクガード乳剤の常用濃度散布では、PDA培地上での感受性の低い菌株に対しても、感受性菌と同等の防除効果を示すことが確認された。


▲第2図 テンサイ褐斑病菌(1994年分離)に対するホクガード乳剤の茎葉散布効果
散布濃度:100ppm(1,500倍液)
( )内の数値はPDA培地上でのEC50値を示す。

  1回目 2回目 3回目 4回目
体系防除1 ホクガード乳剤
(1,000~1,500倍液)
マンゼブ水和剤
(600倍液)
ホクガード乳剤
(1,000~1,500倍液)
カスガマイシン・
銅水和剤
(800倍液)
体系防除2 マンゼブ水和剤
(600倍液)
ホクガード乳剤
(1,000~1,500倍液)
カスガマイシン・
銅水和剤
(800倍液)
ホクガード乳剤
(1,000~1,500倍液)
▲第2表 ホクガード乳剤を用いた体系防除試験

5.体系防除試験

1995年よりホクガード乳剤を用いた体系防除試験を実施した。体系防除試験は第2表に示した2通りの組合せで実施した。それぞれの体系防除区において散布水量は120㍑/10aとし、薬剤は約2週間間隔で散布し、最終散布2~3週間後に各体系処理区より罹病葉を採集し単胞子分離した。
これらの体系防除区から分離した菌株のテトラコナゾール感受性頻度分布を第3表に示した。体系防除区1では、1995年のテトラコナゾールのEC50値が0.03~0.15ppmの範囲にあり、1995~2002年においてもEC50値の変動は認められなかった。また、体系防除区2においても1996~1999年までEC50値の変動は認められなかった。

年次 体系防除1 体系防除2
検定菌株数 EC50値(ppm) 検定菌株数 EC50値 (ppm)
1995年 40 0.03~0.15
1996年 40 0.01~0.06 40 0.02~0.10
1997年 40 0.01~0.10 40 0.02~0.18
1998年 40 0.02~0.17 40 0.02~0.11
1999年 28 0.04~0.13
2000年
2001年 30 0.04~0.12
2002年 27 0.03~0.09
▲第3表 体系防除区におけるテトラコナゾール感受性頻度分布

6.まとめ

 ホクガード乳剤連用散布圃場から分離した菌株中には、ホクガード乳剤使用以前に分離した菌株と比較して、in vitroの感受性検定で感受性の低下した菌株が見出された。しかし、同時に実施した防除効果試験では効果への影響は認められなかった。また、北海道内の一般圃場においても本剤の効果が低下した事例は報告されていない。
 しかしながら、ホクガード乳剤の過度の使用が圃場での効果低下につながる可能性については否定できない。一方、作用性の異なる薬剤との体系防除試験区からはテトラコナゾール低感受性菌は分離されず、現場で指導されている体系防除が耐性菌回避に有効であることを確認した。
 ホクガード乳剤は褐斑病に対し優れた防除効果を有する薬剤であり、今後も本病防除場面では重要な薬剤と位置付けられていくと思われる。テトラコナゾール耐性菌の出現を未然に防ぐためには、ホクガード乳剤の連用散布を避け作用性の異なる薬剤との体系防除を遵守することが重要と思われる。


▲テンサイ褐斑病被害株

(北興化学工業(株)開発研究所)

▲このページのTOPへ


この号のTOPに戻る

Arysta LifeScience Corporation