「バイオセーフ」農業用へ新たな展開
農薬ガイドNo.107/F(2004.2.28) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:山中 聡
この号のTOPに戻る

1.はじめに

 バイオセーフ(農薬登録番号:21031号)は、昆虫に寄生して死亡させる天敵線虫スタイナーネマ・カーポカプサエを有効成分とし、(株)エス・ディー・エス バイオテックがアリスタライフサイエンス(株)を通して提供する天敵線虫を主成分とする生物農薬である。
 このユニークな有用天敵線虫「バイオセーフ」は上市以来10年以上の実績があり、1993年シバ・シバオサゾウムシ幼虫防除に対して登録されて以来、環境に影響の少ない芝害虫用殺虫剤として使用されてきた。2000年に農業分野への試金石であるイチゴ・ハスモンヨトウ、イチジク・キボシカミキリへの適用拡大を行ない、かつ小型ボトル(2,500万頭入り)での販売が可能となったことで、お客様の身近な存在となった。

2.バイオセーフの殺虫作用機作

 本剤の有効成分である昆虫病原性線虫 スタイナーネマ・カーボカプサエ(Steinernema carpocapsae strain All)の感染態3期幼虫は、体表面が2期幼虫時代から表皮で覆われて、線虫の生活史の中で唯一、宿主昆虫の体外で生活できるステージである。
 図に示すように野外において、この感染態3期幼虫は、昆虫に遭遇すると開口部(口、肛門、気門)より体内に侵入し、中腸を経て血体腔に侵入する。
 ここで共生細菌(Xenorhabdus nematophilus)を放出し、体液中における細菌の増殖により昆虫は線虫感染後48時間以内に死亡する。線虫は、増殖した共生細菌により分解された宿主の組織や細菌自身を摂食し 第一世代へと成長、さらに、2世代目を経て、その幼虫が感染態3期幼虫として昆虫体内に蔓延していく。増殖した感染態3期幼虫は、最終的に昆虫体外に脱出し、次の新しい宿主昆虫の探索活動に入っていく。

3.バイオセーフの適用害虫

 バイオセーフはこれまでに芝害虫への適用を取得してきたが、芝以外の農業分野での登録としては、右表のような登録を取得している。

適用作物 適用病害虫名 使用量 使用時期 使用方法
いちご ハスモンヨトウ 2億5,000万頭
/10a
老齢幼虫発生期 1㎡当り
0.5~2L 灌注

適用作物 適用病害虫名 使用時期 使用方法
いちじく キボシカミキリ幼虫 産卵期~
幼虫喰入期
2,500万頭を2.5Lの水に希釈し主幹及び主枝の産卵箇所に薬液が滴るまで塗布又は散布

適用作物 適用病害虫名 使用量 使用時期 使用方法
かんしょ アリモドキゾウムシ
イモゾウムシ
2億5,000万頭
/10a
成虫発生初期 1㎡当り
0.5~2L灌注
かんしょの茎葉 1㎡当り
0.5~2L散布

適用作物 適用病害虫名 希釈倍数 使用時期 使用方法
シクラメン
球根ベゴニア
プリムラ
キンケクチブトゾウムシ 1,000~2,000倍 幼虫発生初期 1株当り
300ml株元灌注
▲バイオセーフの適用害虫と使用法(一部抜粋)

4.イチゴ・ハスモンヨトウ防除について

 イチゴに産卵されたハスモンヨトウの孵化幼虫は中齢まで葉上を加害するため、従来の散布剤(BT剤、IGR剤)によって防除することが可能である。しかし、中齢期を過ぎると幼虫は昼間マルチ内側に潜り込み、夜間出現して株元を加害するようになり、イチゴが株ごと枯死する被害が続出する。老齢幼虫になると移動性が高いため、好適な餌を求めて施設外から侵入してくる場合もある。
 老齢幼虫1頭当りの加害量はとても大きく、またマルチ内部に潜むことから従来の散布による防除法では困難で、現場でも問題となっている。水分含有量が十分維持されるマルチ内部への処理は、線虫の生物学的特性からも有効であり、灌水チューブなどを用いてマルチ内に線虫を処理したり、株元に線虫懸濁液を流し込むという方法で、これまで難防除であった老齢幼虫に対してむしろ高い効果が得られることが分かった。
 (社)日本植物防疫協会委託試験結果(対象病害虫:ハスモンヨトウ(老齢幼虫))について、上表にまとめた(薬害は認められていない)。

年度 作物 定植 場所 処理濃度 処理方法 調査 対対照:対無処理:判定
H7 イチゴ
とよのか
10/30 日植防高知 25万頭/㎡、
3L/m
灌水
チューブ
処理
16日後
A  B  B
(テフルベンズロン×2,000)
H7 イチゴ
女峰
10/28 埼玉園試 25万頭/㎡ 灌水
チューブ
処理
13日後
-  C  C
H8 イチゴ
女峰
10/12 栃木農試 25万頭/㎡ 灌水
チューブ
処理
16日後
A  B  B
(テフルベンズロン×2,000)
H8 イチゴ
女峰
10/11 日植防研 25万頭/㎡ 灌水
チューブ
処理
14日後
-  D  B
H8 イチゴ
とよのか
9月 福岡総農試 25万頭/㎡、
0.3L/m
灌水
チューブ
処理
9日後
A  C  B
(テフルベンズロン×2,000)
H8 イチゴ
とよのか
9/13 佐賀農試 25万頭/㎡ 灌水
チューブ
処理
10日後
-  A  B
▲イチゴ・ハスモンヨトウ防除試験成績

5.イチジク・キボシカミキリ幼虫防除

 キボシカミキリは、例年9月中~下旬にイチジクの主幹主枝に産卵を行なう。産卵箇所は1枝当り30ヵ所から60ヵ所以上にのぼり、孵化幼虫は幹内に食入していく。本種に対する防除は、予防的には昆虫病原性糸状菌製剤が普及しているが、キボシカミキリの発生は圃場により偏りがあること、発生が年によって異なることから考えると、本種の産卵箇所が肉眼で容易に見つけ出せることから、防除の必要のある樹木に対してのみ処置することが経済的であると考えている。
 本線虫は、食入箇所に投与すると化学農薬と異なり、幼虫加害部分まで自力で到達することができ、10,000頭/ml処理で、その防除率は非常に高いことが実証されている。兵庫植防(H11)での試験は、線虫懸濁液を刷毛を用いて塗布処理を行ない、高温年で産卵がばらつき、化学農薬での処理は厳しい条件であったにもかかわらず十分な効果が得られている。また、兵庫中央農技センター(H12)では、刷毛を用いた塗布処理と噴霧器による散布のどちらも高い効果が認められている。

年度 作物 場所 処理濃度 処理方法 調査 対対照:対無処理:判定
H11 イチジク
桝井ドーフィン
兵庫植防 1万頭/ml 塗布 処理30日後 -  B  -
H12 イチジク
桝井ドーフィン
兵庫中央農技 1万頭/ml 塗布
散布
処理26日後 -  A  A
-  A  A
▲イチジク・キボシカミキリ防除試験成績

6.シクラメン・ベゴニア・プリムラのキンケクチブトゾウムシ防除

 キンケクチブトゾウムシは、欧州では果樹苗を加害する重要害虫 Black Vine Weevilとして有名である。本種は、近年北海道の花卉栽培において発生が確認された侵入害虫であり、特に登録薬剤のない状況下で農林水産省からの要望、また現地管轄の北海道農試からの要望で登録を取得した。本種は、イチゴにも発生しているとの情報や静岡県でも発生が認められるとの非公式報告があるが、それ以外での報告例はない。
 公的試験では100万頭~200万頭/㎡灌注処理での効果で判定したが、農家への普及を考えると製剤1グラム当り線虫35万頭を1~2㍑の水に希釈し、その300mlを直径25cm(花卉栽培標準サイズ)の鉢植えに灌注することで公的試験における処理を踏襲することとなる。このため、登録表示は「1,000~2,000倍」の1株当り300ml株元灌注となっている。

7.バイオセーフを正しくお使い頂くための注意事項

(1)流通・受け渡し・保管
メーカーからクール宅急便にて配送されます。
受領者は、直ちに冷暗所に保管してください。
2次的な受け渡しの場合などには、保冷バックや保冷剤を用いて低温状態を保持してください。
(2)保管上の注意
冷暗所では食品と区別し、ボトルは立てた状態で保管してください。
禁:冷凍・・線虫は一度凍結すると、解凍しても蘇生しません。
禁:風乾・・乾燥が著しい冷蔵庫は長期保存には適しません。
禁:室温・・線虫の活動が活発化するので、体力を消耗します。
使用前のふたの開け閉め極力さける
ボトル内に雑菌が混入しやすくなります。
線虫を観察する場合は速やかに一粒取り、水に溶かしてルーペで見ましょう。
生きている線虫を製剤化した製品ですので計画購入・即使用を徹底してください。
(3)使用場面での注意
十分な土壌水分を保ち、乾燥している場合は予め対象作物や土壌に灌水してください。
30℃以下の水で希釈、調整する。
使用する水の種類は特に問題ありません。水道水、井戸水で十分です。
直射日光が当たらないように調整し、速やかに散布してください。
長期間、地温15℃以下状態となる場合は使用を見合わせてください。
線虫は沈みやすいので常に攪拌して散布してください。
土壌消毒(燻蒸)した圃場では、その効果がなくなってから使用してください。
株元に、穏やかに灌水してください。
散布液が乾くと作物の葉、実に汚れを生じやすいので、乾燥前に洗い流してください。
薬害の心配ありませんが、高濃度、少量散布、直接散布は避けてください。


▲ハンスモンヨトウ幼虫


▲キボシカミキリ成虫

((株)エス・ディー・エス バイオテック つくば研究所)

▲このページのTOPへ


この号のTOPに戻る

Arysta LifeScience Corporation