はじめに
 茶園は4~5年間隔で中切り(切り戻し)更新を行ない、枝条の若返りを図る。この目的は、摘採や整枝、防除等の管理作業が行ないやすいように茶株面を適正な高さに抑えることや、枝条の老化による新芽の生育不良や品質低下を改善することにある。 
 中切り更新時に最も問題となるのが、病害虫の防除対策である。特に、新芽を加害するチャノキイロアザミウマとチャノミドリヒメヨコバイの防除を怠ると、再生枝数が減少し翌年以降の収量が大きく減少する。更新された茶園は、一般的な栽培管理を行なっている園に比べ、新芽の萌芽が揃わず、かつ、新芽生育期間が長い。したがって、両害虫の被害を受けやすい新芽が長期間存在するため、時として両害虫の大発生に見舞われることもある。また、現在の防除体系は一般的な管理を行なう茶園を対象に作成されており、一般園とは病害虫の発生状況が異なる中切り園では防除体系の適合性が低いため、十分な芽数や生育量が確保できず、更新効果を十分発揮できない事例も見られる。 
 そこで、両者に有効な薬剤による防除効果及び残効性を検討したので、オルトラン水和剤を中心にその結果を紹介する。 
 チャノキイロアザミウマの発生生態および被害
 茶のほかにブドウやカキ、カンキツなど広範囲の果樹に対し寄生が認められている。蛹または成虫で越冬し、年7~8回発生するが、年10回以上発生することもある。成虫の体長は0.7~0.9mmで淡黄色の微小昆虫である。3月中旬頃から羽化して、新葉が開き始めると主に新芽や新葉を吸汁加害し、産卵する。卵期間は3~10日、幼虫期間は5~19日、蛹期間は3~10日である。密度は5月中旬から上昇し、夏季に高くなり、秋季に大発生することもある。被害は、新芽基部の褐変や葉裏に形成される線状の吸汁痕として現れる。被害が激しい場合、茶葉は変形・硬化する。 
 チャノミドリヒメヨコバイの発生生態および被害
 成虫で越冬し、年6~8回発生する。成虫は体長約3mmで全体淡緑色の半翅目昆虫である。春芽の生育が始まる3月下旬~4月上旬に新芽に集まって加害、産卵し、4月中~下旬に第1世代成虫が発生する。その後、成虫・幼虫・卵がいつも見られる状況となり、新葉を吸汁加害する。二番茶期から秋にかけて発生が多く、特に初夏から秋に雨が少ないと多発する。被害を受けると新葉は萎縮、黄色化し、茶芽の伸育が悪くなり、ひどいときは茶芽全体が萎縮、硬化して発育が停止する。また、食害痕は赤葉枯病に感染しやすく、感染すると葉先から葉縁にかけて枯れる。 
 各種薬剤のチャノキイロアザミウマに対する防除効果
 チャノキイロアザミウマが多発生した中切り後の萌芽~開葉期の茶園において、各種薬剤の防除効果を検討した結果を第1表に示した。単年度の結果であり、今回の試験だけで供試した薬剤の効果を断定することはできないが、本試験ではその他の系B剤とオルトラン水和剤(1,000倍)の効果が高かった。この2剤は幼虫だけでなく成虫に対する防除効果も優れていた。一方、近年、急速に登録薬剤数が増えてきたネオニコチノイド系薬剤は、幼虫に対する効果は高いものの、成虫に対する効果は低かった。 
 
| 供試薬剤 | 
散布濃度(倍) | 
防除率(%) | 
 
 
| 成虫のみ | 
幼虫のみ | 
成・幼虫合計 | 
 
 
| その他の系 B剤 | 
2,000 | 
70 | 
91 | 
83 | 
 
 
| オルトラン水和剤 | 
1,000 | 
77 | 
84 | 
82 | 
 
 
| その他の系 C剤 | 
1,000 | 
59 | 
79 | 
72 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 E剤 | 
2,000 | 
47 | 
86 | 
71 | 
 
 
| その他の系 D剤 | 
1,000 | 
49 | 
81 | 
69 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 F剤 | 
4,000 | 
41 | 
84 | 
68 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 G剤 | 
2,000 | 
57 | 
74 | 
68 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 H剤 | 
2,000 | 
27 | 
89 | 
66 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 I剤 | 
1,000 | 
10 | 
92 | 
62 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 J剤 | 
2,000 | 
31 | 
71 | 
56 | 
 
 
 
| (注) | 
1.薬剤散布5,8,15日後にたたき落とし法により調査。 | 
 
 
|   | 
2.防除率=(1-Cb/Tb×Ta/Ca)×100 
  Ca;無散布区の散布後生息虫数 
  Cb;無散布区の散布前生息数 
  Ta:散布区の散布後生息数合計 
  Tb:散布区の散布前生息数 | 
 
 
▲第1表 チャノキイロアザミウマに対する各種薬剤の防除効果(2003)
 オルトラン水和剤の防除効果、残効性および茶芽の生育
 チャノキイロアザミウマが多発生した中切り後の萌芽~1葉期の茶園に、オルトラン水和剤(1,000倍)またはネオニコチノイド系A剤を散布し、1週間おきに虫数を調査した。 
 オルトラン水和剤の散布3週間後までの幼虫防除率は97.8%、成・幼虫合計の防除率でも91.9%であり(第2表)、成虫、幼虫ともに防除効果が見られ、特に幼虫に対して高い密度抑制効果が認められた。このため、散布3週間後の被害防止率は76.8%と高かった。 
 また、試験期間中の密度推移を第1図~第3図に示した。オルトラン水和剤の密度抑制効果は、成虫に対しては散布4週間後まで、幼虫に対しては散布5週間後まで持続した。したがって、成・幼虫の合計虫数は散布5週間後まで無散布区よりも低い虫数で推移し、かつ、散布前虫数を下回っていることを考慮すると、チャノキイロアザミウマに対するオルトラン水和剤の残効性は1ヵ月程度であろうと考えられた。 
 次に、チャノミドリヒメヨコバイに対する防除効果を同時に調査した結果を第3表に示した。 
 オルトラン水和剤の散布3週間後までの成・幼虫に対する防除率は93.8%、被害防止率も89.2%と高かったことから、防除効果は高いと考えられた。 
 薬剤散布後の虫数の変化を第4図~第6図に示した。散布4週間後には無散布区より虫数が多くなっていること、幼虫数が増加傾向にあることを考慮すると、オルトラン水和剤はチャノミドリヒメヨコバイに対して21日程度の残効があるものと考えられた。 
 薬剤散布3週間後に調査した茶芽の生育状況を第4表に示した。オルトラン水和剤の散布により芽重、芽数、新芽長、百芽重が無散布より優れた。薬剤散布41日後の整枝量にも大きく影響しており、オルトラン水和剤の被害軽減効果は高かった。 
 
| 供試薬剤 | 
防除率(%) | 
被害芽率(%) | 
被害防止率(%) | 
 
 
| 幼虫のみ | 
成・幼虫合計 | 
 
 
| オルトラン水和剤 | 
97.8 | 
91.9 | 
22.2 | 
76.8 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 A剤 | 
8.3 | 
3.0 | 
68.4 | 
28.5 | 
 
 
| 無散布 | 
- | 
- | 
95.6 | 
- | 
 
 
 
| (注) | 
1.防除率は薬剤散布1,2,3週間後、被害芽率は薬剤散布3週間後に調査。 | 
 
 
|   | 
                散布区の被害芽率 
2.被害防止率=(1-──────────  ) × 100  
               無散布区の被害芽率 | 
 
 
▲第2表 チャノキイロアザミウマの防除効果(2002)
 
| 供試薬剤 | 
防除率(%) | 
被害芽率(%) | 
被害防止率(%) | 
 
 
| 幼虫のみ | 
成・幼虫合計 | 
 
 
| オルトラン水和剤 | 
95.4 | 
93.8 | 
10.6 | 
89.2 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 A剤 | 
99.7 | 
99.2 | 
4.5 | 
95.4 | 
 
 
| 無散布 | 
- | 
- | 
98.6 | 
- | 
 
 
 
| (注) | 
1.薬剤散布3週間後に調査。 | 
 
 
|   | 
                散布区の被害芽率 
2.被害防止率=(1-──────────  ) × 100  
               無散布区の被害芽率 | 
 
 
▲第3表 チャノミドリヒメヨコバイの防除効果(2002)
 
| 供試薬剤 | 
芽重 
(g/m2) | 
芽数 
(本/m2) | 
新芽長 
(㎝) | 
新葉数 
(枚) | 
百芽重 
(g) | 
出開度 
(%) | 
整枝量 
(㎏/10a) | 
 
 
| オルトラン水和剤 | 
667 | 
317 | 
10.3 | 
4.6 | 
212 | 
39.8 | 
185 | 
 
 
| ネオニコチノイド系 A剤 | 
621 | 
354 | 
9.6 | 
4.5 | 
178 | 
64.5 | 
242 | 
 
 
| 無散布 | 
383 | 
258 | 
7.7 | 
5.0 | 
149 | 
28.3 | 
96 | 
 
 
 
| (注) | 
1.薬剤散布3週間後に調査。ただし、整枝量は薬剤散布41日後に調査。 | 
 
 
▲第4表 茶芽生育調査(2002)
  
 おわりに
 現在、茶栽培においても総合防除体系の検討がなされており、病害虫防除の場面では、これまでの農薬のみに頼った防除体系から、天敵の活動を妨げない防除体系の確立が急務となっている。当面は、病害虫の発生状況を的確に把握し、防除回数を1回でも削減する努力が必要である。それにより害虫の薬剤抵抗性の発達を抑え、優れた薬剤の効果を長期間維持させることができる。また、同一系統薬剤の連用を避けることも重要である。 
 農薬に対する消費者の反応は、年々厳しくなる一方である。農薬の安全性について消費者の理解を得るよう努力することも重要であるが、農薬の使用に際しては農業者自身が細心の注意を払い、安全な緑茶生産を常に心掛ける必要がある。 
(福岡県農業総合試験場 八女分場)  
  
▲チャノキイロアザミウマ成虫(左)と被害(右)
  
▲チャノミドリヒメヨコバイ成虫(左)と被害(右)
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