JAみっかびで行なったオルトラン水和剤の試験について
農薬ガイドNo.108/D(2004.6.30) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:大野 隆久
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1.はじめに

 三ヶ日町は静岡県西部、浜名湖の北西部に位置し、猪鼻湖を取り囲むように広がっている町である。町の東を尉ヶ峰、北を富幕山と金山、西を坊ヶ峰に囲まれた南斜面の丘陵地を利用し、古くから「みかんの里」として知られている。
 三ヶ日のミカンは江戸時代の中ごろに紀州(和歌山県)からミカンの苗を持ち帰り植えた、山田弥太夫が始まりといわれている。その後、江戸時代の終わりごろに、三河吉良(愛知県)から初めて温州ミカンの苗木を購入し、植えた加藤権兵衛や、1918年に開かれた開南組農場の技師・中川宗太郎により、「三ヶ日みかん」が発展した。
 「三ヶ日みかん」は奥浜名湖の温暖な気候と古生層の土壌により育まれているが、農家の努力と、農協による営農指導、徹底した品質管理により今日の名声が確立できたと考えている。
 さらに、2001年(平成13年)10月にはJAみっかびの柑橘選果場を刷新し、最新鋭の光センサー選果システムを導入した。
 「みかちゃん」マークの商標で知名度の高い「ミカエース」は高品質ブランドとして従来から確立されているが、光センサーを利用することで、出荷される「三ヶ日みかん」全体のレベルアップが可能となった。
 2002年度の三ヶ日町の温州ミカンの結果樹面積は早生・普通あわせて1,550haであり、収穫量は40,500tであった。農業産出額は1,093千万円、この内、ミカンの産出額は804千万円であり、占める割合は73.6%であった。このように三ヶ日町にとってミカンは最も重要な農産物であり、今後もこの傾向は続くと考えられる。

2.営農指導の考え方

 「三ヶ日みかん」のブランドを維持しさらに高めるべく光センサー選果システムを導入した。
 適切な肥培管理のもと、内容の高い果実を生産するとともに、病害虫発生予察に基づく防除を徹底することにより外観も仕上げていく事が「三ヶ日みかん」の生産には不可欠であると考えている。
 そのために、粘着版トラップ等による害虫の発生予察はもとより、柑橘試験場との連携による試験の実施やメーカーとの共同試験を実施している。これらの情報も参考にしながら現地に合った防除体系の確立に努めている。

 3.効果試験結果

 2000年から2003年まで4年間、外観品質に大きく影響するチャノキイロアザミウマを対象として、オルトラン水和剤を組み込んだ体系と、慣行の防除体系との比較試験を実施した。
 供試品種はJAみっかびの主力品種「青島」を用いた。慣行体系区と試験体系区に分けて薬剤を散布し、各区より生育および着果程度がほぼ揃った樹5本を調査対象とした。
調査は、1樹当り40果、5樹合計で200果の、果梗部・果頂部に分けて、被害程度別に計数し、被害度を求めた。被害程度は日本植物防疫協会の調査基準に準じて行なった。なお、現地圃場の都合上、無散布区は設けていない。
 第1表に、チャノキイロアザミウマに対する効果試験の結果を示した。
 2000年は、5月下旬、7月上旬、9月上旬にオルトランマク水和剤、オルトラン水和剤を散布し、慣行体系区と比較した。この試験では果梗部被害・果頂部被害ともに慣行体系区の被害が大きくなっているが、調査樹の内、2本で特に被害が多かったためである。
 2001年、2002年は7~8月の2回の防除をオルトラン水和剤で行ない、慣行体系と比較した結果、果梗部被害・果頂部被害ともに試験体系区と、慣行体系区でほぼ同等の効果であった。
 2003年は、5月の開花期、5月下旬、6月下旬の3回、オルトラン水和剤を散布し、慣行体系区と比較した。2003年は、1993年と同様に天候不順が続いた年で、試験開始の5月13日から調査前日の8月24日までに1,100mmを超える多雨条件下での試験であった。試験体系区は、果梗部被害・果頂部被害ともに慣行体系区よりも高い防除効果であった。
 第2表に、訪花害虫に対する効果試験の結果を示した。
 3~5割開花した時期にオルトラン水和剤を散布し、慣行薬剤と比較した。調査は散布前後の寄生虫数を計数した。2003年は散布3日後までの調査で、オルトラン水和剤と慣行薬剤とほぼ同等の防除効果であった。

試験年 試験体系区
<散布月日 薬剤名 希釈倍率>
被害度
(%)
慣行体系区
<散布月日 薬剤名 希釈倍率>
被害度
(%)




2003 5/13 オルトラン水和剤 1,500倍
5/28 オルトラン水和剤 1,500倍
6/26 オルトラン水和剤 1,500倍
7/22 トルフェンピラド乳剤 2,000倍
8/21 イミダクロプリド顆粒水和剤 10,000倍
2.1 2.3 5/12 DMTP・NAC水和剤 1,000倍
5/28 クロルフェナピルフロアブル 4,000倍
6/26 チアメトキサム顆粒水溶剤 2,000倍
7/22 トルフェンピラド乳剤 2,000倍
8/21 イミダクロプリド顆粒水和剤 10,000倍
10.5 8.6
2002 5/ 9 DMTP・NAC水和剤 1,000倍
5/14 クロルフェナピルフロアブル 4,000倍
6/19 オルトラン水和剤 1,500倍
7/23 オルトラン水和剤 1,500倍
8/20 オルトラン水和剤 1,500倍
0.8 1.8 5/ 9 DMTP・NAC水和剤 1,000倍
5/14 クロルフェナピルフロアブル 4,000倍
6/19 オルトラン水和剤 1,500倍
7/11 クロルフェナピルフロアブル 4,000倍
8/23 イミダクロプリドフロアブル 4,000倍
1.9 2.6
2001 7/ 3 オルトラン水和剤 1,500倍
7/31 オルトラン水和剤 1,500倍
9.6 11.8 7/ 3 クロルフェナピルフロアブル 4,000倍
7/31 イミダクロプリドフロアブル 4,000倍
9.8 10.9
2000 5/18 オルトランマク水和剤 1,000倍
5/30 イミダクロプリドフロアブル 4,000倍
7/ 3 オルトラン水和剤 1,500倍
8/ 2 クロルフェナピルフロアブル 4,000倍
9/ 4 オルトラン水和剤 1,500倍
0.9 4.3 5/16 DMTP・NAC水和剤 1,000倍
5/25 イミダクロプリドフロアブル 4,000倍
7/ 3 クロルフェナピルフロアブル 4,000倍
8/ 1 イミダクロプリドフロアブル 4,000倍
8/30 クロルフェナピルフロアブル 4,000倍
3.7 5.1
▲第1表 チャノキイロアザミウマ効果試験成績(2000~2003)

*各区5樹の寄生虫数の合計
薬剤名 5月13日(散布前) 5月15日(散布2日後) 5月16日(散布3日後)
ケシキスイ類 コアオハナ
ムグリ
ケシキスイ類 コアオハナ
ムグリ
ケシキスイ類 コアオハナ
ムグリ
オルトラン水和剤
1,500倍
49 0 0 0 0 0
DMTP・NAC水和剤
1,000倍
36 0 0 0 1 0
▲第2表 訪花昆虫に対する効果試験成績(2003)

4.おわりに

 ミカンには様々な病害虫が発生するが、中でもチャノキイロアザミウマはミカンの外観品質の低下を起こす重要な害虫であり、茶産地を近隣に抱える静岡県では時として大きな問題となっており、JAみっかびでも最重要防除対象害虫として注意している。
 2004年の防除暦では5月下旬から6月上旬、6月中旬、7月中旬、8月中旬の合計4回を基幹防除として指導している。秋期の発生が多い場合には発生をみて補完防除を行なう。チャノキイロアザミウマが重要な害虫であるがゆえに、防除回数も多く、その時代その時代で防除効果の高い薬剤を選択し指導してきた。
 オルトラン水和剤は1973年に登録され、チャノキイロアザミウマ防除剤として大変重要な薬剤であった。JAみっかびでは昭和50年代から防除暦に採用していたが、20年以上前のことであり、当時のことが分かる担当者でも記憶がはっきりせず正確な採用年は分からない。
 手元にある1985年の防除暦では基幹防除剤として6月上旬、6月下旬、9月中旬の3回防除がオルトラン水和剤で指導されていた。他に効果の高いチャノキイロアザミウマ剤がなかったこともあり、やむを得ず連用していたものと思われる。その後、他系統の薬剤の登場や、農家からオルトラン水和剤の防除効果低下への不安の声が上がり、1999年の防除暦からオルトラン水和剤は姿を消すこととなった。
 現在は、チャノキイロアザミウマに対し高い効果を示すイミダクロプリド剤に代表されるネオニコチノイド系薬剤やクロルフェナピルフロアブルを交互に合計4回使用する体系でチャノキイロアザミウマを防除している。
 しかし、イミダクロプリド剤もクロルフェナピルフロアブルも防除暦に採用されて数年が経過し、しかも毎年2回ずつ使用されていることもあり、将来的な効果低下への危険性が高まりつつある。
現在のネオニコチノイド系薬剤やクロルフェナピルフロアブルで十分な防除効果が得られており、効果低下の問題は発生していないが、これらとは異なる系統の薬剤を「次の一手」として持っておくことで、「状況の変化」への対応ができるようにしておきたいと考えている。
 2004年の防除暦にオルトラン水和剤を新たに採用した。使用時期は、訪花害虫の防除時期であり、チャノキイロアザミウマの主要な防除時期に先んじた時期である。訪花害虫の防除効果への期待もさることながら、ミカン園周辺のイヌマキ等の防風垣から侵入するアザミウマ類に対する効果、また、近年増えている鱗翅目害虫に対する同時防除も期待している。
 これまでは、限られた圃場での試験での評価であったが、今年は、JAみっかびのほとんどの農家で使用され農家自身が評価することとなる。それらの評価を十分聞き、今後の指導に役立てていくことでより良い防除体系が確立できるものと考えている。

(JAみっかび 柑橘課)


▲三ヶ日みかんの花


▲JAみっかびの柑橘選果場


▲チャノキイロアザミウマ成虫(左)と被害(右)

主な参考文献

1.「三ヶ日町内にある文化財」 監修:三ヶ日町教育委員会
2.三ヶ日町統計書2002

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