カキ害虫防除におけるトクチオン水和剤の使用場面
農薬ガイドNo.111/G(2006.8.16) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:堤 隆文
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カキ害虫の変動とその原因

 近年、甘ガキでの害虫の発生は種類、発生量共に増加傾向にある。その原因の一つは防除に使用される薬剤の変遷にあることが考えられる。現在、西日本のカキ害虫で最も問題となっている害虫はフジコナカイガラムシ(以下、フジコナ)であることは間違いない。そのため、各産地の防除暦はフジコナ防除を主眼においた体系になっており、これに効果の高いネオニコチノイド系殺虫剤(以下、ネオニコ剤)の使用頻度が高くなり、有機リン系殺虫剤やフジコナに効果のない合成ピレスロイド系殺虫剤(以下、合ピレ剤)の使用は少なくなっている。

 合ピレ剤はフジコナの天敵に長期間悪影響を与えるため、連続して使用すればフジコナのリサージェンスを起こさせる恐れが強く、フジコナ対策として使用を控えることは当然であるが、一方で、カメムシ類、カキノヘタムシガ(以下、ヘタムシ)やハマキムシ類に卓効を示していた合ピレ剤を排除することは、これらの害虫に対する防除圧が大幅に低下することを意味する。

 また、ネオニコ剤は一般に多くの半翅目(カメムシ類、コナカイガラムシ類、アブラムシ類、等)、鞘翅目(カミキリムシ類、ゾウムシ類、等)には高い効果を示すが、鱗翅目(ガの類)には効果が低い。その結果、最近はハマキムシ類、ヒメコスカシバ等の害虫による被害が問題化してきた。  さらに、ミナミトゲヘリカメムシの新発生やハスモンヨトウによる被害増加等、温暖化の影響が懸念される兆候もある。これに、農産物の価格低迷、安心・安全確保という政策、残効の長いネオニコ剤の登場、等により年間防除回数が減少したことが追い打ちをかけ、マイナー害虫のゲリラ的発生も増加している。

 
▲カキクダアザミウマによる巻葉   ▲カキノヘタムシガ成虫


カキ害虫の防除体系

 西日本の甘ガキにおける防除対象害虫と防除時期を第1表に示した。渋ガキの場合、5月の防除の重点がチャノキイロアザミウマ、カンザワハダニになるが、後半は甘ガキとほぼ変わらない体系となる。

 6月までの防除の中心はフジコナであり、休眠期の耕種的防除から始まり、4、5月の越冬世代幼虫に対する防除と6月の第1世代幼虫に対する防除は極めて重要である。この時期以降は果実肥大により、薬剤を散布しても本種の加害部位であるへたの下への到達は困難になり防除効果が上がりにくくなるので、6月までの防除の効果が不十分であれば、秋期の果実被害が増大する。特に、果樹カメムシ類が多発し、7、8月に防除が実施される年は土着天敵の働きがほとんど期待できないのでリサージェンスが起こり被害は大きくなることが多い。

 後半はヘタムシ、ハマキムシ類等の鱗翅目害虫が防除の中心となり、果樹カメムシ類の防除が入らなければ防除回数は前半に比べて少ない年が多い。

防除時期
(ステージ)
主要な防除対象害虫
( )はマイナー害虫または
補正防除対象害虫
散布回数
12月~3月下旬
(休眠期)
*粗皮削りや誘殺バンドによる防除
フジコナカイガラムシ
フタモンマダラメイガ
カキノヘタムシガ
ヒメコスカシバ
4月中旬~5月上旬
(発芽~展葉期)
フジコナカイガラムシ
(カキクダアザミウマ)
(ケムシ類)
(カンザワハダニ)
1~2回
5月中旬~下旬
(開花期)
カキノヘタムシガ
ハマキムシ類
(スリップス類)
1回
6月上旬~下旬
(新梢伸長停止期
・生理落果期)
フジコナカイガラムシ
(ハマキムシ類)
(ミナミトゲヘリカメムシ)
2回
7月上旬~下旬
(果実肥大期)
(ハマキムシ類)
(イラガ類)
(ロウムシ類)
0~1回
8月上旬~中旬
(果実肥大期)
カキノヘタムシガ
ハマキムシ類
(フジコナカイガラムシ)
1~2回
9月上旬以降
(早生収穫期~)
(フジコナカイガラムシ)
(イラガ類)
(ハマキムシ類)
(ハスモンヨトウ等)
0~1回
*果樹カメムシ類は飛来に応じて防除する。

第1表 西日本の甘ガキにおける防除対象害虫と防除時期


 
▲ハマキムシ幼虫   ▲フジコナカイガラム雌成虫


トクチオン水和剤のカキでの登録内容

 カキにおけるトクチオン水和剤の登録内容をみると、主要害虫であるフジコナ、ヘタムシ、ハマキムシ類をはじめ、イラガ類、チャノキイロアザミウマ、カキクダアザミウマがあげられており、果樹カメムシ類を除くカキの主要害虫が概ね網羅されている。

 このことから本剤は、半翅目、鱗翅目、アザミウマ目と広い範囲の害虫に効果があることが分かる。また、本剤の特長としてハマキムシ類、コナカイガラムシ類に高い効果を示すことが明記されている。使用時期は収穫75日前まで、トクチオン水和剤の有効成分であるプロチオホスを含む他の剤を含めた総使用回数は2回までである。



トクチオン水和剤の使用時期

 現在、福岡県内の主要産地では5月上旬ころにトクチオン水和剤が使用されている。

 この時期は、最重要害虫フジコナの防除時期であると同時に、ケムシ類など雑多な害虫が発生しやすいため、半翅目から鱗翅目まで広範囲の害虫に効果のある薬剤が必要である。トクチオン水和剤は、フジコナ、スリップス類、ハマキムシ類、ケムシ類等、この時期に問題となる広範囲の害虫に高い効果があり、この条件を満たしている。

 さらにもう一つの問題として、福岡県では花粉の媒介をさせるため開花期はカキ園内にミツバチを導入しているため、ミツバチの活動に悪影響のある殺虫剤は使用できないことがある。早生品種の「西村早生」は不完全甘ガキであるため、受粉しないと渋になってしまうし、「伊豆」等他の品種でも果形の整った果実生産のために受粉は重要である。トクチオン水和剤は、開花直前に散布しても開花期のミツバチの活動を阻害しないことが知られており、前述した防除効果と相まってこの時期にピッタリの剤となっている。

 農薬登録上の使用時期と福岡県における「西村早生」の収穫開始時期(9月2半旬ころ)を考えると、トクチオン水和剤の使用可能時期は6月中旬ころが限界である。また、トクチオン水和剤の有効成分であるプロチオホスを含む殺虫剤は、カキ以外の果樹においても使用時期の収穫前日数が長く、ナシでは60日、リンゴでは落花20日後、大粒種ブドウでは30日である。

 たとえば、福岡県では屋根かけ栽培の早生ナシ「幸水」の収穫が7月下旬ころから始まるので、隣接したナシ園へ万が一ドリフトがあった場合を考えるとプロチオホスを含む剤の使用限界は5月下旬である。このことからも、カキの開花直前がトクチオン水和剤の最も適した使用時期であると言えよう。

 さらに、2006年5月からポジティブリスト制が導入され、農薬の残留基準(暫定基準を含む)が設定されていない農作物では、検出値が0.01ppm以下を求められるという厳しい基準が適用されている。プロチオホスを含む剤は、登録のある野菜類等にのおいても使用期限の収穫前日数が長いので、カキで5月上旬に使用する場合でも周囲に作付けされている作物に十分配慮し、万全のドリフト防止対策を講じるのことが重要である。

(福岡県農業総合試験場)

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