ハリガネムシの生態と防除
農薬ガイドNo.112/D(2007.4.20) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:新垣 則雄
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ハリガネムシによる被害

 ハリガネムシとは農作物に被害を与えるコメツキ類幼虫の総称である。サトウキビ栽培地域である南西諸島において、サトウキビを加害するハリガネムシとしてはオキナワカンシャクシコメツキ(Melanotus okinawensis Ohira,1982)とサキシマカンシャクシコメツキ(Melanotsu sakishimensis Ohira, 1982)の2種が主要な害虫である。幼虫は赤褐色で老熟期までには体長が3cmくらいになる(写真1)。成虫は両種とも茶褐色で体長が約1cmで、作物への加害はない(写真2)。このハリガネムシがサトウキビに与える被害は、サトウキビの生育段階に応じて次のような3タイプある。

(1)植え付けた苗の芽を加害するために、苗が発芽しない、いわゆる「不発芽」を生じさせること(写真3)
(2)分げつ期に地下芽を加害することで、分げつ茎数を減少させ、さらに茎の生長点に食入し芯枯れを生じさせ、欠株を生じさせること
(3)サトウキビ生育期間中に地下芽を食害し、収穫した後で株出し栽培をするための萌芽茎が出てこない、いわゆる「株出し不萌芽」の原因となることである(写真4)。

 これらの被害はすべて減収につながる。株出し不萌芽になれば、植え替えによる更新を余儀なくされるため、耕起、植え付けに至る労力、肥料や農薬代金、苗への投資などもさることながら、収穫回数の減少が農家に与える経済的な被害は甚大である。

▼写真1 ハリガネムシ(幼虫) ▼写真2 成虫

▼写真3 ハリガネムシの被害による不発芽 ▼写真4 ハリガネムシの被害による不萌芽

ハリガネムシの分布状況

 オキナワカンシャクシコメツキは奄美大島、徳之島、喜界島、沖縄本島、久米島、南大東島、粟国島などに分布している。一方、サキシマカンシャクシコメツキは沖永良部島、世論島、沖縄本島の北部、宮古諸島、八重山諸島に分布している。伊平屋島、伊是名島には両種が混在している。両種の分布の特徴をまとめてみると、サキシマカンシャクシコメツキは、北は沖永良部島から南は与那国島まで南北に広く分布している。一方、オキナワカンシャクシコメツキは奄美大島から沖縄本島にかけてのいわゆる中琉球域に分布が限られている。
  なお、南大東島は沖縄本島から約400km離れた海洋島であり、琉球列島とは島の地史的な生い立ちが異なり、生物相も大きく異なるが、おそらくサトウキビ苗の移動を通じてオキナワカンシャクシコメツキが侵入定着したものと考えられる。南大東島から、わずかに8km離れた北大東島にはカンシャクシコメツキ類は分布していない。

ハリガネムシの生態

 1世代に2~3年を要する。成虫は10月末から11月にかけて地中で羽化し、そのまま土中に留まって越冬し、翌春に地上に出現する。サキシマカンシャクシコメツキの場合は分布域が極めて広いので、成虫出現時期も島々の緯度によって多少ずれる。たとえば、宮古島では2月から3月であるが、沖永良部島では3月下旬から4月中旬とやや遅れる。オキナワカンシャクシコメツキの場合は沖縄本島と奄美大島においても、4月から5月にかけて発生が多い。成虫は日没から夜間にかけて活動し、日没後2時間以内に性フェロモントラップに誘引されてくる個体が多い。成虫は新植夏植え圃場に好んで集まり、そこで交尾・産卵する。そのため、夏植え圃場では幼虫密度が高くなり、被害が多くなる。日没後3時間以内に交尾し、雌はその後、株元に産卵する。卵期間は25℃条件では約17日。ふ化幼虫は十数回の脱皮を繰り返し、1.5~2.5年かけてサトウキビの地下部を加害する。羽化前年の10~11月に土中や枯れたサトウキビ地下茎内で蛹化する。蛹期間は約2週間である。

農薬による幼虫防除

 ハリガネムシの密度の高い地域では、植え付時の農薬施用は不可欠である。さもなければ、植え付けた苗の芽がハリガネムシの食害のため、まばらにしか発芽せず、ひどい場合は植え替えを余儀なくされる。植え付時のハリガネムシの防除は、植溝に粒剤を施用する。また、立毛時の防除は、幼虫のふ化時期である5月頃に栽培管理作業(根切り、培土、中耕)と組み合わせて薬剤防除を行なう。多発畑では生育期に乳剤の土壌灌注を行なう。

性フェロモン剤による成虫の防除

 成虫の防除には、合成性フェロモンを利用した「大量誘殺法」と「交信かく乱法」がある。どちらも広い面積をまとめて処理しなければ、十分な効果が得られないので、地域全体での取り組みが必要である。ハリガネムシの密度が高いと効果が不安定になるので、農薬による幼虫防除で予め地域全体の密度を低減させておく必要がある。
 「大量誘殺法」は合成性フェロモンを誘引源にして野外の雄を誘殺し、雄の数を減らすことで、雌の交尾率の低下を期待するものである。以前は水盤トラップを用いていたが、維持管理に多くの労力を必要とするので、最近は乾式トラップを用いる地域が増えてきた(写真5)。


▼写真5 乾式トラップ(トレッセ)

 一方、「交信かく乱法」とは、雌が放出する性フェロモンと同じ物質を大量かつ継続的に空気中に放出し、性フェロモンを頼りに雌を探す雄の行動を邪魔し、交尾を阻止するものである。交信かく乱に使用される合成性フェロモンは、それを一定量徐々に放出するように工夫された細いチューブに液体状で封入されている。畑にチューブを設置する場合は、地面から30~40cmの高さになるように竹の支柱を用いて支持する(写真6)。南大東島において、この交信かく乱法によるハリガネムシの防除を2001年から実施している。面積3,057haと小さな島であるが、サトウキビ畑だけでなく、防風林やススキ原野も含めて、文字通り「島まるごとの交信かく乱」を実施しており、ハリガネムシが属する甲虫目では世界的にも初めての大規模な試みである。この結果、モニタリングトラップには、ほとんど成虫が捕獲されず、交信かく乱がうまく生じていることが示された。また、毎年実施を続ける中で、年々雄成虫の捕獲数が減少し、株出し栽培面積の増加が見られることから効果は安定しているようである。


▼写真6 フェロモンチューブの設置


(沖縄県農業研究センター/農林水産省指定試験地)

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