チチュウカイツヤコバチの生態と利用
農薬ガイドNo.113/A(2007.10.10) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:矢野 栄二
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はじめに

 チチュウカイツヤコバチEretmocerus mundus Mercetはスペインをはじめ地中海地方やアジアの一部に生息するツヤコバチ科の寄生蜂であり、特にタバココナジラミの天敵として欧米ではその防除に利用されている。わが国においても、本年(2007年)7月4日に農薬登録されている。

1.習性・行動

 チチュウカイツヤコバチの雌成虫は体長0.46~0.61㎜で体色はレモン色であるが(写真1)、雄はやや茶色がかった黄色で太い触角をもつ(Zolnerowich and Rose, 1998)。本種は、基本的には産雄単性生殖であるが、オーストラリアにはボルバキアの感染により産雌単性生殖となった系統が存在する(Barro and Hart, 2001)。チチュウカイツヤコバチは、単寄生性の一次寄生蜂であり、二次寄生はしない。雌成虫はタバココナジラミのすべての齢の幼虫に産卵するが、特に2、3齢幼虫に好んで産卵する(Jones and Grenberg, 1998; Urbaneja and Stansly, 2004)。産卵する際はコナジラミ幼虫の体の下に産卵管を挿入して幼虫の体と寄主植物の葉の間に産卵する(Foltyn and Gerling, 1985)。チチュウカイツヤコバチの産卵管は曲がっており先端が柔らかい構造で、このような産卵の仕方になるものと思われる (Gerling et al., 1998)。ふ化した幼虫はコナジラミ幼虫の外部にとどまり、コナジラミの幼虫が4齢に達するとコナジラミ幼虫の体内に侵入する (Gelman et al., 2005)。その後急速に発育して、コナジラミ幼虫の体組織を食べながら2、3齢幼虫、前蛹、蛹期を経過した後、体外に成虫が脱出する。寄生蜂の幼虫が最終齢に達するとコナジラミ幼虫は黄色に変色する(写真2)。雌成虫は寄主のコナジラミ幼虫に遭遇した場合、産卵だけでなく寄主体液摂取行動を示すこともある(Ardeh et al., 2005a)。産卵後寄主の表面に自らの体表脂質を残すが、産卵された寄主とそうでないものとを識別する寄主識別に利用されていると考えられている (Buckman and Jones, 2005)。寄主識別には産卵経験の有無が関係しており、産卵経験のない雌は識別しないが、経験雌は識別する(Ardeh et al., 2005b)。

▲写真1 コナジラミ幼虫に対して奇主体液摂取を行っているチチュウカイツヤコバチ雌成虫


▲写真1 チチュウカイツヤコバチに寄生されたコナジラミ幼虫(黄色の幼虫)

2.生活史

 チチュウカイツヤコバチの発育、産卵、成虫寿命は温度に依存している。25℃ではトマト上のタバココナジラミの2齢幼虫に産卵した場合、羽化するまでの平均日数は雌が17.27日、雄は16.3日、発育中の生存率は69.5%、成虫の雌比率は60%であった。同じ条件で、雌成虫寿命が7.3日、生涯産卵数は147.8個、寄主体液摂取個体数は10.4個となった。産卵のピークは羽化1日後であった。純増殖率は63.8、平均世代期間は17.9日、日当り内的自然増加率は0.219となった (Urbeneja et al., 2007)。異なる温度条件で飼育すると、羽化するまでの発育期間は15℃で64日、32℃で14日となり、発育零点は11.5℃と推定されている (Qiu et al., 2004)。産卵されてから卵・幼虫期の生存率や発育日数は産卵した寄主齢にも依存しており。1齢幼虫に寄生した場合発育日数がもっとも長く、2齢幼虫に寄生すると生存率が最も高かった (Jones and Greenberg, 1998)。チチュウカイツヤコバチとサバクツヤコバチをタバココナジラミタイプBおよびオンシツコナジラミで飼育した試験では、チチュウカイツヤコバチはタバココナジラミを寄主とした場合は、オンシツコナジラミを寄主とした場合に比べ、発育が速く、産卵数も多く、寄生率や成虫羽化率も高くなった。サバクツヤコバチを両種のコナジラミで飼育した場合、差は無かった(Greenberg et al., 2002)。

3.近縁種との競争、相互関係

 コナジラミ類の防除に世界で実用化されているツヤコバチ類としては、チチュウカイツヤコバチ、サバクツヤコバチEretmocerus eremicus Rose & Zolnerowich、オンシツツヤコバチEncarsia formosa Gahanの他にEncarsia pergandiella Howardがある。E. pergandiellaのみ二次寄生性を示し、雌はコナジラミ類の幼虫に一次寄生するが雄は他種や同種のツヤコバチ幼虫に二次寄生する。他の3種はコナジラミ類の幼虫に対する一次寄生しかしない。同属のサバクツヤコバチは寄生習性も類似しており、同時に利用した場合、競争関係になる。サバクツヤコバチ雌成虫はチチュウカイツヤコバチに寄生されたタバココナジラミ幼虫への寄生を避けるが、チチュウカイツヤコバチはサバクツヤコバチに寄生されたコナジラミ幼虫への寄生は避けない。またコナジラミ幼虫1個体に両種が共寄生した場合はチチュウカイツヤコバチが優勢である(Ardeh et al., 2005b)。E. pergandiellaが二次寄生する場合、自種の幼虫よりもサバクツヤコバチやチチュウカイツヤコバチの幼虫に好んで寄生する傾向がある(Bogran and Heinz, 2002)。

4.放飼方法

 最近、スペインで秋季および春季温室栽培のトマトとピーマンに発生したタバココナジラミタイプQに対して、チチュウカイツヤコバチが0、1.5、6/㎡頭の密度で毎週3回放飼され、効果の比較が行われた。6頭/㎡の高い放飼率ではどちらの作物についても秋季、春季どちらも90%以上の防除率が得られた(Stansly et al., 2005a)。スペインにおける別の試験で、温室栽培のピーマンに発生したタバココナジラミタイプQに対して、サバクツヤコバチ、チチュウカイツヤコバチが放飼されて効果の比較が行なわれた。単独放飼の比較ではチチュウカイツヤコバチがより効果が高く、同じ密度で混合放飼した場合はチチュウカイツヤコバチのみ生き残った(Stansly et al., 2005b)。タバココナジラミのタイプBとチチュウカイツヤコバチの比率を変えて寄生率や次世代のツヤコバチの増殖を比較した室内試験では、寄生蜂雌成虫1頭に対しコナジラミ2齢幼虫10頭が最も効果が高いと推定された(Jones et al., 1999)。最近のイスラエルの試験では、紫外線除去フィルムの使用はチチュウカイツヤコバチの温室内の寄主発見に悪影響を与えることが明らかとなった(Chiel et al., 2006)。

おわりに

 チチュウカイツヤコバチは近縁のサバクツヤコバチとよく似た習性を示すが、タバココナジラミに対してはより効果が高く、種間競争にも優位である。しかしオンシツコナジラミはあまり好適な寄主とはいえないので、タバココナジラミとオンシツコナジラミが混発している場合はサバクツヤコバチの放飼が妥当と思われる。IPM体系においては耐病虫性作物や防虫ネットの利用と併用するべきであろう。

(近畿大学農学部昆虫生態制御学研究室)

 


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