天敵の上手な使い方

オンシツツヤコバチについて

合田 健二

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.76/D (1995.7.1) -

 

 


栃木県とオンシツツヤコバチとのつきあいは1993年以降である。他県同様、本県にもマルハナバチの急速な普及があり、1993年には200群、1994年には500群と利用が急増した。指導が追いつかず、最初は殺虫剤をめぐるトラブルが多発した。いっそのこと、殺虫剤を使わない防除体系を確立してしまおう。そう考えてアリスタ ライフサイエンスの協力を得、オンシツツヤコバチを導入したのが始まりである。

栃木県農業試験場にも研究を開始していただいたが、研究と普及現場とが同時進行であり、いわば、ぶっつけ本番の普及である。そのためか、けっこう失敗事例が多い。失敗は成功の元と言うが、こういう事さえしなければオンシツツヤコバチの導入は成功すると妙な自信さえある。この辺の事情を紹介したい。


1.オンシツツヤコバチ利用事例

第1表にこれまでの利用事例を示したが、おまりに×が多いので驚かれたと思う。特に(野菜)は一度も成功していない。これは、栃木農試内の試験で病理昆虫部の使った残りを野菜部のトマトハウスで使用したもの。各種悪条件を無視して安易に天敵を導入しても成功しないことを示している。具体的には隣接圃場からの飛び込みが多かった。試験の都合から寄生苗を順次持ち込んだ。導入前の殺虫剤散布が考えられた。ちなみに、同時に行なわれた病理昆虫部の試験は全て成功している。

最初に現場で行なった足利の事例はとにかく成功させようと、本県では普及率の低い、サイドの寒冷紗張りまでやっていただいた。導入はマルハナバチにやや遅れて3月12日。この時点のオンシツコナジラミの発生は黄色粘着紙1枚当り1週間で3~5匹。25株当り1枚のマミーカードを7日間隔で4回放飼。その後、コナジラミは増加せず、あっけなく成功した。この辺が基本だろう。

次に足利で行なったのは夏秋トマト圃場。冬春トマト生産団地の一角で行なったため、収穫末期あるいは収穫後の圃場からコナジラミが多量に飛び込み急増、そのうちワタアブラムシの発生も始まり、ツヤコバチの寄生率が30%の階段で調査を中止、殺虫剤を散布した。ほぼ同時に行なった農業試験場での試験も、周辺圃場からの飛び込みが多く寒冷紗の有無が明暗を分けた。飛び込みの多い地域での夏秋トマトでは、寒冷紗を使ってコナジラミの侵入を防止するか、周辺圃場も含めて全体を天敵で防除するなどの工夫が必要だろう。

1994年の足利での3事例もうまくいかなかった。1月12日放飼開始では、最初わずかにコナジラミ成虫を見たと担当普及員は言うが、その後全くコナジラミの発生がなく、10回の放飼にもかかわらずマミーは発見されなかった。3月1日放飼のハウスも同様な経過であった。発生がない、あるいは極端な低密度での放飼は無駄である。このハウスは4月までは低密度で経過したが5月以降、新たなコナジラミの侵入により急増した。もう一つのハウスは局部的な多発圃場と羽化率の悪いマミーの放飼でコナジラミを抑えきれなかった。

実施場所 面積(a) 放飼開始・回数 コナジラミ発生状況 寄生率(%) 防除効果 備 考
1993 足利 10 3.12~・4回 3~5/week 50以上 寒冷紗張り
足利 13 5.14~・4回 10/week 約30 × 隣接地からの飛び込み多、苗での発生も多
農試 1 5.25~・3回 0.3/day 80.4 寒冷紗張り
(野菜) 1 5.25~・3回 0.3/day 0 × 寒冷紗なし、飛び込みも多。放飼前スプラサイド使用
農試 1 12.8~・3回 成0.25/葉
蛹1.15/葉
85.7 5月末まで低密度、定植と同時に放飼
1994 足利 15 1.12~・10回 0/week 0 × コナジラミ少ない
足利 11 2.8~・8回 10/week あり × 局部的多発、羽化率0
足利 10 3.1~・5回 0/week 0 コナジラミ発生なし。後半一部にすす病
小山 28 3.9~・4回 幼+蛹2.09/葉
4.8/5day
72.7 多発部に厚く放飼
(野菜) 0.7 3.16~・2回 成0.33/葉
蛹0.14/葉
0 × 2月にスプラシド散布。常温輸送、死亡達数
(野菜) 10 11.30~・2回 成1.92/葉
蛹2.48/葉
0 × 寄生苗の持ち込み、スプラサイドの部分散布

(注)コナジラミに対し殺虫剤の散布がなかったものを○とした。
0.3/day等は黄色粘着上または金竜1枚当たりの誘殺成虫数

第1表 栃木県におけるオンシツツヤコバチによるコナジラミ防除事例


 
オンシツコナジラミの蛹
 
マミー


チューリップヒゲナガアブラムシ


2.小山市の事例

栃木県の場合は今のところ、オンシツツヤコバチの放飼は3月上旬のマルハナバチの導入と同時に始まるのが良いと考えている。トマトの収穫が忙しくなり、マルハナバチの導入により殺虫剤を使わなくなる。ちょうどコナジラミも増加期に入り定着しやすい。このことを実証するために行なったのが小山市での展示圃であった。

3月9日に放飼開始。25株当り1枚のマミーカードを7日間隔で4回放飼。第1回放飼時の密度調査では、幼虫と蛹の合計が葉当り2匹。黄色粘着紙では5日間で平均5匹とやや多い。入口部分と奥の一部に多発部のあることがわかり、2回目以降はその部分に多く放した。 


第1図 小山市の展示圃におけるマミー化率の推移

マミーの確認は4月6日。コナジラミの密度は4月までは低く経過したが5月には急増し、一部にすす病の発生も始った。殺虫剤の散布が必要かどうかの判断をせまられたが、マミー化率を見ると5月10日までは20%台だったが5月19日の調査では62%に上がり、これを理由に担当農家にはもう少しの我慢をお願いした。6月に入ってマミー化率は73%とさらに上がり、コナジラミ密度も低下傾向に入った。ギリギリの成功である。この経験から、放飼開始時のコナジラミ密度は小山市の事例が上限ではないかと思っている。しかし、コナジラミの発生初期段階では発生ステージに偏りがあり、幼虫と蛹の葉当り虫数と黄色粘着紙の成虫殺数が一致しないこともある。導入のタイミングを測る方法については検討を重ねてゆく必要がある。

なお、この圃場はチューリップヒゲナガアブラムシが発生し、オレイン酸ナトリウム液剤(オレート)で対応した。また、一部にハダニが発生したのでピリダベン水和剤(サンマイト)ノ部分散布を行なっている。とりあえずこれでしのげたが、本県ではマメハモグリバエがトマトで発生が始まり分布を拡大中である。昨年はハスモンヨトウの突発的な多発により多くのトマト圃場で被害が見られた。天敵導入成功のポイントは、コナジラミ以外の害虫をどう防ぐかにかかっており、使える資材の拡大や害虫を侵入させないための対策等、天敵利用のための周辺技術の確立ノウハウの蓄積が急がれる。

エンストリップ取り付け状況


 
すす病
 
オンシツコナジラミ寄生状況


3.今後の問題点

導入のタイミングをどうするか、コナジラミ以外の害虫が出たらどうするか等一応の目安はあるが、初めて天敵を使ってみようと考える栽培農家の視点に立てば、まだまだ不安が多い。若い栽培者ならコナジラミを数えることができるが多くの高齢者には黄色粘着紙のコナジラミを数えることに抵抗がある。まして葉裏の幼虫を数えるのは困難だろう。そこまで考慮した安心して使えるマニュアルが欲しい。

天敵の使い方自体もさまざまな方法が考えられる。苗で発生していれば定植時に使ってしまう。冬春→夏秋→冬春トマト、一度購入した天敵を次作につなぐ方法等検討すべき課題は多い。

最初に指摘しておきたいのは、だれが指導するかである。マルハナバチの導入の際、バイトマークはどれか、から始まり、ハチが飛ばない、殺虫剤はどうする等現場の普及員は多くの問題に対応してきた。オンシツツヤコバチガ普及し始めれば同様な問題がくり返されるだろう。新技術の指導は普及員の仕事だと言ってしまえばそれまでだが、新技術の普及は最初の年にうまくゆくかどうかにかかっている。情報提供等、普及との連携をさらに強化していただきたい。理想を言えば資材の手配と技術指導の担当を各県1人くらいはメーカー側で配置すべきだろう。

(栃木県普及教育課)