岩手県のブロッコリー害虫防除における

オルトラン剤の位置付け

鈴木 敏男

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.77/A (1995.10.1) -

 

 



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ブロッコリーはその色合いから近年の健康ブームを反映して、作付け面積が増加している野菜の一つである。ブロッコリーはアブラナ科野菜に属するため、害虫の種類は多く防除を必要とする害虫も少なくないが、キャベツと異なり防除薬剤が非常に少ないため、防除に苦慮していた。しかし、土壌施用剤やIGR剤が相次いで登録され、本年にはオルトラン粒剤と水和剤が登録され、ようやく体系防除が確立されつつある。

ここでは、主要害虫の発生時期を紹介し、オルトラン剤の使用場面について考えてみたい。



1.主要害虫の発生時期

岩手県におけるブロッコリーの作型と主要害虫の発生時期を第1図に示した。作型には春まき、初夏まきおよび夏まきがあり、4月中旬から8月中旬にかけて定植される。

害虫の発生時期との関係をみると、5月中旬までは発生がきわめて少ないアオムシ第1世代だけなので、薬剤散布は不要である。5月下旬から9月までは種々の害虫が発生するので、薬剤散布は不可欠である。10月以降はコナガの発生程度によるが、一般に薬剤散布は不要と思われる。 

以下に主要害虫の発生時期について述べる。


第1図 岩手県におけるブロッコリーの作型と主要害虫の発生時期(模式図)

(1)コナガ


コナガ老熟幼虫



県内露地での越冬は困難であるため、暖地から成虫が飛来して発生が始まるとされている。性フェロモントラップでの誘殺は4月から12月まで認められるが、年間を通すと夏期を中心とした一山型となる。圃場では5月下旬から初発が認められ、その後急増し、7月下旬~8月に発生盛期となる。秋期以降の発生は次第に減少するが、積雪が始まる頃まで認められる。年間を通すとトラップ誘殺消長と同様に夏期を中心とした一山型となる。

平成3年以降、この誘殺消長に変化が生じ大半が県外からの飛来と思われる4月~6月の誘殺数が急増している。この理由として、数年にわたる暖冬の影響により越冬地帯が北上し、越冬率も高まっていることが考えられる。このため、圃場での急増期が従来の6月下旬から6月上旬と早くなり、本種の被害が問題とならなかった作型で防除体系の見直しが生じている。

防除薬剤では合成ピレスロイド剤が著しく効力低下し、本種を対象に使用できなくなったが、BT剤やIGR剤に対する効力低下は認められていない。


(2)ヨトウガ




ヨトウガ卵塊(左)とふ化幼虫集団(右)



土中に蛹で越冬し、年2世代経過する。成虫の発生時期は地帯により異なる。県北部と山間部では第1世代に夏眠蛹が生じないので、世代に対応した二山型となる。すなわち、越冬世代は6月上~下旬、第1世代は8月上~下旬に出現する。県中南部平坦地では第1世代の一部が蛹で夏眠するため三山型となる。すなわち、越冬世代は5月下旬~6月中旬、第1世代は7月下旬~8月中旬と9月上~中旬に出現する。夏眠率は7月上~中旬の温度が高い場合に高まる。

第1表に定植時期と産卵量との関係を示したが、生育が進んだキャベツで産卵量が多い。

定植月日 調査時期 産卵盛期(ふ化盛期)
5/9 5/14 5/18 5/24 5/27 6/4 6/13 6/20
4/22 0 0.7
(0)
4.0
(0)
25.7
(2.3)
27.3
(7.3)
38.3
(26.0)
41.3
(38.3)
42.3
(40.3)
5月5日半旬
(6月1日半旬)
5/9   0
1.0
(0)
5.0
(0)
6.0
(1.0)
14.0
(5.3)
15.7
(13.7)
18.7
(16.3)
6月1日半旬
(6月5日半旬)

(注)1. 上段:10株当たり累積卵塊数 下段:10株当たり累積ふ化卵塊数
2. 有効温量から求めた越冬世代の羽化盛期は5月下旬 



(3)アオムシ


アオムシ老齢幼虫

蛹で越冬し、年4世代経過する。各世代の産卵盛期は5月中~下旬、7月上旬、8月上旬、8月下~9月上旬である。世代別卵密度は、第3世代>第2世代=第4世代>第1世代であり、夏期に発生が多くなる。



(4)タマナギンウワバ


タマナギンウワバ成虫

越冬態は蛹または成虫とされているが、休眠性がないので、暖地から成虫が飛来して発生が始まる可能性が強い。その証拠に、春期の産卵消長は極めて不規則で、年次変動が大きい。発生が多くなるのは6月に入ってからであるが、多発しても花蕾をほとんど食害しない。



(5)アブラムシ類


ダイコンアブラムシ

モモアカアブラムシは春早くから、ダイコンアブラムシは6月頃から発生が始まり、どちらも7月後半~8月に発生盛期となるが、後者の発生量は年次変動が大きい。ニセダイコンアブラムシの発生は少ない。



2.オルトラン水和剤の使用場面

本剤はブロッコリーのヨトウガに1,000倍で登録された。使用時期は収穫14日前までである。第2表に防除試験の例を示した。多発条件での試験であったが、本剤は速効的で中齢幼虫に対しても優れた防除効果が認められた。

他害虫については、コナガの密度抑制効果は短く1週間と考える。しかし、著しく効力低下した合成ピレスロイド剤に較べると、本剤の効力低下は緩やかである。また、防除開始時期すなわち低密度時に散布した場合は、第3表に示したように2週間以上の密度抑制効果が期待できる。さらに、アオムシ、タマナギンウワバおよびアブラムシ類に対しても優れた効果を示す。

このことから、オルトラン水和剤はローテーション散布剤として欠かすことのできない剤である。

供試薬剤・濃度 調査時期 卵塊 ふ化卵塊 弱齢幼虫 中齢幼虫 老齢幼虫 幼虫計
オルトラン水和剤1,000倍 散布前 7.5 17.0 367.5 36.5 0 404.0
4日後 3.5 4.5 0 0 0 0
10日後 0 1.5 24.0 0 0 24.0
無処理 散布前 3.5 21.5 410.0 70.0 2.0 482.0
4日後 1.0 3.5 306.5 122.5 2.5 431.5
10日後 0.5 1.5 110.0 218.5 32.0 360.5

第2表 ブロッコリーのヨトウガに対するオルトラン水和剤の防除効果(10株当り)


試験年次 供試薬剤・濃度 調査時期 株当たり幼虫密度
5/28 6/4 6/12
1991年 オルトラン水和剤1,000倍 5月28日 0.4 0.1 0
メラード水和剤1,500倍 0.8 0.2 0.1
無処理 0.5 42.7 8.0

試験年次 供試薬剤・濃度 調査時期 株当たり幼虫密度
5/26 6/7 6/15
1994年 オルトラン水和剤1,000倍 5月29日 0.2 0.1 1.7
カスケード乳剤4,000倍 0.2 0.3 0.7
無処理 0.2 4.5 6.9

第3表 キャベツのコナガに対するオルトラン水和剤の防除開始時期散布における防除効果


試験年次 調査時期

オルトラン粒剤 2g/株

無処理

累積ふ化卵数 弱齢幼虫 中齢幼虫

老齢幼虫

累積ふ化卵数

弱齢幼虫

中齢幼虫

老齢幼虫

1991年

処理前

39.0

34.5

0

0

8.5

8.0

0

0

5日後

182.5

86.5

0

0

109.5

86.0

0

0

11日後

498.5

87.5

0

0

417.5

141.5

3.5

0

19日後

1,214.0

187.0

0

0

1,152.0

306.5

122.5

2.5

25日後

1,372.0

224.0

48.5

0

1,235.5

110.0

218.5

32.0

1992年

処理前

21.0

21.0

0

0

37.5

37.5

0

0

6日後

301.0

202.5

0

0

287.5

211.5

0

0

12日後

510.5

169.0

1.0

0

422.5

143.0

23.0

0

20日後

646.0

156.0

31.5

0

483.0

114.0

35.0

0

25日後

657.5

61.5

58.5

2.0

525.0

47.5

82.5

19.5

1993年

処理前

12.0

12.0

0

0

0

0

0

0

7日後

391.0

113.5

0

0

376.0

251.0

0

0

14日後

790.5

136.0

4.5

0

793.5

277.0

111.5

0

21日後

1,234.5

314.5

19.0

0.5

1,204.0

342.0

72.5

17.5


(注)処理時期 1991年:5月27日(定植18日後の 8~ 9葉期)
1992年:6月 6日(定植25日後の 9~10葉期)
1993年:6月 8日(定植41日後の11~12葉期)

第4表 ブロッコリーのヨトウガに対するオルトラン粒剤の生育期処理における防除効果(10株当り)



3.オルトラン粒剤の使用場面

本剤はブロッコリーのヨトウガに対して、10a当り6kgの株元処理で登録された。使用時期は定植時から収穫14日前までである。以前にキャベツで定植時の粒剤処理の効果を検討したところ、コナガ、アオムシなどには有効であったが、ヨトウガだけに効果が劣った。この理由は、第1表で明らかなように、定植後間もないキャベツは産卵に不敵であり、産卵するまでにある程度の日数を要するため、粒剤の効果が切れる頃から発生が多くなるためと考えられた。

そこで、今回はいずれの年もヨトウガのふ化初期に株当り2g を株元処理した。その結果を第4表に示したが、中齢幼虫の出現時期から判断すると、1991年と1993年は3週間程度の密度抑制効果が認められた。このことから、主要害虫の発生が多い初夏まきから夏まき作型では、定植時に登録薬剤のカルボスルファン粒剤(ガゼット)を使用し、ヨトウガのふ化初期にオルトラン粒剤を使用する防除体系が効率的であろう。なお、処理時から降雨が続いた1992年は、密度抑制効果が2週間と短かった。本剤は水に溶けやすいので、このような年は注意を要する。また、株元処理では労力と時間を要することから、今後はトップドレッシングなど使用方法の検討が必要である。

(岩手県園芸試験場)