宮崎県における茶の主要害虫の生態とその防除法

佐藤 邦彦

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.77/B (1995.10.1) -

 

 



はじめに

宮崎県の茶栽培面積は、1,440haで全国第8位、荒茶生産量は2,550tで全国第6位である(1994年)。

本県で生産される荒茶は、普通煎茶が最も多く、県内荒茶生産量の80%を占めている。次いで主に山間地で生産されている釜炒り製玉緑茶が17%、蒸し製玉緑茶が3%となっている(1991年)。

県内で栽培されている品種は、「やぶきた」が最も多く、その他にも「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「やまなみ」等が栽培され、早生種から晩生品種まで広範にわたって栽培されている。

このように、宮崎県は栽培品種が多く、また、気候が温暖であるため多くの害虫の発生がみられる。

宮崎県で発生が多く基幹防除の必要な重要害虫としては、チャノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイ、チャノコカクモンハマキ、カンザワハダニ、チャノホソガ等があげられ、今後増加の予想される害虫にはクワシロカイガラムシがあげられる。

ここでは、上記の害虫の中からチャノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイ、チャノコカクモンハマキ、カンザワハダニについて述べたい。



(1)チャノキイロアザミウマ


チャノキイロアザミウマ幼虫とその被害

第1図 チャノキイロアザミウマの発生消長

チャノキイロアザミウマの被害は、主に芽、新葉、新梢に生じ、はなはだしい場合は葉が小型となりわん曲し、もろくなる。特に、新芽の萌芽期に加害されると被害が大きく、新芽の生育が阻害され、著しく減収する。発生は、5月中旬~7月上旬の二番茶生育期~三番茶萌芽期と、8月~10月の秋芽生育期に多い。チャノキイロアザミウマの発生が最も多い5月~7月は、梅雨時期と重なり降雨が多く、茶葉の硬化が順調に進むため被害が発生しにくいが、8月以降は乾燥ぎみに経過し、被害が大きくなるので、この時期の防除に重点をおく。

防除は、茶芽の萌芽期から開葉期の2回の薬剤散布が効果的であるが、これまで使用されてきたメソミル水和剤(ランネート)、カルタップ水溶剤(パダン)、DMTP乳剤(スプラサイド)等の薬剤の防除効果が低下しており、チャノキイロアザミウマが難防除害虫となっているため、  防除効果の高い新しい農薬の登録が期待されていた。このような現状の中で、オルトラン水和剤、イミダクロプリド水和剤(アドマイヤー)等が農薬登録され、本県でも使用され、安定した高い防除効果が認められている。使用時期は、イミダクロプリド水和剤は摘採までの制限日数が14日であるため、三番茶、秋芽生育時期とも使用可能であるが、オルトラン水和剤は、制限日数が30日と長いため、三番茶期での使用は難しく、秋芽での使用が最も効果的である。


(2)チャノミドリヒメヨコバイ


チャノミドリヒメヨコバイ幼虫

チャノミドリヒメヨコバイ幼虫被害

第2図 チャノミドリヒメヨコバイの発生消長(1991)

チャノミドリヒメヨコバイは、若葉の葉裏に生息して吸汁加害する。新芽の初期に加害されると、被害の軽いものは新葉がしおれて葉脈が褐変する程度であるが、被害がひどくなると葉緑が褐変し、新葉は萎縮、硬化し、被害が進むと落葉するため減収、品質低下をまねく、6月から9月に発生し、三番茶および秋芽に被害が多くみられるため、この時期に重点を置いて防除する。防除は、三番茶では茶芽の1~2葉期に行なうが、秋芽は、芽の伸張する期間が長いので2~3回の防除が必要である。

チャノミドリヒメヨコバイに対してもこれまでメソミル水和剤、カルタップ水和剤、DMTP乳剤等の薬剤が使用されてきたが、チャノキイロアザミウマに対する防除効果の低下と同様に、チャノミドリヒメヨコバイに対してもこれらの薬剤の防除効果も低下していた。しかし、オルトラン水和剤、イミダクロプリド水和剤の2薬剤が農薬登録された事で、本害虫と  チャノキイロアザミウマとの同時防除が可能となり、高い防除効果が認められている。また、IGR剤のフルフェノクスロン乳剤(カスケード)も登録使用され、高い防除効果が認められている。これらの農薬の使用方法は、オルトラン水和剤は最終摘採後に、イミダクロプリド水和剤、フルフェノクスロン乳剤は、三番茶、秋芽に使用可能であるが、フルフェノクスロン乳剤はIGR剤で遅効性であるので早めの散布が必要である。

(3)チャノコカクモンハマキ


第3図 コカクモンハマキの発生消長(平均値)

ハマキムシ類の最優占種で、年間の発生回数は、平坦地で5回、山間高冷地で4回である。茶業支場での乾式予察灯による各世代の発蛾最盛日は、越冬世代が4月18日、1世代が6月9日、2世代が7月18日、3世代が8月24日、4世代が10月5日で、発生量は、第2、3世代が多い。幼虫は古葉より新葉を好み、葉を数枚綴り合わせ、その中で食害し、4~5回脱皮した後、蛹になる。発生の多い場合には、次々と葉を綴り合わせていくため、葉数が減少し樹勢が衰え、芽立ちが悪くなる。

防除は、幼虫が葉を綴り合わせる前のふ化後間もない弱齢幼虫を対象に行ない、防除適期は、おおむね発蛾最盛日の7~10日後である。チャノコカクモンハマキの防除には、メソミル水和剤、ピラクロホス水和剤(ボルテージ)、プロフェノホス乳剤(エンセダン)等の薬剤が使用されているが、新しくオルトラン水和剤、フルフェノクスロン乳剤が登録された事で、使用農薬、使用時期に幅ができ、カンザワハダニに効果のあるピラクロホス水和剤を二番茶芽に、プロフェノホス乳剤等を秋芽に使用する事ができるようになった。

(4)カンザワハダニ


カンザワハダニの成虫とその被害

第4図 カンザワダニの発生消長

古くからチャの大害虫として恐れられ、難防除害虫の一つである。4~5月と9~10月に多く発生し、成虫、幼虫ともに葉の裏面に群生して吸汁加害する。若葉が加害されると、芽の伸育が停止し、葉が黒褐変し、わずかな刺激でも落葉するため減収する。また、カンザワハダニに加害された生葉を製茶すると、水色の赤黒味が強くなり、苦みが増し、うま味が低下する等、品質に与える影響も大きい。

防除は、収益性の高い一番茶の保護を最大のねらいとして、2月下旬~3月上旬の低密度時にBPPS乳剤(オマイト)とテトラジホン乳剤(テデオン)を混用して散布し、その後も発生が多い場合には、摘採までの制限日数の短い殺ダニ剤を散布する。二番茶に発生がみられる場合は、ピラクロホス水和剤等で他の害虫と同時防除する。また、温暖な宮崎県では、越冬ダニの休眠が浅く、冬季でも繁殖しているダニが多いため、越冬前の9月~10月に他の害虫との同時防除を行ない、11月に石炭硫黄合剤やマシン油等で防除するように指導している。



おわりに

お茶には様々な効能があり、美容や健康に良く、私たちが毎日口にするものです。そのため、安全なお茶を生産しなければなりません。実際に農薬を散布する場合には、摘採までの制限日数を厳守し、対象害虫の防除適期に防除効果の高い薬剤を散布することで、安全な良質茶を生産するように指導しています。

(宮崎県総合農業試験場茶業市支場)