福岡県におけるチャ害虫の発生生態とその防除

清水 信孝

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.78/D (1996.1.1) -

 

 

はじめに

福岡県では1,570haでチャが栽培され(1994、平6)、年間生産量は全国生産量の約2%にあたる1,770tで、栽培面積は全国で7位、生産量は全国で8位である。しかし、チャ種別に見ると特に玉露は全国生産量のうちの約50%を生産し、全国一の量と品質を誘っている。このことから、本県は高品質チャ「福岡の八女茶」の産地として全国的に広く知られている。

近年、無農薬栽培や有機栽培に対する消費者の関心は高く、特にチャは保健飲料としての性格上その傾向は強い。しかしながら、農業による防除を行なわなければチャ栽培、とりわけ高品質チャの栽培は困難である。よってどれだけ農薬の散布回を削減できるかが今後の課題となってくる。そこで今回は、福岡県のチャ病害虫防除の現状を通して今後のチャ害虫防除のあり方について考えたい。


主要害虫の発生生態と防除法

チャに寄生する害虫の種類は多いが、チャに重大な被害を与えるものは少なく、福岡県茶病害虫防除基準で重要害虫として取り上げているものはカンザワハダニ、チャノミドリヒメヨコバイ、チャノキイロアザミウマ、チャノコカクモンハマキ、チャノホソガ、ヨモギエダシャク、クワシロカイガラムシ、チャノホコリダニの計8種類である。

ここでは、上記の重要害虫の中から特に問題となっている害虫に関して、発生状況と防除対策について述べる。

カンザワハダニとその被害

(1)カンザワハダニ

雌成虫で越冬し、3月頃から増加し始め、5~6月にかけてが春期の発生ピークとなる。梅雨期には減少するが、8月中旬頃から再び増加し始め、9~10月頃に秋期の発生ピークを迎える(第1図)。新葉、古葉ともに加害するが、新葉に移行した方が被害が大きく、収量、品質が低下する。二葉茶芽に最も被害を与えるが、前年の越冬量が多かっり一番茶芽にも多発して被害を与える。また、玉露やかぶせ茶を栽培す覆下栽培園では被覆開始後にカンザワハダニが新葉に移行して収穫時までに大きな被害を与えることもある。

春期の防除は、産卵数増加前の3月中旬~下旬および一番茶摘採後の5月中旬~下旬に薬剤散布を実施し、一番茶および二版茶芽の被害を防ぐ、3月の防除はダニ剤で行ない、5月の防除にはチャノコカクモンハマキの同時防除を行なう目的から両害虫に効果のある薬剤を使用することが多い。秋期の防除は8~9月のカンザワハダニ増加前に1~2回ダニ剤による防除を実施してカンザワハダニの増殖を抑え、10月下旬~11月上旬の休眠前に、越冬ダニ密度の低下と抵抗性回避の目的がらマシン油乳剤を使用する。カンザワハダニは薬剤抵抗性の発達が早いので、同一薬剤の連用を避け薬剤抵抗性の発達を抑えるよう特に注意する。

第1図 カンザワハダニの平均発生消長

(福岡県病害虫防除所筑後支所)

(2)チャノミドリヒメヨコバイ

新芽の生育にともなって増加し、新葉を吸汁加害する。加害されたチャ芽は伸育が悪く、萎縮、黄変し、ひどい場合には落葉するため、著しい減収や品質低下を引き起こす。3月頃から発生は見られるが、6~9月の高温期に多発するため(第2図)、二番茶、三番茶および秋芽生育期の被害が最も大きい。

第2図 チャノミドリヒメヨコバイの平均発生消長

(福岡県病害虫防除所筑後支所)
(注)調査はたたき落とし法(B 5版白紙上、3カ所平均)による

防除は、二番茶、三番茶および秋芽の萌芽期から開葉初期に薬剤散布を実施する。これまではカルタップ水和剤(パダン)、チオシクラム水和剤(エビセクト)、DMTP乳剤(スプラサイド)、ブプロフェジン水和剤(アプロード)等が防除薬剤として使用されてきたが、長年の使用にともなって、これらの薬剤の防除効果が低下してきており、合成ッピレスロイド剤を除いては、防除効果の高い薬剤の選択が困難であった。しかし、近年はオルトラン水和剤、イミダクロプリド水和剤(アドマイヤー)、フルフェノクスロン乳剤(カスケード)等、チャノミドリヒメヨコバイに対して効果の高い薬剤が次々と登録されたため、これまでの薬剤に代わって広く利用されるようになった。

チャノミドリヒメヨコバイ(幼虫)
チャノミドリヒメヨコバイによる被害

(3)チャノキイロアザミウマ

チャノキイロアザミウマ(成虫)とその被害

成虫、幼虫とも主に新葉の葉裏で吸汁加害し、それにより新芽の基部が褐変して葉裏に線状の吸汁痕を残して、チャ葉は変形、硬化する。萌芽期から開葉初期に加害された場合の被害は特に大きく。生育が著しく遅れ、減収する。二番茶生育期から秋芽生育期にかけて発生が多いため(第3図)、チャノミドリヒメヨコバイとの同時防除が望ましい。しかし、チャノキイロアザミウマに対しても合成ピレスロイド剤以外の主要薬剤の効果の低下が問題となっていたが、前述のオルトラン水和剤(第1表)、イミダクロプリド水和剤、フルフェノクスロン乳剤がチャノキロアザミウマに対しても効果が高く、チャノミドリヒメヨコバイ、チャノキイロアザミウマの同時防除薬剤として利用されている。オルトラン水和剤は摘採前使用期間が30日前までと長いため、福岡県では通常三番茶期から使用できるが、三番茶を摘採するチャ園では三番茶摘採後の使用に限られる。他の2薬剤は共に二番茶期からの使用が可能である。

第3図 チャノキイロアザミウマの平均発生消長

(福岡県病害虫防除所筑後支所)
(注)調査はたたき落とし法(B 5版白紙上、3カ所平均)による

薬剤名

希釈倍率

たたき落とし法による虫数

7日後防除率(%)

被害芽率(%)

被害防止率(%)

2日後

7日後

オルトラン水和剤

2,000倍

24

33

75

5

89

カルタップ水溶剤

1,000倍

25

63

52

24

48

無散布

95

132

-

46

-

(注)7月1日に200・/10a散布。7月3日、8日に各区4カ所のたたき落とし法による注数調査を行い、これを基に防除率を算出し、7月15日に枠摘みによる被害芽調査を行い、これを基に被害防止率を算出した。

第1表 チャノキイロアザミウマに対する薬剤の防除効果(1991、福岡農総試八女分場)

(4)チャノコカクモンハマキ

チャノコカクモンハマキ(幼虫)とその被害

年4回発生し、4月下旬~5月上旬、6月中旬~下旬、7月下旬~8月上旬、9月上旬~中旬に成虫の発生ピークを迎える(第4図)。福岡県を始めとする西日本ではチャハマキに比べチャノコカクモンハマキの方が発生量が多い。被害は、成虫が葉裏に産卵し、ふ化した幼虫が新葉の先端を縦に綴ったり、新葉や比較的やわらかい古葉を2~3枚重ね合わせて食害する。これによって収量や品質が低下する。成虫の発生量は第1、第2世代が多く、茶園では三番茶期以降の被害が目立つ。防除は幼虫ふ化期にあたる発蛾最盛日の7日後を目安に薬剤散布を実施する。チャノミドリヒメヨコバイ、チャノキイロアザイウマに卓効を示すオルトラン水和剤は、本虫にも高い効果を示す(第2表)。

第4図 予殺灯によるチャノコカクモンハマキの平均誘殺消長

(福岡農総試八女分場)

薬剤名

希釈倍率

巻葉数(枚/・)

防除率(%)

オルトラン水和剤

1,000倍

3.5

71

オルトラン水和剤

1,500倍

4.0

67

メソミル水和剤

1,500倍

4.5

63

無散布

 

12.1

-

(注)8月10日に200・/10a散布。8月28日に各区内の全巻葉数を調査し、これを基に防除率を算出した。

おわりに

現在、チャ栽培では環境保全型技術の導入が討議されており、病害虫の分野でも、これまでの化学農薬のみに頼った防除技術体系から、天敵等の有益昆虫を十分に活用した総合的な防除技術体系の導入が必要とされている。有益昆虫を考慮した防除を行なうためには害虫の発生生態を十分に把握して適期防除を行ない、過剰な薬剤散布を抑えなければならない。このことが害虫の薬剤抵抗性の発達を抑え優れた薬剤の効果を長時間維持させることになるとともに、消費者のニーズをみたすことにもつながる。

(福岡県農業総合試験場八女分場)