福島県の夏秋トマトにおけるマルハナハチの利用

渡辺 敏弘

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.78/F (1996.1.1) -

 

 

1.福島県内におけるマルハナバチの利用

福島県でのマルハナバチの利用は1992年(平4)に中通りを中心に11コロニーが導入されたのが最初である。以後、年々利用コロニー数は増加し、1994年(平6)には703コロニーまで導入が進んでいる。

作型別では大型施設による冬春トマトで普及率が高い。しかしながら、導入コロニー数では夏秋トマト(全栽培面積の96%)が全体の93%を占めている。

大玉トマトに対する普及率に地域的な特色が見られ、会津地方や浜通りで利用が進んでいる。浜通りで普及率が高いのは大型施設での冬春栽培が主体であるためであり、温度管理やコロニーの隔離が十分にできる条件が揃っているためである。主力の夏秋トマトでは中通りでの普及率が低く、会津地方、特に山間部での利用率が高い。これは夏季の高温による訪花活動不良がマルハナバチ導入の低い要因である。特に標高が低く、夏季高温になりやすい地域では、マルハナバチの導入に対して要望は強いものの利活用は進んでいない。

マルハナバチ活動風景

2.マルハナバチの評価

福島県内の各普及センターにアンケート調査を実施した結果、マルハナバチを導入したことで最も効果のあったことはホルモン処理労力の消滅であると、ほとんどの普及センターから回答が得られた。また、効果自体は小さいものの品質向上の点からも空洞果の減少や果の揃いが良くなると答えている。反面、今後利用を図るうえでの問題点として、ほとんどの普及センターが農薬散布の問題をあげている。また、高温時の飛行活動の不良、ハウス外の訪花対象への飛散、短命、高価額などの問題点もあげられている。

導入による効果

回答数

導入に問題となる事項

回答数

ホルモン処理労力の節減

14

農薬散布の制限

13

空洞果の減少

10

日中高温時の活動が鈍い

9

着果が良い

5

温室外の訪花対象へ飛散

6

果の揃いがよい

2

生存期間が短く、価格が高い

5

灰色かび病が減少

2

草勢が弱いと着果しにくい

5

花弁の落下が良い

1

傷果の発生

1

果実がしまる

1

 

 

腰高となる

1

 

 

(注)県内14普及センターのアンケート結果による。

第1表 マルハナバチに対する評価

3.管内での利用事例(指定産地:南会西部)

県内の夏秋トマトでのマルハナバチの利用状況の一例を当普及センター管内の事例を用いて紹介する。

(1)産地の概要とマルハナバチの導入経緯

指定産地南会津西部(以後南会西部)は福島県の西南端に位置し、1,000m級の山々に囲まれた内陸性の気候条件を有した豪雪地帯である。1994年度実績で栽培戸数157戸、栽培面積31ha、販売全額10億3千万円で県内を代表する夏秋トマトの産地である。

当地域でのトマト栽培は米に替わる基幹作物として、30数年の歴史があり、生産者戸数はここ数年横ばい状況ながら、栽培面積は規模拡大が進み、増加傾向にある。反面生産者の高齢化は着実に進んでおり、規模拡大や高齢化対策としてホルモン処理労力の削減の図れるマルハナバチの導入は魅力のある技術であった。

南会西部でのマルハナバチの利用は1993年(平5)に43コロニーの試験導入で開始された。1994年には管内栽培面積31ha全面積を対象に導入が図られ、導入コロニー数延べ315コロニー、普及率は95%となった。

第1図 福島県におけるマルハナバチの導入数
第2図 福島県における大玉トマトに対するマルハナバチの地域別普及率と導入数(1994)

(2)作型とマルハナバチの導入時期

は類は3月下旬、定植5月下旬、収穫始め7月中旬の典型的な夏秋作型である。この地域でのトマト栽培はハウス簡易雨よけ栽培が主体であり、妻面や側面のビニールを開放した形で行なわれている。

第3図 作型

(3)1994年の訪花活動経過

マルハナバチの導入は花粉の少ない1段花房開花時期をはずし、2段花房開花始めの6月下旬に1回目、このマルハナバチが活動期間を高温で経過したため、訪花活動期間を30日とやや短かめにみて、2回目を7月下旬に導入した。

1994年は稀に見る高温干ばつの年であり、マルハナバチを導入した期間中のほとんどで計測地点における気温が30℃以上の高温となった。巣箱は妻面や側面のビニールを開放した雨よけハウスの妻面から1m程度内に入った比較的通気のよい場所に設置し、計測地点はその巣箱の入り口付近とした。当然、ハウスの上部ではこれ以上の高温となったことが予想される。  南会西部は内陸性の気候のため気温の日格差が大きく、夜間の気温は比較的他の地域よりも低くなりやすい。そのため、6月下旬に導入したコロニーについては、早朝の気温の上昇が遅く、高温に達するまで時間を要したこと、比較的日中も高温とならなかったため訪花は早朝や夕方の涼しい時に行なわれ、期待通りの効果が得られた。反面、7月下旬に導入した2回目のマルハナバチのコロニーについては、導入当初より気温が高く、30℃以上が長期間にわたって続き、夜温も高く、早朝から高温となった。このため、マルハナバチ自体、訪花時間が短く、訪花飛行範囲が狭くなり、8月以降はホルモン処理との併用となった。

第4図 マルハナバチ利用期間中のハウス内最高気温

(4)夏秋栽培での活用上の留意点

1.高温対策

夏秋栽培では高温対策が最も重要であり、35℃以上の高温条件下ではマルハナバチの訪花活動は極めて不良となる。1993年のような冷夏では、マルハナバチの訪花活動は十分に行なわれるが、1994年のような高温干ばつ年では導入時に今後の気象予報を十分に検討し導入を図ることが必要である。

高温対策としてハウスサイドや妻面のビニールは開放とし、通気性に富むネットを活用する。さらに必ず巣箱には屋根を付けるなど遮光し、直射日光が当たらないようにする。暑い時期だけ遮光資材を屋根に乗せるのも効果的である。一時期の高温であれば、冷却剤を巣箱に乗せることで十分な訪花活動が得られる。また、導入時期は高温期にいきなり導入するよりも、除々に高温に馴らす方が高温に対して訪花活動が良い。

雨よけハウス全景

2.ハウス外の訪花対象への飛散

雨よけ施設ではハウス外へ飛散するが、次の事項を守ることで訪花活動は行なわれるようになった。

導入後、すぐに箱の入り口を開放するのではなく、いったん箱を設置場所に最低でも半日安置させ、その後開放する。覆いをするのは1ハウス程度で十分で、マルハナバチにトマトの位置や花粉の味を学習させることが必要である。初期学習が十分であれば、その後覆いを外してもマルハナバチは近くのトマト花粉を優先的に採取するようになる。しかし、コロニーによる差が大きく、覆いを必要とする時間に差があって、一様に何時間被覆しなければならないとバイトマークが着いていることを確認確認して開放することが必要である。

マルハナバチ搬入に備え、ネットでハウスを囲う

3.紫外線カットフィルム被覆

紫外線カットフィルムのハウスとカットではないハウスが混在する場合、優先順位はカットではないハウスであり、次いでカットしたハウスであった。巣箱をカットしたハウス内に設置した場合でも導入初期の学習が不十分であると同様の結果が得られた。全てのハウスがカットの場合は訪花活動を行なうようである。このため、ビニールの選択には注意が必要である。

巣箱の内部風景

4.農薬散布 

現在の殺虫剤はほとんどがマルハナバチに対して殺虫効果があるので、各県の試験事例や販売メーカーの技術資料から使用できる農薬を選定し使用することが極めて重要である。


5.利用期間 

一般に夏秋トマトでは高温のため秋冬トマトより寿命が短いと考えられ、6月~9月にかけては十分な訪花活動が得られるのは40日程度と見られる。

(福島県南会津地域農業改良普及センター南郷出張所)

巣箱の設置状況(上:ハウス内、下:ハウス外)
マルハナバチ巣箱付近の気温計測風景