和歌山県におけるミカンハダニ薬剤抵抗性

大橋 弘和

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.79/C (1996.4.1) -

 

 

1.はじめに

ミカンハダニの主力殺ダニ剤であるピリダベン水和剤(サンマイト)、フェンピロキシメート水和剤(ダニトロンフロアブル)、テブフェンピラド水和剤(ピラニカ)等の防除効果が、和歌山県内の主要産地で1993年に減退傾向を示したことから、カンキツ農家を対象にしたアンケート調査と薬剤抵抗性検定を行なったので、和歌山県における薬剤抵抗性の現状について紹介する。

ミカンハダニ雄成虫と第3静止期の雌

2.アンケート調査から

対象地域は海草、有田、西牟婁地区で、カンキツ生産農家261名の回答が得られた。専業農家の割合は77%、カンキツ類の栽培面積は1ha未満28%、1~2ha、未満44%、2~3ha未満18%、主な防除手段は手散布80%、スプリンクラー(個人施設)11%、(共同施設)8%であった。1988年には有田地区のみを対象にアンケート調査を行なっているのでこれも参考とした。

防除で問題と思われる害虫を選ぶ設問では、ミカンハダニを第1位に挙げた農家数および得点数が1988年、1993年とも最も多かった(第1表)。ミカンハダニ以外の害虫の順位も興味深いが別の機会に譲るとして、ミカンハダニに対し、1988年はヘキシチアゾクス水和剤(ニッソラン)の効力減退、1993年は前述の主力殺ダニ剤の効力減退が大きく関与していると考えられ、第1位にミカンハダニを挙げた農家の多くは、その発生原因に「薬剤が効かなくなった」および「有効な薬剤がない」を選んだ(第2表)。アブラムシ類も有機リン剤および合成ピレスロイド剤に対し薬剤抵抗性の発達が認められ、1993年の調査では上位にランクした。

害虫名

得点数(第1位の数)

1988年

7993年

ミカンハダニ

43

776(110)

ゴマダラカミキリ

3

528(47)

ナメクジ類

31

406(27)

ヤノネカイガラムシ

6

282(17)

アブラムシ類

4

250(13)

チャノキイロアザミウマ

35

246(9)

果樹カメムシ類

0

181(12)

鳥害

0

128(6)

訪花害虫類

4

102(2)

ロウムシ類

10

66(3)

コナカイガラムシ類

4

60(1)

ミカンサビダニ

0

55(4)

獣害

0

14(0)

シャクトリムシ

0

17(0)

(注)問題の大きい害虫から順位をつけ、1988年は第1位に3点、第2位2点、第3位1点、1993年は第1位5点、第2位4点、第3位3点、第4位2点、第5位1点の得点を与え集計した。

第1表 最近、防除で問題と思われる害虫の順位表

項目

回答数

回答率

1.薬剤が効かなくなった

80

27%

2.有効な薬剤がない

63

21

3.雨などで適期に散布できなかった

57

19

4.登録薬剤がない

1

0

5.散布時期がわからない

12

4

6.園外から飛来し、防除が困難

72

24

7.その他

10

10

(注)1993年度アンッケート調査より。複数回答あり。

第2表 農家からみた問題害虫の発生要因

1993年の防除結果から主力殺ダニ剤に対し「効果やや不十分」と回答した農家は使用農家の12~19%を占めた(第3表)。テブフェンピラド水和剤に対し「効果認められず」と回答した農家は22%に達した。また、このように回答した農家の多くは、海草または有田地区の農家であった。なお、フェンピロキシメートおよびピリダベン水和剤は主に7~9月、テブフェンピラド水和剤は9~11月に使用された。

したがって、アンケート調査から1993年の防除においてこれら主力殺ダニ剤に対し、防除効果が薬剤抵抗性により減退したものと推察された。

海草、有田(金屋町を除く)、西牟婁地区のマシン油乳剤の散布率をアンケート調査から選び出した(第4表)。和歌山県では12月下旬または3月と6月下旬のマシン油乳剤主体の薬剤抵抗性対策の体系を推進しているが、冬季および夏季散布とも海草および有田地区のマシン油乳剤の散布率は低かった。一方、西牟婁地区は古くからマシン油乳剤を取り入れた防除を実施し、高い散布率を示した。

項目

薬剤別防除効果の評価割合

フェンピロキシメート水和剤

ピリダベン水和剤

テブフェンピラド水和剤

 BPPS 水和剤

1.良く効いた

36%

35%

32%

4%

2.効いた

44

47

24

48

3.効果やや不十分

12

16

19

33

4.効果認められず

2

1

22

10

5.不明

0

1

2

4

6.無回答

4

3

2

4

使用者数

55人

130人

62人

48人

第3表 主力殺ダニ剤の防除効果に対する果樹農家の評価

項目

海草地区

有田地区

西牟婁地区

全体

冬期散布

夏期散布

冬期散布

夏期散布

冬期散布

夏期散布

冬期散布

夏期散布
散布する

21%

21%

15%

37%

77%

54%

45%

46%

時々散布する

21

21

18

15

11

18

16

14

散布しない

58

58

60

46

9

18

36

35

無回答

0

0

7

2

3

9

2

5

(注)回答者数:海草43名、有田59名、 西牟婁65名

第4表 アンケート調査による地区別のマシン油乳剤散率(1993)
ミカンハダニによる葉の被害

3.薬剤抵抗性検定調査から

海草および有田地区をマシン油乳剤散布地区、西牟婁地区を散布地区とし、主力剤のフェンピロキシメート、ピリダベン水和剤、テブフェンピラド水和剤に対する薬剤抵抗性検定結果を比較した(第5表)。

マシン油乳剤

場所

濃度別補正殺卵(雌成虫)率(%)

フェンピロキシメート水和剤

ピリダベン水和剤

デブフェンピラド水和剤

1,000

3,000

3,000

9,000

30,000

2,000

6,000

20,000

無散布地区

野上町野上

80.7%

73.1%

97.2%

87.8%

85.3%

92.3%

92.2%

78.6%

下津町加茂

-

56.6

6.6

-

-

41.6

-

-

100.0

-

100.0

100.0

94.0

100.0

100.0

100.0

橋本

87.0

33.0

91.3

86.4

-

98.6

100.0

-

大崎

72.0

71.1

14.1

42.6

33.8

45.3

46.5

54.2

大崎

100.0

-

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

有田市辻堂

54.5

16.7

26.6

18.1

8.4

76.4

44.0

9.7

千田

95.6

93.6

84.7

80.4

67.0

89.7

95.9

90.0

山地

100.0

100.0

94.3

97.9

98.8

98.8

100.0

100.0

下中

98.3

98.7

90.8

93.8

100.0

100.0

96.1

100.0

宮原町滝原

87.7

55.5

64.0

48.9

55.0

75.3

88.3

67.7

83.7

75.9

90.3

97.5

91.3

98.3

96.6

-

広川町柳瀬

89.1

82.4

70.8

75.1

67.8

85.3

77.8

61.6

殿

26.2

21.0

83.9

84.3

35.1

38.7

45.8

56.3

散布地区 金屋町吉原

100.0

92.0

100.0

100.0

98.1

100.0

100.0

100.0

伏洋

-

-

98.0

87.6

100.0

100.0

97.5

100.0

田辺市新庄

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

長野

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

上富田町岡

-

-

100.0

-

-

100.0

-

-

フェンピロキシメートは雌成虫を対象に所定量散布し、その他の2剤は卵を対象に十秒間の浸漬処理した。マシン油乳剤無散布地区では主力3剤に対し薬剤抵抗性が広域で発達し、有田市辻堂、広川町殿など著しく抵抗性の発達した園地も認められた。一方、散布地区では主力3剤の抵抗性の発達は認められなかった。海草  有田地区は全国有数の大産地である。ミカンハダニの固定群も著しく大きく、抵抗性遺伝子の初期頻度は高いと推察される。このような遺伝的抵抗性の発達要因も大きく関与しているであろうが、マシン油乳剤を散布しないことによる殺ダニ剤の散布回数の増加、すなわち強い淘汰圧が海草および有田地区における抵抗性の発達を進めたものと考えられた。

フェンプロパトリン乳剤(ロディー)+オルトラン水和剤およびケルセン乳剤は、県下全域で抵抗性の発達がみとめられた。本県ではフェンプロパトリン乳剤をアブラムシ類、カメムシ類、ミカンハモグリガに対し多く使用してきたことから、ミカンハダニに対する殺虫力が著しく低下したと考えられた。このため、オルトラン水和剤は本来の防除対象であるチャノキイロアザミウマに使用されるのが望ましい。1994年の抵抗性検定ではBPPS

水和剤(オマイト)は高い感受性を示したが、防除効果に対しアンケート調査による農家の評価は低く、1994年散布後の聞き取り調査でも防除効果は低かった。また、ヘキシチアゾクス水和剤、酸化フェンブタスズ水和剤(オサダン)、アミトラズ乳剤(ダニカット)等は過去に抵抗性が発達し、その回復は未だに認められない。したがって一部の園地ではマシン油乳剤以外に有効な殺ダニ剤が無い状況にある。

ミカンハダニの天敵ハネカクシの成虫(上)と幼虫(下)

4.おわりに

マシン油乳剤を使用しない防除体系は親から子へと受け継がれ、マシン油乳剤無散布地区での普及拡大を指導してきたが、その達成は難しかった。しかし、マシン油乳剤以外に有効な剤がない園地も散見され、有力な新規殺ダニ剤の登録がない現状から、マシン油乳剤の使用が除々に増えてきたと思われ、この困難な状況を逆に利用し、マシン油乳剤の定着を願う次第である。

(和歌山県果樹園芸試験場)