テンサイの主要害虫とその防除

近年の発生傾向と防除技術の動向

兼平 修

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.80/C (1996.7.1) -

 


テンサイトビハムシ成虫と被害


テンサイは、サトウキビと同様に国内で自給できる甘味資源作物である。単位面積当たりの収益性の高さと気象・土壌条件に対する適応性の高さから、北海道畑作の輪作体系を維持するために欠かせない基幹作物の一つである。1986年(昭61)以降重量取引から糖分取引に移行したため、病害虫防除にもより細かな配慮が必要となった。

1.テンサイトビハムシ

成虫の体長は2・内外、体は卵形で光沢のある銅色である。越冬成虫が飛来し子葉や稚葉を食害し、小さい円形の穴を開ける。直播では発芽と同時に食害するため、被害株が枯死し、激発時には廃耕する事もある。移植苗も枯死には至らないが、活着や初期生育が遅れ、収量や糖分にも影響することがある。現在、97%の農家が移植栽培をおこなっているが、コスト低下なために直播栽培が検討されている。しかし、直播栽培では発芽直後の食害による欠株が稀ではなく、常発地帯では廃耕も懸念されるので注意が必要である。

従来はオルトラン水和剤、メソミル水和剤、プロチオホス乳剤を移植や発が直後に2回程度の散布が有効であった。しかし、苗立枯病や根腐病では育苗ポットに薬液を灌注する省力的な技術が普及しており、初期害虫でも同様な技術への期待が現場では大きかった。今回、オルトラン水和剤で育苗期灌注が登録され現場への普及が期待されている。

登録内容は、育苗期に50~100倍の薬液を1・当り2.5・散布となっている。具体的には1・は育苗ポット3冊であり、圃場10a分に相当する6冊のポットに5・の薬液を移植前にジョウロ等で散布することになる。この場合、葉に薬斑などが生じることがあるので散布直後にポット6冊につき1・の水を更に散布する必要がある。具体的な効果については第1表を参照されたい。

散布濃度

処理時期

食害程度

収量

5月26日/6月1日/7日/14日/24日

根重

同左比

50倍

100

無処理

移植前日5月19日

-

4

3

28

20

21

97

35

32

99

26

29

97

29

30

82

4.6t/10a

4.5

3.9

116

114

100


2.テンサイモグリハナバエ

5月後半から成虫が葉の裏面に約1~5卵を並べて産み付ける。ふ化幼虫は葉肉内に潜入し、始めは細い曲線状に、後には袋状に食害する。表皮だけ残るため白色に見えるが、食痕は次第に褐変して枯死する。多数の幼虫が1枚の葉に食入し枯らすと、株育成が遅延する場合もある。近年低発傾向にあり、要防除水準の設定により散布が省略できコスト低減の可能性が大きい。しかし、他の地点に比較して北見農試ではやや低めに推移しており、今年から被害解析試験を開始する。

テンサイモグリハナバエによる被害


ヨウトウガ幼虫


3.ヨトウガ

テンサイの害虫として最も重要である。地中で越冬した蛹は6月上旬頃から第1回成虫になり、葉の裏側に数十~百数十粒の卵塊を産み付ける。約10日で卵より第1世代幼虫がふ化し、若齢は集団で食害する。中齢になると次第に分散し、昼間は作物の根際の地中、葉の下、株元、心葉の間などに潜み、夜間に単独で加害するようになる。幼虫の加害盛期はおよそ7月上旬である。約1カ月の幼虫期間を経て、地中で約3週間の蛹期間を過ごす。8月上旬頃から第2回成虫が現われる。第2世代幼虫は8月下旬から10月下旬まで加害して蛹化するが、加害の盛期は9月中、下旬である。若齢幼虫が葉裏から葉肉を食害し、残った表皮は灰白色に枯れる。中齢は葉表まで貫通して食害し、不規則な網目状食痕を作る。老熟は大型の食痕を作り、劇発時には太い葉脈のみを残す。餌が無くなると、葉の中肋、茎までも食い尽くす。幼虫の摂食量は合計178・と本誌1ページの半ページ弱に相当するが、若齢(1、2齢)や中齢(3、4齢)の摂食寮は少なく、老熟(5、6齢)のが97%を占める(第1図)。また、6齢の体重は1齢の1,500倍と急増している(第2図)。老熟幼虫になると食害料は急増し、増加する体重に反比例して薬剤の効果は低下するため、若齢のうちに防除する必要がある。従来は誘蛾灯による誘殺量盛期の5~7日後とその7~10日後の2回散布が指導されていた。この時期は幼虫の発生初期(6月下旬~7月上旬、8月中旬~9月上旬)にほぼ相当する。

第1図 ヨウトガ幼虫1頭の食害量

第2図 ヨウトガ幼虫の成長

しかしながら、従来の方法では農業者が自ら防除時期が決定することは困難であり、北海道病害虫防除所では第1世代幼虫について防除時期の簡易決定法を1994年と1995年(平成6、7年)の2年にわたり検討した(第2表)。薬剤はオルタラン水和剤に1,000倍液を10a当り100~120・散布し、1区画面積は55・または、37・で反復を設けず、1ヵ所10株とし対角線上に5ヵ所を選び計50株について直立姿勢からの被害の有無と発生予察基準(第3表)による被害程度指数を調査した。その結果、被害株率50%に達した時点での1回散布は被害程度25は各株に小さな食痕が数個見られる(指数1)程度であり実害は無いと推定される。2回散布であっても1995年に近接圃場で第2表の慣行より5~10日早く散布した場合、十分な散布効果を示さず、適期防除の重要性を示唆している(第4表)。

a.1994年

処理

散布時期

散布前の被害株率

食害程度

6月28日/7月2日/4日/11日/18日/25日
被害株率30%時防除

6月29日

37%

9

-

21

24

25

25

50%

28日

51%

13

-

19

23

24

25

70%

7月2日

91%

11

23

26

27

29

26

慣行

6月28日

-

-

-

-

-

-

20

7月7日

-

-

-

-

-

-

20

無防除

-

-

15

23

30

54

73

76



b.1995年

処理

散布時期

散布前の被害株率

食害程度

6月23日/29日/7月3日/5日/10日/14日/20日/25日
被害株率30%時防除 6月29日

35%

0.9

9

8

10

8

8

11

14

 50%

7月5日

59%

0.7

5

10

15

15

14

12

10

70%

5日

70%

0.4

5

12

18

21

19

17

15

慣行

6月24日

3

0.7

2

-

4

5

3

4

6

7月5日

15

0.7

2

-

4

5

3

4

6

無防除

-

-

0.1

4

-

18

28

36

56

65

第2表 第1世代ヨウトウガ幼虫に対する散布時期と食害程度の関係(病害中防除所)

食害程度指数

食害程度

0

食痕無し

1

小さな食痕が数個見られる

2

半数内外の葉に食痕があり、大きい食痕も点在する。

3

ほとんどの葉に大きい食痕が見られる。

4

ほとんどの葉が網目状に食害される。

食害程度={Σ(指数×当該指数株数)/最大指数×調査株数}×100

第3表 テンサイのヨウトウガ食害程度基準(発生予察調査基準)

処理

散布時期

食害程度

 7月1日 | 8日 | 15日 | 21日

慣 行

オルトラン1,500倍

6月19日

5

12

28

39

26日

5

12

28

39

無防除

-

20

44

64

78

(1995年(平成7年)日植防防除試験、中央農試成績より抜粋)

第4表 散布適期より散布時期が早かった場合

4.ガンマキンウワバ

成虫は年3回の発生であり、そのピークは6月、8月、9~10月にある。牧草地や雑草地の地表面で幼虫越冬する。翌春の5月までに、老熟幼虫は薄い繭を葉の裏や茎の間に作り蛹になる。5月下旬から羽化した成虫は1卵ずつ葉裏に産み付ける。1回目の幼虫は6月下旬から、2回目は8月後半から加害し、ヨトウガの加害時期とほぼ一致する。ヨウトガの適用薬剤は本種にも有効で防除時期もほぼ一致するので、同時防除が可能である。しかし、1984年(昭59)や1994年のように、6、7月に高温の年はガンマキンウワバ、ヨウトガ双方の第2回防除時期が一致せず、各に防除が必要になる(第3図)。畑での両種の区別点を第4図に示した。

第3図 ガンマキンウアバとヨトウガの加害時期・防除時期

第4図 ウワバ類とヨウトガの区別点

5.ハダニ類

1984年と1994年のような高温、少雨の年に多発し、葉を黄化させ、さらに、被害が進むと葉を枯らせる。5月下旬頃から、雑草地などのクローバー等からハダニ類が畑に侵入するが、6、7月にはハダニも少なく被害も目立たない。しかし、8月に入ると急激にナミハダニが増加して加害するので、黄化した葉が目立つようになる。さらに高温・乾燥が続くとハダニの数は非常に多くなり、被害も進み葉先から枯れていく。登録薬剤としては、ヘキシチアゾクス剤(ニッソラン)とクロフェンテジン剤(カーラ)のみである。しかし、両剤とも遅効性で2週間程度経過しないと効果が見られない。そのため、夏期に高温・乾燥が予想される年には7月末~8月初めに予防的に散布する必要がある。散布は1回に限り、連用を避ける。

(北海道立中央農業試験場)

ハダニによる被害と加害中のハダニ