ニホンナシ「幸水」の果実のまだら症状と


輪紋病被害の同時防止対策


中尾 茂夫

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.81/A (1996.10.1) -

 

1.はじめに

 ミカンキイロアザミウマは1990年(平成2年)に関東においてわが国では初めて発生が確認された。本種は欧米を中心に世界中に分布し、野菜・花き類の主要害虫である。国内では1992年以降、発生地域が急速に拡大し、1996年6月現在、40都府県で花きや果菜類を中心に発生が確認され、今後の多発生が心配される。そこで、花き類の被害状況、本種の発生生態および防除対策について、静岡県がこれまで検討した内容について紹介する。

2.被害状況

 ミカンキイロアザミウマは多くの植物に寄生し、特に花を好む性質が強く、多くの花き類で花弁の被害が発生する。被害はキク、バラ、カーネーション、トルコギキョウ、ガーベラ、シクラメン、クレマチスなど、多くの種類の花き類に及んでいる。

(1)被害の特徴

 成虫は蕾が開き始めるとともに内部に侵入し、表面組織に口針を刺し、細胞質を吸汁する。食害された表面組織は破壊され、花弁の伸長とともにいろいろな症状となる。被害は花の種類や品種(色)によって異なるが、部分的な退色または褐変、かすり症状、筋および網目状の傷となる。他のアザミウマ類でも同様な被害が発生するため、症状から加害種を特定することはできない。
 キクでは、ミナミキイロアザミウマと同様に芽にも寄生し、展開中の新葉を食害し、芽の褐変や新葉にケロイド状の傷が発生する。

(2)診断

 前述のような花弁の被害が発生した場合、アザミウマ類の被害と思われるが、必ずしもミカンキイロアザミウマの被害とは限らない。しかし、従来通りの薬剤防除で被害が軽減しない場合、注意が必要と思われる。本種は多くの薬剤において防除効果が低く、特に合成ピレスロイド剤では効果が低い。
 アザミウマ類は体長1mm前後と微小な上に、花、蕾および芽の中に生息する性質があり、直接目に触れる機械が少ない。虫を観察するためには、(1) 被害花に軽く息を吹きかけると外に出てくる。(2) 被害花を白い紙の上で叩き落す。(3) 展着剤を希釈した水、または50~70%アルコール液中で被害芽や花を攪拌して昆虫類を洗い落とし、ティッシュペイパー等でろ過する。特に十分に開花した花に集まる性質があるので、そのような花をいくつか調査する。しかし、正確に種を判定するためには、顕微鏡で詳しく観察する必要があるので、試験場や病害虫防除所等に相談することを勧める。アザミウメの種類によって薬剤の効果が異なる場合があり、正確に種を確認する必要がある。

ミカンキイロアザミウマ:成虫と幼虫、下は成虫の頭部

温度
(℃)
卵期間2)
(日)
幼虫期間2)
(日)
蛹化率3)
(%)
蛹期間2)
(日)
羽化率3)
(%)
卵~幼虫
(日)
15 8.8±1.2 14.8±1.5 75.0 10.6±0.8 75.0 34.2
20 4.6±0.8 8.8±1.9 83.3 5.9±0.6 75.0 19.2
25 3.2±0.6 5.3±1.0 77.4 3.5±0.5 73.6 12.1
30 2.4±0.5 4.4±0.7 78.1 2.7±0.6 78.1 9.5
35 2.3±0.5 4.3±1.2 33.3 3.0±0.0 23.1 9.5

第1表  ミカンキイロアザミウマの発育期間および発育率に対する温度の影響 1)(1995)
(注): 1)キク(秀芳の力)の小花をエサとした
2)平均±標準偏差
3)供試虫に対する百分率


温度
(℃)
供試数
(頭)
生存期間
(日)
総産卵数2)
(卵/♀)
平均日産卵数2)
(卵/♀/日)
15 12 99±16 253±53 2.6±0.4
20 11 64±18 231±82 3.6±0.9
25 10 46±17 249±106 5.5±1.6
30 11 37±9 183±50 5.0±1.1

第2表  ミカンキイロアザミウマ雌成虫の生存期間および産卵数と温度の関係 1)(1995)
(注): 1)キク(秀芳の力)の小花をエサとした
2)平均±標準偏差

3.発生形態

(1)生活史

 ミカンキイロアザミウマの雌成虫は体長1.4~1.7mm、体色は夏には黄色、冬には褐色である。成虫は花、芽、葉の表面組織を食害し、組織中に産卵する。卵は数日でふ化し、幼虫は花粉や表面組織を食害し、組織中に産卵する。卵は数日でふ化し、幼虫は花粉や表面組織を食害し、2齢を経て、土中で蛹化し、数日で新成虫が発生する。キクの花を餌とした場合、卵から羽化までの発育期間は15、20、25、30℃でそれぞれ34.2、19.2、12.1、9.5日であり、発育ゼロ点は9.5℃、有効積算温度葉194日度と考えられた(第1表)。これより、静岡県西部地域の露地では3月下旬から14月下旬まで発育が可能であり、13世代を経過すると考えられた。一方、雌成虫はキクの花を与えた場合、25℃では1カ月半、20℃では2カ月、15℃では3カ月生存史、180~250卵程度を産卵した(第2表)。雌の割合を70%、ふ化率を90%とすると、25℃における本種の内的自然増加率は0.144/♀/日であり、1カ月では77.4倍に増加することとなる。餌として花または花粉は好適と考えられ、バラやガーベラのように収穫期間の長い花き類では増加しやすい。

(2)発生時期

 静岡県西部地域においては、ミカンキイロアザミウマは野外では4月中旬から飛翔分散を始め、5月急増し、6月に最も発生数が多くなり、5月から7月は圃場への飛び込みが多いと考えられる。10月以降は発生数は低水準で経過し、11月まで飛翔が見られる(第1図)。11月以降もキク圃場では収穫後の株や親株の花や芽に成幼虫が寄生しており、キクや圃場内の雑草上で越冬する。施設内では冬期にも活動し、イチゴハウスでは被害が発生する。特に3月以降、温度の上昇とともに急増し、被害が多発する。

(3)雑草上での発生および露地越冬

 ミカンキイロアザミウマは多くの作物を加害するが、多くの種類の雑草にも寄生・増殖し、圃場周辺の雑草は発生源となっていると考えられる。
 静岡県では4月以降、カラスノエンドウ、セイヨウタンポポ、シロツメクサで寄生数が多く推移し、これらの雑草は増殖源と思われ、夏期には開花中のイネ科雑草の穂に、秋期似はセイタカアワダチソウ、ノボロギク、ホトケノザ等の花に高頻度みられた。

第1図  ミカンキイロアザミウマの誘殺消長(1994)
静岡県西部の発生地域において、青色平板粘着トラップを6ケ所設置した。


薬剤名 希釈倍数 10項部当たり寄生虫
7 / 5
1回前
7 / 12
2回前
7 / 19
3回前
7 / 22
3日後
7 / 26
7日後
8 / 3
14日後
8 / 9
20日後
オルトラン水和剤 1,000倍 2 0 4 5 4 1
トクチオン乳剤 1,000倍 1 0 5 6 1 2 9
エンセダン乳剤 1,000倍 4 0 3 4 1 19 0
アーデント水和剤 1,000倍 3 2 1 1 1 3 2
無処理 1,000倍 3 8 23 20 10 25

第3表  キク頂部のミカンキイロアザミウマ成虫に対する各種薬剤の密度抑制効果(1994)
(注): ハウス栽培のキク(品種:名門)、1区14平方メートル、1連
動力噴霧器により、1区当たり約14リットルを散布
茎の頂部約10cmを10本採取し、50%メタノールで洗浄、濾過後検鏡した。
7月19日には蕾が割れはじめ、26日以降花弁の進展が見られた。

キクの被害 バラの被害
シクラメンの被害 ペチュニアの被害

4.防除対策

(1)圃場薬剤試験

 ハウス菜剤野キク(品種:名門)において、着蕾直前から、オルトラン水和剤およびその他3剤を7日間隔で3回連続散布し、圃場における防除効果を検討した。なお、膜割れは最終散布後であった。無処理区では8月3日まで寄生数および被害が増加傾向で推移した。これに対し。、各薬剤散布区では最終散布7~14日後まで寄生数および被害が抑制された。したがって、本種の被害を抑制するためには、膜割れ前後から7日間隔でこれらの薬剤をローテーション散布すれば良いと考えられた(第3表)。

(2)総合対策

 ミカンキイロアザミウマは増殖しやすく、薬剤が効きにくい害虫である。そこで、発生地域では、次の方法により圃場内への侵入を防ぎ、的確に薬剤防除を行なう。

  1. 施設開口部に寒冷紗(1mm目)を張る(白、青色のネットはミカンキイロアザミウマを誘引する可能性が高いので使用しない。)
  2. 収穫後、不必要な株は速やかに処分する。
  3. キクでは親株養成は必要最小限とし、月に1回以上の薬剤散布を行なう。
  4. 発生した施設では、土壌消毒、密封して次作まで10日以上空け、蛹と成虫を死滅させる。
  5. 観賞用の花き類や雑草は発生源となるので、圃場周囲から除去する。
  6. 冬期も雑草は越冬場所となっているので、除草に努める。
  7. 野外の密度が高い5~7月には飛び込みが多いので被害に注意し、発生初期から防除を行なう。特にバラやガーベラのように開花が連続する花き類では施設内で増殖しやすいので、発生を確認した場合、7日間隔で2、3回の連続散布を行なう。また、キクなど一斉に開花する花き類では、着蕾以前は圃場内部での増殖は少ないため、外部からの侵入に注意し、頻繁な防除は必要ない。着蕾後、特に膜割れ前後は7日間隔で2、3回の連続散布を行なう。今のところミカンキイロアザミウマに対する登録薬剤は少ないが、キク、バラ、シクラメン、ガーベラでは有効な登録薬剤があり、同時防除を行なう(第4表)。このとき花や蕾内部に薬剤が到達するように必ず展着剤を加える。また、薬剤抵抗性の発達を防ぐため、使用する薬剤をローテーションさせる必要がある。
    薬剤散布の翌日に前述の診断方法で寄生虫の状況を確認し、効果の低い場合は追加散布を行なう(ただしIGR剤は成虫には効果がない。)

5.最後に

 欧米ではミカンキイロアザミウマが媒介するトマト黄化壊疽ウイルス(TSWV)が大きな問題となっている。最近、国内でもキク、ガーベラ、ピーマン等で本種が媒介したと考えられる例が発生し始めているので、本種の発生地域では注意が必要である。

(静岡県病害虫防除所)

系統 1) 薬剤名 安全使用基準(希釈倍数、使用時期/使用回数)
キク ガーベラ バラ カーネーション シクラメン
A トクチオン乳剤 1,000倍
初期/5回
1,000倍
初期/5回
1,000倍
- / -
   
レルダン乳剤 1,000倍
- / -
       
スプラサイド乳剤 1,000倍
- / -
      1,500倍
- / -
オルトラン水和剤 1,000倍
初期/5回
1,000倍
※申請中
初期/5回
1,000倍
初期/5回
   
マラソン乳剤 2) 1,000倍
- / -
1,000倍
※申請中
初期/5回
1,000倍
- / -
2,000倍
- / -
2,000倍
- / -
DDVP乳剤 1,000倍
- /5回
       
B バダン水和剤         1,000倍
初期/5回
エピセクト水和剤         1,000倍
初期/5回
C アーデント水和剤 1,000倍
初期/5回
       
D カスケード乳剤 2,000倍
- /3回
  3,000倍
- / -
   

第4表  花き類におけるミカンキイロアザミウマに対する有効薬剤(同時防除剤を含む)
1)殺虫剤の系統
A:有機リン系、B:ネライストキシン系、C:合成ピレスロイド系、D:生育阻害剤
2)マラソン乳剤(2,000~3,000倍)は各種花き類でアブラムシ類と同時防除剤として使用可能
3)品種や栽培様式により薬害の有無が異なることがあるので注意