カンキツの開花期から幼果期に加害する

主要害虫の被害と防除

荻原 洋晶

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.81/D (1996.10.1) -

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 安定した経済栽培を行なっていくには、収量や樹勢に悪影響を及ぼす要因を排除していく以外に、果実の外観を損なう要因を取りのぞく努力をすることも大切であることは言うまでもない。
 この果実の外観を損なう外傷の原因や症状は複雑で、発生時期も開花期から収穫期まで長期間に及ぶ。ここでは主に開花期に子房部に傷を付けたり、幼果期に果皮に傷をつける害虫と最近愛媛県下で発生が多く、問題となっている害虫の生態と防除方法を簡単に述べることにする。

開花期の害虫(訪花害虫)

 花が咲き始めると、花蜜や花粉を求めて数多くの昆虫が園内に飛来してくる。この中には花粉媒介昆虫など有益な昆虫もいるが、吸蜜する際に将来果実となる子房部に傷を付けたり、食害するものがある。これらが一般に訪花害虫といわれているもので、主なももにはコアオハナムグリやケシキスイ等の甲虫類と訪花性のアザミウマ(スリップス)類がある。
 コアオハナムグリは花器内に深く頭をつっこんで吸蜜するが、この時に小房の表面を鋭い足の爪でひっかいて線上の傷をつける。激しく被害を受けたものの多くは落花するが、軽い場合でも収穫期に線状の傷が残り、果実の外観を著しく損なう。
 カンキツ園では、開花初期から飛来がみられ、開花程度が3~4分の頃から満開期にかけて多くなる。
 カシキスイは体長が2~4mmの褐色の小さい甲虫で、花の子房部と花糸の間に侵入して吸蜜する。この際に、足で子房部に線状の傷をつける。被害が軽い場合には生育中に消えるが、激しい場合には収穫時まで傷が残る。ケシキスイの園内への飛来時期は、コアオハナムグリとほぼ同様な経過がみられる。また、1日の時刻別の園内での生息は、両種とも午前中に多い傾向がみられる。
 訪花性のスリップス類としては、ハナアザミウマやネギハナアザミウマ、ビワハナアザミウマなど数種が知られている。多数の寄生を受けるとへたの周辺部に輪状の傷や果頂部に灰白色のコルク状傷を残して商品価値を落とす。
 カ午前中に防除を行なう。アザミウマ類の被害は、一般的に幼虫による被害が主体と考えられているので、本種による被害が多い園では、満開後の幼虫密度の高まる前が防除適期となる。
 薬剤は、オルトランナック水和剤の1,000倍やMEP水和剤(スミチオン)の1,000倍などが有効である。一般の園では1回の防除で十分であるが、薬剤の残効期間が短いので、多発生園では満開期前に2回目を行なうとより高い甲かが期待できる。特に宮内伊予柑では、訪花性スリップス類の被害とみられる果梗部周辺のリング状の傷が多いことから、本種に効果が高く残効性の長いオルトランナック剤を使用する例が多い。

第1図 訪花害虫に対する殺虫剤の試験成績
 
第2図 伊予柑の開花程度と訪花害虫の飛来数
 
コアオハナムグリ
 
訪花害虫による被害
 

幼果期の重要害虫

  • チャノキイロアザミウマ 

 成虫は、体長が0.8前後の黄色の細長い小虫である。成虫は10ミクロン程度の短い口針をもち、これを果皮等の表皮細胞につぎつぎと差し込んで養分を吸収する。果実の被害は果梗部周辺と果頂部の傷に大別される。果梗部の傷は、主に5月下旬から6月に加害を受けたもので、へた部周辺に灰白色のコルク状で輪状に広がる。果頂部の傷は、主に6月中旬以降に被害を受け、果頂部から側面に放射状または雲形状に広がり、症状は褐色被膜状または黒点状になる。被害は幼果期ほど激しく、果実の肥大とともに軽くなる傾向がみられ、早期に多発した場合に被害が激しい。また、被害は樹冠の部位により差がみられ、日当たりの良い樹冠上部の果実で激しい。
 本種は、落弁直後から断続的に発生を繰り返し、しかも低密度で大きな被害をだすので、発生園では年数回の防除が必要である。被害は、前記のように幼果期ほど激しい傾向があるので、防除は5~6月の幼果期の寄生防止に重点をおく。
 第1回の防除は、寄生がみられた段階(本県の常発園では落弁10~15日後に定期防除)で直ちに薬剤を散布する。この防除後は、発生に注意し、6月は寄生果率で2~5%、7月以降は10%を基準において薬剤を散布する。
 薬剤はオルトラン水和剤の1,500倍の効果が高い。他剤では、DMTP乳剤(スプラサイド)の1,500倍、マンゼブ水和剤(ジマンダイセン)の500倍なども有効と評価されるが、残効性がやや短いのでこれらの薬剤は低密度時の予防剤あるいはカイガラムシや黒点病との同時防除剤として使用する。
 なお、訪花害虫の防除薬剤のうちオルトランナック水和剤は、チャノキイロアザミウマ にも高い効果を示し、落弁直後の寄生防止に有効である。

チャノキイロアザミウマの被害:宮内伊予柑(左)とネーブル(右)
 
第3図 チャノキイロアザミウマの果実上での寄生経過
 
第4図 チャノキイロアザミウマに対する各薬剤の防除効果
 

最近発生の多い害虫

  • チャノホコリダニ

 以前からカンキツ類での被害は知られており、ハウスなどの特種な環境で多発発生し、問題となっていた。露地栽培では、チャ園周辺部などで被害果が散見される程度でほとんど問題にならなかったが、最近県下の一部産地で宮内伊予柑やレモン等を中心に多発して大きな被害が出ており、発生面積も拡大する傾向がみられる。
 チャノホコリダニの被害は一般に果梗部を中心に放射状の被膜を形成する。被害は品種による差がみられ、レモンや宮内伊予柑では無防除にするとしばしば果面全体に広がり、商品価値がほとんどなくなる。温州ミカンにも被害がみられるが、両品種に比べると一般に軽い。
 このほか、苗木の育生園や高接ぎ園等で夏目以降、新芽が発生するたびに寄生されて枯れ込み、伸張しない被害が出る。
 本種は微細であるため被害が出て初めて発生に気付くことが多いが、被害果が散見されはじめた頃には多くの果実で寄生密度が高くなっている場合が多く、あわてて薬剤散布しても手遅れになることが多い。このため、本種の防除は発生初期の防除が基本であり、常発地帯では落弁直後(10~15日後)にミカンハダニとの同時防除をならって殺ダニ剤(ケルセン、サンマイト、バイデン等)をていねいに散布することが重要である。
 一般に幼木等で、ミカンハモグリガやアブラムシ等の防除に合成ピレスロイド剤を多用した場合に多発することが指摘されており、こうした園地では特に注意が必要である。

第5図 カンキツ果実上におけるチャノホコリダニの発生消長と傷害果の推移
 

ミカンサビダニと被害果
 

  • ミカンサビダニ

 本種の防除は、ミカンハダニや黒点病との同時防除で対応しており、殺ダニ剤やマンネブ剤を定期的に散布している園では被害果をみることはほとんどなかった。しかし、数年前からこうした園でも被害果が散見されるようになり、発生面積の拡大する傾向にある。この多発の原因としては、使用薬剤の(特に殺ダニ剤)変遷や硫黄薬剤など本種に効果のある薬剤の散布回数の減少など防除圧が低くなってきたことなどがあけられる。他の理由としては、マンネブ剤の本種に対する防除効果が減退している点が現地から指摘されている。
 本種を対象に防除する場合には、果実上での密度が高くなる前の7月上~中旬にケルセン剤の1,500倍、アミトラズ乳剤(ダニカット)の1,000倍、ピリダベン水和剤(サンマイト)の3,000倍、フェンピロキシメート(ダニトロンフロアブル)の2,000倍などを散布する。普通、この1回の防除で十分であるが、前年多発した園で、8月以降高温、乾燥が続く年には8月下旬から9月上旬に第2回目の防除を行なうほうが安全である。また、ミカンハダニの防除で前記薬剤を6月、7月に使用する場合には特に防除の必要はない。
 以上、果実の外観を損なう重要害虫の被害と防除法について簡単に述べてきた。これらの害虫の常発地帯や前年に被害を受けた園では、発生前の予防的な散布が必要である。しかし、省力化や低コスト化が求められるなかで少散布回数で効率的な防除を行なうことも重要である。このためには日頃から病害虫の発生に十分注意し、経済的被害を及ぼすと考えられる場合のみ薬剤散布を行なうことが大切である。

(愛媛県立果樹試験場)

第1表 チャノホコリダニに対する各薬剤の防除効果

供試薬剤 希釈倍数 供試果数 被害程度 被害果率
(%)
被害度
ケルセン水和剤 1,000倍 209 1 2 0 1.4 0.6
バイデン乳剤 800倍 250 10 11 1 8.8 3.3
サンマイト水和剤 1,000倍 203 6 2 0 3.9 1.0
無散布 - 237 42 68 57 20.5 41.4

第2表 ミカンサビダニに対する薬剤防除試験成績(愛媛果樹試、1989)
(注)散布月日:7月5日、供試樹:温州ミカン(南柑4号)
 

薬剤名 希釈倍数 調査果数 被害程度別果数 被害果率
(%)
被害度
サンマイト水和剤 2,000倍 150 149 0 1 0 0.7 0.3
サンマイト水和剤 3,000倍 124 122 2 0 0 1.6 0.2
ダニトロンフロアブル 2,000倍 144 144 0 0 0 0 0
ケルセン乳剤 1,000倍 150 145 2 2 1 3.3 1.5
無散布 - 150 68 6 2 74 54.7 50.4

チャノホコリダニと被害果