マルハナバチを導入したハウストマト

における害虫の総合的防除

上田 昌弘・田中 寛

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.81/E (1996.10.1) -

 

1.はじめに

 近年、ハウス栽培のトマトにおいて受粉用のマルハナバチの普及が進んでいる。大阪府北部の中山間地、豊能町の農家でも夏秋トマトのハウスでマルハナバチの導入を図ろうとしたが、オンシツコナジラミやナスハモグリバエの発生が多く、また1994年(平成6年)よりオオタバコガの被害が急増し、殺虫剤による防除が不可欠なため、マルハナバチの利用が困難な状況にある。
 そこで、マルハナバチの導入と合わせ、オンシツコナジラミおよびナスハモグリバエに対して天敵を放飼するとともに、マルハナバチの脱出防止を兼ねてハウス開口部を寒冷紗で被覆することによりオオタバコガの防除を試み、好結果が得られたので報告する。

2.マルハナバチ・天敵等の導入経過

 試験は1995年に面積350平米の並列するハウス4棟で実施した。4棟のうち2棟ではPesp苗を5月10日、他の2棟では自家生産苗を6月14日に低植し、7月下旬から10月下旬まで果実を収穫した。なお、マルハナバチ導入前にアブラムシ類やオンシツコナジラミを対象に、DMTP乳剤(スプライサイド)を6月1日、DDVP剤(デス)を6月22日に散布したが、その後は8月29日のトマトサビダニに対するケルセン乳剤野スポット散布を除き、殺虫剤散布は行なわなかった。
 マルハナバチ(ナチュポール1箱)は、6月19日にハウスとハウスの間の開口部と天井部、ならびに両端のハウス開口部をマルハナカンレイシャ(クレモナF2800;目合5.1mm)で被覆した後(連棟ハウスと同等の状態)、2段花房が開花ないし着果する7月4日に放飼し、以後、3日間隔で乾燥花粉を与えた。
 天敵は7月12日にオンシツコナジラミの飛翔を確認した後、オンシツツヤコバチ(エンストリップ4,000匹)を7月19日から8月9日まで1週間間隔で4回、ハウス全体に放飼した。また、ナスハモグリバエも7月上旬に発生が目立ってきたため、コマユバチとヒメコバチ(ミグリファス500匹とマイヌーサ250匹)を7月19日に1回、多発地点に放飼した。

第1表 マルハナバチの訪花状況(8月9日)
ハウスNo. 1 2 3 4
バイトマーク率(%) 97 95 99 95

第2表 オンシツツヤコバチの寄生状況
多発地点において各80小葉を調査
  マミー数/蛹数 寄生率(%)
8月22日 中位葉 22 / 86 25.6
  下位葉 20 / 23 87.0
9月6日 中位葉 93 / 174 53.4

第1図 オンシツツヤコバチによるオンシツコナジラミの防除効果

3.結果

 (1)マルハナバチ

 8月9日に各ハウス100花についてバイトマーク(ハチの訪花による雌しべの傷)を調査したところ、各ハウスとも95%以上の高率でマークが認められ(第1表;マークのない花はほとんどが開花直後のものであった)、また同日に各ハウス20株の2~5段花房について調査した着果数も平均2.6~4.1個であり、満足できる結果が得られた。

 なお、マルハナバチは気温が35℃を越えると活動が低下するといわれているが、豊能町のような中山間地では前述のように盛夏期でも活発に活動を行なっており、結果として2カ月以上の活動期間が確保された。平地においても、暑さで活動が鈍い場合には、梅雨明け前の導入、巣箱周辺やハウス全体の高温対策などの工夫を行なうことにより、盛夏期の利用も可能であると考えられる。

 (2)オンシツコナジラミ

 8月22日と9月6日に調査したオンシツツヤコバチの寄生率は高く(第2表)、オンシツコナジラミの成虫数は9月26日にやや増加したものの、100小葉当り20個体以下の非常に低い密度出あり(第1図)、収穫終期にハウスのごく一部でやや多発する程度にとどまった。なお、蛹が黒くなってマミー(ハチに寄生された蛹)であることがわかるまでには時間がかかるため、実際の寄生率は表に示した数値より高いことに注意する必要がある。
 例年、オンシツコナジラミ対策として薬剤散布を数回行なう必要があり、それでも栽培終了時には無数の成虫が飛び交う状況から比べると、栽培期間中に薬剤散布を行なわずとも被害がほとんどなかったことから、オンシツツヤコバチの実用性は高いといえる。

 (3)ナスハモグリバエ

 例年、定植時期から発生が認められ、薬剤散布を行なうものの、栽培終了時には葉が真っ白になるほどである。8月22日のナスハモグリバエの発生状況調査では、被害痕は確認されたものの幼虫は見られず、また上位葉・中位葉への被害の拡大葉なかった(第3表)。マメハモグリバエに対する他の試験において、薬剤無散布の場合には日本に土着している天敵が活発に活動して被害が非常に少なくなることがわかっており、今回の試験でも放飼した天敵と在来の天敵が共同してナスハモグリバエの発生を抑え込んだのではないかと思われる。

 (4)オオタバコガ 

 はじめに述べたように、1994年の栽培からオオタバコガの発生が著しく増加し、果実や成長点、茎葉などの食害が非常に大きな問題となっている。オオタバコガは幼虫が果実の中や茎の中へ潜入するため薬剤がかかりにくいというだけでなく、薬剤そのものの効果もきわめて低いため、難防除害虫として、緊急な対策を必要としている。
 今回の試験では、マルハナバチの逃避防止を兼ねてハウス開口部をマルハナカンレイシャで被覆し、オオタバコガの被害が防止できるかどうかを試験した。その結果、8月22日の調査時に試験ハウスでは被害がまったく認められなかったのに対し、対照ハウス(寒冷紗被覆を行なっていない隣接するトマトのハウス)では37%の株で被害が認められた(第4表)。このように、寒冷紗被覆によるオオタバコガの防除効果は非常に高く、今後、優れた防除技術として普及を推進したいと考えている。

 (5)トマトサビダニ

 8月中旬頃より発生が見られ、8月29日に被害発生株とその周辺に対し、 ケルセン乳剤をスポット的に散布したが、被害が少なからず拡がり、収穫終了時には一部の株が枯死する事態となった。農薬散布を控えると予想しない害虫が発生することがあり、その場合の臨機応変的な対処放を用意しておく必要性を痛感した。
 なお、トマトではハダニ類やアブラムシ類が発生する場合があり、現在これらの害虫に対する天敵の登録が図られているところであるが(ハモグリバエ類に対する天敵も同様に登録申請準備中であり、今回は試験的に導入した)、今後、サビダニ類に対する天敵の開発も望まれる。

マルハナバチによるバイトマーク マルハナカンレイシャによる
ハウス開口部の被覆

オンシツコナジラミの成虫(白色有翔)
と蛹(淡緑色楕円形)
およびオンシツツヤコバチの
マミー(黒色楕円形)
コマユバチ(ミグリファス)のボトル
の蓋を開けたところ 
(上部の黒いものはハチの成虫)
 

オオタバコガ幼虫によるトマトの被害 トマトサビダニによる被害

第3表 ナスハモグリバエの発生状況
8月22日に各80小葉を調査
 
  被害痕数/100小葉
中位葉 0
下位葉 0
中位葉 55
第4表 オオタバコガの発生状況(8月22日)
  調査株数 被害株率(%)
試験ハウス 80 0
対照ハウス 60 36.7

4.おわりに

 今回、マルハナバチの導入をきっかけに、省力・省農薬を目ざした栽培に挑戦することとなった。栽培農家が結実のためのホルモン処理や農薬散布作業から開放され、その他の管理作業に携わる時間を多く確保できたことから、マルハナバチ、天敵、ハウス開口部の寒冷紗被覆を組み合わせた方法は優れた栽培体系であると考えられる。
 トマトでも多種多様な病害虫が発生するが、他の作物に比べると病害虫が少なく、またマルハナバチの普及によって殺虫剤散布を減らす気運が高まっており、天敵を導入しやすい状況にある。今後、各種の天敵の登録が進み、省力・省農薬の栽培体系の確立に役立つ日ができるだけ早く来ることを願っている。

(大阪府北部地域農協改良センター)
(大阪府立農林技術センター)