固着性展着剤「トモノスプレースチッカー」

(略称=TSS)の使用場面

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.81/F (1996.10.1) -

 

 TSSは、主に保護殺菌剤に加用して、その主剤の効果を高める目的で開発し、1970年に上市され、本年で26年を迎える。発売当初は、カンキツへの使用が中心であったが、その後、リンゴ、ナシといった落葉果樹に使用され、最近では小麦や果菜類にも普及されるようになり、各地で注目を集めている。

固着剤と展着剤の相違点

 固着剤と展着剤は、ともに農薬に加用する補助剤として用いられる。補助剤の働きは、薬液が植物体あるいは害虫や病菌の表面散布された時に、主剤(殺菌剤や殺虫剤など)の効果を高めることを目的としたもので、大別して二つに区分される。
 展着剤は、散布した時点で薬液がまんべんなく広がり、薬液ののりにくい毛茸の多い作物や害虫などにも、全体に均一付着させるものである。散布液の表面張力を小さくする事が必要であり、現在多く市販されている展着剤がこのタイプである。
 固着剤は、散布液の表面張力が一般展着剤より大きく、薬剤を作物の表面に付・固着させ、雨に流されにくくして効果と持続性をより高める働きがある。固着剤と展着剤は、その性能によって使い分けているのが現場かと思われる。
 補助剤の違いによる付着状態の相違を、第1図(模式図)に示した。

トモノスプレーチッカー(略称TSS)とは

 TSSの有効成分は、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル・・・70%を含有する“暗かっ色粘ちょう可乳化液体”で、水を加えると白濁乳化し、1%の乳濁液のpHはほぼ中性であり、常温では極めて安定性が高い。ほとんどの薬剤と混用可能で、特に保護殺菌剤に加用した場合、他の展着剤に比較して薬剤の付着量を増し、雨や露による流亡を抑えて耐雨性をより高める。

TSSの使用場面

 TSSは殺菌剤に加用して散布する補助剤で、植物体に薬剤を付・固着させ、雨や露に流れにくくして耐雨性を高め、効果を持続させる性質から、保護殺菌剤の有機銅製剤(トモオキシラン水和剤、オキシンドー水和剤など)、有機硫黄剤、石灰ボルドー液など急激に分解しない殺菌剤に加用するのが最も適しているといえる。実際の使用場面では、殺菌剤と殺虫剤を混用して散布が行なわれるが、殺虫剤に固着剤を加用しても分解を早めるといったマイナスの影響はないため、このような場合にもTSSを加用して使用することができる。
 TSSの適した作物と使用時期は、果樹類や果菜類および麦類などの露地栽培に適し、梅雨時期など雨の多い時期や散布間隔の長くなる時期に加用するのが効果的である。

第1図 補助剤の違いによる付着状態の相違(模式図)
 

第2図 各作物の主な使用時期(例)
 

TSSの各作物への使用時期

 TSSの各作物への使用時期(例)を第2図に示した。
 カンキツでは、おもに黒点病の防除薬剤にTSSの2,500~3,000倍を加用して散布するのに適している。また、そうか病、かいよう病の防除時期にも使用できる。
 カンキツでは、保護殺菌剤に展着剤(表面張力を少なくして、ぬれやすくする性質の補助剤)を加用すると付着量が減ってしまったり、雨による薬剤の流亡する速度が早まり、一般の展着剤はほとんど使用されてないと思われる。
 一方、TSSは固着性比較試験および付着性比較試験においても、殺菌剤にTSSを加用することにより、初期付着量を多くすることができ、降雨による流亡を抑えることが確認されている(第3、4図参照)。
 ナシでは、「農薬に加用する補助剤の意義と効果」について、鳥取県果樹野菜試験場、内田正人氏が本紙No.49(1988年)とNo.56(1990年)に掲載されており、また、「ニホンナシ幸水の果実のままだら症状と輪紋病被害の同時防止対策」について、大分県農業技術センター、中尾茂夫氏が本紙No.76で掲載されており、固着剤(TSS)のナシ黒班病や輪紋病の有効性および果実品質向上について、詳細な解説がなされているので、ご一読頂ければ幸いである。

第3図 ミカン葉、果実における固着性比較試験(トモノアグリカ1994)
 


 ナシでのTSSは、二十世紀・幸水・豊水・新高などに使用でき、主に5月下旬頃から7月の黒班病、黒星病、輪紋病防除で保護殺菌剤を使用する時に、TSSの2,500~3,000倍を加用して散布するのに適している。また、収穫後の殺菌剤散布への加用による効果アップや萌芽後~開花前の殺菌剤散布への加用にも使用できる。
 リンゴでは、サビ果助長の傾向も見られず、生育期全般の使用ができるが、保護殺菌剤が使用される5月下旬から8月にかけてTSS2,500~3,000倍を加用して散布するのに適している。
 ボルドー液や炭酸カルシウム剤に加用すると、雨に弱い石灰分の飛散を抑え、袋掛け、除袋等の作業がしやすくなる。また、雨に弱い石灰分を長期に付着さっせるので、シンクイムシの産卵忌避や被害防止に役立つことがある。
 カキでは、年間の防除回数が比較的少ない為、保護殺菌剤を散布する場合、できるだけ長く薬剤を付着させておく必要がある。使用事例から、梅雨期の炭そ病・落葉病等の防除時期に保護殺菌剤にTSS2,500~3,000倍の加用が適している。
 ブドウでは、果実の着生期に展着剤を使用すると、果実の果粉溶脱を生じやすいことから、一般的には展着剤の使用はほとんどないものと思われる。しかし、最近では開花前の展葉期での展着剤の加用による検討も行なわれており、今後、その時期での使用は多くなってくるものと思われる。TSSも萌芽期~開花前の展葉期の枝膨病防除の殺菌剤への加用で高い効果が得られた例もあり、黒とう病の防除と共に期待がもてる。
 果菜類(スイカ・メロン)の露地栽培や麦類でも、雨の多い殺菌剤散布時にTSSの加用が増えてきており、この場面でも期待されている。
 果樹全般では、樹幹病害の予防のため休眠期に石灰硫黄合剤が散布されているが、この際のTSS加用による散布は長期付着を助けている。

第4図 ミカン葉における付着性比較試験(トモノアグリカ1994)
 

第5図 TSSの希釈方法
 

TSSの希釈方法

 TSSの原液は粘土が高いため、良好な散布液を作るのがコツである。つまり、固着性本来の目的である。「耐雨性を高める」「長期間付着させる」性質から二次希釈が必要となる。まず、バケツ等小さな容器を準備し、少量の水によくとかした後、薬液槽(散布用大型タンク等)に投入しよく攪拌する。この場合、主剤(殺菌剤等)の調合は、TSSの濃厚液を薬液槽に加える前でも後でもどちらでもよい(第5図参照)。