ニンニクの害虫とその防除

石谷 正博

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.82/A (1997.1.1) -

 

1.はじめに

 青森県におけるニンニクの栽培面積は1970年以降増加し、現在では栽培面積、生産量ともに全国の半分以上を占めるに至っている。しかし、ここ数年は安い外国産のニンニクが国内で販売されるようになり、生産量より品質で勝負しようとする生産者の意識が働いて、栽培面積はやや減少傾向にある。
 青森県で問題となっている害虫の中には、畑で被害をもたらす害虫の他、畑から引き継いで収穫後乾燥・調整中に被害を顕在化させる害虫もいる。
 個々の害虫による被害様相とその害虫の防除法について理解し易くするために、ニンニク栽培の一般的作業について簡単に紹介する。
 播種は9月下旬~10月上旬に、収穫は行なわれる。収穫後直ちにりん球部(食用部)の乾燥を行ない、商品として調査する。りん球部の乾燥は35℃前後の温風通風機を利用して強制的に行なうのが普通である。

第1図 性フェロモントラップによる成虫誘殺消長
(注)誘殺数は1982~1991年の平均値
 

2.主な害虫の被害様相とその防除法

 (1)ネギコガ

 圃場におけるネギコガ成虫の発生消長(第1・2図)から判断して、ニンニクにおける幼虫による被害は春から収穫期まで2回発生する。幼虫はふ化直後葉身内に食入し、葉の内部の柔組織を食害しながら発育する。このような加害様式をみせるため、被害の発見は、葉表に幅2~3mmの細長いかすり状の食害痕を見つけてからということになる。しかし、この時期に殺虫剤の散布を行なったのでは被害を抑えることは困難である。葉身内に幼虫が潜り込んでいるので薬剤が直接かからないためである。被害を防止するためには、殺虫剤の散布がふ化幼虫の食入開始時期に行なわれる必要があろう。その新世代の成虫発生消長を性フェロモントラップでモニターして防除時期を設定する方法が検討された1)。それによれば、誘殺数が上向きに転ずる時期に散布剤を散布すると防除効果が高かった。誘殺始めや誘殺最盛期以降の散布では下記にあげるいずれの散布剤を用いた場合でも防除効果が劣った。誘殺数が上向きに転ずる時期が食入開始時期の目安になるものと考えられる。第2図に示されるように、当然のことではあるが、誘殺消長には年次変動が認められる。生産圃場に性フェロモントラップを設置し、成虫発生消長をモニターして、散布時期を決定するようにすれば、それぞれの発生時期での1回の散布で効率的な防除が可能と考えられる。
 登録剤のダイアジノン水和剤1,000倍液、フルバリネート水和剤(マブリック)2,000倍液、プロチョホス乳剤(トクチオン)1,000倍液およびオルトラン水和剤1,000倍液はいずれも有効である。

第1図 ネギコガ:老齢(4歳)幼虫(青森農試原図)(左)
と、幼虫による被害

 
第2図 性フェロモントラップによる成虫誘殺消長の年次変動
(1982~1991、青森畑作園試)
 

 (2)ネギアザミウマ

 1989年収穫のニンニクにおいて、りん片の保護葉(薄かわ)を剥ぐとその表面が凸凹して褐変する被害が多発生した。その原因はネギアザミウマの吸汁によるものであることが判明した2)。このようなりん片上では成・幼虫の存在も確認できる。畑にて茎葉に寄生していたネギアザミウマが収穫したりん球と一緒に持ち込まれ、乾燥調整中にそれらが増殖して被害をもたらしたと考えられている。現在、畑におけるネギアザミウマの発生量と被害量の相関について検討しているが、明確な関係は得られていない。どのような理由によるものか?現在では1989年および翌年の1990年に問題となったほどの被害は現われていない。被害が問題になった時点で明らかになったこととして、被害の多少と収穫りん球の葉鞘(6個内外のりん片を全体として包み込んでいる)の亀裂の有無の関係がある(第1表)。りん球の葉鞘がしっかりしているものでは被害はほとんど認められなかった。このことから、適正な栽培管理と適期収穫に努め、りん球の亀裂を生じさせないことが被害発生を抑えるうえで重要と考えられる。

 (3)チューリップサビダニ 

 1989年収穫のニンニクにおいて、りん片の保護葉(薄皮)を剥ぐと、ネギアザミウマのそれとは異なる被害が認められた。被害りん片は表面の光沢がなくなって、はじめ淡黄色、やがて黄褐色を呈する。その原因はチューリップサビダニによる吸汁害であることが判明した3)。このようなりん片表皮上では無数のダニが観察される。この虫についても、畑にて茎葉に寄生していたものが収穫したりん球とともに持ち込まれ、乾燥調整中に、増殖し被害をもたらしたものと考えられている。
 成・幼虫が寄生したりん片を種子として植え付けると、萌芽葉や葉鞘のワックスが消失し、すじ状に黄化する。また、葉鞘はねじ曲がったり、カールしたりして奇形を呈する。これらは畑で観察できるチューリップサビダニによる初期の被害症状である。これらの症状が顕著な株でさえ、その後は収穫期まで茎葉での成・幼虫の寄生を極少数しか認めることはできない。また、収穫直後のりん球のいずれの部位においても成・幼虫の寄生は極少数である4)。これが収穫後のりん球の乾燥・調整段階で急激に増加し、被害をもたらしているというのが実態である。なお、チューリップサビダニの増殖は15~30℃の範囲で認められ、25~30℃の高温条件で最も増殖する。
 最近になって、チューリップサビダニはGMbMV(Garlic miteーborn mosaic virus)を媒介することが明かにされた5)。本ウイルスの蔓延を防止する意味でも防除対策の具体的策定が急がれている。前述したとおり、本種の発生生態についてはまだまだ不明な点が多いが、その中にあって、 ピリミホスメチル乳剤(アクテリック)1,000倍液およびフェニソブロモレート乳剤(エイカロール)1,500倍液に種子用りん片を植え付け前に2時間浸漬する方法は種子りん片から本種を除去する方法として有効である。(第2表)。この処理を行なうことにより、少なくとも種子りん片によるチューリップサビダニの圃場への持ち込みが防止できる。

第1表 ニンニクりん球の亀裂とネギアザミウマの被害(青森畑作園試、1991)
亀裂程度 調査りん球数 調査りん片数 被害りん球率(%) 被害りん片率(%)
100 620 66.0 26.9
100 575 45.0 17.6
100 503 6.0 2.2

ネギアザミウマ:成虫(左)と被害りん片(青森畑作園試)
 

第2表 ニンニクのチューリップサビダニに対するりん片浸漬薬剤の防除効果
(青森畑作園試験、1993)
(注)タングルトップ症状:葉が正常に展開せず、よじれたり曲がって伸長する。
調査日:1993年3月19日(a)および5月10日(b)
[試験場所]
供試薬剤
希釈倍数 浸漬時間 タングルトップ
発生株率(a)
サビダニ
寄生株率(b)
サビダニ
寄生数(b)
薬害 
[雨よけハウス]     頭/株  
アクテリック乳剤 1,000倍 120分程度浸漬 17.2 0.0 0.0 -
エイカロール乳剤45 1,500倍 120分程度浸漬 15.2 12.5 0.13 -
無処理 -   53.6 75.0 144.0  
[路地]     頭/株  
アクテリック乳剤 1,000倍 120分程度浸漬 0.0 10.0 0.13 -
エイカロール乳剤45 1,500倍 120分程度浸漬 0.0 0.0 0.0 -
無処理 -   0.0 36.3 1.3  

 (4)イモグサレセンチュウ

 1984年11月にイモグサレセンチュウによる被害が初めて確認された。その後、県農業試験場を中心にニンニク畑における本種の生活環の解明に関する研究が行なわれ、第3図に示される生活環と被害の関係7)が明らかとなった。

 第3図の中で生産農家が体験する被害発見場面について述べてみる。

  1.  植え付け後、未萌芽となったり、萌芽しても枯死株が多発して被害に気づく。これらの被害はイモグサレセンチュウの寄生りん片をそれとは気づかずに種子りん片として用いた場合に多い。
  2.  収穫後、乾燥・調整中に、りん片の盤茎部付近から腐敗が多くのりん球に認められ、被害に気づく。このような場合は生産圃場が本種に汚染されているとは気づかずに植え付けを行なった場合である。


 既発生圃場で栽培を継続し、イモグサレセンチュウの被害を完全に防止することは困難である。ニンニクの再生産を確実に行なうためには種子の更新と新しい生産圃場の準備が重要である。どうしても既発生圃場を利用して栽培せざるを得ない場合には、以下にあげる有効な防除手法をすべて組み合わせた体系的防除が必要である。

  1. 土壌消毒を行なう。
     現在、使用できる土壌消毒剤としてはダゾメット剤がある。土壌を耕起整地した後、10a当り30kgをできるだけ均一に散布し土壌とよく混和する。ダゾメット剤の殺線虫効果は混和層に限られるため、できるだけ深く2回以上耕起して下層土壌まで良く混和する。混和後ただちにポリエチレンフィルム等で被覆し、14日間以上経過してからガス抜きを行なう。
  2. 種子消毒を行なう。 
     種子重の1%量のチウラム・ベノミル水和剤(ベンレートT)を種子りん片に湿粉衣する。この処理は土壌からの線虫の侵入防止に有効である。
  3. 適期収穫 
     第3図に示されるように、線虫はりん球肥大期から収穫期に再び根や土壌からりん球に侵入し急増する。収穫が遅れるとその分だけりん球内への線虫の侵入が進むものと考えられるので、収穫は早めに実施する。
  4. 収穫後の強制乾燥
     収穫後速やかに根を切り落とし、温風通風装置などを利用して、およそ35℃で2週間強制乾燥する。盤茎部に生存する線虫が急激な乾燥により死滅し、貯蔵中のりん球腐敗の進行を防止できる(第4図)。

チューリップサビダニ:成虫と幼虫(左上)、被害りん片(青森農試原図)と、
寄生による萌芽葉の奇形(右)

 

第3図 イモグサレセンチュウのニンニクにおける生活環と被害との関係
(青森農試・青森畑作園試編(1996)にんにくのイモグサレセンチュウの生態と防除より)
 

イモグサレセンチュウ:成虫(左)と寄生りん片
(寄生部位は変色しスポンジ状を呈する)
(青森農試原図)
 

第4図 収穫後の線虫増殖と被害に対する強制乾燥の効果
(青森農試・青森畑作園試編(1996)にんにくのイモグサレセンチュウの生態と防除より)
 

(5)その他の害虫

  • タネバエ 
     植え付け後、萌芽揃いの頃(11月上旬頃)老齢幼虫が葉鞘の地際部に寄生し被害を与えることがある。植え付け前の未熟堆肥の施用や緑肥作物および全作作物の土壌への鍬込みが被害発生の原因となっている場合が多い。
  • ネダニ類
     ネダニ類も時に発生する。しかし、それらは黒腐菌核病などの土壌病害と併発している場合が多い。現時点では、何らかの原因により株の地下部の腐敗が先行し、それに付随して本種が発生するものと考えている。
  • 行きずり的なアブラムシ類
     GLV(Garlic latant virus)8)およびLYSV(Leekyellow stripe virus)9)感染による株の生産力低下も問題になっている。これらの蔓延には行ずり的なアブラムシが関与している8)

3.おわりに

 ニンニクの主要生産県である青森県における害虫の発生とその防除の現状について概説した。個々の害虫について、その発生生態が十分解かっていないものが多い。したがって、その防除対策も完全でないものが多い。使用できる殺虫剤の種類が少ないこともあるが、不十分な点が解き明かされることによって、防除法のあり方もより完全なものになっていくであろうと考えている。

     文献

     (1)石谷正博(1992)今月の農薬36(11):70~73

     (2)市田忠夫・藤村建彦(1991)北日本病虫研報42:197(講要)

     (3)市田忠夫・藤村建彦(1993)北日本病虫研報43:151~158

     (4)藤村建彦ら(1986)日線虫研誌16:38~47

     (5)村井智子・佐藤信男(1994)北日本病虫県研報45:192~194

     (6)山下一夫(1991)植物防疫45(7):38~41

     (7)山下一夫ら(1995)日植病報61:273(講要)

     (8)山下一夫ら(1996)日植病報62:483~489

     (9)青森農試・青森畑作園試編(1996)にんにくのイモグサレセンチュウの生態と防除pp4~5

(青森県畑作園芸試験場)