世界の農薬事情1-アメリカ編

不耕起栽培の普及

竹内 豊

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.82/B (1997.1.1) -

はじめに

 日頃“アリスタ ライフサイエンス農薬ガイド”は、国内の当社取り扱い農薬の話題を中心にお届けしておりますが、今後の農業の貿易自由化、国際化の流れを念頭に置き、当社の海外における農薬事業、取り扱い農薬について、今後ご紹介をする欄を設けることとなりました。
 今回は、米国を題材に、その一般的な農薬市場概観から、昨今の話題の一つである不耕起栽培、および現地で設立されているアリスタ ライフサイエンスアグロ社につき、以下ご紹介するものです。

マーケット概観

 1995年の全世界における農薬市場は、約300億ドルといわれ、暫くはこれが堅調に伸びるとの見方が強く、2000年までには320億ドルに達するのではとの見方が多い。中でも第1表にある通り、ドルベースで見た場合、西欧の主要国での伸びが高く、それに、NAFTA加盟の北米3国が続いている。西欧については、1990~93年にかけてマーケットの後退が続いていたが、自国通貨高に伴う為替の要因を差引いた実質ベースでも、5%程度の伸びを示している。
 北米の農薬市場は第1図にある通り、全世界の約1/4を占める巨大市場であり、その中でも米国は80億ドルと2位の日本に大きく差をつけて世界一の農薬市場となっている。
 この巨大な米国市場を地域別代表作物で見たものが第2図であるが、これを農薬の販売金額で見ると、第3図のようにトウモロコシ・大豆・綿・果樹・野菜・それに小麦・大麦・ソルガム等穀類の順となる。この中では、近年タバココナジラミの大発生を背景にしたカリフォルニア・アリゾナ州等西部での綿・野菜等への使用の伸びが目立っている。
 第4図の通り用途別に見ると、特に日本との比較で明らかなように、中西部の大型作物対象の除草剤使用が圧倒的に多く、これに殺虫剤が続き、殺菌剤の使用は果樹・野菜を中心に限られたものとなっている。
 好調な果樹・野菜分野とは対照的に、1983年から始まったPIK(PAYMENTIN-KIND)と呼ばれる強行な穀物減反政策の反動により、1980年代後半は、作付け面積・農薬市場拡大の基調にもかかわらず作物相場の下げ傾向が続き、その結果農家経済も低迷、多くの農家が借金に苦しむ結果となった。しかし、1990年代に入り、春先の低温多雨による作付けの遅れという天候条件が幸いした形で、大豆・綿等大型作物で相場が上昇基調に転じ、作付けの増大も見れるようになった。
 これを背景に特に米国での農薬市場の堅調な拡大基調が、しばらく続くものと見られている。

国名 % Sales Growth 1995/1994
アメリカ +7.8
日本 -5.3
フランス +23.6
ブラジル +13.9
ドイツ +28.8
イタリー +8.9
カナダ +12.9
韓国 +4.4
イギリス +4.7
スペイン +14.0
その他 10.7
合計 +8.8

不耕起栽培

 上記の作付けの増大、タボココナジラミの大発生に加え、遺伝子組替えによる薬剤抵抗性種子の開発上市、天敵・微生物応用による生物農薬野ベンチャー企業の乱立から淘汰等、何かと話題の多い業界であるが、南米をも含む米州の大豆・トウモロコシ・小麦分野で近年最も注目されているのが、NO-TILLあるいはLOW-TILLと呼ばれる不耕起栽培である(第2表)。薬剤対抗性種子の上市による影響もあるが、何よりこの不耕起栽培の普及により除草剤の使用に変化が起こっている点に注目したい。
 不耕起栽培は、日本でも一部の水田で行なわれていると聞くが、文字どおり、春先の畑地の耕起を省略して播種をする栽培方法である。
 米国では、1980年代の前半には、風水による年間表土侵食が17/haまで達したといわれ、政府の補助金政策が後押ししたこともあり、その普及率は、オハイオ・インディアナ・イリノイ・ケンタッキー州等中西部を中心に、1987年の10%未満から現在の50%を超える勢いへと急激に拡大している。(第3表)。
 不耕起栽培がここまで普及している理由として、前述の表土侵食防止の要素が大きいが、非選択性、あるいは発芽後・茎葉処理タイプの除草剤の有効利用による作業の省力化、あるいは大豆・綿分野に代表される遺伝子組替えによる除草剤抵抗性作物の開発等・大きな意味で農業技術の近代化を背景にした低コスト・省力化の流れがあると言える。
 具体的には、耕起作業+発芽前除草剤の処理+播種という作業体系から、春先の厄介な耕起作業を省略し、播種直前の茎葉処理剤散布+播種へと作業体系を省略しつつ、除草剤の有効利用によりコスト削減・土壌中水分の保持などその他の利点も総合的に実現しようとするものである。
 この結果、この分野のみを対象とした具体的統計は見当たらないが、遺伝子組替えによる抵抗性種子向け非選択性除草剤の販売とあいまって、特に大豆・綿を対象に組葉処理剤全般の需要が確実に伸びているといわれている。
 不耕起栽培の継続により、多年性雑草が増える等問題点も指摘されているが、何よりも春先の天候不順が続いている中西部にとっては、天候により播種の準備作業が遅れても、これにより作業時間を調整出来るという大きなメリットがあり、普及は堅調に広がるものと見られている。

第2図 米国における地域別代表作物

第3図 米国における作物別農薬販売の割合
(1994年版ウッドマッケンジー社資料)

第4図 米国における用途別農薬販売の割合
(1994年版ウッドマッケンジー社資料)

第2表 米国における州別不耕起栽培普及率
Source : U.S. Department of Agriculture,
Natural Resources, and Environmental Division's AREI update 1995 #6
and National Agricultural Statistics Service
(表3も同じ)
50% or more 25 - 50% 10 - 25%
Ohio Nebraska Minnesota
Indiana North Carolina Kansas
Illinois Iowa Mississippi
Kentucky    

第3表 米国における作物別にみた不耕起栽培普及率
  高侵食性土壌 通常土壌
Soybeans  66%  47%
Corn 56 40
Spring wheat 45 34
Winter wheat 24 13
Cotton <10 <10

アリスタ ライフサイエンスアグロ社の設立

 同社はシェブロン社より買収した3剤(殺虫剤:オルトラン・セレクト)の運営を目的に、1992年3月にサンフランシスコに設立された。この3剤の各国のディストリビューターへの販売活動が中心でありますが、現在は、各分野の専門家を揃えて、新剤の導入・開発・製造・普及・販売と幅広い活動を行なっており、当社の世界における農薬戦略上も極めて重要な位置を占めている。 この中で、セレクトは畑作茎葉処理剤として、日本でも現在39ケ国で登録されており、日本でも現在登録申請中となっている。米国は住友化学子会社のベーレント社にて取り扱われているが、中でも難防除雑草と言われ問題になっている多年生のジョンソングラス(Sorghum halepense(L.)Pers.和名:セイバンモロコシ)等に効果が高く、また前述の不耕起栽培で使える茎葉処理剤の一つとして需要が伸びており、米州を中心に大豆・綿・菜種・テンサイ分野で重要な剤となっている。

((株)アリスタ ライフサイエンス生物産業部)