オンシツツヤコバチ成虫のコナジラミ幼虫に対する

寄主体液摂取

松井 正春

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.83/C (1997.4.1) -

 

はじめに

 オンシツツヤコバチは、1995年(平成7年)にトマトに発生するオンシツコナジラミの天敵昆虫として農薬登録され、実用段階に入った。しかし、本寄生蜂による防除を成功させるためには、

  1. 天敵放飼時までにコナジラミを極く低密度にしておく
  2. コナジラミの発生状況をモニタリングして放飼開始時期を決定する
  3. 天敵利用の間は天敵に影響の少ない薬剤のみを使用する
  4. 防虫網等で施設内への害虫の侵入を防止する

等々、多くの技術的留意点がある。また、シルバーリーフコナジラミの同時防除についても注意を払う必要がある。天敵利用は化学農薬の使用と比べ複雑であるが、天敵利用に関する知識を増やし、実践を積み重ねることにより、マルハナバチと組み合わせた減農薬、省力栽培のメリットが実感できるようになると思われる。
 本稿では、オンシツツヤコバチの生物的特性についての理解を深めるための一助として、本寄生蜂によるコナジラミ幼虫に対する寄主体液摂取(hostfeeding)について触れてみたい。

オンシツツヤコバチ成虫による寄主体液摂取とは?

 オンシツツヤコバチ成虫は、コナジラミ幼虫の背面から産卵管を挿入し産卵するが、一部は産卵管を引き抜きその穴からコナジラミ幼虫の体液を摂取し(写真)、卵形成に必要なタンパク質源を得る。寄主体液摂取されたコナジラミ幼虫は、多くの場合死亡する。他に、成虫はコナジラミの排泄物である甘露を摂取し栄養源にしており、また、植物体からの滲出液も吸って水分補給している。
 寄主体液摂取に至るオンシツツヤコバチ成虫の行動パターンは産卵の場合とほとんど同様であるが、産卵管を引き抜く前に挿入孔を拡大するように尾部を動かす行動をとる場合が多い。

第1図 オンシツツヤコバチ成虫がオンシツコナジラミの各齢期の幼虫に遭遇した時、
産卵する確率(折れ線グラフ)および寄主体液摂取する確率(棒グラフ)

(Nellら、1976)
 

オンシツコナジラミ幼虫に産卵管を挿入しているオンシツツヤコバチ
 

寄生体液採取(host-feeding)中のオンシツツヤコバチ
 

どの幼虫齢期を好んで寄主体液摂取を行なうか?

 オンシツツヤコバチ成虫は、オンシツコナジラミの各齢幼虫が混在する場合には寄主体液摂取を2齢幼虫に対して最も高率に行ない、次いで4齢後期の幼虫に対して行なった(Nellら、1976)(第1図)。寄主体液摂取の行動は、成虫がコナジラミ幼虫と遭遇し、産卵管を挿入するという一連の行動パターンに続いて起こる。オンシツツヤコバチ成虫は、小さな若齢幼虫よりも大きな中、老齢幼虫ほど遭遇確立が高く(Van Lenterenら、1976)、また、産卵管挿入率も高い(Nellら、1976)。一方、若齢幼虫ほど寄主体液摂取に利用される割合が高い(荒川、1981)。このため、各齢期が混在する場合の見かけ上の寄主体液摂取の頻度は、それぞれの段階における行動割合を反映しているものと思われる。
 一方、シルバーフコナジラミの場合には、幼虫の齢期による寄主体液摂取頻度の差はない(Enkegaard、1993)か、あるいは2齢でやや高いが有意差はない程度である(梶田、1993)。
 両種コナジラミについて、4齢幼虫密度と寄主体液摂取頻度との関係を比較すると、共に飽和型曲線となる。しかし、オンシツコナジラミの場合は、幼虫密度が上がっても寄主体液摂取の頻度は低く、その極限値は約2頭(1頭の成虫を3時間放飼)であり(荒川、1981)、一方、シルバーリーフコナジラミの場合には約3頭とやや高い。これは、シルバーリーフコナジラミ幼虫の方が小さいために、より多くの幼虫が寄主体液摂取に利用されるためと考えられている(梶田、1993)。

オンシツツヤコバチ成虫による寄生と寄主体液摂取の比較率は?

 オンシツツヤコバチ成虫によるコナジラミ幼虫の死亡原因には、寄生と寄主体液摂取の2通りがある。寄生頻度に対する寄主体液頻度の比率は、コナジラミ幼虫の齢期によって大きく異なるが、各齢込みでは20~30%程度と思われる(第1表)。
 コナジラミ幼虫の齢期ごとに、寄生と寄主体液摂取に利用される幼虫数の比率をみると、オンシツコナジラミ、シルバーリーフコナジラミとも同じように若齢幼虫ほど寄生主体液摂取に利用される割合が高くなる(荒川、1981;梶田、1993)。これは、オンシツツヤコバチ成虫がコナジラミ幼虫の大きさを認識しているためと考えられる。確かに、オンシツツヤコバチ成虫はコナジラミ幼虫に遭遇すると、産卵管挿入に先立って、幼虫のサイズを測るように触角で幼虫の体表ないし周縁部をなぞる行動を行なう。

第1表 オンシツツヤコバチ成虫によるオンシツコナジラミ幼虫に対する
寄生と寄主体液摂取の比率
コナジラミの幼虫齢期 寄主体液摂取/寄生 (%) 発表者
1齢 10.2/10.6 96.2 荒川(1981)
2齢 5.3/11.9 44.5
3齢 2.9/14.2 20.4
4齢 1.9/13.0 14.6
各齢 50/147 25.6 Liu and Tian(1987)

シルバーリーフコナジラミ成虫
 

第2図 オンシツツヤコバチによるシルバーリーフコナジラミ4齢幼虫寄生率
と主に寄主体液摂取に寄る3・4齢死率との関係
(松井、1995)
 

施設内で実際に寄主体液摂取は起こっているのか?

 オンシツツヤコバチを放飼した施設栽培トマトで、寄生率と寄主体液摂取によると思われる死亡幼虫密度との関係をみた。その結果、施設内のオンシツツヤコバチの成虫密度を反映すると考えられる寄生率が高いほど、寄主体液摂取によると思われる死亡幼虫の密度も高まる傾向が認められた(第2図)。このように施設内でも実際にオンシツツヤコバチ成虫による寄主体液摂取が活発に行なわれていると推定される。寄主体液摂取に影響を及ぼす環境条件として、温度の低下はその頻度を低くし、相対湿度の低下は頻度を高め、光条件も影響する(Liu and Tian,1987)。

おわりに

 低密度のコナジラミに対して、大量のオンシツツヤコバチを放飼し続ければ、寄生率が低い状態でも寄主体液摂取により相当の防除効果が期待できると考えられるが、この方法はコスト的に困難である。わが国におけるオンシツツヤコバチの利用法は、少数のコナジラミ成虫が見つかってからマミーカードを4~5回吊り下げることにより、本寄生蜂を施設内に定着させ、コナジラミ密度を低レベルの平衡状態に維持しようというものである。西欧等で行なわれている長期間反復放飼する方法よりも、それだけ高度の知識と経験を必要とすると言えよう。

(野菜・茶業試験場虫害研究室)