長野県におけるブドウ病害の発生と防除

川合 康充

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.84/B (1997.7.1) -

長野県のブドウ栽培の概要

 長野県のブドウ栽培は1889年(明23)に醸造用ブドウの植栽に始まった。その後は加工用品種が定着し、1965~1975年には巨峰に代表される生食用ブドウへの転換が進んだ。現在の栽培面積は約2,500ha、全国第2位の生産量を有するようになった。
 本県の品種構成は巨峰が全生産量の約80%以上を占め、その他はナイヤガラ、デラウェア、醸造用品種などが生産されている。
 近年、ビニール被覆による施設栽培が、作期の拡大や生産の安定、高収益、二期作などを目的に導入されており、全面積の10%を占めるようになった。


第1表 巨峰の主要病害と防除時期

 


▲べと病 被害葉と葉裏の病斑(右)
 


▲べと病 果房被害

 

ブドウ病害の防除の考え方

 長野県のブドウの生育ステージ別の病害発生と防除期間を第1表に示した。
 防除基準に取り上げている対象病害は9病害、べと病、晩腐病、灰色かび病、黒とう病などである。この中でも、べと病を最重要病害と位置付け、生育期間中は常にべと病に効果のある薬剤を基幹剤に採用している。他の病害に対してはべと病との同時防除が可能な薬剤を採用し、灰色かび病などは専用剤を混用して対応している。
 薬剤の選択にあたっては防除効果の他に果房外観に及ぼす影響を把握する必要がある。巨峰は“高級くだもの”として外観の良好さが重視されるため、汚れや果粉(ブルーム)溶脱など外観を損ねることが少ない薬剤の選択が必要となる。
 施設栽培では雨媒伝染性病害の発生が少ないので、灰色かび病、褐班病が問題になる程度であり、防除対応は露地栽培とはかなり異なる。

供試薬剤 希釈倍数 病葉率(%)
オーキサイド水和液 800 10.4
キノンド-水和液 1200 11.9
ジマンダイセン水和液 1000 12.7
無処理 - 86.5

第2表  オーソサイド水和剤のべと病防除効果(長野果試、1995)
  品種:巨峰
処理月日:6月20日(落花直後)、6月27日
調査:7月24日

供試薬剤 希釈倍数 病葉率(%) 病房率(%)
オーキサイド水和液 800 9.5 2.2
ポリベリン水和液 1000 11.8 2.5
ロブラール水和液 1500 23.8 5.3
無処理 - 33.8 9.3

第3表  オーソサイド水和剤の灰色かび病防除効果(長野果試、1995)
  品種:巨峰(加温施設栽培)
処理月日:4月1日(開花直前)、10日(落花直後)、18日
調査:5月15日

供試薬剤 希釈倍数 病葉率(%) 病房率(10葉)
オーキサイド水和液 800 4.0 1.4
キノンド-水和液 1200 2.7 0.8
ジマンダイセン水和液 1000 2.4 0.8
無処理 - 41.3 47.0

第4表  オーソサイド水和剤の褐班病防除効果(長野果試、1995)
  品種:巨峰
処理月日:6月20日(落花直後)、27日
調査:7月24日

 

主要病害の防除対策

(1)べと病

 長野県では1972年(昭47)頃から発生するようになった。天候不順な年には壊滅的な被害を受けることもあり、ブドウ栽培における最重要病害と言える。
 べと病は降雨が多く気温が高めに経過すると多発する傾向にある。発生は開花期前後からみられることが多い。1995年(平7)には梅雨期の長雨によって薬剤散布が遅れ、落花期頃から果房発病が多発して甚大な被害を受けた。
 防除は展葉6~8枚期から8月中下旬まで必要である。特に、梅雨期と重なる開花~7月上旬は重要な防除時期となる。
 展葉6~8枚期にホセチル・チャプタン水和剤、開花直前、落花直後にはマンゼブ水和剤や有機銅水和剤、チアジアジン水和剤のいずれかを散布する。7月上旬には果粉溶脱や汚れが少ないキャプタン水和剤を晩腐病防除を兼ねて用い、袋掛け後はボルドー液を8月下旬~9月上旬まで2~3回散布する。
 耕種的防除として、薬剤がかかりやすいように新梢整理を行ない、窒素過多を避けて適正な樹勢を維持することが重要である。また、早期に袋掛けを行なって果房感染を防ぐ。

(2)晩腐病

 デラウェアを中心に発生が多かったが、巨峰栽培への移行にともなって被害は少なくなった。しかし、長梅雨の年には多発して問題になる。
 6月下旬~7月にかけて果房に感染し、収穫期に袋内で2次感染をして思わぬ被害を受けることがある。
 薬剤防除は発芽前の防除と落花期~袋掛け前が重要である。休眠期にはイミノクタジン酢酸塩液剤、ベノミル水和剤、有機銅・チアベンダゾール水和剤を散布する。生育期間中は開花期前後にマンゼブ水和剤、チアジアジン水和剤のいずれかを散布する。7月上旬にはキャプタン水和剤を散布する。早期に傘掛けや袋掛けを実施すると被害が軽減される。

(3)灰色かび病


▲灰色かび病 被害葉と被害果実(右)

 施設栽培の普及にともなって重要性が増した妨害である。輸送中や店頭における果実腐敗は産地の信用を著しく損ねる。
 また、灰色かび病菌は数種の薬剤に対して感受性が低下しており、耐性菌のモニタリングや防除効果に及ぼす影響調査が新たな課題となっている。
 発生は開花期頃からみられ、特に花~幼果と熟果に多く、これらの時期に湿潤な天候が続くと多発する。熟果では収穫前の長雨による裂果から多発する場合が多い。
 薬剤防止は開花直前、落花直後、落花10日後頃が最も重要で、イプロジオン水和剤、ポリオキシン・イミノクタジン酢酸塩水和剤、チオファネートメチル・ジエトフェンカルブ水和剤などの作用性の異なる薬剤を散布する。
 開花直後は灌水を控えて施設内の湿度低下に努め、花かす落としを実施する。発病した花穂、果房は伝染源になるので取り除くなどの耕種的防除も併せて実施する。

(4)褐班病


▲褐斑病 被害葉

 施設栽培の巨峰で問題となる病害である。葉に発生し、収穫期頃には早期落葉を招いて果実品質を低下させる。
 施設栽培での多発要因は、発芽前の防除を省略したり、果房外観を重視するあまりに薬剤散布を早期に打ち切るためである。
 露地栽培ではべと病、晩腐病などと同時に効率よく防除される。施設栽培では灰色かび病と同時防除を兼ねてチオファネートメチル・ジエトフェンカルブ水和剤、キャプタン水和剤などを落花10日頃まで散布する。

(5)黒とう病


▲黒とう病 被害葉

 巨峰の発生は少ないが、欧州系品種は極めて罹病性であるので問題になる。
 休眠期散布による防除効果が高い。イミノクタジン酢酸塩液剤、ベノミル水和剤、有機銅・チアベンダゾール水和剤のいずれかを散布する。生育期間中は晩腐病、べと病を対象にした防除で同時防除される。

(6)根頭がんしゅ病

 根頭がんしゅ病は凍害が誘因となるため、長野県のような寒冷地では発生が多い。これまでデラウェア、ナイヤガラでは発生が少なかったが、巨峰、ピオーネなどの罹病性品種の導入によって被害が拡大した。
 ブドウの場合は根部や台木部に発生が少なく、主幹や棚上の主枝、側枝の発生が主体である。
 現在のところ有効薬剤はなく、予防対策や治療法に苦慮している。
 適正な施肥管理、新梢管理による耐寒性の向上と冬期間の主幹部へのワラ巻きなどの耕種的な対策が有効である。しかし、棚上の発病防止対策など課題は多い。

(長野県果樹試験場)