鹿児島県におけるチャノキロアザミウマの発生と防除

神嵜 保成

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.84/C (1997.7.1) -

 

1.はじめに

 茶を加害する害虫の種類の多く、被害が問題になるものだけでも20種以上に達するといわれている。
 なかでも、チャノコカクモンハマキとチャハマキは葉を直接食害し、収量に及ぼす影響が大きいことから、これらを主対象とした防除がなされてきた。
 その結果、最近では、チャノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイ、カンザワハダニ、クワシロカイガラムシなどの吸汁害虫の発生が問題化し、防除に多くの労力と経費を要するようになってきた。
 ここでは、これら吸汁害虫のうち、鹿児島県で1977年(昭52)頃から著しく発生が増加し、問題となっているチャノキイロアザミウマについて、生態や防除法について述べてみたい。

2.生態

 越冬は主に成虫で行ない、ハマキムシの巻葉内、地表に堆積した落葉の下などに潜む。
 3月上旬から活動を開始し、新葉や成葉の組織内の他、新梢にも産卵する。新葉に産卵された場合は産卵部周辺が“もち状”に膨れるので、m比較的容易に確認できる。卵は長径0.2 mmで乳白色の“そらまめ”状をしている。夏期は3~5日、春・秋は10日程度でふ化する。
 1齢幼虫は体長0.3~0.5mmで白色半透明、2齢幼虫は体調0.5~0.8mmで淡黄色をしており、老熟すると橙色になる。幼虫期間は、夏期で5日程度である。
 2齢の後期になると下方に移動し、枯れ葉の間や樹皮の割れ目、地表など、狭くて薄暗い場所で蛹化する。蛹期間は5~7日であるが、摂氏32度では3日と短くなる。
 羽化すると、再び茶株面に現れ産卵、加害する。夏期の卵~成虫までの生育期間はおおむね2~3週間である。
 成虫は、体調0.8mm程度で、黄~淡黄色をしているが、背中の部分で翅毛が重なり黒い条線のように見える。物陰やすき間を好み、特に包葉内や展開中の芽に潜む。このため、下位葉よりも上位葉に多く見られる。また、成虫は動きが活発で、周辺茶園や作物からの侵入も多いが、幼虫は移動範囲が狭いため周囲からの侵入は少ない。


▲チャノキイロアザミウマ 成虫と幼虫(右)


▲チャノキイロアザミウマによる被害葉と
産卵された茶葉(下)

3.被害

 被害は主に芽、新葉、新梢に発生する。
 萌芽期には、芽胞に侵入し未展開の新葉基部や芯を加害する。芽の伸長が止まり、褐変枯死することもある。したがって、最もダメージが大きい加害時期といえる。
 新葉が開葉し始めると、葉柄基部や未展開葉の先端などに潜んで加害するため、開葉後の新葉基部には褐色の被害痕ができる。葉の先端にも左右対称に黒褐色の条線ができることもある。主に葉裏が加害されるが、葉が重なっている場合には、表面にも被害が生ずる。
 開葉後の被害痕は、褐色~黒褐色で光沢がある。中肋や葉縁に沿って被害痕があることが多いが、被害が進むと無数の被害痕を作り、葉裏の大部分が黒褐色に変わることもある。
 秋芽生育期の被害は翌年一番茶の収量に大きく影響するので、特に注意が必要である。

4.鹿児島における発生消長

第1図 吸引粘着トラップによる発生消長(平年値)

 

 茶業試験場の慣行防除園における吸引トラップによる調査結果を第1図に示した。本虫は新芽を好むこともあり、発生消長は茶芽の生育とほぼ同調している。
 3月上旬から活動を開始するが低密度で推移し、一番茶(本茶)摘採終期の5月上旬頃から増加し始める。このため一番茶では被害が出にくい。
 二番茶萌芽期頃の6月上旬には一番茶期と比較にならないほど急増するが、防除や摘採、梅雨等によって6月中旬以降急減する。
 三番茶萌芽期頃の7月上旬に再び増加するが、梅雨期と重なるため二番茶期ほどではなく、摘採期以降の7月下旬には再び減少する。
 8月以降、特に、秋芽生育開始期の8月中旬以降は、梅雨明け後乾燥状態が続く上に、摘採もないため増殖傾向となり、10月中旬まで高密度で推移する。

5.防除の考え方

前述のように、チャノキイロアザミウマは茶葉の組織内に産卵し、地際近くで蛹期を過ごすため、卵と蛹は薬剤に触れにくい状態にある。また、成虫は連続的に産卵し、成虫にまるまでの期間も短いため5月下旬以降は卵~成虫までの各虫態が混在する。これらのことがチャノキイロアザミウマの防除を難しくする要因であり、各茶期に応じた適切な防除が必要となる。

(1)二番茶摘採前の防除

 萌芽期~摘採期の期間は18日程度、1葉期~摘採の期間は13日程度である。したがって、安全使用期間14日以内の葉剤しか使用できない。
 防除適期は一般的には萌芽期~1葉期と言われているが、薬剤選定に幅を持たせるためには、萌芽期とするのが望ましい。また、開葉後は生育期間が短いことから、顕著な被害痕を生ずることはほとんどなく、この意味からも萌芽期が防除適期と言える。

(2)三番茶摘採前の防除

 二番茶期よりもさらに生育が早くなり、萌芽期~摘採期の期間は15日程度、1葉期~摘採の期間は10日程度となる。したがって、安全使用期間10日以内の薬剤しか使用できない。
 防除適期は、二番茶期と同じ理由により、萌芽期である。

(3)二・三番茶摘採後の防除

 二番茶摘採後は、適採作業が耕種的防除効果をもたらし、さらにk、梅雨期と重なるため、特に防除の必要はない。
 しかしながら、三番茶摘採後は梅雨が明け、乾燥状態が続くため、増殖には好適な環境下にあり秋芽生育期の防除とともに重要である。最終摘採後であることから、薬剤の選択幅が広くなるが、他の害虫の発生状況も観察しながら防除薬剤を選定するとよい。

(4)秋芽生育期の防除

 生育期間が1カ月以上あり、降雨が少なく、気温も高めに推移することから、増殖には最も好適な時期である。また、翌年一番茶の親葉を形成する時期でもあるため、防除は極めて重要な意味を持つ。
 防除適期は萌芽期~3葉期である。1回防除ではなく、7~10間隔の2回防除体系として考える。1回目は萌芽期に、速効的で残効性の長い剤を用い、2回目は遅効的で残効性の長い剤を用いるなど、剤の特徴を考えながら、いずれも残効性の長い剤を中心に選択する。また、チャノホソガの発生も多くなる時期なので、この点にも留意する。さらに、他の防除時期にも言えることであるが、ケナガカブリダニなどの在来天敵を利活用した総合防除体系をすすめるために、天敵に影響の少ない薬剤の選定に努める必要がある。

第2図 秋芽生育期防除試験

6.オルトラン水和剤の使い方

 1996年8月26日~10月15日に実施した秋芽生育期防除試験結果を第2図に示した。
 防除効果が最も現われると思われる、幼虫数の推移を見ると、オルトラン水和剤は散布5週間後までほとんど発生がなく、供試薬剤中最も高い防除効果と残効性を示した。また、チャノミドリヒメヨコバイにも効果があることから、秋期防除薬剤として優れた薬剤と言える。ただ、チャノホソガに対する効果が劣るため、この点を考慮した補完防除が必要となる。また、安全使用期間が30日と長いため、秋番茶製造地域では、8月中に散布を終えなければならない。

7.おわりに

 農薬使用に対する消費者の反応は、年々厳しくなっているようである。特に、お茶は嗜好飲料であることから、他の作物以上に細心の注意を払わねばならない。病害虫の発生状況を見ながら、必要最少度の防除回数に留めるよう努力するとともに、新芽に散布しない防除体系の確立を急ぐ必要があろう。

(鹿児島県茶業試験場)