BT剤の特性

今井 克樹

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.84/F (1997.7.1) -

 

1.はじめに

 わが国における農作物の生産は農薬などの有機化学工業に依存しているが、農薬に対するニーズも環境に影響の少ないものへと様変りしつつある。このような状況の中、BT剤はその効果は言うまでもなく、標的害虫に対して特異性が高く、非標的生物や人畜への影響が極めて少ない安全性の高い薬剤1)として、現在、アブラナ科野菜の大害虫であるコナガの基幹防除薬剤として広く使用されている。
 BT剤はBacillus thuringiensisの産生する結晶性タンパク毒素(σ-トキシン)を製剤化した微生物殺虫剤である。現在わが国では、主にkurstakiとaizawaiの2つの亜種のBT剤が販売および開発されており、この亜種により殺虫スペクトラムや抵抗性の発達が異っている。また、BT剤には芽胞を含む生菌剤、芽胞を含まない(芽胞を死活化してあるものも含む)死菌剤と呼ばれるものとがあり、芽胞の有無により殺虫活性等の特性が異なるようである2)
 本報告ではこれまで行なってきた各種BT剤の試験結果を分析し、BT剤の特性とアブラナ科野菜におけるBT剤の使用方法について検討したい。

第1表 各種BT剤の大阪系(F74)コナガ3令幼虫に対するLC50値
表中の濃度は製剤の濃度で示した。平塚系は感受性系統。
供試薬剤亜種名 LC50値(ppm)   抵抗製比
b/a
平塚系(a) 大阪系(b)
ゼンターリ顆粒水和剤
aizawai生菌剤
2.6 10.4 4
BT剤A
kurstaki死菌剤
0.9 44.2 49
BT剤B
kurstaki生菌剤
4.4 53.1 13
BT剤C
kurstaki生菌剤
2.8 74.5 27
BT剤D
kurstaki+aizawai生菌剤
4.6 38.9 8
BT剤E
kurstaki死菌剤
0.7 18.2 30

第3表 BSコナガ(F3)3令幼虫に対する各種BT剤のLC50値
表中の濃度は製剤の濃度を示す。平塚系は感受性系統。
供試薬剤亜種名 LC50値(ppm)   抵抗製比
b/a
平塚系(a) 大阪系(b)
ゼンターリ顆粒水和剤
aizawai生菌剤
2.6 178.8 69
BT剤A
kurstaki死菌剤
0.9 615.9 684
BT剤B
kurstaki生菌剤
4.4 678.3 154
BT剤C
kurstaki生菌剤
2.8 2018.2 721
BT剤D
kurstaki+aizawai生菌剤
4.6 207.7 45
BT剤E
kurstaki死菌剤
0.7 85.2 122

第2表 採集地で使用を確認した薬剤
商品名 有効成分
BT剤
 DELFIN
 CENTAN
 BACTOSPEINE
 CENTARI
 PLORBAC
 
B.t.kurstaki
B.t.kurstaki
B.t.kurstaki
B.t.kurstaki
B.t.kurstaki
IGR剤
 CASCADE

 

flufenoxuron

その他
 VERTIMEC
 POLO
 KARATE
 TAMARON
 
abamectin
diafenthiuron
cyhalothrin
methamidophos

2.BT剤抵抗性大阪系コナガに対する試験結果

 1988年、大阪府岸和田市のクレソンのハウス栽培でトアロー水和剤CT(kurstaki)の連続使用により、高度の抵抗性を獲得したコナガが出現した3)。全農でも1990年4月に現地のコナガを採集して(25℃恒温室内で累代飼育:大阪系)各種BT剤の活性を検討した。その結果、大阪系コナガはkurstakiには約30~50倍の抵抗性を示すものの、aizawaiに対する感受性低下は小さかった(第1表)。この結果は、kurstakiとaizawaiは高度の交差抵抗性を示さず、kurstaki抵抗性コナガに対してはaizawaiは有効であることを示しているものと考えられる。

3.タイ国にて採集したBT剤抵抗性BS系コナガに対する試験結果

 タイ国を含む東南アジア諸国においては、耐暑性品種の導入により、キャベツなどのアブラナ科野菜の周年栽培が行なわれ、栽培面積が増大している。防除回数の増加にともない殺虫剤抵抗性コナガが重要害虫として問題になっているが、特に熱帯ではコナガの年間世代数は20世代以上にも達し、日本の5~12世代に比べて世代数が多く、BT 剤を含む殺虫剤抵抗性は日本以上に深刻になっている。
 1994年4月、タイ国Banbootongのダイコン圃場よりBT剤抵抗性コナガ(BS系)を採集し、各種BT剤の活性を検討した。第2表に示したとおり、採集地におけるコナガの防除薬剤の中心はBT剤である。
 第3表にBS系コナガ3令幼虫に対する、各種BT剤の感受性検定結果を示した。その結果、kurstakiとaizawaiの両種に対し、BS系コナガの感受性は著しく低下しており、50~700倍の感受性低下が認められた。特にaizawaiと比較してkurstakiの感受性低下が著しい傾向にあったが、前述の大阪系と比較してBS 系は確実にaizawaiにも抵抗性を発達させている。
 大阪府岸和田市のクレソンハウスに出現したトアロー水和剤CT(kurstaki)抵抗性コナガのようにaizawaiが現地で使用されていない場合は、aizawaiには高度に抵抗性を発達させておらず3)、ゼンターリ顆粒水和剤(aizawai)は有効であると思われる。しかし、タイ国産BT剤抵抗性コナガ(BS系)に対する試験結果からもわかるとおり、aizawaiも連用することにより、コナガは確実に抵抗性を発達させるものと考えられる。

4.コナガ3令幼虫に対する効果発現速度

 各種BT剤の亜種および生菌剤と死菌剤の違いによるコナガ3令幼虫に対する効果発現速度を第1図に示した。効果発現には生菌剤であるか死菌剤であるかが大きく影響し、生菌剤では処理24時間後に死虫率がすでに80~96.7%に達するのに対し、死菌剤では0~6.7%と著しく低かった。しかし、48時間後にはいずれの薬剤も死虫率は100%となった。

5.ハスモンヨトウに対する各種BT剤の効果

 ハスモンヨトウは一般的にBT剤に対する感受性が低いとされている。これはハスモンヨトウの消化液中には強力なエンド型タンパク分解酵素が存在し、コアタンパク(タンパク分解酵素抵抗性のタンパク)自体を低分子化するためであると考えられている4)
 しかし、kurstakiとaizawaiでは第4表に示したとおり、トキシンタンパクをコードする遺伝子が一部異なっており4)、ハスモンヨトウに対する活性も2つの亜種間で異なるようである。
 第2図に各種BT剤のハスモンヨトウ3令幼虫に対する活性を示した。kurstakiのハスモンヨトウに対する活性は低いが、aizawaiであるゼンターリ顆粒水和剤の活性は高いことがわかる。これは、aizawaiが有しているトキシン遺伝子cryICによってコードされるトキシンタンパクによるものであると言われている。


第1図 各種BT剤1000倍処理のコナガ3令幼虫に対する効果発現速度(葉浸漬法)


第2図 各種BT剤のハスモンヨトウ3令幼虫に対する活性(葉浸漬法)

第4表 kurstakiおよびaizawaiのトキシンタンパク遺伝子
亜種名                    Bt トキシン遺伝子
cry I A(a) cry I A(b) cry I A(c) cry I C cry I D cry II A cry II B
kustaki    
aizawai    

6.考察

 BT剤はその効果や非標的生物への安全性の高さにより、世界的にみると既に30年以上も使用されており、東南アジアを中心に現在、コナガのBT剤抵抗性が顕在化し、問題となっている。一方、わが国では諸々の事情により、数年前まで生菌剤を中心にBT剤の使用が控えられており、BT剤のコナガ防除剤としての歴史は世界的にみれば浅いものと考えられる。1988年にハウスという特殊な閉鎖空間においてトアロー水和剤CTの連用により出現した高度のBT剤抵抗性コナガ3)(大阪府岸和田市のクレソン栽培ハウス)の場合を除くと、現在のところコナガの高度のBT剤抵抗性はさほど顕在化していない。
 BT剤はkurstakiとaizawaiの亜種間で殺虫スペクトラムや抵抗性の発達が異なるようであり、抵抗性対策の面からaizawaiにかけられる期待は高いものと思われるが、特に、aizawaiに対する抵抗性についてはまだ不明な点も多く、さらなる研究が必要である。ただ、タイ国から採集したBT剤抵抗性コナガに関する試験結果からもわかるとおり、aizawaiも連用すれば確実に抵抗性問題は顕在化してくることは確かである。kurstaki抵抗性に有効なaizawaiではあるが、連用をさけ、他の化学農薬やkurstakiとのローテーション使用を徹底し、IPM(総合害虫管理)の観点からも優れた防除薬剤であるBT剤の抵抗性発達を抑えていく必要がある。

(JA全農営農・技術センター農薬研究部)

 文献
(1)石黒丈雄(1989)植物防疫43(10):41~44
(2)宮園稔ら(1994)日本応用動物昆虫学会38(2):101~108
(3)浜弘司(1991)植物防疫45(12):70~13
(4)堀秀隆(1991)植物防疫45(12):1~5