世界の農薬事情―ブラジル編

大豆の不耕起栽培とその除草剤

菅原 智

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.85/A (1997.10.1) -

 

1.ブラジルの作物事情

ブラジルの広大な国土は熱帯から温帯にわたっているため、栽培されている作物も多種多様にわたる。過去5年間の作物別栽培面積を第1表に示す。
 トウモロコシは栽培面積の最も大きい作物で、最近は除々に機械化や農薬による病害虫も普及し、収穫も多くなっている。また、大豆はブラジルの主要な輸出作物で、機械化も進んでおり、農薬も多く使用されている。フェジョン豆は、ブラジルの主食ともいえる作物で、最近は大規模な灌漑設備を導入して、効率よく生産する農家も増えてきた。サトウキビは、砂糖やアルコールを製造するために栽培され、収益がよいということで面積は増加している。米は陸稲と水稲の両方があるが、面積的には陸稲が多い。陸稲は極めて粗放的な栽培で収量はとても低く、農薬などはあまり使用されていない。水稲はほとんどが直蒔栽培で、移植栽培はほんのわずかである。コーヒーはご存知の通り輸出作物であるが、1995年まではあまり価格が良くなかったため、栽培面積は減少した。ほかに農薬の使用される作物としては、棉、小麦、カンキツ、タバコ、バレイショ、ラッカセイ、タマネギ、トマト、その他野菜類、果樹類などがあげられる。


第1図 ブラジルにおける過去5年間の農薬販売実績(出典:ブラジル農薬工業会)

2.ブラジルの農薬販売状況

 ブラジルの農薬マーケットはここ数年で急速に成長している。過去5年間の農薬の販売金額を示した(第1図)。また農薬の種類別の販売実績は第2図のようになる。除草剤の占める割合が全体野¥約55%にもなるが、これは、栽培面積の大きい大豆、サトウキビ、トウモロコシなどで多くの除草剤が使用されているためである。一番大きな大豆の除草剤のマーケットは後述する。
 殺菌剤は、コーヒー、バレイショ、小麦、トマト、フェジョン豆で多く使用されている。殺虫剤は大豆、棉、コーヒー、トウモロコシ、トマトなどで多く使用されている。ダニ剤の約95%は、カンキツに使用されている。サビダニと南米特有のフラットマイトの防除に使用されている。その他の主なものは、タバコの脇芽防止剤とサトウキビの登熱促進剤である。
 1995年から1996年にかけて農薬全体の販売金額は16.6%増加し1997年は業界の予想では前年比15%の増加と考えられており、販売金額で20億ドルを越える可能性がある。これは世界的に見ると、米国、日本についで、フランスと並ぶ第3位となることを意味する。
 今後については、まだまだ耕作可能な土地があり、また技術導入して農薬や機械化可能な土地も多いため、さらに成長の可能性がある。

第1表 過去5年間の作物別栽培面積(出典:ブラジル地理統計院)
作物 1991 1992 1993 1994 1995
トウモロコシ 13,580,647 13,888,084 12,877,484 14,523,074 14,185,539
大豆 9,667,625 9,463,625 10,654,163 11,534,352 11,679,534
フェジョン豆 5,679,728 5,530,121 4,697,525 5,726,129 5,427,429
サトウキビ 4,241,352 4,224,561 3,953,793 4,356,803 4,586,649
4,224,316 4,876,655 4,644,165 4,470,301 4,433,583
マンジョカ 1,968,801 2,032,084 1,908,722 1,883,887 1,995,961
コーヒー 2,777,492 2,514,680 2,273,874 2,103,201 1,932,945
1,495,023 1,641,272 1,021,279 1,085,546 1,130,690
小麦 2,064,561 1,973,120 1,761,624 1,472,185 1,023,640
オレンジ 984,982 997,403 802,057 897,935 825,728
ココア 669,275 745,018 734,828 699,737 738,285
カシュー 645,950 697,795 736,871 662,279 648,380
バナナ 497,990 525,648 528,211 517,682 518,299
タバコ 287,330 346,362 375,679 319,214 290,224
ココナッツ 231,960 247,028 232,827 233,294 237,659
バレイショ 162,232 173,712 162,433 171,460 172,986
カラス麦 274,166 284,375 270,286 308,880 165,516
シザル麻 300,294 283,686 231,596 164,873 16,381
ソルゴー 188,958 166,370 145,063 154,435 148,408
ラッカセイ 89,420 100,698 86,089 91,115 93,374
棉(樹) 376,586 299,112 160,777 123,628 92,693
ヒマ 245,688 198,628 163,689 110,843 77,419
タマネギ 77,182 77,590 72,122 81,478 74,020
その他 373,644 331,876 328,605 314,840 318,764
合計

51,105,222

51,619,503

48,823,744

52,007,179

50,954,146

3.大豆の除草剤マーケットについて

 このブラジルの農薬マーケットの中でも、一番販売金額も大きく、毎年拡大している大豆の除草剤のマーケットについて説明する。
 まず、大豆の栽培面積は先に述べた通り年々増加しているが、その中でも不耕起栽培の占める割合が年々増加している(第3図)。これは、この栽培方法の技術が除々に普及してきていることと、ブラジルの場合は一農家あたりの栽培面積が非常に大きいため、時間的に耕起をしている時間がないこと、また作業費用の節約のためである。
 次に、除草剤の種類別販売金額を見てみる(第4図)。ここでも、不耕起栽培で、は種前に使用する枯葉剤およびポストエマージェンス処理の除草剤の使用が多くなっている。このポストエマージェンス処理の除草剤の使用が多くなっている。このポストエマージェス剤の中では、弊社の販売しているSLECTE (Cleihodim) が効果が高いということで、全体の約30%のシェアを占めている。
 また、最近話題となっている除草剤抵抗性大豆の導入については、ブラジルでの本格的な販売は2000年以降と考えられている。

第2図 ブラジルにおける農薬の種類別販売金額(出典:ブラジル農薬工業会)


第3図 ブラジルにおける大豆の栽培体系
(出典:ホッコー・ド・ブラジル・マーケティング部)
               *予想  a:ミニマムチルを含む


第4図 大豆用除草剤の種類別販売金額(1996/1997)
(出典:ホッコー・ド・ブラジル・マーケティング部)

4.ホッコー・ド・ブラジルについて

 1968年北興化学興業(株)の子会社としてサンパウロに設立され、その後アリスタ ライフサイエンスが出資を行ない、現在農薬の輸入、ブラジル全域への販売を行なっている。サンパウロ近郊のサウト・デ・ピラポーラに製剤工場を、同ペレイラスに試験場を所有している。

5.おわりに

 ブラジルは現在1994年に実行された経済政策(レアルプラン)によって非常に経済が安定し、世界的に有名だったインフレも、現在は月間1%前後となっている。今後地球規模で食料の供給問題を考える時にまだまだ開発の余地があるということで、ブラジルは非常に重要な位置を占めるものと思われる。

(ホッコー・ド・ブラジル)