夏秋トマト栽培における
エンストリップの利用

平山 孝

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.86/F (1998.1.1) -

 


 


はじめに

 福島県のトマト生産面積は平成6年現在657ha(農林統計)であり、これは全国の4.8%に当たる。しかし、その多くは簡易パイプハウスによる夏秋栽培であり、周囲の環境の影響を受けやすい条件下にある。また、防除の困難な害虫としてオンシツコナジラミを挙げる農家が多く、終盤はすす病の併発により管理意欲が失われ、早々に収穫を切り上げてしまう事例が多々見られる。

 1995年にエンストリップが農薬登録されたが、福島県で多数を占める夏秋栽培でのデータは当時少なく、その効果を確認するため、同年に以下の試験を実施した。

 

2.試験の概要と経過

 試験は福島県中南部に位置する石川郡浅川町(標高300m)の圃場で行なった。桃太郎(台木:LS-89)の簡易パイプハウス栽培で、定植は5月16日であった。

 6月12日に黄色粘着板にてオンシツコナジラミの初飛来が確認され、展示区では6月27日から規定量のマミーカード(50株当り1カード)を1週間おきに4回放飼した。慣行区として農薬散布のみの防除を行なうハウスをおいた(周囲を1.04mm目の寒冷紗で被覆したが、一部オンシツツヤコバチの侵入を許した)。

 なお、収穫期間は6月18日~11月8日であり、ほぼ地域標準の栽培体系である。

第1図  イエロートラップ付着数

第2図  蛹・マミー数の推移

導入日 6/23 7/4 7/11 7/18
調査蛹数 562 630 644 720
羽化虫数 514 556 548 650
羽化率(%) 91.5 88.3 85.1 90.3
第1表 オンシツツヤコバチの羽化率
(注) 1.調査蛹数はマミーカード5枚当りの付着蛹数
2.導入2週間後に調査

 

3.結果について

(1)天敵密度の変化について

 導入後、最初のマミー確認まで1ヵ月を要した。展示区ではオンシツコナジラミへの寄生率が約70~75%で推移し、収穫終了時まで殺虫剤なしで栽培できた。施設内でのオンシツコナジラミの飛散はほとんど見られなかった。
 一方慣行区では、農薬散布直後には一時的にオンシツコナジラミの密度が減少したが、その1ヵ月後には元の数を上回り(次世代の発生と思われる)、収穫中後期に大発生し、すす病の多発を見た。侵入したオンシツツヤコバチが増加し、寄生率は20%前後で推移したがオンシツコナジラミへの抑制効果は見られなかった。

(2)高温時の羽化について

 この夏は最高気温が連日35度前後に達する猛暑であったが、放飼した4回のマミーカードとも羽化率は85%以上を確保し、高温によってオンシツツヤコバチの羽化は阻害されない事を明らかにした。

(3)他害虫の発生について

 殺虫剤が散布できないことで、アブラムシやヒラズハナアザミウマ等の増加が心配されたが、本試験では局部的な発生にとどまった。
 以上から、夏秋栽培では高温による死滅・外部への飛散・他害虫の侵入などの不安要素があったが、天敵によるオンシツコナジラミ防除は可能であることを実証した。
 ただし、天敵防除は遅効的であり、栽培期間が長期にわたるため、オンシツツヤコバチがオンシツコナジラミに対し優位な状態で(寄生率70%以上)維持できないと終盤までの防除は難しいものと思われる。よって、導入時期の見極めが非常に重要になり、予察の徹底を図る必要があろう。
 特に、オンシツコナジラミの初発確認からエンストリップの到着まで1~2週間要することを念頭におく必要がある。

 ▲ オンシツツヤコバチ成虫  ▲ オンシツコナジラミ蛹とマミー(黒蛹)

▲ マミーカード設置状況

▲ 試験圃場(左2棟:慣行区、右2棟:展示区)

第2表 オンシツコナジラミ幼虫・蛹・マミー数の変化(展示区)
(注)区内24ヵ所の上中下位葉をサンプルし、実体顕微鏡下で計数
月日   幼虫   蛹   マミー   寄生率(%)   備考  
生存 蛹殻 ふ化前 蛹殻
7.18 3 6 0 0 0 0 4回目放飼
7.25 0 2 0 0 0 0  
8.02 0 1 2 4 0 57.1  
8.08 0 3 1 9 1 71.4  
8.15 4 8 1 2 2 30.8  
8.22 5 23 4 10 4 34.1  
8.28 6 1 0 1 15 94.1  
9.08 10 2 1 7 10 85.0  
9.13 3 9 5 3 28 68.9 アブラムシ40頭
9.19 8 20 8 8 9 33.3  
9.27 15 34 8 15 15 41.7  
10.04 3 29 14 50 37 66.9  
10.09 7 9 13 32 53 79.4  
10.17 16 10 13 43 34 77.0  
10.24 19 27 17 37 129 79.0  
11.01 20 27 11 35 45 67.8  

第3図  蛹・マミー数のハウス内分布例(展示区)
白丸:コナジラミ蛹数、黒丸:マミー数
(注)各地点3葉の合計値

 

4.アンケート結果から

 オンシツコナジラミ防除について、トマト生産者にアンケートを実施し、10名の回答を得た。概要は以下のとおり。

  1. 「常発している害虫」について8名がオンシツコナジラミを挙げ、うち2名が「防除困難な害虫」とした。以下タバコガ、アブラムシの順であった。
  2. 「総防除回数」と「1回の散布時間」から試算したところ、「農薬総散布時間」は10a当り平均16.0時間、うちオンシツコナジラミ防除が4.0時間であった。
  3. 防除開始時期の目安としては「1~2匹飛散確認時」が4名、「何十匹かが飛散時」が5名であった。
  4. マルハナバチを使用している農家は3名で、うち1名はオンシツコナジラミを「農薬で防除できている」、2名は「防除しきれない」と答えた。
  5. 使用農薬は9種類があり、オンシツコナジラミ防除に比較的高い評価を得たのは、アドマイヤー水和剤とモレスタン水和剤であった。また、10a当りの「オンシツコナジラミ防除経費(農薬費)」は約7,700円と試算された。

 オンシツコナジラミを防除困難としている栽培者の多くは、初散布時期は適正なものの、その後の散布間隔が空いて(特に収穫最盛期)密度増加を抑制できないケースが多いようである。

 

5.最後に

 エンストリップの農薬登録から3年を数えるが、大型施設での促成・抑制栽培に比べ夏秋栽培での天敵導入はあまり進んでいない。理由として次のような点が挙げられる。

  1. オンシツコナジラミの初発時期および増え方の年による変動が大きく、導入時期の見極め方が難しい。
  2. 大型施設での栽培農家に比べ規模が小さいため、金銭的な負担が大きい。アンケート結果からエンストリップ購入には現在の農薬散布の約4倍の経費が必要になる。
  3. 導入の遅れ等による失敗事例も多く、防除の確実性がないため「まだ試験段階」との認識が強い。

 オンシツコナジラミ防除は、福島県では大半の夏秋トマト栽培農家の課題となっており、天敵や新農薬情報への関心は高い。現地事例を積み重ね、早急に地域毎の技術確立を図る必要があるものと思われる。

(前:福島県須賀川地域農業改良普及センター)
(現:福島県農業試験場こんにゃく試験地)