シソ(おおば)における天敵利用

奈良 絵美

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.90/C (1999.1.1) -

 


 


 

 大分市のシソ(おおば)は、1977年(昭52)に共販が開始され、以来、豊富な雇用労力を活かした都市近郊型農業として成長してきた。現在、部会員は大分市と湯布院町の11戸、栽培面積は約15ha。1997年度(平成9年度)の販売金額は16億1,800万円で、愛知県に次ぐ産地である。育苗、生産、収穫、調整作業の分業化とパートタイマーの雇用で戸別面積の拡大を図り、増産と周年安定出荷で産地の基盤を強化してきた。さらに、高品質生産のための技術革新にも積極的で、特に減農薬栽培には早くから取り組んでいる。そこには、シソがマイナー品目である等の理由で登録農薬が非常に少ないという現実問題もあった。シソは、周年栽培で定植約1ヵ月後から収穫が始まり、収穫期間は4ヵ月~8ヵ月間に及ぶ。収穫終了時の草丈は、大人の背丈ほどにもなり、栽植密度も多いので過繁茂状態になる。よって、防除も次第に難しくなり、栽培面積の多い生産者の負担は大きい。主な害虫は、ハダニ、コナジラミ、スリップス、ハスモンヨトウ、オオタバコガ、メイガ類である。

 フェロモントラップの導入は1988年(昭63)から始まり、黄色灯は1995年(平7)から設置され、現在、花芽抑制の白色灯の代替として設置がすすんでいる。また、1993年~1995年には、大分県農業技術センターと交信錯乱型フェロモン剤によるハスモンヨトウの防除試験を実施した。天敵利用は1997年から、2戸の生産者で始まった。利用事例を以下に記す。


スパイデックス放飼風景 スパイデックスがまかれた様子


花芽抑制も兼ねた黄色灯


定植作業 収穫のようす


定植1ヶ月後から収穫が始まる

A生産者の天敵利用事例

 栽培面積:
170a
 商品名:
スパイデックス
 放飼時期:
発見後の放飼で、4月下旬~9月。発見後発注するので到着までダニ剤で抑えておく。
 放飼方法:
発生部分への局所施用。
 放飼部位:
収穫が近い上位葉は避け、中位葉あるいは株元へ放飼する。
 放飼量:
1回の放飼量は、10a当り2~3本(指針の量では効果がない)。これを一週間おきに2~3回繰り返す。

問題点

  • 発生確認後に発注するため、放飼までにハダニが増える。そのため、放飼までダニ剤で密度を抑えているが、使用する農薬の天敵への影響が問題になる。
  • 例年の発生時期に、未発生でも放飼する方法は有効であるが、コストの面で難しい。
  • シソの栽植本数は10a当り約6,000~10,000本(定植時期と個人で差がある)になるため、放飼量が多くなりコスト高になる。
  • 難防除のチャノホコリダニには効果がない。
  • 他害虫発生時の具体的対策が不十分である。

利点

  • 天敵放飼作業が簡易で安全なため、パート(女性)に任せられる。経営規模が大きい生産者にとって、この利点は非常に大きい。
  • 農薬散布回数の減少が、多湿条件下で発生するシソ斑点病の減少につながる可能性がある。
  • 減農薬栽培が可能になり、製品に付加価値がつく。

そのほかの取り組み

 スパイデックスの他に、1997年からエンストリップも一部で試みられている。しかし、効果不足で利用がすすんでいない。放飼時期、放飼量、ハウスの周辺環境等、検討の余地は十分ありそうだ。しかし、最近、管内の野菜生産者からコナジラミ類の薬剤抵抗性を訴える声が非常に多く聞かれるようになり、エンストリップの利用技術の向上に期待している。また、ククメリスについても今年一部で試みた。

今後の取り組み

 消費者の農産物への安全性志向と生産現場での環境負荷の軽減は、今後ますます重要度が高くなってくる。このような情勢を踏まえると、今後の生産のあり方を考えざるをえない。また、それらの要望に応えていくことは、産地の体質強化にもつながると思う。経済不安、農産物の価格低迷で生産者にとって経費削減が必須であるなか、価格面だけを捕らえれば天敵利用は難しいということになるが、総合防除にうまく組み込み、より品質の高いシソが周年安定生産されれば産地としての評価も高まり、生産者への見返りも多くなるのではないだろうか。そのためには、他の害虫防除策も絡めながら、その利用方法を十分検討する必要がある。さらに現状の防虫ネット、フェロモントラップ、黄色灯の設置をよりすすめ、耕種的防除と合わせて総合防除の確立を図り、これを組織的な取り組みに発展させたいと考えている。

(大分農業改良普及センター)