ゼンターリ顆粒水和剤を利用した

ハスモンヨトウ防除

飯干 浩美

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.91/E (1999.4.1) -

 


 


 

1.はじめに

 ハスモンヨトウは南方系の害虫で、1960年代後半以降野菜の施設栽培のめざましい普及とともに、各地で広く多発を見るようになった。もともとトマト栽培において、この虫による被害が認められていたにもかかわらず、長年登録薬剤がなかったが、昨年、(1998)ゼンターリ顆粒水和剤(BT菌アイザワイ系統)が唯一の防除薬剤として登録認可された。

 ハスモンヨトウは、昨今各種薬剤に対して感受性の低下が指摘されており、また近年施設トマト栽培でのマルハナバチや天敵昆虫の導入に際しては、それらに対する影響が少なく、かつハスモンヨトウに対しては有効な防除薬剤の開発が必要不可欠とされていたところであり、大変タイムリーな登録であるといえる。今後のゼンターリ顆粒水和剤の使用に期待されるところは大きい。

 以下ハスモンヨトウの発生生態とゼンターリ顆粒水和剤を中心とした薬剤防除について述べる。


▲ハスモンヨトウ:(左)若齢幼虫と(中)老齢幼虫によるトマト葉の食害。(右)老齢幼虫による果実の食害

2.発生生態および薬剤防除

 ハスモンヨトウ(Spodoptera litura Fabricius)は、主に関東以西の西南暖地において野菜類・花卉類・ダイズ・カンショ・サトイモなどに発生する重要害虫である。高知県の露地においては、春先は発生が少なく世代を重ねるごとに増加し、主に8月~9月にかけて発生が多い。

施設では9月~11月の育苗期間~本圃定植初期と4~6月の栽培後期に被害が多い。またこの虫は非休眠性であるため、加温設備のあるハウス栽培では通年発生が認められる。特にハウス内では発生条件は良好で、降雨の影響もなく天敵からの攻撃も受けにくい環境のため、比較的ふ化幼虫の定着がよく被害も多い。ハスモンヨトウがいったんハウス内へ侵入し、少発生当初において防除を怠ると、その後の薬剤防除によっても、ハウス内から根絶させることが難しく、その防除には現場においても大変苦労している。

また、かつて数種の有機リン剤、カーバメート剤に対する感受性低下が確認されていたにすぎなかった(葛西・尾崎,1975)が、その後カーバメート剤のメソミル(西東・小林,1989;高井,1991)や各種合成ピレスロイド剤(高井,1991;中野・喜田,1994;広瀬1995)に対する抵抗性発達が顕在化し、防除上の大きな問題となっている。

また本種の場合、同一地域内において薬剤感受性の異なる個体群が混在していることが指摘されており(西東ら,1991;広瀬1994)、現場では防除薬剤の選択に苦慮することが多い。目下ハスモンヨトウに対して有効とされる防除薬剤にはBT剤、IGR剤、クロルフェナピル剤、エマメクチン安息香酸塩剤などがある。

3.トマトのハスモンヨトウについて

 ハスモンヨトウの食害は主に葉であるが、トマト・ナス・ピーマンなどの果菜類に対しては、花蕾や果実も加害する。幼虫齢期が進むにしたがって、食害量は急速に増加するため、生息数が少なくても油断はできない。しかも老齢幼虫になると昼間は株元の枯葉や敷きわら、土塊などの間にひそみ、夜間地上部に上がって食害することから、日中作物被害は認められるものの、ハスモンヨトウの発生を見逃しやすい。

近頃高知県内でも糖度が高く商品価値を高めた施設トマトが多く出回るようになってきたが、果実被害を防ぐため本種の要防除密度は必然的に下がっていくことが予想される。

第1表 トマトのハスモンヨトウに対する防除効果
(日本植物防疫協会研究所高知試験場、1995)
供試薬剤 希釈倍数 60複葉当りの寄生幼虫数
散布前 3日後 7日後 13日後
ゼンターリ顆粒水和剤 1,000倍 880.0 82.5
(9.0)
1.5
(0.4)
0(0)
BT剤 A 250倍 828.0 234.0
(27.3)
18.0
(4.9)
13.0
(3.2)
無処理 - 831.0 860.0
(100)
365.5
(100)
408.5
(100)

第2表 トマトのハスモンヨトウに対する防除効果(抜粋)
(日本植物防疫協会研究所高知試験場、1996)
供試薬剤 希釈倍数 30複葉当りの寄生幼虫数
散布前 3日後 7日後
ゼンターリ顆粒水和剤 1,000倍 513.0 0
(0)
0
(0)
IGR剤 A 2,000倍 546.0 0.5
(0.1)
0
(0)
IGR剤 B 2,000倍 751.0 21.0
(3.3)
0
(0)
無処理 - 470.0 403.5
(100)
128.5
(100)

第3表 トマトのハスモンヨトウに対する防除効果
(日本植物防疫協会研究所高知試験場、1997)
(注) ()補正密度指数
供試薬剤 希釈倍数 32複葉当りの寄生幼虫数
散布前 3日後 7日後
若齢 中齢 若齢 中齢 若齢 中齢 老齢
ゼンターリ顆粒水和剤 1,000倍 442.0 19.5 1.0 0 0 0 0
計461.5 計1.0(0.2) 計0(0)
無処理 - 544.0 0 692.5 10.5 15.0 429.5 1.0
計544.0 計703.0(100) 計445.5(100)

4.ゼンタ-リ顆粒水和剤の防除効果

 日本植物防疫協会農薬委託試験において、過去3ヵ年間に高知試験場で実施した試験効果を第1~3表に示した。

いずれの試験でも散布3日~7日後にかけて、ゼンターリ顆粒水和剤は安定した高い防除効果を示した。

 ただし、本試験はいずれも若齢幼虫期対象に散布を行なっており、実際のトマト栽培圃場においてハスモンヨトウの若齢幼虫の発生を確認し、防除を行なったとしても、生育ステージは必ずしも均一ではなくすでに色々なステージが混在して発生していることが多く、ゼンターリ 顆粒水和剤の防除効果が高いとはいえ、幼虫の齢期が進むとその結果が十分期待できないことも考えられるため、ふ化幼虫の発生を認めたら早期防除を心がけるようにしなければならない。

5.ゼンターリ顆粒水和剤への期待

 今までハスモンヨトウに対する登録薬剤がなく、他害虫との同時防除で対応せざるを得なかった点や前述したように本種の薬剤感受性の低下などからゼンターリ顆粒水和剤に対する期待は大きい。さらに施設トマト栽培では近年管理作業の省力化あるいは省農薬化のため、マルハナバチや天敵昆虫(商品名:エンストリップ;オンシツツヤコバチ)を導入するケースが増えている。そこでそれらに対する農薬の影響が懸念されるところであるが、ゼンタ-リ顆粒水和剤はこれらに対して影響が少なく安全性が高い。導入天敵に限らず、在来天敵類の働きを有効に活用するためにも、ゼンタ-リ顆粒水和剤のような薬剤の開発が今後ますます重用視されてくると考えられる。


▲ハスモンヨトウ成虫(右:雄、左:雌)


▲トマト被害葉(左)と被害果

6.おわりに

 トマトは元来害虫の少ない作物とされていたが、近年シルバーリーフコナジラミ、マメハモグリバエ、ミカンキイロアザミウマ、オオタバコガなどの害虫の発生が見られ、害虫の種類は増加している。それに伴って当然薬剤の種類や散布回数の増加を生じ、マルハナバチや天敵昆虫への影響が問題となっている。ゼンタ-リ顆粒水和剤をハスモンヨトウの防除に活用するとともに、他害虫も含めた防除体系の早期確立が望まれる。

((社)日本植物防疫協会研究所高知試験場)

引用文献
1)葛西辰雄・尾崎幸三郎(1975)香川農試験報26:25~28
2)西東 力・小林義明(1989)関西病虫研報31:73
3)高井幹夫(1991)四国植防26:67~76
4)中野昭雄・喜田直康(1994)四国植防29:123~132
5)広瀬拓也(1994)四国植防29:107~112
6)広瀬拓也(1995)応動昆39:165~167