マメハモグリバエとその寄生蜂たち(2)

導入寄生蜂と土着寄生蜂

杉本 毅

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.92/A (1999.7.1) -

 


 


 

 わが国には200種以上のハモグリバエが生息し、多種の土着寄生蜂の攻撃にさらされている。本小文では、(株)アリスタ ライフサイエンスによってコパ-ト社から「マイネックス製剤」として導入されている2種の寄生蜂の略歴に触れたあと、それらを待ち受ける土着寄生蜂類の生態的特性についてご紹介したい。

第1図 葉上で寄主検索をするハモグリコマユバチ雌成虫(左)と寄主幼虫に産卵管を挿入しているイサエアヒメコバチ雌成虫(右、産卵管は腹部下に見える針状物)

導入寄生蜂の略歴

 「マイネックス製剤」の2種の寄生蜂のうち、ハモグリコマユバチ(第1図)は、コマユバチ科のAlysinae亜科のDacnusa属に属する。この属は、北米からシベリア、北欧にかけて分布し、特にヨーロッパで分化が進んだといわれている。わが国では、最近になって数種が記録されたにすぎない。興味深いことに、日本産の種は夏眠するのにこちらはしない。この種は、1935年に旧ソ連の分類学者Telengaによって、シベリアのイルクーツクとニコルスク・ウスリュウスクで採集された標本から記載された。種名がsibiricaと命名されたのはこのような由来による。2亜種に分ける研究者もいるが、わが国では未記録であった。寄主はハモグリバエの仲間に限られ、寄主範囲の広いハモグリバエ寄生蜂の仲間のなかにあって、珍しく狭食性である。

 一方、イサエアヒメコバチ(第1図)はヒメコバチ科に属し、Eulophinae亜科のDiglyphus属に分類されている。1938年にWalkerによってCirrospilus属として記載され、その後現在の属名に修正された。この種は、世界に広く分布する、いわゆるコスモポリタン種であり、わが国でも普通に見かけられる。かつて、アフリカ、インド、オーストラリアなどでは未記録とされていたが、生物的防除の普及などにともない分布域が拡がっている。ハモグリバエ類のほかに潜葉性ガ類の一部で寄生が認められ、寄主範囲はハモグリコマユバチよりやや広い。

第1表 わが国におけるマメハモグリバエの寄生蜂類とその生態特性
  種数 寄生様式 a) 寄主範囲 b) 分布 c)
寄主利用 寄生時期部位
コマユバチ科
 Alysiinae亜科
 Opiinae亜科
ツヤヤドリタマバチ科
コガネコバチ科

 Microgasterinae亜科
 Pteromalinae亜科
ヒメコバチ科
 Eulophinae亜科
 Elachertinae亜科
 Tetrastichinae亜科
 Entedontinae亜科

2
 1 ?
2

2
1

6
1
3
11

K
K
K

K
K

I
I
I
I,K

LP
LP
LP

Pa,LP
Pb

La
La
La
Lb,LP

I
I
I

I
IV+

I ?,II,III,IV
III
IV
II,III,III+,IV+

N

S

S
 N ?

N, 一部 S
S
S
N,S

a) 寄主利用 。:殺傷寄生、 K:飼殺し寄生
  寄生時期部位 La:幼虫が幼虫寄生、Lb:幼虫内部寄生、LP:幼虫蛹寄生、Pa:蛹内部寄生、
         Pb:蛹外部寄生

b) I:ハモグリバエ類だけ
  II:ハモグリバエを含むハエ類(ミギワバエ、タマバエなど)
  III:ハモグリバエを含むハエ類のほかに他1目の昆虫類を含む
       (主に潜葉性のガ類、甲虫類、ハバチ類など)
  IV:ハモグリバエを含むハエ類のほかに他2目の昆虫類を含む
       (主に潜葉性のガ類、甲虫類、ハバチ類など)
  +:高次寄生することあり

c) N:北方型、S:南方型

土着寄生蜂類の特徴

 最近、わが国の各地の施設から、マメハモグリバエの寄生蜂類として導入種を含む合計4科29種が確認された。それら寄生蜂類の寄生特性と分布を分献調査にもとづいて亜科単位にまとめた(第1表)。Entedontinae亜科が圧倒的に優占的である。卵寄生種はいないが、幼虫寄生、幼虫蛹寄生、蛹寄生の各種とも含まれ、しかも外部寄生、内部寄生と寄生様式が多様である。寄主利用様式も、母蜂が寄主を殺してから産卵・寄生する、いわゆる殺傷寄生種(Idiobiont、I、寄主を生かしながら寄生し、自らの発育完了後殺す、飼殺し寄生種(Koinobiont、K)の双方とも含まれる。ハモグリバエ科だけを寄主とする狭食性種から、潜葉性のガ類、甲虫類、ハバチ類をも寄主とする広食性種まであり、さらに高次寄生種もいる。新旧北区の北部を中心に分布する種を北方型、また新旧北区だけでなく熱帯、亜熱帯にも分布する種を南方型と便宜的に二分すると、双方とも含まれている。種類が多いだけでなく、このように生態分化が進んでいる点が特徴である。

温度特性

 第2表に、5種のハモグリバエとともに第1表の寄生蜂のうち8種について発育零点と発育高温限界を示した。ハモグリコマユバチは、旧北区北部に分布するだけに発育零点は最も低かったが、発育高温限界は意外と高かった。総じて、北方型寄生蜂類の温度特性は、北方型ハモグリバエ類より高く、例外もあるが南方型ハモグリバエ類のそれに近かった。

 しかし、南方型寄生蜂種7、8は、南方型ハモグリバエ類よりもさらに高温適応的であった。これら2種の寄生蜂が、高温多湿なわが国の夏季に施設内で優占的なのがうなずける。

土着寄生蜂の群集特性

 多様で普遍的:わが国で、これまでに研究が比較的進んだ北方型ハモグリバエ種である、ナモグリバエ、キツネノボタンハモグリバエ、スイカズラハモグリバエの寄生蜂群集についてみると、いずれも多種の寄生蜂からなり、しかも、それらの寄生蜂の食性が広いため寄主の種類が異なってもそれを攻撃する寄生蜂の種類は極めて似通っている。マメハモグリバエも例外ではないが、90号で紹介したようにこのハエは南方型種だけに差異もみられる。たとえば、このハエの寄生蜂群集のなかで優占的であった南方型寄生蜂類は、温度特性の種間差(第2表)から上記3種の北方型ハモグリバエに大幅に遅れて活動を開始する。こうした同調性のずれのため、ハモグリミドリヒメコバチは北方型ハモグリバエ類の寄生蜂としては極めて劣勢であったし、Hemiptarsenus varicornisにいたっては寄生の記録すらない。

第2表 ハモグリバエ類とその寄生蜂類の温度特性 a) b)
種名 発育零点
(℃)
発育高温限界 c)
(℃)
ハモグリバエ類(♀)
北方型
 1 キツネノボタンハモグリバエ
 2 ナモグリバエ
南方型
 3 ナスハモグリバエ
 4 インゲンハモグリバエ
 5 マメハモグリバエ b)

寄生蜂類(♀)
北方型
 1 Diglyphus minoeus
 2 Dacunusa sibirica b)
    ハモブリコマユバチ
 3 Pnigalio katonis
 4 Chrysocharis pentheus
 5 Diglyphus isaea
    イサエアヒメコバチ
 6 Diglyphus pusztensis
南方型
 7 Hemiptarsenus varicornis
 8 Neochrysocharis formosa
    ハモグリミドリヒメコバチ


3.4
6.0

8.1
8.4
9.1



8.3
5.6

6.7
6.8
7.7

8.8

8.5
8.8


25~30
25~30

30~35
30~35
30~35



25~30
30~35

30~35
30~35
30~35

30~35

38~ 
38~ 
a):卵~羽化までの発育
b):土着種でない
c):飼育温度の上昇につれ、発育所要日数が反転遅延したときの温度
d):安田(1979)、Sugimoto et al. (1982)、西東(1988)、西東ら(1997)、
    Minkenberg(1990)、水越(1997)、杉本ら(1998)から引用

 群集構造の変化・寄主転換:上記3種の北方型ハモグリバエ類についてみると、近畿地方の平地では毎年9月末頃から翌年のせいぜい6月前半まで被害が見られるが、夏季発生は、普通、平地では見かけられない。寄生蜂類の攻撃は4月後半から活発化するが、温度特性の種間差を反映して、まず4月後半から飼殺し寄生性のコマユバチ科の活動が目だち、間もなく殺傷寄生性のヒメコバチ科が優勢となる。春季に限ってみても、このように寄生蜂群集の構造は時間的に変化し、一定不変でない。また、温暖地と冷涼地の間でも群集構造は異なる。

 上記の北方型ハモグリバエ類の温度特性は、既述のとおり寄生蜂類に比べて低いので、春にはハエの発生が先行し、夏前には寄生蜂類が取り残され、両者の発生の同調性にずれが生じる。そこで、春に寄主に遅れて活動を開始した北方型の寄生蜂類は、春発生の寄主を利用した後、遅れて活動を開始する南方型の寄生蜂類とともに、夏~秋の高温期には夏季発生のハモグリバエ類のほかに潜葉性ガ類など他の潜葉虫類を代替寄主として利用しているようである。ただし、コマユバチ科のなかには夏眠するものがいるようだ。

マイネックス製剤の役割

 わが国の農生態系には、以上のような豊かで安定した重厚な寄生蜂群集がすでに定着しており、このため野外では新参者のマメハモグリバエは低い密度に制御され、その結果、当初不用意な農業使用によってリサ-ジェンスが頻発したのは容易にうなずける。施設では多少事情が異なろうが、暖季における開放期間が寄生蜂群集の活動期と重なるので、自然の成行きで土着寄生蜂類がそこに侵入する。

 マイネックス製剤の防除効果が撹乱されたとの困惑の声をしばしば耳にする。こうした状況ではマイネックス製剤を単に生物農薬的防除剤と考えると、土着寄生蜂類は「憎き邪魔物」ということになる。そうではなく、むしろ土着寄生蜂類を防除戦略の中心に据えて、マイネックス製剤は外国人スポーツ選手同様に「助っ人」と位置付づける、自然調和的発想に切り替えるのがよいのではないか。土着寄生蜂類の防除上の弱点は、それらの不活動期にあたる春先や施設開放期にもかかわらずそれらの働きが十分でない場合などであろう。

 こうした場合に「助っ人」にご登場を願うとして、その起用の要否の判断には、個々の施設周辺における寄生蜂群集―寄主群集―寄主植物群落という「生態的コンプレックス」の実態把握が必要となる。要するに、「総合的生態系管理」の中での天敵利用という視点が求められる。この視点に立って見直すと、マイネックス製剤は、トラキチにとって往来の名「助っ人」バース選手のように頼もしく光り輝いて見えてくるのだが。

(近畿大学農学部)