リンゴ炭疽病の生態と防除のポイント
 

飯島 章彦

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.92/C (1999.7.1) -

 


 


 

 炭疽病は輪紋病と並んでリンゴの果実を腐敗させる重要な病害である。ニセアカシアなど雑木材の周辺で多発し、収穫皆無になるほどの被害をもたらす。本病に弱い“紅玉”の栽培の減少にともなってしばらく問題にならなかったが、1980年代終わり頃から秋田県、長野県や暖地リンゴ産地を中心にしばしば突発的な多発生をみるようになり、防除の重要性が再認識されることとなった。多発を受けて防除研究が再開され、いくつかの知見が得られたので紹介してみたい。


▲激発して落下した果実


▲小型病斑と進展初期の腐敗病斑

1.病徴

 果実には1mm程度のやや降起した紫褐色~黒褐色の小型病斑と、大きく腐敗する大型病斑が生じる。小型病斑は果実の抵抗反応によって生じるもので、腐敗に進行することはない。腐敗病斑は褐色~黒褐色でややへこみ、病斑上に橙色~淡褐色の分生子が大量につくられる。

 輪紋病とはしばしば混同されるが炭疽病は輪紋病に比べて、病斑がくぼむこと、色がやや濃いこと、病斑上に分生子粘塊を作ること、腐敗部が苦いことなどで区別される。特に、炭疽病の腐敗部を口に含んだ時の際だった苦みは特徴的で、診断に利用できる。

2.病原菌

 病原菌はGlomerella cingulata (不完全世代:Colletotrichum gloeosporioides)である。多犯性で、ナシ、モモ、ブドウ、オウトウなど多くの果樹類にも病原性を示す。本菌の他に最近、Colletotrichum acutatum)による発病が愛媛、長野、千葉、新潟の各県において確認され、リンゴ炭疽病の病原として本菌が新たに追加された(佐藤ら、1998)。C. acutatumによる発病は秋田県、高知県、山口県でもみられており、地理的分布は全国的と考えられる。C. acutatum がどの程度リンゴに被害を引き起こしているかについては明らかではないが、長野県の場合は菌の分離比率からみて関与の程度は低いと考えられる。前者はベンズイミダゾ-ル系殺菌剤に感受性だが、後者は非感受性であるなど、農薬の効果にも差異がみられるのでそれぞれの産地における関与の程度については明らかにしておくべきであろう。

▲被害果実 ▲病斑上に形成された分生子堆

▲ニセアカシアの枝 ▲シナノグルミ果実の炭疽病

3.伝染源

 伝染源は、リンゴ樹上に生息する菌の場合と、異種の植物から飛散してくる場合がある。被害は一般に異種伝染源植物が近くにある場合に激しく、常習発生地となるが、多発年には伝染源植物の有無に関係なく広域で発生がみられる。

 ニセアカシア、シナノグルミ、イタチハギが伝染源植物としてよく知られている。なかでもニセアカシアは全国に広く自生しており、伝染源植物としては最も影響が大きい。また、長野県では河川敷や畑の隅に植えられているシナノグルミが重要な伝染源となっている。ニセアカシアおよびシナノグルミの樹高はいずれも10mほどになるので、炭疽病菌の伝染距離は40~50mに及ぶ。ニセアカシアでは莢果、果柄や芽部など全身的に、一方のシナノグルミでは前年の果柄部に高率で保菌しており、ここに形成される多量の分生子が雨滴に混じって伝染する。イタチハギは道路の法面や山際に密生しており、リンゴへの伝染源となっている(浅利ら、1991)。

 リンゴ樹上では、芽や果台部に潜在感染して越冬生存する。ここからの分生子の飛散量は少ないが、果実の至近から伝搬するために効率的な感染が起こる。多雨年には被害がでるので、前年に発生をみた場合には十分な予防対策が必要である。

4.果実の感受性と伝染時期

 リンゴ果実の感受性は、6月から8月の期間は感受性が高いが、9月に入ると低下する(第1図)。潜状期間(品種:王林)は、6月中下旬の感染で20~50日程度、7月感染では2週間~30日程度である。8月の感染では10~20日程度が多く、9月ではそれ以上に及ぶが、8月中旬以降の感染では発病が収穫期にかけてダラダラと増加する傾向がみられ、潜伏期間中に収穫される果実がある。これは果実の感受性が徐々に低下することに加えて、低温で発病が抑制されるためと考えられる。


第1図 時期別に接種したリンゴ果実の発病(1996)
ポット植“王林”に接種室内で分生子噴霧接種、接種温度24℃


第2図 伝染源の異なるリンゴ園での炭疽病の発病消長
(ニセアカシア、異種伝染源なしは1994、シナノグルミは1993)

 

 リンゴの発病はニセアカシア隣接園、シナノグルミ隣接園、およびリンゴ樹内伝染のいずれの場合でも7月中旬ころから始まる(第2図)。分生子の形成や果実への感染は、温度が高いほど速やかかつ多くなるので(第1表)、7~8月が多雨気象であると温度条件が満たされて大発生しやすい。長野県において被害の多かった年をみると、1983年、1991年は7月後半から8月中旬にかけて高温多雨であり、1998年には8月の多雨があった。梅雨明けの遅れや夏場の不良天候は要注意である。

第1表 接種条件を異にした場合の炭疽病の1果当り病斑数
(注)ポット植えの“王林”樹上果実に接種室内で分生子懸濁液を接種した。
温度 \ 濡れ時間 6 10 14 24時間
16℃
20
24
0
0
0
0
0
0.1
1.7
5.9
11.3
8.8
22.9
38.6

5.品種の感受性

 被害圃場を観察すると、品種によって発病に大きな差がみられる。“王林”、“紅玉”、“ジョナゴールド”、“陽光”には特に発生しやすく、“千秋”、“つがる”にも多発する。これらに比べ“ふじ”での発病は少ない。また接種試験の結果では、“さんさ”は弱、“北斗”はやや強、“アルプス乙女”は強いとみられる。

6.防除対策

 炭疽病はいったん発病すると次々に2次伝染し、薬剤防除だけでは被害を食い止めることができない。したがって、伝染源を少なくすること、初期段階での防除を徹底することが基本となる。

(1) 耕種的防除

  1. ニセアカシア、シナノグルミ、イタチハギなどの異種伝染源植物が近くにある場合にはこれを伐採する。この際、場所によって炭疽病菌の保菌程度に大きな差があり、あまり悪影響を及ぼさない場合もあるので、影響の程度をよく見極めてから実施する。
  2. 常発圃場では、罹病性の高い品種から発病しにくい品種へと切り替える。
  3. 袋かけ栽培で発病を軽減することが可能である。なるべく早く被袋作業を終えるようにする。
  4. 発病果実は伝染源となるのでこまめに除去する。

(2) 薬剤防除

  1. 第1次伝染の防止を主眼において実施する。防除は6月中旬から8月いっぱいまで必要で、特に感染盛期の6月中下旬から8月上旬ころが重点となる。梅雨明けの遅れや8月の天候不良には、散布間隔の短縮(10日以内)、薬剤の変更など臨機に対応する。
  2. 主要な薬剤の中では、オ-ソサイド水和剤、TPNフロアブルの防除効果が高く、有機銅水和剤、キャプタン・有機銅水和剤、ジラム・チウラム水和剤、キャプタン・ホセチル水和剤、クレソキシムメチルドライフロアブル、ボルドー液も有効である(第2表)。一方で斑点落葉病、輪紋病に卓効を示すイミノクタジン酢酸塩液剤の効果は劣るので注意を要する。

第2表 各種薬剤のリンゴ炭疽病に対する防除効果
(注)a):icボルドー412 b):4-12式ボルドー液 c):有機銅フロアブル800倍
供試薬剤 希釈
倍数
1992
病果率
1993 1994 1995 1996
病果率 病斑数
/果
病果率 病果率 病斑数
/果
病果率 病斑数
/果
オーソサイド水和剤 800倍 0.1% 22.0% 0.5 0.8% 2.0% 0.0 18.0% 0.6
有機銅水和剤80 1,200 0.1 45.0 1.3 3.8 34.0 0.8 15.5 0.5 c)
キャプタン・有機銅水和剤 500       6.6 22.4 0.5    
キャプタン・ホセチル水和剤 800             25.0 1.1
TPNフロアブル 1,000 0.1 6.5 0.1 0.9        
ジラム・チラウム水和剤 600 0 33.0 1.0          
イミノクタジン酢酸塩液剤 1,500 4.1              
ポリオキシン・ イミノクタジン酢酸塩水和剤 1,500   55.5 2.2          
クレソキシム メチルドライフロアブル 2,000         19.2 0.5 27.2 1.2
塩基性硫酸銅水和剤 a) 20 0 b) 26.0 0.5 1.0 36.7 0.8    
無散布   7.5 62.0 2.4 55.3 79.1 14.1 68.0 4.2

 長野県では常発地帯や高温多雨気象で被害の発生が心配される場面では、主要な感染期である6月下旬から7月にオ-ソサイド水和剤を加用することを指導している。

 一方で、梅雨明けの遅れや夏場の天候不良年は多発する恐れが高いので、果実の汚れが少なく、収穫期間際まで使える薬剤として、オ-ソサイド水和剤、キャプタン・ホセチル水和剤を使用するか、イミノクタジン酢酸塩液剤とオ-ソサイド水和剤を混用して、斑点落葉病、輪紋病の防除強化も図る必要があると考えられる。

(長野県農政部農業技術課)