北海道における
露地野菜の雑草防除とセレクト乳剤
-タマネギ・ニンジンを中心にして- (1)

土肥 紘

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.94/D (2000.1.1) -

 


 


 

北海道における野菜生産

 北海道における年間の農業粗生産額は、約1兆1千億円あり、そのうち野菜は2千億円に近く、1993年に米を超えて以来その順位を前後している。しかし、1980年代まで順調に作付けを拡大してきた野菜も、1990年代に入り6万4千~5千haに推移している。作目は多様化しているが、一方では夏期生産を中心にしたタマネギ、カボチャ、ナガイモやトマトなどの特産作目が安定的に拡大している状況にある。

 北海道の夏の気象は、(1)日中は暖かく夜は涼しいこと、(2)日長が長く日照も多いこと、(3)雨が少なく湿度が低いこと、(4)梅雨や台風などによる災害が少ないことなど、恵まれた環境にあり、高品質品をクリーンに安定的に生産することができるが、反面その販路を求めるとき、遠い距離という物理的な、また冷涼な良環境から高温な不良環境へ輸送するという質的な大きなハンデがあり、これらをクリアするために要する経費は、今のところやはり生産者が負わなければならないのが現状でもある。したがって、今後とも生産者は、野菜が手元にある時は「農産物」であるものが、流通の過程では「商品」になり、消費者に届くと「食品」になる、そのそれぞれに求められる厳しいニーズの全てに精通して“定質”“定量”“定期間”安定生産し供給していく、しかもよりいっそうの低コストでクリーンな生産技術の研鑽が求められている。また、北海道は、これらに十分応えていける可能性を持った“試される大地”なのである。

科名 生活型 雑草名
イネ科 1年草

1~2年草
多年草
イヌビエ、ヒメイヌビエ、エノコログサ、アキノエノコログサ、
メヒシバ、オヒシバ、アキメヒシバ、ニワホコリ
スズメノカタビラ、スズメノテッポウ
シバムギ
アカザ科 1年草 シロザ、アカザ
アブラナ科 1~2年草
多年草
スカシタゴボウ、ナズナ、イヌガラシ
キレハイヌガラシ
キク科 1年草
1~2年草
多年草
トキンソウ
ノボロギク、ヒメジョオン、オオアレチノギク
ハチジョウナ、セイヨウタンポポ、オオジシバリ
ゴマノハグサ科 1~2年草 イヌノフグリ、オオイヌノフグリ
シソ科 1年草 ナギナタコウジュ
スベリヒユ科 1年草 スベリヒユ
タデ科 1年草
多年草
イヌタデ、オオイヌタデ、サナエタデ、タニソバ、ミチヤナギ
ヒメスイバ、エゾノギシギシ
ツユクサ科 1年草 ツユクサ
トウダイグサ科 1年草 エノキグサ
ナデシコ科 1~2年草 ハコベ、ノミノフスマ、オオツメクサ
ナス科 1年草 イヌホウズキ
ヒユ科 1年草 イヌビユ、アオビユ
カヤツリグサ科 1年草 タマガヤツリ、ホタルイ
トクサ科 多年草 スギナ

第1表 北海道の野菜畑に発生する主な雑草


第1図 中耕除草に要する労働時間の推移
(北海道農林水産統計年報;農畜産物生産費から作図)

露地野菜の雑草防除

 第1図に、代表的な露地野菜3作目の中耕除草に要する労働時間の推移を示した。示した年次は今手元にある資料で得られた最も古い年次と新しい年次であるが、ちょうど1968年は広く野菜に万能とされた「トリフルラリン(トレファノサイド)乳剤・粒剤」が上市され、野菜作にも除草剤の時代が急速に展開しようとした時期であり、その23年後の1991年は除草剤の使用が標準的な栽培法に組み込まれ体系化した時期である。この間に、それぞれの作物の規格内収量は、タマネギは4tから5tに、ニンジンは2.2tから3.2tに、キャベツは3.1tから4.1tに増加しているが、総労働時間はそれぞれおおむね40%、30%、60%に減少している。また、中耕除草に要する労働時間も、タマネギおよびニンジンでは5~6分の1に、キャベツでは2分の1になっている。これには、作業体系の変化や作業機等の開発改良によるところもあろうが、除草剤の実用化普及によるところが大きいものと思われる。雑草防除の方法には、言うまでもなく耕種的なもの、機械的なものなどがあるが、特にタマネギおよびニンジンは初期の生育が極めて緩慢な植物的特性や高密度な栽植様式等から、最も化学的な防除方法に依存度の高い作物=言い換えるならば省力・安定生産には除草剤の存在が無ければならない作物と言える。

 北海道の野菜畑には、第1表のような雑草が見られる。もちろん、作物の種類や作型の違い、畑の前歴や地域により優占する草種は異なるが、一般に年数を経た畑では広葉雑草の割合が多く、新畑や転換畑ではイネ科雑草が多い。発生の消長は、春先まず広葉雑草ではアカザ科、アブラナ科、キク科、タデ科、ナデシコ科などの雑草が、イネ科雑草ではスズメノカタビラが発生してくる。特に、低温年ではアブラナ科雑草の発生が旺盛になる。ついで、ナス科、ヒユ科、ツユクサなどの広葉雑草、イヌビエ、エノコログサなどのイネ科雑草が発生し、夏から秋にスベリヒユ、ナギナタコウジュ、アキメヒシバなどが多くなる。透明フィルムによるマルチ下ではスベリヒユやイヌホウズキの他、イネ科雑草が発生する。

 防除することが難しく年々増える傾向にある雑草は、キレハイヌガラシ、セイヨウタンポポ、ハチジョウナ、スギナなどの多年草と、他に1~2年草ではそれを苦手とする除草剤が多くて、また種子を多く実らせ繁殖力が強く、環境への適応性も広いキク科雑草とスズメノカタビラがある。


第2図 露地野菜における除草剤使用体系


第2表 北海道内において実用性が認められた除草剤(タマネギ、ニンジンについて)

 タマネギおよびニンジンについて、今日までに試験検討されその実用性が認められた除草剤を第2表に一覧した。これら多くの試験を経て、現在この二つの作物について組み立てられた除草剤の使用体系は、第2図のようになっている。露地野菜の中で除草剤が最も豊富にメニュー化されている二つの作物であるが、前述のようなことからスズメノカタビラはなおかつ難防除雑草の一つになっており、生産者は多少の作物への影響も覚悟しながら使い慣れた除草剤を変えたり、あるいはその作付けを断念したりする事例が多く出てきている現状にある。

 このような現状にあって、この雑草に卓効を有する「セレクト乳剤」の登場は、正に時宜を得たものとして歓迎される。(次号に続く)

(北海道立花・野菜技術センター)