パブリカ栽培について

三村 裕

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.94/F (2000.1.1) -

 


 


 

はじめに

 パプリカは、オランダの生鮮品輸入が1993年(平5)に解禁され、それ以降輸入量が急激に増加している。1997年の全国のパプリカ輸入量は、約8,800tで前年比5割増という大幅な伸びを示し、本年度も増加の見込みである。しかし、国内では生産者はまだ散布する程度で絶対量が足りず、おおむね輸入に頼っている。

 パプリカはピーマンと同じ仲間で、通常のピーマンと同様の栽培方法でもある程度の収穫が可能であるが、パプリカは従来品種と異なり赤、黄、オレンジの果色が主流で、熟カ収穫であるため低収量となりやすい。ここでは、一般的な栽培方法と共に、予想される障害等の対策についても紹介したい。


写真1 低温のため果頂部に尖りが発生

パプリカ栽培に必要な設備および栽培法

 国内産地では、ビニールハウスなど従来の設備を利用し、ピーマンの栽培法を流用しており、パプリカ独自の栽培法が未確立である。

 パプリカはピーマンの仲間で高温性作物であるが、その適温幅は比較的狭く、特に低温に対して感受性が強く(写真1)、草勢や着果のコントロールに微妙な温度管理が求められる。一般には着果は夜温16~17℃で最高となるが、通常は夜間最低気温18~19℃で管理する。また定植直後は気温を21℃程度にするので、周年栽培では暖房機の能力に余裕を持たせた方がよい。

 整枝方法はV字主枝2本仕立てが良い(写真2)。3~4本仕立ても可能であるが、すべての主枝を均等な草丈に揃えることは株当りの主枝数が多いほど難しくなる。栽植密度は主枝数6,000~8,000本/10aとし、採光の条件で密度を決定する。着果は基本的に主枝採りとするので、主枝は栽培期間中どこまでものばしていく。そのため長期栽培を行なうためには軒高の高いハウスが望ましい(写真3、4)。

 

写真2 主枝2本V字仕立て(写真は草勢が強かったためU字仕立てとなっている) 写真3 1回目の収穫ピーク時(最初はあまり着果させず草勢を維持、密植である) 写真4 天井の低いハウスでは主枝が伸ばせず、側枝が増え着果不安定で果形も揃わない

 

病害抵抗性

 パプリカは海外特にオランダでの育成品種が多く、TMV等のウイルス抵抗性はあるものの、東アジアで発生の多い病害に対して考慮されていないことが多い。特に、青枯病、疫病には一般に国内育成品種より弱く、水田転作畑における栽培では問題となる。また、施設栽培が前提となるので、長期に渡って連作を繰り返す場合、ロックウール栽培がもっとも好ましい。

土肥栽培での草勢コントロール

 満足すべき初期生育を得るための条件は、たとえば、育苗期ではポットの根の生育が十分あり病害虫が無いこと、根圏は温度条件を満たしていること、定植後は気象条件がいいこと等である。ピーマン類は、通常第一花の蕾が見えれば定植するが、この時期より遅れて定植すると、草勢は弱くなり、生育後半の回復は難しくなる。定植後も土壌中の水分量と地温を一定に保つことが重要である。このコントロールがうまくいかないと、後に述べる果実のひび割れや尻腐れ等の生理障害の原因になったり、生育不良となる。しかし、土耕栽培ではこれらの条件を得ることが困難であるので、できればロックウール栽培が望ましい。

登熟期間と障害果実

 開花から収穫までの期間は品種や気候条件によって異なるが、1果150~170g程度の果実では、通常50~70日を要する。パプリカの果実の生理障害には、通常のピーマンに発生する尻腐れ以外に着果期間が長いため発生しやすい障害がいくつかある。その中でもっとも一般的な障害はひび割れ果である(写真5、6)。果実の肩の部分に亀裂が入るのは一般的に温度変化が激しいか、もしくは温度変化の可能性があり、特に1日の始めの変化による症状である。暖房が早い時期に切られると裂果が起こりやすい。気温を安定させるため十分な能力の暖房機の設置と効率的な換気装置が必要である。おもしろいことに、裂果した果実にはもっと深刻な生理障害がある尻腐病は滅多に発生しない。

 また、涼しい気候がある程度続いた後、急に高温になった場合、水浸状の斑点が果実の肩の部分に発生することがある(ピッティング)。気候が涼しくなった時、気温に遅れて地温が下がってくるという時間差のため1~2日間は根の付近の土の温度がまだ暖かい。このため根圧が高くなり、果実表面近くの細胞壁が破裂し水浸状の斑点が発生する。このピッティングを軽減するには、日の入り2時間前以降および日の出1時間後までの灌水をやめたり、ロックウール内の養液や土壌中ECを上昇させたりして、根からの水分吸収を少なくする。また、夜間に軽く頭上スプレーを行ない、根からの水分圧と地上部の水分との差を少なくする方法がある。この方法は特に効果的だが、2日以上続けて行なうと尻腐病が発生しやすくなる。

写真5
日焼け、高温によるひび割れ 
写真6
赤色着色期果実のひび割れ
(このような縦割れが多い)

品種の選定

 現在国内で使用されているパプリカ品種は、果実の形状、生育特性が異なる多様な品種が使われているが、品種選択は栽培を安定させる上で大切な要素の一つであり、現状を考えるともっと考慮するべき問題である。

 果実の形状は、ずんぐりとした肉厚の果形を持ち、果実の幅と高さが同程度からやや縦長で果重150~170gの品種がよい(写真7)。このような品種は一般に果形が揃いやすく、登熟日数も標準的である。さらに大きく重い果実を持った品種もあるが、単価が高いため売りにくく登熟期間も長いので、果実に障害を受けるリスクも高くなり、特にひび割れ果の発生が多くなる。また果肉の薄い品種が一部使用されているが(写真8)、これら品種は露地の比較的低温で栽培できる利点があるものの、果形が安定せず、現在のパプリカの主流商品と異なるため価格も安い。

 これらの条件を満たしていても、果形安定の程度は品種によって差があるので、いくつかの品種を試作し、栽培地の気候および設備にあった品種選定が必要である。

 また果実の生理障害の程度も品種によって異なる。ひび割れ果の中で細かなひびが数多く発生するラスセッティングやピッティングなどの生理障害が少ないと表示がある品種もある。病害抵抗性についてはTMV(L3)の抵抗性を持った品種を選ぶべきである。パプリカにおいては、抵抗性品種は数多くあるので選択に困ることはない。

写真7
試作より果形が揃いやすい品種を
選択することが大切 
写真8
比較的低温で肥大した露地用黄色品種
(果形が不安定で果実表面も凸凹も大きい)

おわりに

 パプリカの栽培は国内では二つの選択肢が考えられる。一つは従来のようにパイプハウスを使い投資をできるだけ押さえる方法である。こちらはやや短期の栽培となり、環境制御はセオリーに従って人手の管理をきめ細やかにすることで高率を上げる。

 もう一つはオランダに代表されるように重装備の設備を導入し、周年栽培できるだけ理想に近い環境を提供することで栽培を安定させ多収を目指す方法である。トマトではすでに国内でも大規模なダッチライトハウスの導入が進んでいるが、パプリカではまだこれからであり、設備のコスト低減が課題である。

 この点では、お隣韓国の方が1歩進んでおり、数十haのガラスハウスでパプリカのロックウール栽培が行なわれており、国内での栽培上参考になることが多いと思われる。

(京都府農業総合研究所)