チリカブリダニによる
ハウス栽培ブドウのカンザワハダニ防除

柴尾 学

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.95/A (2000.4.1) -

 


 


 

1.はじめに

 ブドウは日本の果樹では施設化率が高く、大阪府でもブドウ結果樹面積600haのうち55%がハウス栽培である。特に、大阪府の主要品種であるデラウェアは施設化が進んでおり、ハウスの加温栽培は加温開始時期により超早期加温、早期加温、普通加温、準加温にわけられ、無加温栽培も無加温二重被覆、無加温一重被覆にわけられる(第1図)。


第1図 デラウェアの作型

▲大阪府におけるハウス栽培ブドウ ▲捕食性天敵チリカブリダニ


▲カンザワハダニによるブドウ葉(デラウェア)の被害

 カンザワハダニは露地栽培ブドウよりハウス栽培ブドウで問題になる害虫である。近年、本種は加温ハウス栽培では加温機周辺の展開葉において3~4月から多発することがあり、発生時期は早期化している。本種の多発は早期落葉を引き起こし、果房の着色不良、糖度不足など果実品質に悪影響を及ぼすため、防除が必要になる。しかし、本種は微小で発見しにくく、発生に気づいて薬剤散布を行なおうとしても、薬液による果粉の溶脱、果粒の汚れのために薬剤散布できない場合がほとんどである。

 施設栽培のイチゴ、シソ、ナス、キュウリではハダニ類の防除のために捕食性天敵としてチリカブリダニがすでに農薬登録されている。そこで、ハウス栽培のブドウにおいてチリカブリダニの放飼によるカンザワハダニの防除効果について検討したので紹介する(柴尾ら、1998)。なお、これらの試験成績によりチリカブリダニ(商品名:スパイデックス)は1999年11月25日に施設栽培ブドウのハダニ類に対して農薬登録の適用拡大が行なわれた。チリカブリダニは日本の果樹で最初に農薬登録された天敵である。

▲放飼方法(チリカブリダニを増量剤のバーミキュライトごとティッシュペーパーで軽く包む) ▲放飼方法(ブドウ亜主枝の分岐点に置く)

2.試験成績の概要

(1)試験I(1996年)

 試験は1996年4~6月に羽曳野市飛鳥のハウス栽培圃場で、放飼区12aと慣行防除区20aを設定して行なった。両区とも品種はデラウェア、1月中旬加温開始であった。チリカブリダニは4月19日、5月2日、16日の3回、3.3個体/平方メートルを増量剤のバーミキュライトごとティッシュペーパーに包んでブドウ亜主枝の分岐点(約80ヵ所/10a)に置く方法で放飼した。調査は4月19日~6月26日の間に6回、各区50葉の葉裏についてカンザワハダニおよびチリカブリダニの雌成虫を計数した。

 結果は第2図に示した。慣行防除区では5月16日にカンザワハダニの寄生葉率68%、2.5個体/葉に増加し、5月27日に殺ダニ剤の酸化フェンブタスズ水和剤が棚上散布された。放飼区ではカンザワハダニの寄生葉率20%、0.4個体/葉の時にチリカブリダニの放飼を開始したため、5月30日にはカンザワハダニの寄生葉率66%、3.4個体/葉に増加したが、放飼開始1ヶ月後からはチリカブリダニの発生が認められ、放飼開始2ヶ月後の6月26日にはカンザワハダニの寄生葉率14%、0.2個体/葉に減少し、寄生密度は慣行防除区とほぼ同程度となった。

第2図: チリカブリダニによるブドウのカンザワハダニ
防除効果(試験I、1996年)
実線矢印:チリカブリダニの放飼
点線矢印:酸化フェンブタスズ水和剤散布(慣行防除区)

(2)試験II(1997年)

 試験は1997年2~4月に羽曳野市飛鳥のハウス栽培圃場で、圃場Aでは放飼区18aと無放飼区14a、圃場Bでは放飼区15aと無放飼区13aを設定して行なった。圃場Aは両区とも品種はデラウェア、12月10日加温開始であった。圃場Bは両区とも品種はデラウェア、12月25日加温開始であった。チリカブリダニは2月14日、24日、3月14日の3回、圃場Aでは2.2個体/平方メートル、圃場Bでは2.7個体/平方メートルを試験Iと同様の方法で放飼した。調査は2月14日~4月25日の間に6回、各区50葉の葉裏についてカンザワハダニの雌成虫を計数した。

 結果は第3図に示した。圃場A、Bとも無放飼区ではカンザワハダニが多発し、4月25日には圃場Aで寄生葉率74%、15.5個体/葉、圃場Bで寄生葉率66%、9.2個体/葉となった。一方、圃場Aの放飼区ではカンザワハダニの発生は少なく、寄生葉率28%、0.7個体/葉以下で推移し、圃場Bの放飼区ではカンザワハダニの発生は認められなかった。

 以上の結果より、ハウス栽培ブドウにおいてチリカブリダニの放飼によるカンザワハダニの高い防除効果が認められた。また、チリカブリダニ放飼に伴う栽培管理上の問題点は認められなかった。

第3図: チリカブリダニによるブドウのカンザワハダニ
防除効果(試験II、1997年)
実線矢印:チリカブリダニの放飼

▲チリカブリダニ放飼区(健全ブドウ葉) ▲無放飼区
(カンザワハダニによるブドウ葉の黄化)

3.利用のポイントと問題点

 ブドウにおけるチリカブリダニの利用のポイントと問題点は以下のように整理される。

(1)利用できる作型

 高温乾燥条件は放飼したチリカブリダニの定着に悪影響を及ぼすため、夏季の放飼では防除効果が劣る可能性がある。したがって、チリカブリダニを利用できるブドウの作型は密閉条件下で好適な温度と湿度が継続する加温ハウス栽培が適している。

(2)放飼時期と放飼量

 試験Iの結果より、チリカブリダニの防除効果は放飼約1~2ヵ月後に発現することから、5月放飼ではカンザワハダニの多発を抑制できないと考えられ、加温ハウス栽培における放飼適期は2~4月と推察される。また、チリカブリダニの放飼量は2~3個体/平方メートル、放飼回数は2週間間隔の3回で十分な防除効果が得られている。

(3)放飼方法

 ブドウ棚面の葉に効率良く放飼するためにはチリカブリダニを増量剤のバーミキュライトごとティッシュペーパーで軽く包み、ブドウ亜主枝の分岐点(50~80ヵ所/10a)に置く必要がある。チリカブリダニは加温機の周辺や温風ダクトの先など毎年ハダニの発生が多い地点で多めに放飼すると効果的である。放飼時間は25分/10a/人で比較的短く、農家には薬剤散布より楽に処理できると好評であったが、より簡易な放飼方法を工夫する余地がある。

(4)問題点

 カンザワハダニ以外の害虫が多発した場合の対策があげられる。ハウス栽培デラウェアでは問題となる害虫が比較的少なく、カンザワハダニ以外の害虫対策はそれほど重要ではない。しかし、大粒系品種ではチャノキイロアザミウマ、カイガラムシ類、フタテンヒメヨコバイ、鱗翅目害虫などの発生に十分注意する必要がある。また、チリカブリダニに対して悪影響の少ない薬剤は限られており、ブドウにおいて登録があり、チリカブリダニと併用できる殺虫剤はイミダクロプリド剤とダイアジノン剤(大粒種のみ登録)、殺ダニ剤は酸化フェンブタスズ剤とヘキシチアゾクス剤のみである。今後、チリカブリダニに対する殺虫剤および殺菌剤の影響を解明し、チリカブリダニと併用できる薬剤を増やしていく必要がある。

(大阪府立農林技術センター)