タバコうどんこ病の発生生態と
サルバトーレMEによる防除効果

吉良 秀

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.95/F (2000.4.1) -

 


 


 

1.はじめに

 タバコのうどんこ病は、大土寄期(移植1ヵ月後)から収穫期にかけて発生する病害で、特に関東以南で栽培されている黄色種(火力乾燥種)での発生が多い。タバコうどんこ病対策の一環として一部地域には抵抗性品種が導入されているが、栽培品種の大部分は罹病性品種であり、防除は薬剤の適期散布が主体となっている。

 本稿では、(財)日本葉たばこ技術開発協会を通じて実施された試験結果を基に、サルバトーレMEのタバコうどんこ病に対する防除効果と使用法について紹介する。

2.タバコうどんこ病の病徴と被害

 本病は主に下位~中位葉にかけて発生し、はじめに白い粉を落としたような小斑点ができ、しだいに病斑が拡大して葉全体が白い粉に覆われるようになる。この白い粉は病原菌の菌糸と分生胞子であり、病斑は葉の表にも裏にも発生する。菌糸は葉の内部に侵入することはなく、表面で伸張してところどころに吸器を差し込んで養分を吸収している。病勢が進むと下葉から黄変が進み、褐変して枯れ上がり、収量品質を大きく低下させる。罹病葉を乾燥すると、病斑部は暗褐色となり著しく品質が低下する。

▲タバコうどんこ病(初発期) ▲タバコうどんこ病(多発生)

3.タバコうどんこ病の発生生態と防除

 本病の病原菌は、Erysiphe cichoracearum de Candolleと呼ばれる糸状菌である。キュウリやカボチャ、メロン等に発生するうどんこ病と発生時期が同時期であるため、同一のうどんこ病と見なされることがあるが、全く異なった属であり、相互に寄生することはない。

 本病菌の生活環は、分生胞子時代と子のう殻時代があることが知られている。秋季にホオズキなどの宿主植物上で形成された子のう殻が枯れた植物上などで越冬し、子のう殻は春になると裂開してその中から子のう胞子を放出する。子のう胞子は風によって飛散し、他のホストに感染して増殖し、分生胞子を大量に放出する。この分生胞子がタバコに飛来して感染すると考えられている。しかし、関東以南の暖地では子のう殻時代が見られず、秋季にヤエムグラやナズナなどの越年植物に感染し、菌糸体のまま越年して発生源となる。宿主植物上で越冬した菌糸体は、翌春に気温上昇に伴って増殖し、多くの分生胞子を放出するようになる。この分生胞子がタバコや他の宿主植物に飛来して感染する。このように、タバコへの第一次伝染源はタバコ畑周辺の宿主植物(雑草)であるため、宿主植物であるヤエムグラ等の雑草除去はタバコうどんこ病防除の基本となっている。1975年(昭50年)前後に栃木県および長崎県で行なわれた実証試験でも、タバコ畑周辺の畦畔および路傍の雑草を刈り取りあるいは除草剤で除去した地区では、除去しなかった地区より初発生が遅れ、発病しても軽度であり、明らかに防除効果が認められた。

▲ノゲシに発生したうどんこ病 ▲うどんこ病の分生胞子

 うどんこ病はいったん発病した後には、主として病斑上に形成された分生胞子の飛散によって蔓延する。したがって、うどんこ病菌の発育を左右するような環境条件は、本病の発生拡大に大きく影響することとなる。本病の発生ならびにその程度に影響する環境要因の中で、最も重要なものは温度、湿度、日光、および降雨である。

 タバコうどんこ病の発生に最適な温度は16~24℃であるが、自然条件下では日中の温度が26℃以上になっても、夜間に19℃以下に下がれば激しい発病が見られる。したがって、盛夏より初夏の発生が多い。分生胞子の発芽に最適な湿度は60~80%で、90%以上あるいは50%以下では急激に低下する。発蕾期以降のタバコ畑の中は、風通しが悪く蒸し暑く、うどんこ病の発生に最適な環境となる。このため、できるだけ通風の良い畑を選び、畦間に雨水が溜まらないように排水を心がけるとともに、風通しを悪くする大柄なタバコを作らないことが重要である。

 うどんこ病は直射日光に弱いため、カボチャのうどんこ病のように太陽の直射光のもとで旺盛に発病することはなく、日陰となる下位葉で発病することが多い。胞子は照度40,000lux の直射光で3時間以内に死滅する。自然条件下のタバコ株間で上部、中央部、下部の照度を測定すると下部ほど照度は低く、下位葉ほど発病に好条件であることが分かる。また、タバコが大柄になるとさらにこの傾向は強くなるので、大柄なタバコの下位葉に発病が多く見られるのは当然である。

 本病は降雨後に曇天が続くような気象条件の時多発する傾向が見られる。激しい降雨にあうと、葉の表面の菌糸と胞子が洗い流されて白粉がなくなり、後に褐色の斑点が現れるが、天候が回復すると残った吸器から菌糸が伸長し、胞子を形成して元の状態に戻る。また、降雨によって洗われたタバコ葉面ほど分生胞子の発芽率が高く、その後の菌糸の伸長も早く、胞子形成量も多くなることが知られている。このように、降雨は発病助長の一要因と考えられるので、降雨後は薬剤散布の適期だと考えられる。

 発蕾期のタバコ葉に人工接種すると、下位>中位>上位の順に多く発病する。実際にタバコ畑では、下位葉から発病し、上位の葉ほど発病が少ない傾向が認められる。また、葉の表より裏面の方が多い傾向にある。この原因としては日照等の影響が葉裏の方が少ないことが考えられる。このことから、薬剤散布は下位、中位葉を中心に、特に葉の裏面に散布することが重要である。タバコは下位葉が密生しており、葉自体も大きいことから、噴口を上向きにし、薬液ができるだけ細かい霧状になるよう工夫して、丁寧に散布することが肝要である。また、薬剤散布の適期は、下葉の一部に小斑点が見られる初発生時である。激しく発病している状態では、胞子が大量に放出されており、病勢の拡大を抑制することが難しくなるので、1回目の散布時期を逸しないよう注意が必要である。タバコにおいてはうどんこ病防除薬剤の散布回数は2回以内に制限されており、初発時に1回目の散布を行ない、その後発病状況を見て1週間後から10日後を目安に2回目を散布する方法が効果的である。

4.サルバトーレMEによる防除効果

 サルバトーレMEは、イタリアで発明されたテトラコナゾールを有効成分とするトリアゾール系殺菌剤(一般的にEBI剤と呼ばれる)で、1999年8月に登録された新しい殺菌剤である。有効成分のテトラコナゾールは、子のう菌類、担子菌類および不完全菌類に対して広い抗菌活性を示し、予防効果のみでなく、発病後も病斑拡大を抑える治療効果を有することが認められている。

 第1図、2図は日本たばこ盛岡葉たばこ技術センターおよび葉たばこ研究所で行なわれた試験結果である。両試験地とも、タバコの下葉1~2枚にうどんこ病の小斑点が認められる初発生時に1回目の散布を行ない、その1週間後に2回目の散布を行なった。散布量は180l/10aで、下位から中位葉を中心に背負い式動力噴霧器で散布した。調査は1回目の散布直前、2回目散布直前(1週間後)および1回目散布から2週間後に実施した。両試験地とも無処理区では急激な病勢進展が見られたにもかかわらず、サルバトーレMEの3,000倍および4,000倍希釈液散布区は、対照薬剤のトリホリン乳剤と同様な高い防除効果が認められた。


第1図 タバコうどんこ病防除効果


第2図 タバコうどんこ病防除効果

 第3図は、日本たばこ岡山葉たばこ技術センターで実施された試験結果である。処理方法は前述の2試験地と同じである。しかし、薬剤散布時期がやや遅れ、1回目の散布前にはすでに症状が進んでおり、下から5枚程度の葉に病斑が見られ、重症葉も見られる状況下で試験を開始した。その結果、サルバトーレME2,000倍液散布は病勢の進展を抑えているが、サルバトーレME3,000倍液散布区と対照薬剤のトリホリン2,000倍液散布区では病勢の拡大を抑えきれなかった。薬剤の防除効果を最大限に発揮させるためには、初発時の散布が望ましいことは前述した通りである。サルバトーレMEには、治療効果もあるとされているが、急激な病勢進展や多発条件下でも、十分な効果を引き出すためには、初発時の適期散布に心がけることが大切であると思われる。


第3図 タバコうどんこ病防除効果

 最後に、サルバトーレMEのタバコでの使用基準は、希釈倍率が3,000~4,000倍で、使用回数は2回以内、薬剤散布から収穫までの期間を10日以上あけることとなっていますので、使用基準を守り効果的な散布を心がけてください。

(日本たばこ産業(株)鹿児島葉たばこ技術センター)