沖縄県における
マンゴー炭疽病の発生状況と防除法

高江 洲和子

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.96/A (2000.7.1) -

 


 


 

1.はじめに

 マンゴーはウルシ科に属する果樹である。熱帯アジアの原産で、果皮色は淡緑色、淡紅色、濃紅色および紫紅色と品種により異なるが、果肉色はいずれも橙黄色で、熱帯果実独特の甘い香りを放つ。沖縄県へは明治時代の初期に導入されたが、当初、開花期に降雨があると花穂の枯死が多く、着果に至るものは非常に少なかった。そのため、営利を目的とした栽培は困難と思われた。このような環境条件の中、開花時の降雨を避ける目的で屋根掛け栽培が開発され、さらに、ハウスでの栽培が可能になったことから、沖縄県におけるマンゴーの栽培が本格的に始まった。

▲マンゴーの開花株 ▲罹病花穂

 

2.炭疽病防除の必要性

 沖縄県に導入されているマンゴーの品種は約20品種あり、その中でもアーウィン種が栽培種のほとんどを占めている。その他の栽培品種としてはキーツ、センセーション、ヘーデン等がある。

 マンゴーの病害には炭疽病、うどんこ病、かいよう病、菌核病、灰色かび病、灰斑病、すす病がある。その中でも炭疽病は露地、施設栽培ともに被害の大きい重要な病害であり、防除困難な病害である。

 また、栽培品種として最も多いアーウィン種は果皮が柔らかいため、収穫後の果実表面に炭疽病が発生しやすい品種であるが、果皮色や品質が良く、市場での人気も高いことから、現在、本品種に変わる品種はない。その事も炭疽病の防除が望まれている一因になっている。

 

3.病 徴

 炭疽病は葉、若い茎、新芽、花序、果実に発生が見られる。葉の症状は、初め若葉に小斑点を形成し、色は褐色から黒褐色を呈する。それらは次第に拡大し、黒褐色、円形の病斑を形成、病徴が激しくなると落葉する。

 マンゴーは枝の先端部(頂芽)に多数の小花を房状に形成する(花穂)。開花時期に炭疽病に侵されると、花穂の主幹、主枝、果梗部に褐色から黒褐色の小斑点を生じる。その後病斑は拡大して花穂の先端部から黒変枯死すると同時に、落花する花が多数発生する。 果実には黒褐色から暗褐色の円形の病斑を生じ、それが拡大していく。そのため、激しいものは病斑が融合し、落果する。輸送中および市場でも発生病徴が拡大することもあり、激しい場合には果肉にまで達する。黒褐色病斑の中心部が窪み、そこに肉色、粘質の分生子粘塊を多数形成することもある。

  ▲罹病果実と病徴の拡大(右)

 

4.病 原

 炭疽病のColletotrichum属の特徴は、菌糸体は埋在し分岐して隔壁を持ち、無色透明、淡褐色あるいは暗褐色。分生子は分生子層を形成し、宿主の角皮中あるいは表皮下に形成される。

 マンゴー炭疽病の病原であるColletotrichum gloeosporioides(Penzig)Penzig&Saccardoはマンゴー、パパイア、モモ、セイヨウナシ等の果樹の他、アスパラガス、フェニックス等に寄生する多犯性の病原菌である。本菌の培養コロニー表面の色は灰白色で、裏面から観察すると灰色である。質感はふさ状で、培地上では分生子層中に針状、黒褐色、1~3隔膜の剛毛を形成する。分生子集塊色は淡鮭肉色から鮭肉色で、分生子の多くは円筒形、真直、両端は円い。大きさは9~16×3~5.6μmである。生育適温は28~30℃で、35℃以上では生育が急速に抑制される。

 

5.伝染源除去の重要性

 樹園観察によると、炭疽病は新葉では年中発生が見られ、7~8月の高温時には樹勢が旺盛なため病徴はマスクされる。しかし、秋から冬にかけて増加し、2~5月にピークとなる。発病は特に、出芽時および開花期から幼果期の降雨による多湿条件との関係が深い。

 上記に記述した炭疽病の発生状況において忘れてはならないことは、炭疽病は伝染源があると次々発生していくことである。つまり、病葉や枯れ枝処理の不十分さにより、園内に残存した炭疽病病原菌が、次回の主な伝染源となっている。病害防除に薬剤の使用は重要な部分を占めてはいるが、炭疽病の被害を少なくするためには、伝染源を少なくすることも必要であり、園内での病葉、病枝をこまめに除去することが重要である。

第1表 薬剤散布による防除効果

散布時期 供試薬剤 使用濃度 最終散布5日後 最終散布11日後 防除価
発病花梗率 発病度 発病花梗率 発病度  
3月上旬 オーソサイド水和剤 600倍 2.9% 0.7 4.1% 1.2 73.3
無散布 - 12.0 3.0 11.2 4.5 -
3月中旬 オーソサイド水和剤 600倍 1.7 0.3 0.9 0.3 77.0
無散布 - 7.4 1.9 5.5 1.3 -
指数:0;発病なし
   1;病斑数5個未満
   3;病斑数6~10個
   5;病斑数10個以上

6.薬剤防除対策

 沖縄県のマンゴー炭疽病は開花期に発生が多く、開花期の落花はマンゴー栽培に大きな影響を与える。そのため、元沖縄県農業試験場病理研究室室長渡嘉敷唯助氏は在任中に、開花期に重点をおいた防除法を検討しているので、ここに一例を紹介する。

 供試品種はアーウィンを用い、開花期の3月上旬と中旬に薬剤散布を開始し、7日間隔で散布を実施した。そして、最終散布後5日目、11日に花梗部の発病花梗率および発病度を調べ、薬剤による防除効果を検討した。

 その結果、3月上旬、中旬ともオーソサイド水和剤の600倍液散布は無散布区と比較して発病花梗率、発病度とも低く、防除効果の高いことが示された。また、開花期の花、花梗、新芽等への薬害は認められなかった。

 このようなことから、マンゴー炭疽病の防除対策としては、現在のところ、オーソサイド水和剤600倍液の散布が有効で、特に、開花時の散布は効果が期待できると思われる。ただ、マンゴー炭疽病に対する防除薬剤については、最近、ベノミル耐性菌の出現等の話題もあり、今後とも検討する必要があることも事実である。

 その他、収穫直後の果実を温湯浸法(50℃の温湯に20分浸漬または52℃の温湯で10分浸漬)で処理し、炭疽病菌を死滅させて出荷する方法も有効な防除法であるが、熱を加えることによる果皮色等の変化を好まない消費者も多く、薬剤による炭疽病の防除を求める声は大きい。

(沖縄県農業試験場)