アブラムシとその寄生バチ(2)
アブラバチとアブラコバチ

高田 肇

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.97/F (2000.10.1) -

 


 


 

 アブラムシの天敵はマイナーなものも数え上げると広範なグループにわたり、よく知られているテントウムシやクサカゲロウ、ハナアブなどの昆虫のほかに、クモ、ダニ、ムカデ、ナメクジ、線虫、鳥、菌類が含まれる。これらの天敵は寄生者、捕食寄生者、捕食者、病原微生物に類別できるが、ここでは捕食寄生者の主要グループであるアブラバチ(写真:上左)とアブラコバチ(写真:上中・右)について、特性と利用を中心に対比しつつ概観したい。

 アブラバチはコマユバチ科アブラバチ亜科、アブラコバチはツヤコバチ科に属する。アブラコバチ亜科はすべてアブラムシ寄生性であるが、ツヤコバチ科は一部の属がアブラムシ寄生性、そのほかの属はカイガラムシまたはコナジラミ寄生性である。アブラムシ寄生性ツヤコバチをアブラコバチと称する。アブラバチは世界から約600種、アブラコバチは約50種、日本からそれぞれ約80種と17種が知られる。

 1998年に農薬登録された(株)アリスタ ライフサイエンスの「アフィパール」は、アブラバチの一種、コレマンアブラバチを含有する。本種と導入が検討されているエルビアブラバチについては次号で詳述する。

(1)ダイコンアブラバチ雌成虫、(2)ワタアブラコバチ雌成虫の産卵、(3)ワタアブラコバチ寄主体液摂取、(4)ダイコンアブラバチの寄生によるニセダイコンアブラムシのマミー、(5)Praon sp.の寄生によるエンドウヒゲナガアブラムシのマミー、(6)Aphelinus sp. Eの寄生によるモモアカアブラムシのマミー

 

1.生活史と特性比較

 アブラバチとアブラコバチはともに内部単寄生性である。1匹のアブラムシに複数の卵が生まれることはあるが、ハチが2匹以上羽化することはない。寄主体内でふ化した幼虫は、まず生命維持に関係のない卵巣や脂肪体を食べて成長し、最後に消化管、背脈管、気管などを食べる。アブラムシはこの時点で死亡する。ハチ幼虫は寄主体内の組織・器官を食べ尽くすと、アブラバチでは寄主の腹面を裂き絹糸線からの分泌液でアブラムシを植物体などの基質に固着し、寄主の外皮を裏打ちするようにして繭を紡ぐ。アブラムシの薄い外皮は分泌液との反応で硬くなり、黒色、濃褐色、淡褐色、赤色などハチのグループに特異的な色に変わる。このような被寄生アブラムシをマミー(ミイラ)という(写真:下左)。ハチはその中で蛹化する。Praonなど一部の属では、幼虫は寄生の腹面から脱出しアブラムシの遺骸の下に絹糸でテント状の囲いをつくり、その中で営繭し蛹化する(写真:下中)。アブラコバチでは幼虫は寄主の外皮を裂かず絹糸も吐かないが、分泌液が腹部の外皮を浸透してアブラムシを基質に固着させ外皮を硬化黒変させる。マミーの形状はアブラバチでは丸く、アブラコバチでは細長い(写真:下右)。成虫は羽化後口器でマミーに丸い穴を開けて脱出する。

 これらの捕食寄生バチの寄主はアブラムシ科に限られ、カサアブラムシ科とフィロキセラ科には寄生しない。アブラバチの寄主はアブラムシ科の11亜科のうち10亜科にわたるが、アブラコバチではアブラムシ亜科とマダラアブラムシ亜科が主で6亜科のみである。各種の寄主範囲は一般に狭く、特定の種あるいはグループに限られる。約20゚Cにおける発育期間は、アブラバチでは約2週間、アブラコバチでは約3週間で、アブラムシ(約1週間)よりそれぞれ2倍、3倍長い(第1表)。マミー形成から羽化までの期間はアブラバチでは全発育期間の約3分の1、アブラコバチでは約2分の1である(第1表)。雌成虫の生存日数は羽化後短期間に集中的に産卵するアブラコバチより、長期間に均等に産卵するアブラコバチのほうが長い(第1表)。1雌当り総産卵数はアブラバチでは100~500(最多1,200)、アブラコバチでは50~400(900)である(第1表)。既寄生寄主を識別する能力はアブラバチよりもアブラコバチの方が高く、1匹の寄主に2つ以上の卵を産む過寄生は後者ではまれにしか起こらない(第1表)。アブラコバチの雌成虫は寄主体液摂取(写真:上右)を行ない、その栄養分によって卵を逐次成熟させる。アブラバチにはこの習性はない(第1表)。

形質 アブラバチ アブラコバチ
発育期間(約20゚C) 13~17日 18~24日
 産卵~マミー形成 2/3 1/2
 マミー形成~羽化 1/3 1/2
 :アブラムシ ×2 ×3
産卵数(最多) 100~500(1,200) 50~400(900)
雌成虫生存日数(20~25゚C) 6~18日 18~46日
産卵パターン 短期集中型 長期均等型
過寄生 ±
寄主体液摂取 +(日当り1~2匹)
分散能力 やや高い/高い 低い/中程度
発育零点 1~7.5゚C 6~10゚C

第1表 アブラバチとアブラコバチの特性比較a)
(数値はいずれも平均値)
(注):a);出典については省略する

 

2.生物的防除素材としての利用

 アブラコバチの一種、ワタムシヤドリコバチ(Aphelinus mali)によるリンゴワタムシの防除は、害虫を導入天敵によって防除するいわゆる“古典的生物的防除”の成功例としてよく知られる。リンゴワタムシはリンゴの樹幹、枝、葉柄、成長点、根に寄生し、加害部を隆起させ、樹勢を衰弱させる。このハチは1921年に北米東北部からカナダブリティッシュコロンビア州、イタリア、ウルグアイ、南アフリカへ導入されたのを皮切りに、その後世界各地で輸入放飼された。日本へも1931年にオレゴン州から青森県へ導入され成功を収めた。これはわが国においてアブラムシを対象に行なわれた“古典的生物的防除”の唯一の例である。外国ではその後も侵入害虫アブラムシを防除するため、アブラバチやアブラコバチがたびたび導入されている。導入国はアメリカ合衆国が最も多く、オーストラリア、ニュージーランドがそれに次ぐ。防除対象はアルファルファ、ムギ類、果樹を加害するアブラムシが多い。最近の例として北米に侵入したロシアコムギアブラムシ(Diuraphis noxia)がある。これまでにコレマンアブラバチ、ダイコンアブラバチなど5種アブラバチとAphelinus albipodus、A. asychisなど4種アブラコバチが、南ヨーロッパ、中東、中央アジア、東アフリカ、南米などから北米各地に導入されている。

捕食寄生バチ 防除対象アブラムシ
アブラバチ  
  Aphidius colemani コレマンアブラバチ ワタ、モモアカ
A. ervi エルビアブラバチ チューリップヒゲ、ジャガヒゲ
A. matricariae モモアカ
Diaeretiella rapae ダイコンアブラバチ (アブラムシ類)
Lysiphlebus testaceipes (アブラムシ類)
アブラコバチ  
  Aphelinus abdominalis チューリップヒゲ、ジャガヒゲ
A. asychis ワタ、モモアカ
A. varipes ワタ

第2表 害虫アブラムシの生物的防除素材として
商品化された捕食寄生バチa)
*1998年に農薬登録された
a):Hunter(1994)、van Lenteren et al.(1997a)、van Lenteren et al.(1997b)、Copping(1998)から引用

 天敵のもう一つの利用法である“大量放飼”のために、欧米ではこれまでに8種捕食寄生バチが商品化されている(第2表)。これらは施設作物を加害するアブラムシ防除用で、防除対象はその主要害虫であるワタアブラムシ、モモアカアブラムシ、チューリップヒゲナガアブラムシあるいはジャガイモヒゲナガアブラムシ(以下および付表では、それぞれワタ、モモアカ、チューリップヒゲ、ジャガヒゲと略記)である(前号参照)。

捕食寄生バチ ワタ モモアカ チューリップヒゲ ジャガヒゲ
アブラバチ        
  [導入(検討)種]        
  コレマンアブラバチ
エルビアブラバチ
[日本産種]        
  Aphidius gifuensis キフアブラバチ  
Lysiphlebus japonicus ニホンアブラバチ    
ダイコンアブラバチ    
Binodoxys communis    
Ephedrus nacheri    
アブラコバチ[日本産種]        
    Aphelinus gossypii ワタアブラコバチ    
A. asychis  
Aphelinus sp. B    
Aphelinus sp. E

第3表 日本産および導入(検討)捕食寄生バチの
4種アブラムシに対する適性度a)a)
a):◎高い、○低い、-ない/ほとんどない
[導入種はvan Schelt(1997)、日本産種は高田未発表データのよる]

 

 最近、わが国においてチューリップヒゲが一部地域のトマトで問題化しているため、コレマンアブラバチに続いてエルビアブラバチの導入が検討されている。両種ともに優れた防除素材であるが、在来種の中に利用可能性のある種はないのであろうか。その候補として9種在来捕食寄生バチをあげ、導入(検討)種とともに施設作物を加害する主要4種アブラムシに対する適性度を示した(第3表)。在来のアブラバチの中にはワタ、モモアカのいずれかに適性の高い種はあるが、コレマンアブラバチのようにその両方に適性の高い種はない。チューリップヒゲの捕食寄生バチについては、調査が不十分であるがこれまでのところ適性の高いアブラバチは見つかっていない。一方、アブラコバチにはAphelinus asychisやAphelinus sp. Bのようにワタにもモモアカにも適性の高い種がある。A. asychisはチューリップヒゲにも適性が高い。ワタアブラコバチはワタに、Aphelinus sp. Eはモモアカとチューリップヒゲに適性が高い。

 アブラバチとアブラコバチのどちらが生物的防除素材として優れているかを評価するのはむずかしいが、それぞれの特性(第1表)から一般的な長所-短所の比較はできる。

  1. アブラバチはアブラコバチより発育期間が短く日当り産卵数が多いので増殖率は高い。
  2. アブラバチはアブラコバチより分散能力が高い。
  3. アブラコバチはアブラバチより保存・輸送に好適なマミー形成後の発育期間が長い。
  4. アブラコバチは卵が無駄になる過寄生をまれにしかしない。
  5. アブラコバチは捕食寄生のほかに、寄主体液摂取によっても寄主を殺す。
  6. アブラコバチの方がアブラバチより活動温度域が高い。

 アブラムシの防除に捕食寄生バチを利用する際には、種の特性はもとよりアブラバチあるいはアブラコバチに共通する特性についても十分吟味し、それぞれの長所を生かして使い分けていく必要があろう。

(京都府立大学農学部)