オルトラン水和剤による
ツツジグンバイとツツジコナジラミの防除

池田 二三高

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.98/A (2001.2.28) -

 


 


 

 ツツジグンバイは、ツツジの主要害虫として古くから知られている。ツツジを植栽すればかならず発生し、葉の吸汁加害により美観を損ねたり、生育を抑制させる被害を引き起こすため、ツツジの防除は本種を中心に行なわれることが多い。一方、葉裏にはコナジラミ類も寄生するので、薬剤によってはツツジグンバイに代わってコナジラミ類が優占となる事例がある。その被害であるすす病の発生している公園も多い。コナジラミにはツツジコナジラミとツツジコナジラミモドキが発生するが、全国的には前者の発生が多く、後者は局地的な発生である。ここでは、両者に有効なオルトラン水和剤を使用して、防除効果を検討したので紹介する。

ツツジグンバイの発生生態と被害

 秋季に葉肉内に産卵された卵で越冬する。成虫は落葉下などで冬季から3月までごく少数見られるが、これらの成虫は4月までに全て死亡し越冬はできない(井上、1993)。越冬卵は4月中旬から孵化して幼虫が見られる。新成虫は5月下旬から現れ、10月まで数世代を経過する(第1図)。成虫と幼虫の個体数が最も多い時期は7~8月である。9月以降は気温の低下とともに減少する。

第1図 ツツジグンバイの50葉当りの平均寄生虫数(頭)

 成虫と幼虫は葉裏に寄生し、口針で葉を吸汁する。吸汁箇所は葉表から見ても白斑となって現れる。多数発生すると葉全体が白くなる。この被害は公園や街路樹であれば無視できるが、庭木や盆栽の鑑賞樹では美観を損ねる被害となり、徹底した防除が行なわれている。被害程度とツツジの生育に対する直接の影響については詳しい調査結果の報告はないが、全面がおよそ80%の白斑症状が出ても生育には大きな影響はないように思える。しかし、全体に白化した葉は、7~8月には30℃以上の高温と直射を受けることが多いので、このような株では秋季の新芽の伸長は明らかに悪くなる。また、その被害葉は秋季から冬季にかけて早期に落葉することが多く、翌春の新芽の伸長が抑制される。

▲葉裏に寄生のツツジグンバイ成虫と幼虫 ▲ツツジコナジラミの吸汁により白斑が生じた葉の被害

▲葉裏に寄生のツツジコナジラミ幼虫(左)と成虫(右)

ツツジコナジラミの発生生態と被害

 ツツジコナジラミもツツジグンバイと同様に葉裏に寄生するので、少発生時には両種とも混発している。ツツジでは防除対象がツツジグンバイを重点に行なわれるので、防除が比較的よく行なわれている公園や庭園では、むしろツツジコナジラミの被害が多くなっている。このため、排泄物にすす病が発生して葉が黒化し、葉色が劣って美観が低下したり樹勢が衰える株が見られる。

 ツツジコナジラミは成熟幼虫で越冬する。成虫は4月から現れ、10月に終息する。新芽に産卵するので6~7月の発生がもっとも多く、8月には減少する。9月以降、新芽の伸長とともに再び増加するが、10月には急速に減少する。

薬剤による防除

 ツツジグンバイとツツジコナジラミが少数発生している垣根仕立てのツツジにおいて、オルトラン水和剤(1,000倍)またはMEP乳剤(1,000倍)を散布した結果は第1表、2表の通りである。

第1表 ツツジグンバイ成虫と幼虫数

(注)1区3平方メートル3連性、1995年6月10日散布、各回各区から50葉を採集調査、品種オオムラサキ

薬剤名 散布当日 1週間後 2週間後 4週間後
オルトラン水和剤 4.3 0.0 0.0 3.3
MEP乳剤 2.7 0.7 1.7 3.0
無処理 2.3 5.0 15.0 38.3
 

第2表 ツツジコナジラミ2齢以上の幼虫と蛹数

(注)1区3平方メートル3連性、1995年6月10日散布、各回各区から50葉を採集調査、品種オオムラサキ

薬剤名 散布当日 1週間後 2週間後 4週間後
オルトラン水和剤 15.7 1.0 1.0 4.3
MEP乳剤 12.0 4.7 10.7 38.0
無処理 8.3 11.0 22.0 118.7

 オルトラン水和剤は、散布4週間後においてもツツジグンバイおよびツツジコナジラミとも散布前の密度以下に抑えた。MEP乳剤はツツジグンバイに対してはオルトラン水和剤とほぼ同様の効果を期待できるが、ツツジコナジラミに対しては効果が劣った。このため、MEP乳剤を散布するとツツジコナジラミが優占種となることがある。

 ツツジグンバイとツツジコナジラミが少数発生している垣根仕立てのツツジにおいて、オルトラン水和剤(1,000倍)およびMEP乳剤(1,000倍)を5月と6月に散布した結果は第2図、第3図である。

第2図 オルトラン水和剤散布区のツツジグンバイとツツジコナジラミ頭数(1996)
ツツジグンバイは成虫と幼虫。ツツジコナジラミは2齢幼虫~成虫数1区5平方メートル2連性、各回各区から50葉を採集調査、品種オオムラサキ↓は薬剤散布日

第3図 MEP乳剤散布区のツツジグンバイとツツジコナジラミ頭数(1996
ツツジグンバイは成虫と幼虫。ツツジコナジラミは2齢幼虫~成虫数調査条件は第1図と同一↓は薬剤散布日

 オルトラン水和剤は、散布後1カ月は両種の発生を低く抑え、多発生期となる6~7月の密度も低かった。盛夏時にはツツジの伸長も停止することもあって、両種の密度も増加しないが、秋季の発生も特に多発生とならず、気温の低下とともに減少した。春季以降、被害の発生は軽微で経過した。

 MEP乳剤は、ツツジコナジラミに対して散布直後の効果は高いが、残効は短く、6~7月の多発生時には急増し、排泄物によるすす病の発生も認められた。盛夏時にはツツジの伸長も停止することもあって、発生は抑制されたが、秋季には再び増加し、気温の低下とともに減少した。一方、ツツジグンバイに対しては効果が高く、秋季まで低密度で経過し被害はほとんど認められなかった。しかし、6月後半以降にも引き続き発生は抑制されたが、薬剤の残効が特に優れたことが要因ではなく、ツツジコナジラミの多発生により生じた結果と考えられた。

▲幼虫が多発生して寄生菌(アスケルソニア)により死亡した幼虫

▲ツツジコナジラミの排泄物に寄生してすす病が発生した葉一部白化した葉はツツジグンバイによる被害葉

 このように、ツツジグンバイはツツジの主要害虫であるが、本種のみをターゲットとして防除を行なうと、同じく葉裏に寄生する競合種のツツジコナジラミの発生を招き、すす病の発生を引き起こす可能性が高い。ツツジではすす病の発生はあまり問題にされていないように思えるが、特に大樹下の植え込みの日陰環境では優占種となっていることが多く、ここではすす病が発生して美観や樹勢の低下の要因となっている。また、ツツジグンバイは市街地ほど多い傾向はあるが、ツツジコナジラミの方がむしろ広範囲にわたって発生が認められ、潜在的害虫となっている。このため、防除に際しては、オルトラン水和剤のような両種に有効な薬剤の選定、あるいは両種を考慮して薬剤を選定することが必要である。

(静岡県農業試験場)