岩手県のキャベツ害虫防除における
ゼンターリ顆粒水和剤の利用法

鈴木 敏男

- アリスタ ライフサイエンス農薬ガイドNo.98/D (2001.2.28) -

 


 


 

 岩手県では、野菜生産拡大の牽引役としてキャベツを定め、本年度の栽培面積はほぼ1,000haに達した。キャベツは害虫の種類が多く、特にコナガとヨトウガの防除は重要である。ここでは、主要害虫に対する新規BT剤のゼンターリ顆粒水和剤の効果を紹介し、使用場面について考えてみたい。

1. 主要害虫の発生時期と重点防除時期

 岩手県は広大な面積のため、地域により害虫の発生時期は異なる。第1図に試験を実施した北上市が位置する県中南部における主要害虫の発生時期と重点防除時期を示した。作型には早春まき、春まき及び夏まきがあり、4月上旬~5月中旬および7月中旬~8月上旬に定植される。特に早春まきおよび春まきの栽培面積が急増している。

第1図 岩手県中南部におけるキャベツの作型と主要害虫の発生時期および重点防除時期

 

 害虫の発生を時期別に見ると、5月下旬までは発生が非常に少ないモンシロチョウ第1世代だけで、一般に防除は不要である。6月上旬から9月中旬までは種々の害虫が発生するので防除は不可欠である。9月下旬以降はコナガの発生量によるが、一般に防除は不要と思われる。以下に主要害虫の発生時期と重点防除時期について述べる。

(1)コナガ

 岩手県など寒冷地の露地では越冬できないため、県外の暖地から成虫が飛来して発生が始まる。フェロモントラップには4月頃から誘殺が認められるが、圃場で幼虫が認められるのは5月下旬で、6月下旬頃から急増期に入り、7月下旬~8月に発生盛期となる。9月以降は次第に減少するが、積雪が始まる頃まで認められる。年間を通すと夏季を中心とした一山型となる。

 第2図に1986年(昭61)以降のフェロモントラップ誘殺数の年次推移を4月~6月と7月~9月に分けて示した。年間誘殺数は1990年(平2)から増加し、1994年から急増している。また、大半が県外からの飛来である6月までの誘殺数は1991年から急増している。この原因として、近年ずっと暖冬に経過している影響により、県外の越冬地帯が北上していることが考えられる。

第2図 コナガフェロモントラップ誘殺数の年次比較(北上市)

第3図 ヨトウガ第1世代産卵量とキャベツ定植時期の関係(北上市)

 

 早春まきおよび春まきでは、コナガの防除開始時期を明らかにすることが効率的防除を推進する上で重要な課題であった。そこで、フェロモントラップ誘殺消長、産卵消長、気象観測等のデータをもとに、コナガ防除開始時期予測法について検討した。その結果、フェロモントラップ半旬誘殺数が30頭以上に達した時期にその後の半旬平均気温を測定し、その値が16℃以上に達した時期の2~3日後が防除開始時期であることが明らかとなった。平年の平均気温から求めた県中南部の防除開始時期は6月1~2半旬である。

1. ヨトウガ卵塊
2. ヨトウガ孵化幼虫集団
3. ヨトウガによるキャベツ被害株
4. コナガ成虫
5. コナガ卵
6. コナガ老齢幼虫

(2)ヨトウガ

 土中に蛹で越冬し、年2世代経過するが、岩手県中南部平坦地では第1世代の一部が蛹で夏眠するため成虫出現時期は3山型となる。すなわち、越冬世代成虫は5月下旬~6月中旬、第1世代成虫は7月下旬~8月中旬と9月上~中旬に出現する。第1世代幼虫が高温条件で発育すると夏眠蛹が多くなる。第3図に定植時期と産卵量の関係を示したが、生育が進んだキャベツほど産卵量が多い。また、1雌当りの産卵数は非常に多いので、孵化期から若齢幼虫期に好天が続くと、幼虫の生存率が高くなり大発生することがある。

 1998年(平10)は県中南部の新規栽培地域を中心に防除適期を逃してヨトウガの被害を受けた圃場が目立ち、安定生産上大きな問題となった。そこで、産卵消長、孵化消長、気象観測等のデータをもとに、第1世代防除時期予測法について検討した。越冬後の蛹の発育零点は8℃(長谷川、1967)とした。その結果、越冬世代の産卵盛期は有効積算温度が280日度に達した時期、第1世代の防除適期に当たる孵化盛期は有効積算温度が310~360日度に達した時期であることが明らかとなった。県中南部における平年の防除適期は6月2~4半旬である。

(3)モンシロチョウ

 蛹で越冬し、年4世代発生する。産卵盛期は5月中~下旬、7月上旬、8月上旬および8月末~9月初旬である。世代別卵密度は、第3世代>>第2世代=第4世代>>第1世代であり、夏季に発生が多くなる。

2. 主要害虫に対するゼンターリ顆粒水和剤の防除効果

 ゼンターリ顆粒水和剤はキャベツのヨトウガ、コナガおよびモンシロチョウに1,000~2,000倍で登録されている。そこで、上記害虫に対する防除効果について他のBT剤等と比較した。

供試薬剤、希釈倍数 調査時期 卵塊 孵化
卵塊
若齢
幼虫
中齢
幼虫
老齢
幼虫
幼虫
合計
ゼンターリ顆粒水和剤
      2,000倍
散布前 1.0 220.5 1.5 0 222.0
7日後 0.5 1.5 6.0 2.0 0 8.0
15日後 0 0.5 20.0 1.0 1.5 22.5
A水和剤 2,000倍 散布前 5.0 180.5 5.0 0 185.5
7日後 0.5 5.5 72.5 33.0 0 105.5
15日後 0 0.5 8.5 58.0 22.5 89.0
B水和剤 1,000倍 散布前 2.5 214.5 6.5 0 221.0
7日後 0 3.0 59.0 26.0 2.5 87.5
15日後 0 0 4.0 32.0 29.5 65.5
C水和剤 1,000倍 散布前 1.0 212.0 1.0 0 213.0
7日後 0.5 1.0 18.5 10.5 1.0 30.0
15日後 0 1.0 60.5 11.5 15.5 87.5
D水和剤 1,000倍 散布前 3.5 184.5 4.0 0 188.5
7日後 0.5 3.5 78.5 17.0 4.0 99.5
15日後 0 0.5 20.0 41.0 37.0 98.0
E水和剤 1,000倍 散布前 0.5 172.5 0 0 172.5
7日後 1.0 0.5 14.5 2.0 0.5 17.0
15日後 0 1.5 79.5 5.0 10.0 94.5
無   処   理 散布前 2.5 163.0 6.0 0 169.0
7日後 1.0 2.0 154.0 79.5 4.5 238.0
15日後 0 1.0 13.0 60.5 96.5 170.0

第1表 キャベツのヨトウガに対する主要BT剤の防除効果(10株当り)
散布時期:平成7年6月16日

 

(1)ヨトウガに対する防除試験の例を第1表に示した。第1世代発生量が極めて多い条件下で、防除適期よりやや遅い若齢幼虫期に本剤を2,000倍で散布した。その結果、散布15日後まで中・老齢幼虫はほとんど見られず、高い防除効果が認められた。一方、他のBT剤はいずれも中、老齢幼虫まで発育した個体が多く、食害も目立った。

(2)コナガに対する防除試験の例を第2表に示した。散布時は少発生であったが、無処理ではその後急増し株当り幼虫密度は8頭以上に達した。ゼンターリ顆粒水和剤を2,000倍で散布した結果、散布7日後は高い密度抑制効果が認められ、15日後は幼虫密度がやや増加したが有効であった。他のBT剤と比較してほぼ同等と判断された。

(3)モンシロチョウに対する防除試験の例を第3表に示した。第1世代若齢幼虫期にゼンターリ顆粒水和剤を2,000倍で散布した。第1世代に対する密度抑制効果は非常に高く、試験後半には産卵量の多い第2世代が発生したが、散布15日後の第2世代に対する密度抑制効果も高かった。他のBT剤と比較してほぼ同等と判断された。

供試薬剤、希釈倍数 調査時期 若齢
幼虫
中老齢
幼虫
合計
ゼンターリ顆粒水和剤
      2,000倍
散布前 6.5 8.0 0.5 15.0
7日後 0.5 0 1.0 1.5
15日後 9.0 10.5 0.5 20.0
A水和剤 2,000倍 散布前 7.5 9.0 0 16.5
7日後 0 0.5 0.5 1.0
15日後 11.0 11.5 0 22.5
B水和剤 1,000倍 散布前 3.0 6.0 0 9.0
7日後 0.5 1.0 0.5 2.0
15日後 8.5 4.0 0 12.5
C水和剤 1,000倍 散布前 6.5 1.5 0.5 8.5
7日後 0 0.5 1.0 1.5
15日後 6.5 2.0 0.5 9.0
D水和剤 1,000倍 散布前 4.5 4.5 0 9.0
7日後 1.0 3.0 1.5 5.5
15日後 17.5 40.5 2.0 60.0
E水和剤 1,000倍 散布前 6.5 5.0 1.0 12.5
7日後 0.5 1.0 0.5 2.0
15日後 12.0 6.5 4.0 22.5
無 処 理 散布前 3.5 5.5 0 9.0
7日後 6.0 21.0 5.5 32.5
15日後 15.0 36.0 31.5 82.5

第2表 キャベツのコナガに対する主要BT剤の防除効果(10株当り)
散布時期:平成7年6月16日

 

供試薬剤、希釈倍数 調査時期 若齢
幼虫
中齢
幼虫
老齢
幼虫
幼虫
+蛹
ゼンターリ顆粒水和剤
      2,000倍
散布前 4.0 13.0 3.5 1.5 0 18.0
7日後 17.5 2.0 0.5 0 0 2.5
15日後 87.0 22.0 1.5 0 0 23.5
A水和剤 2,000倍 散布前 3.5 7.0 3.0 3.0 0 13.0
7日後 44.5 1.0 0 0 0 1.0
15日後 119.0 23.5 2.0 0 0 25.5
B水和剤 1,000倍 散布前 6.5 11.0 2.5 2.0 0 15.5
7日後 42.0 0.5 0 0 0 0.5
15日後 149.5 54.5 7.5 0 0 62.0
C水和剤 1,000倍 散布前 5.5 6.5 2.5 2.5 0 11.5
7日後 33.0 0 0 0 0 0
15日後 142.5 40.5 10.5 0 0 51.0
D水和剤 1,000倍 散布前 5.5 5.5 4.0 3.5 0 13.0
7日後 40.5 0.5 0 0 0 0.5
15日後 124.0 40.5 6.0 0 0 46.5
E水和剤 1,000倍 散布前 3.5 11.5 4.0 1.0 0 16.5
7日後 35.5 1.0 0 0 0 1.0
15日後 118.0 36.0 5.5 0 0 41.5
無 処 理 散布前 4.5 11.0 3.0 3.5 0 17.5
7日後 24.5 3.5 7.0 4.0 1.5 16.0
15日後 132.0 29.0 18.5 9.5 11.0 68.0

第3表 キャベツのモンシロチョウに対する主要BT剤の防除効果(10株当り)
散布時期:平成7年6月16日

 

3. ゼンターリ顆粒水和剤の使用場面

 岩手県におけるキャベツ害虫防除は、コナガ、ヨトウガを主対象に発生している害虫の種類に応じて薬剤を選択し、抵抗性害虫の発現回避のためローテーション散布を基本とし、1系統1作型1回以内の使用を指導している。

 主要害虫の発生時期から作型別に防除回数を考えると、早春まきでは茎葉散布1~2回の、春まきでは茎葉散布3~4回、夏まきでは定植時土壌施用+茎葉散布3回となる。

 BT剤はローテーション散布剤として欠かすことのできない剤であるが、従来のBT剤はコナガの特効薬的な要素が強く、ヨトウガの発生時期に使用する場合は他系統の薬剤との混用が必要であった。しかし、ゼンターリ顆粒水和剤はコナガのみならずヨトウガにも優れた防除効果が認められることから、本剤の最も効果的な使用場面は、コナガとヨトウガの同時防除剤として使用することであると考える。

(岩手県農政部農業普及技術課)