アリスタIPM通信 スワルスキープラスを利用したハウスカンキツでのミカンハダニ防除
 
 
スワルスキープラスを利用したハウスカンキツでのミカンハダニ防除
 

スワルスキーカブリダニ(以下:スワルスキー)について、原色植物ダニ検索図鑑の江原氏・天野氏によると、「本種は、最初イスラエルにおいてハダニ、フシダニ、花粉、糖蜜などの食性の研究があり、さらにアメリカでカンキツ害虫の捕食行動などが調査された種である。」とあります。弊社では以前より本種のカンキツでの定着性は高く、有能な天敵であると期待しておりました。スワルスキーによるミカンハダニの捕食力の高さは、神奈川県農業技術センター足柄地区事務所根府川分室・真壁研究員による一連の研究から明らかにされ、以降ハウスミカンにおけるスワルスキーを利用したIPMプログラムの確立を目指して参りました。

しかしボトル製剤でカンキツの葉の上にスワルスキーを放飼するのは非常に困難です。当初は三角に折った紙にくるんだり(写真1)、ティッシュペーパーにくるんだりして、試行錯誤の上、コーヒーフィルターに砂糖とビール酵母と増量剤のフスマを入れて、これにスワルスキーを1~2振り投入するというやり方が定着してきました(写真2)。 吊り下げ型パック製剤スワルスキープラスであれば、さらに放飼は容易です。(写真3)

スワルスキープラスを利用したハウスカンキツでのミカンハダニ防除
 
ミカンハダニの防除には薬剤抵抗性の問題がついてまわります。新しい薬剤が販売されても数年後には感受性が低下してしまうという「いたちごっこ」が続いており、そこに歯止めをかけるのがスワルスキープラスの役割だと考えています。
スワルスキープラスの使用方法ですが、登録では1~4パック/樹となっており、樹の大きさに合わせて放飼量を調整します。また放飼時期はミカンハダニの”発生に合わせること”が重要です。目安としては開花期と水切り開始時期が放飼のタイミングです。左記に加温開始時期とスワルスキープラスの放飼時期を示しましたが、2回放飼が必要というわけではなく、開花期にミカンハダニの発生がなければ、放飼を見送っても良いと考えています。
表3.ハウスミカンの加温時期とスワルスキープラスの放飼時期
スワルスキープラスを利用したハウスカンキツでのミカンハダニ防除
 
なお、これまでの試験結果から、ハウスミカンではミカンハダニが発生している状況でスワルスキーを放飼すると良好な結果が出ています。基本的にハウスミカンはスワルスキーの代替餌が少なく、餌がないと急激に密度が低下してしまい、新たに侵入してくるミカンハダニに対してスワルスキーの密度増加が間に合わないことが判明しています。そこで開花期に放飼する場合、ミカンハダニの発生がなければ放飼を見送るという判断も必要です。
地域によっては開花前にマシン油による防除を実施しており、その残効性が切れ始める散布1ヶ月後を目安に放飼するというプログラムもあります。また水切り管理をする品種の場合、水切り期間はなるべく薬剤散布を控える地域もあり、そのような地域はぜひ水切り前にスワルスキープラスを放飼しておいていただきたいと考えます。
また、花粉の多いレモンやスダチでは非常に良好な結果が出ており、スワルスキープラスは発売開始とともにご利用していただいています。
 
グラフ2はスワルスキーの放飼時に餌が豊富(ハダニの発生あり)な条件下での試験例です。秋放飼においてミカンハダニの発生が多かった場合にはスワルスキーによりハダニ密度が激減し、その後の2ヶ月間ハダニ密度が回復してきませんでした。
 
グラフ2. スワルスキー放飼時のハダニ発生程度とその後の密度推移(コーヒーフィルター法)-1
スワルスキープラスを利用したハウスカンキツでのミカンハダニ防除
 
グラフ3はグラフ2と異なり、スワルスキー放飼時にミカンハダニが低密度だった事例です。一般的に天敵の放飼時に害虫が低密度であるほうが天敵の防除は成功率が上がると言われていますが、本試験では放飼時の害虫密度が低かったにもかかわらず反復Ⅱのようにミカンハダニが急増してしまう事態が生じました。これら2つの試験事例から、ミカンハダニに対してスワルスキーを利用する場合、餌(害虫)が適度にあった方が、スワルスキーの定着が向上すると考えています。スワルスキープラスの登場により、この問題も解消されるでしょうが、最初は注意して観察する必要があります。ミカンハダニの防除はスワルスキーだけで抑えられるというものではありません。グラフ3のような状況になってしまった場合、殺ダニ剤によるレスキュー防除が必要となってきます。増えすぎたミカンハダニの密度を下げて、天敵との数のバランスを調整するということですが、その際に天敵に影響の少ない薬剤を選定して使用しなければ、せっかく放飼した天敵が死亡してしまうため注意が必要です。
なお、グラフ2、3はコーヒーフィルター法を採用した実証圃試験ですが、スワルスキープラスでも傾向は同様で、今後はスワルスキープラスによる試験事例を増やしていく予定です。
 
グラフ3. スワルスキー放飼時のハダニ発生程度とその後の密度推移(コーヒーフィルター法)-2
スワルスキープラスを利用したハウスカンキツでのミカンハダニ防除
 
 
 
薬剤散布とその他の防除手段
現在のところ、スターマイトフロアブル、ダニサラバフロアブル、カネマイトフロアブル、ニッソラン水和剤などがスワルスキーに影響の少ない薬剤であることが判明しています。また、ハダニ以外の病害虫に対する薬剤散布も考慮する必要があります。一般的に合成ピレスロイド系、有機リン系、カーバメート系殺虫剤は天敵類に対して長期の影響があるため、果樹でのIPM防除体系を確立するためには代替薬剤の選定が最初の課題となります。また、5月以降ハウスを開放すると野外からアザミウマが侵入してきます。この時期になったらハダニ防除からアザミウマ防除を優先していくことを考えてください。なるべくアザミウマ類の侵入を防ぐため防虫ネットの利用や青色粘着板(ホリバーブルー)の利用もIPMプログラムで推奨しています。
 
 
スワルスキーの定着の確認
スワルスキーはカブリダニの中では比較的見つけやすい種類で、葉の上を素早く移動している様子を観察することができます。写真4.のように赤く変色している場合もあります。ミカンハダニの密度が低いと見つけることが困難な場合もあり、そのような時はミカンハダニの幼虫の脱皮殻がスワルスキー定着の指標となります。ミカンハダニが多発生している場合はハダニの方が目立つため、あまり脱皮殻には目がいきません。しかしスワルスキーが捕食効果を発揮すると、ハダニが残っておらずハダニの幼虫の脱皮殻が残っているという状態が確認されます。脱皮殻が多いのにハダニがいないということは、何者かに食い尽くされた可能性が非常に高いと考えられます。スワルスキーを放飼している圃場であれば、ハダニはスワルスキーに食い尽くされたと考えるのが妥当でしょう。またカンキツの場合は野菜類と異なり、葉裏にいなくても果実のヘタの中にいたり、幹を歩いていたりするスワルスキーも観察されています。
 
写真4. ミカンハダニを捕食して赤く変色したスワルスキーカブリダニ
ミカンハダニを捕食して赤く変色したスワルスキーカブリダニ アリスタ ライフサイエンス
 
 
まとめ
スワルスキープラスのハウスカンキツでの利用はまだ始まったばかりで、今後も検討していく必要があります。しかしながら、薬剤抵抗性の問題を考えるとミカンハダニ防除の一つの手段として取り入れていくべき資材であると考えています。是非とも問題を解決しつつミカンハダニのIPM防除体系を確立できるよう皆様のご協力をお願いいたします。
 
※2012年2月29日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。