アリスタIPM通信 ハモグリバエ類の土着天敵製剤『ミドリヒメ』について
 
 
ハモグリバエ類の土着天敵製剤『ミドリヒメ』について
琉球産経株式会社 開発部 清水徹
 

「ミドリヒメ」はハモグリミドリヒメコバチ成虫を成分とする天敵昆虫製剤です。1990年代、世界的に被害が知られていた薬剤抵抗性の難防除害虫マメハモグリバエが日本にも侵入し、全国に広がりました。当時福岡農試におられた大野和朗氏(現宮崎大学)が、本種に対する最も有効な防除手段としてハモグリミドリヒメコバチの放飼方法を確立したことが、本製剤開発の始まりになります。その後、福岡県、鹿児島県、沖縄県の農業試験場を中心に、本種を生物農薬として実用化するための試験研究が続けられ、1999年より公的機関による効果確認試験が開始、2005年に住友化学株式会社と琉球産経株式会社が生物農薬として登録を取得(第21518号)、2006年より「ミドリヒメ」の商品名で国内の製造・販売が始まりました。

この度、「マイネックス」の販売中止に伴い、本製剤をアリスタ ライフサイエンス社でも取り扱っていただくこととなり、より多くの生産現場で利用していただける状況になりました。本製剤についてより深く理解していただけますよう、ここに紹介させていただく次第です。


ミドリヒメの特徴
ハモグリミドリヒメコバチ(学名Neochrysocharis formosa)は、ハモグリバエ類(以下ハモグリ)の幼虫に寄生する蜂の一種です。体長0.5~1.5mmの非常に小さな蜂で、人を刺すことはありません。日本全国に分布し、農耕地や雑草地の植物上で春から秋にかけて最も普通にみられるハモグリ寄生蜂の一つです。雌は葉の中に潜っているハモグリの幼虫(“絵描き虫”)を探し、外から産卵管を差し込んでハモグリ幼虫の体内に卵を1個ずつ産み付けます。孵化した蜂の幼虫は、ハモグリ幼虫の体内を食い荒らして、最終的に殺し、そのまま葉の中で蛹になります。2~3週間で成虫になって出てくると、良好な環境条件では約1ヶ月生存し、雌は1日当り平均15個、一生で約300個の卵を産みます。

 
左から、産卵するミドリヒメの成虫、ミドリヒメに寄生されたマメハモグリバエ幼虫(体内にミドリヒメの幼虫)、 葉から取り出したミドリヒメの蛹
左から、産卵するミドリヒメの成虫、ミドリヒメに寄生されたマメハモグリバエ幼虫(体内にミドリヒメの幼虫)、 葉から取り出したミドリヒメの蛹
 
ミドリヒメの生物学上最大の特徴は、単為生殖をすることです。交尾なしで雌が雌を産み、子孫を増やします。体内に共生する微生物が関わっているとされており、まれに雄が現れることがありますが、通常は全ての個体が雌でハモグリの天敵として活動します。国内に分布するハモグリミドリヒメコバチのうち、南日本に分布する系統に単為生殖の性質のあることが知られています。ミドリヒメは、沖縄産の単為生殖系統を用いて沖縄県糸満市にある琉球産経(株)の天敵増殖施設で増殖しています。

体サイズの変異が大きいこともミドリヒメの特徴です。幼虫が餌の量を限定されてしまう虫でよく見られる現象で、取り憑くハモグリ幼虫の大きさによって、様々な大きさの蜂が出てきます。あまり小さな個体は取り除いて出荷されますが、放飼した圃場では様々な大きさの成虫がみられ、違う種類の蜂に見えます。

ミドリヒメ 体サイズの変異
体サイズの変異
 
 
ミドリヒメの使用方法
適用作物は野菜類、適用病害虫はハモグリバエ類です。ただし、ナモグリバエには効果が期待できませんのでご注意ください。放飼量は10アール当り100頭、成虫はよく飛んで分散しますので、ハモグリバエが多いと思われる付近に開封放置するか、成虫を振り出してください。製品は25頭入りと50頭入りの2種類を用意しております。適宜使い分けてご使用ください。
ミドリヒメの定着はハモグリの様子で確認します。未寄生のハモグリ幼虫は鮮やかなレモン色をしていますが、ミドリヒメに寄生されると鮮やかさがなくなり、くすんだ黄色から褐色、黒色へと変化していきます。これら変色した幼虫が見つかれば、定着確認です。
「ミドリヒメ」に寄生されていないハモグリバエ幼虫(左) と 寄生された後のハモグリバエ幼虫(右)
「ミドリヒメ」に寄生されていないハモグリバエ幼虫(左) と 寄生された後のハモグリバエ幼虫(右)
 
 
定着が確認され併用する農薬を間違わなければ、高い効果が期待できます。ただし放飼時にハモグリの密度が高い場合は害虫の数に追いつくまでに時間がかかり、作物の被害は大きくなります。そのため放飼時期は発生初期、ハモグリが全くいない場合を除いて、できるだけ早く放すことをお勧めします。ハモグリが多い場合は、プレオやトリガードなどミドリヒメに影響のない殺虫剤を散布してハモグリを減らしてから放飼する必要があります。

農薬の影響については下表をご参照ください。一般的に合ピレ、有機リン、カーバメイト、ネオニコチノイド系の殺虫剤は同時に使用できず、残効期間は1~2ヶ月が目安になります。ハチハチも不可です。アファーム、コテツも同時使用不可ですが、残効期間が短く2~3週間で影響がなくなります。ボタニガードES、イオウフロアブル、粘着くんについては、成虫に直接かかると影響大です。定着が確認されるまでの間の散布は控えるべきですが、定着して十分な個体数が確認できている状態であれば、成虫は減りますが全滅はしません。殺虫作用のあるモレスタンを除いて殺菌剤は基本的に大丈夫です。作物毎に重要な薬剤に対して影響が不明な場合は、鋭意、試験確認させていただきますので、ご連絡いただければ幸いです。

影響のある薬剤 アーデント、アクタラ、アグロスリン、アディオン、アドマイヤー、アファーム、スタークル/アルバリン、 オルトラン、スピノエース、スミチオン、ダイアジノン、ダントツ、トレボン、ハチハチ、ベストガード、 ボタニガードES、マラソン、モスピラン、コテツ、ダニトロン、粘着くん、ピラニカ、イオウフロアブル
やや影響のある薬剤 バリアード、ラノー、アカリタッチ、コロマイト、サンマイト、テデオン、サンヨール、ハーモメイト
影響の少ない薬剤 アタブロン、アプロード、カウンター、カスケード、ジャックポット(BT剤)、チェス、トリガード、トルネード、 ノーモルト、フェニックス、プレオ、プレバソン、マイコタール、マッチ、カネマイト、ニッソラン、バロック、 マイトコーネ、モレスタン、アミスター、ジマンダイセン、ストロビー、スミレックス、セイビアー、ダコニール、 トップジン、トリフミン、バイレトン、バチスター(BS剤)、バリダシン、ベルクート、ベンレート、ポリオキシン
「ミドリヒメ」成虫に対する農薬の影響  (浸漬試験 7日後の成虫生存率より)
 
ハモグリの発生する圃場で天敵を使用すると、たいてい他の土着寄生蜂も入ってきます。ミドリヒメの場合、土着のカンムリヒメコバチ(シカツノヒメコバチ)がライバルになるケースが多く見受けられました。共同作業をしてくれているわけで、耕作者にとっては嬉しい限りですが、どちらがよく効いているのかを判断するには注意が必要です。ミドリヒメはシャイなため、カンムリヒメコバチほど成虫が目立ちません。圃場内ではカンムリヒメコバチ成虫の印象が強いのに、寄生しているのはミドリヒメの方が多いというケースをいくつか見ました。
寄生されたハモグリ幼虫の様子で両者を区別することは難しいので、寄生された幼虫を持ち帰って顕微鏡で調べる必要があります。変色したハモグリバエの幼虫を葉ごと集めて持ち帰り、小さい蜂でも逃げられないような容器に入れて、3週間以上乾燥放置し、出てきた蜂(の死骸)を、実体顕微鏡下でチェックします。翅に薄い灰色の模様がありますので、顕微鏡さえあれば、他の寄生蜂との区別は比較的容易です。どうしても確認したい場合には、普及センターや防除所等にお願いする必要があります。


おわりに

強力な天敵です。国内最高、おそらく世界最高の性能を持つハモグリ天敵であると信じています。今回の販路拡大によって、どのような新しい用途が拓けるのか、非常に楽しみにしております。有効な利用方法の確立と利用の拡大に向けて、各位ご協力いただきますようよろしくお願い申し上げます。
 
 
 
※2013年4月30日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。